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本編
73.決心(覚悟)
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きつく抱きしめられ、紅児の身体が悲鳴を上げた。
容赦のない抱擁に、今まで紅夏手加減してくれていたことを知る。
正直身体が痛い。なけなしの胸も潰されてきつい。
なのに余裕のない彼が、どうしてこんなにも愛しいのだろう?
「紅……夏……さま……」
うまく声が出せない。もう少し腕の力を緩めてほしい。
そうしてくれたら、どれぐらい己が紅夏を想っているか伝えられるのに。
骨も折れんばかりのそれがいつまで続いただろうか。紅児にはとても長く感じられたが、実際にはそれほどではなかったのかもしれない。
ようやく腕の力が緩み、隙間ができる。紅児はほうっとため息をついたがそれで終りではなかった。
漢服の前をくつろげられる。驚いた紅児の唇を紅夏のそれが覆った。
「んんっ……!!」
いつもなら紅児が慣れるまで待っていてくれるのに、少し開いていた唇の間にすぐ舌が入り込み、彼女の舌を絡めとった。
(……ああっ……!)
ビクン、と紅児の体が跳ねる。口腔内から背筋を甘い感覚が走り、彼女の身を甘くとろかせた。
〈紅夏様……紅夏さま……〉
口が塞がれているのならば心話で話しかければいいのだということにやっと気付き、紅児は頭が霞がかるのをかんじながらも懸命に紅夏に呼びかけた。
〈エリーザ……エリーザ……〉
頭に直接響く紅夏の想いに、紅児の瞳に涙が浮かんだ。
紅夏はいつになく必死だった。その必死さ故に、紅児は己が今度こそ抱かれてしまうのではないかと思う。
彼に抱かれたら、もう後戻りできない。
きっと紅児も人ではなくなり、紅夏と同じ時を過ごすことになるのだろう。
漢服の中にするりと彼の手が入ってくる。下着の上からあまりない胸に触れられ、紅児は頬を真っ赤に染めた。
けれど抵抗する気はなかった。
紅児は強張った体の力を抜こうと、そっと紅夏に触れる。
〈紅夏さま……好き……〉
想いをこめて語りかけると、紅夏の動きが止まった。
そっと唇が放され、至近距離で紅夏の苦しそうな表情を目の当たりにする。
〈エリーザ……我と共に生きてくれ……〉
紅児はそれに頷き、紅夏の頬に両手を添えた。
〈紅夏さまは……私を置いていなくなったりしません、よね……?〉
〈ああ……消える時も一緒だ……〉
潤んだ瞳から涙がこぼれるのを紅児は感じた。
正直気の遠くなるような時間を生きる覚悟が己にあるとは思わない。ここで抱かれて後悔しないという自信もない。
けれど紅夏が紅児を想う気持ちだけは本物だから。
ずっと、そう一生共にいてくれると保証してくれるから。
紅児は身体の力を抜いた。
それに紅夏ははっとしたような表情をした。
〈……エリーザ? ……抱いてしまうぞ……?〉
頭に響く声に、冷静さが戻ってきたようだった。
だけど。
紅児は頷いた。
それは己を想ってくれている相手を手放したくないという思いもあり。
もう2度と1人きりにされたくないという心理もあって。
〈そなたを抱いたら、もう後戻りはできぬ……〉
紅児は思わず紅夏に抱きついた。
〈後戻りしたいのですか?〉
切なそうに潤む紅児の目尻に紅夏は口付けた。
〈……そなたを離しはしない。すまなかった……〉
冷静に考えればこの時、紅児は紅夏の勢いとその場の雰囲気に酔っていた。
それを長く生きている紅夏は正しく読み取っていた。
だからといって素直に身を委ねようとする愛しい娘を前にして何もしないという手はない。
〈途中までだ……〉
そう己に言い聞かせるように心話で呟き、彼は再び紅児に口づけた。
甘く身も心も溶かされ、紅夏の腕の中で落ち着くと紅児は今日のこの日が休みではなかったことを思い出した。
「し、仕事っ……」
慌てて腕の中から出ようとする紅児を紅夏が引き止める。
「今戻っても花嫁様は部屋にいないはずだ。早めに夕食をとってそれから戻ればよい」
「でも……」
花嫁と紅夏が守ってくれると勝手に思い、断ってもいいと言われたのについていって迷惑をかけた。
紅児は覚悟が足りなかった。
そして今もまだどうしたらいいのかわからないでいる。
せめて謝罪をしたいと思うのはただの自己満足なのだろうか。
「我も花嫁様に会わねばならぬ。のちほど共に参ろう」
それに仕方なく紅児は頷いた。
きっとそれもまた紅児を甘やかすものだと知っていて。
夕食後、花嫁は珍しく部屋に戻ってきた。
彼女は紅夏と紅児が一緒にいるのを見てさっと顔色を変えた。青龍の腕から飛び出し、紅児の両手を取る。紅児は驚いて目を見開いた。
「エリーザ、大丈夫!?」
すごい剣幕だった。そのままきつく抱きしめられ、紅児は目を白黒させる。
確かに長命な紅夏と共に生きるのはたいへんだろうが、今ここまで心配されることではないように思う。
「体は? だるくない? 今日はもう休んでいてもいいのよ?」
(だるい?)
なんのことかと紅児は首を傾げる。紅夏が嘆息するのがわかった。
「……まだ抱いてはおりませぬ」
高いはずのテナーが何故か低く聞こえた。
「え? そうなの? 私てっきり……」
その手前まではされたし、きっと一歩間違えたら紅夏のものになっていたかもしれないが。
紅児は真っ赤になった。
「まぁ、うん。それならいいのよ……」
そう安心したように呟いた花嫁は、それでもしばらく紅児を離してくれなかった。
容赦のない抱擁に、今まで紅夏手加減してくれていたことを知る。
正直身体が痛い。なけなしの胸も潰されてきつい。
なのに余裕のない彼が、どうしてこんなにも愛しいのだろう?
