夜空に浮かぶ果実達

亜希

文字の大きさ
上 下
1 / 2

第1部

しおりを挟む
夜中に目が覚めた。そう自覚するのに少し時間を要した。内容の濃い、あるいは深い夢から目覚まし時計の音でバリバリと引き剥がされるような目覚め方だった。

実際、目覚まし時計も掛けていないし鳴ってもいない。冬の寒い夜のはずなのに、脇の下や背中にじっとりと汗をかいていた。

ゆっくりと上半身を起こして部屋の中を見渡した。しかし、そこにはいつもと変わらない自分の部屋があるだけだった。見慣れたその部屋は、夜の帳の中でひっそりと沈黙を守り続けている。

今は一体何時なのだろう。そして、どうして目が覚めたのか。まず、部屋の壁掛け時計に目をやると、夜の0時を過ぎたところだった。日付が変わり2022年の1月11日を迎えていた。

今日で自分はまた1つ年齢を重ねる。今年の3月には小学校を卒業し、春からは中学生活が始まる。新たな生活については、全く想像出来そうになかったので、今は考えることをやめた。

では、なぜ夜中に目が覚めたのか。思い当たる節はトイレだが、尿意はまるで感じない。そもそも今まで夜中にトイレに起きたことがなかった。また、自分の覚えている限りでは、夜中に自ら目を覚ました記憶がない。

そうすると、何かしらの外部要因によるものかだが、部屋が静まり返っていること以外は、いつもと何も変わった様子はない。もちろん、誰かに起こされたとか、室内に人の気配もない。

難しく考えず、もう1度眠ってしまえば良かったのだが、一向に眠気を感じなかった。

そこでふと気が付いたことがある。それは、上半身を布団から起こし、あれだけ汗をかいていたのに、ちっとも寒くないということ。もちろん部屋の暖房設備は入れていない。夜中の目覚めと相まって、なんだか奇妙な感覚だった。自分はまだ眠ったまま夢を見ているのかもしれない。確かめる意味で夜風に当たろうと窓辺に立った。

窓を開けると、頬に当たる風はなかった。無風と同時にやはり寒さも感じない。真冬なのになぜ。

更にもう1つ重大なことに気付く。窓の外が静か過ぎる。よくよく考えると部屋の中さえそうだ。時計の針が進む音や、電気機器の音さえ何もかも聞こえない。窓を開けても外から聞こえてきそうな音は何もしなかった。まるで自分以外のあらゆる物事が深い眠りの中にいるような気さえした。

実際そんなことはありえないから、これは夢なのか、果たして自分の感覚がおかしくなったのか、途端に言いようのない不安が押し寄せた。

怖くなって頬をつねる。痛い。痛みはある。これは夢ではないのか。そして、少なくとも痛覚はある。寒さは感じないのに奇妙な話だ。どうしたら良い。

もう1度寝て、朝に目が覚めたら何もかも元通りはないだろうか。確証はないが、こんな夜中に自分になんとか出来ることは、とても思い浮かばなかった。朝起きて何も変わってなければ、親に話して病院へ行こう。今の自分の中ではそれだけが最善策に思えた。

そうして窓から離れようとした時に、家の前の道路に淡く輝く何かがポツポツと落ちていることに気付いた。それも1つではなく、点々と何処かへ続くように道路の先へと散りばめられていた。

あれは何だろうか。まるで可弱く光る星々の川のようにも見える。
しおりを挟む

処理中です...