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本編
1.王都
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-やっとここまで来た……
春の大祭が迫っているせいか、往来を歩く人や馬車の数がものすごく多い。
紅児は養父と共に、秦皇島(海沿いにある場所の地名。島ではない)にある村から丸五日かけてこの国の都である北京にやって来た。養父はしきりに「運がよかったよかった」と乗合馬車の中で言っていたから、これでも予定より早く着けたのだろう。
「おとっつぁん、これからどこへ行くの?」
頭に被った布を注意深く被り直しながら尋ねると、養父はそれにはにかむように笑んだ。紅児がおとっつぁん、おっかさんと呼ぶ度養父母はいつもこんな顔をする。それを見ると紅児は胸が痛くなった。養父母はとてもいい人たちだがやっぱり紅児は本当の両親の元に帰りたかった。
「親戚が王城の近くで店を構えとるんじゃ。そこまで行くぞ」
養父がさりげなく、服の中に下げている袋に手を入れる。紅児は頷き、養父の手の動きを見られないような位置にそっと移動した。
「どうにかなりそうじゃ」
路銀の残りを確認し終わったらしい。紅児もほっとした。ここは秦皇島ではない。スリなどになけなしの金を取られるわけにはいかなかった。
養父に着いて王城の近くまで行くという乗合馬車を探す。紅児はできるだけ目立たないように顔を伏せた。
「前門! 前門!」
馬車の前で行き先を叫ぶ男たちに養父が一台一台行き先を尋ねる。
「前門というのは王城の近くかね?」
「おう、ど真ん前だよおやっさん! もうすぐ出るから乗った乗った!」
養父が振り向いて伺う。紅児は無言で頷いた。
「2人なんじゃが」
男はそれでやっと気づいたように養父の後ろで頭を俯かせている紅児を見やった。
「娘さんかい?」
首を伸ばして紅児をよく見ようとする男に養父はさりげなく体を傾けて苦笑する。
「あまり見ないでやってくださらんか、生まれつき痘痕がひどくてのぅ……。王都にはいい医者がおると聞いてな、親戚を頼って出てきたんじゃ」
「ああ、王都にゃいい医者が沢山いるわ。別嬪になること請け合いだ! 2人で2銭だ、乗った乗った! 前門! 前門!」
男はそれ以上追及せず、養父と紅児を馬車に押し込むようにするとまた行き先を叫び始めた。
馬車の中は既に人でいっぱいだったが、どうにか座ることができた。養父に身を寄せ、できるだけ顔を伏せる。
紅児の顔に痘痕等はない。生まれつき色が白く、滑らかだ。
だがどうしてもその容姿を隠さなくてはならない理由があった。
この国の者たちは黒髪、黒目、少し黄色がかった肌をしているのが一般的である。けれど紅児は、その名の通りの赤い髪と、緑の瞳を持っていた。
顔を隠している紅児が気になったのか、乗り合ったおばさんが養父に聞いてくる。養父は先程男に説明した通りのことを言ってやりすごした。
「まぁ、それは気の毒ねぇ」
案の定おばさんはそれだけ言うと興味をなくしたように別の乗り合い客に声をかけ、とりとめもない話をはじめた。紅児はほっとした。こんなところで騒ぎを起こすわけにはいかなかった。紅児はどうしても王城に行かなければならない。そしてどうにかして四神の花嫁に会わなければいけないのだ。
そう、紅児と同じように赤い髪を持つという花嫁様に。
春の大祭が迫っているせいか、往来を歩く人や馬車の数がものすごく多い。
紅児は養父と共に、秦皇島(海沿いにある場所の地名。島ではない)にある村から丸五日かけてこの国の都である北京にやって来た。養父はしきりに「運がよかったよかった」と乗合馬車の中で言っていたから、これでも予定より早く着けたのだろう。
「おとっつぁん、これからどこへ行くの?」
頭に被った布を注意深く被り直しながら尋ねると、養父はそれにはにかむように笑んだ。紅児がおとっつぁん、おっかさんと呼ぶ度養父母はいつもこんな顔をする。それを見ると紅児は胸が痛くなった。養父母はとてもいい人たちだがやっぱり紅児は本当の両親の元に帰りたかった。
「親戚が王城の近くで店を構えとるんじゃ。そこまで行くぞ」
養父がさりげなく、服の中に下げている袋に手を入れる。紅児は頷き、養父の手の動きを見られないような位置にそっと移動した。
「どうにかなりそうじゃ」
路銀の残りを確認し終わったらしい。紅児もほっとした。ここは秦皇島ではない。スリなどになけなしの金を取られるわけにはいかなかった。
養父に着いて王城の近くまで行くという乗合馬車を探す。紅児はできるだけ目立たないように顔を伏せた。
「前門! 前門!」
馬車の前で行き先を叫ぶ男たちに養父が一台一台行き先を尋ねる。
「前門というのは王城の近くかね?」
「おう、ど真ん前だよおやっさん! もうすぐ出るから乗った乗った!」
養父が振り向いて伺う。紅児は無言で頷いた。
「2人なんじゃが」
男はそれでやっと気づいたように養父の後ろで頭を俯かせている紅児を見やった。
「娘さんかい?」
首を伸ばして紅児をよく見ようとする男に養父はさりげなく体を傾けて苦笑する。
「あまり見ないでやってくださらんか、生まれつき痘痕がひどくてのぅ……。王都にはいい医者がおると聞いてな、親戚を頼って出てきたんじゃ」
「ああ、王都にゃいい医者が沢山いるわ。別嬪になること請け合いだ! 2人で2銭だ、乗った乗った! 前門! 前門!」
男はそれ以上追及せず、養父と紅児を馬車に押し込むようにするとまた行き先を叫び始めた。
馬車の中は既に人でいっぱいだったが、どうにか座ることができた。養父に身を寄せ、できるだけ顔を伏せる。
紅児の顔に痘痕等はない。生まれつき色が白く、滑らかだ。
だがどうしてもその容姿を隠さなくてはならない理由があった。
この国の者たちは黒髪、黒目、少し黄色がかった肌をしているのが一般的である。けれど紅児は、その名の通りの赤い髪と、緑の瞳を持っていた。
顔を隠している紅児が気になったのか、乗り合ったおばさんが養父に聞いてくる。養父は先程男に説明した通りのことを言ってやりすごした。
「まぁ、それは気の毒ねぇ」
案の定おばさんはそれだけ言うと興味をなくしたように別の乗り合い客に声をかけ、とりとめもない話をはじめた。紅児はほっとした。こんなところで騒ぎを起こすわけにはいかなかった。紅児はどうしても王城に行かなければならない。そしてどうにかして四神の花嫁に会わなければいけないのだ。
そう、紅児と同じように赤い髪を持つという花嫁様に。
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