「紅……夏……さま……」
うまく声が出せない。もう少し腕の力を緩めてほしい。
そうしてくれたら、どれぐらい己が紅夏を想っているか伝えられるのに。
骨も折れんばかりのそれがいつまで続いただろうか。紅児にはとても長く感じられたが、実際にはそれほどではなかったのかもしれない。
ようやく腕の力が緩み、隙間ができる。紅児はほうっとため息をついたがそれで終りではなかった。
漢服の前をくつろげられる。驚いた紅児の唇を紅夏のそれが覆った。
「んんっ……!!」
いつもなら紅児が慣れるまで待っていてくれるのに、少し開いていた唇の間にすぐ舌が入り込み、彼女の舌を絡めとった。
(……ああっ……!)
ビクン、と紅児の体が跳ねる。口腔内から背筋を甘い感覚が走り、彼女の身を甘くとろかせた。
〈紅夏様……紅夏さま……〉
口が塞がれているのならば心話で話しかければいいのだということにやっと気付き、紅児は頭が霞がかるのをかんじながらも懸命に紅夏に呼びかけた。
〈エリーザ……エリーザ……〉
頭に直接響く紅夏の想いに、紅児の瞳に涙が浮かんだ。
紅夏はいつになく必死だった。その必死さ故に、紅児は己が今度こそ抱かれてしまうのではないかと思う。
彼に抱かれたら、もう後戻りできない。
きっと紅児も人ではなくなり、紅夏と同じ時を過ごすことになるのだろう。
漢服の中にするりと彼の手が入ってくる。下着の上からあまりない胸に触れられ、紅児は頬を真っ赤に染めた。
けれど抵抗する気はなかった。
紅児は強張った体の力を抜こうと、そっと紅夏に触れる。
〈紅夏さま……好き……〉
想いをこめて語りかけると、紅夏の動きが止まった。
そっと唇が放され、至近距離で紅夏の苦しそうな表情を目の当たりにする。
〈エリーザ……我と共に生きてくれ……〉
紅児はそれに頷き、紅夏の頬に両手を添えた。
〈紅夏さまは……私を置いていなくなったりしません、よね……?〉
〈ああ……消える時も一緒だ……〉
潤んだ瞳から涙がこぼれるのを紅児は感じた。
正直気の遠くなるような時間を生きる覚悟が己にあるとは思わない。ここで抱かれて後悔しないという自信もない。
けれど紅夏が紅児を想う気持ちだけは本物だから。
ずっと、そう一生共にいてくれると保証してくれるから。
紅児は身体の力を抜いた。
それに紅夏ははっとしたような表情をした。
〈……エリーザ? ……抱いてしまうぞ……?〉
頭に響く声に、冷静さが戻ってきたようだった。
だけど。
紅児は頷いた。
それは己を想ってくれている相手を手放したくないという思いもあり。
もう2度と1人きりにされたくないという心理もあって。
〈そなたを抱いたら、もう後戻りはできぬ……〉
紅児は思わず紅夏に抱きついた。
〈後戻りしたいのですか?〉
切なそうに潤む紅児の目尻に紅夏は口付けた。
〈……そなたを離しはしない。すまなかった……〉
冷静に考えればこの時、紅児は紅夏の勢いとその場の雰囲気に酔っていた。
それを長く生きている紅夏は正しく読み取っていた。
だからといって素直に身を委ねようとする愛しい娘を前にして何もしないという手はない。
〈途中までだ……〉
そう己に言い聞かせるように心話で呟き、彼は再び紅児に口づけた。
甘く身も心も溶かされ、紅夏の腕の中で落ち着くと紅児は今日のこの日が休みではなかったことを思い出した。
「し、仕事っ……」
慌てて腕の中から出ようとする紅児を紅夏が引き止める。
「今戻っても花嫁様は部屋にいないはずだ。早めに夕食をとってそれから戻ればよい」
「でも……」
花嫁と紅夏が守ってくれると勝手に思い、断ってもいいと言われたのについていって迷惑をかけた。
紅児は覚悟が足りなかった。
そして今もまだどうしたらいいのかわからないでいる。
せめて謝罪をしたいと思うのはただの自己満足なのだろうか。
「我も花嫁様に会わねばならぬ。のちほど共に参ろう」
それに仕方なく紅児は頷いた。
きっとそれもまた紅児を甘やかすものだと知っていて。
夕食後、花嫁は珍しく部屋に戻ってきた。
彼女は紅夏と紅児が一緒にいるのを見てさっと顔色を変えた。青龍の腕から飛び出し、紅児の両手を取る。紅児は驚いて目を見開いた。
「エリーザ、大丈夫!?」
すごい剣幕だった。そのままきつく抱きしめられ、紅児は目を白黒させる。
確かに長命な紅夏と共に生きるのはたいへんだろうが、今ここまで心配されることではないように思う。
「体は? だるくない? 今日はもう休んでいてもいいのよ?」
(だるい?)
なんのことかと紅児は首を傾げる。紅夏が嘆息するのがわかった。
「……まだ抱いてはおりませぬ」
高いはずのテナーが何故か低く聞こえた。
「え? そうなの? 私てっきり……」
その手前まではされたし、きっと一歩間違えたら紅夏のものになっていたかもしれないが。
紅児は真っ赤になった。
「まぁ、うん。それならいいのよ……」
そう安心したように呟いた花嫁は、それでもしばらく紅児を離してくれなかった。
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