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豆腐屋

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⑥深夜の客

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 冷え込む夜の空気が汗ばんだ肌を冷やす。 最愛の相手と愛を確認するこの行為は、何度、繰り返しても飽きることがない。

 「啓介さん、もう一回シャワー浴びる?」

 「・・・あびる・・・」

 純也のものは、まだ啓介の体内に埋め込まれたままだ。何度も絶頂を繰り返した啓介の体は、小さな痙攣を繰り返し純也の僅かな動きも敏感に拾ってしまう。

 純也に返す言葉もどこか拙く、目線もぼんやりしている。そのいかにも情事後という姿は、普段のストイックで健康的な啓介とは真逆で生々しい。

 純也は営みの度に、自分だけがこの人をこんな姿にできるのだと誰に対してでもない優越感が湧いた。

 いやらしくて可愛い♡♡啓介さんにこんなことできるのは俺だけ・・・♡
 好き♡好き♡好き♡好き♡・・・・

 どれだけ言葉で伝えても伝えきれることはなく、それどころか無限に増えつづてしまうようだった。

 「啓介さん♡好き♡可愛い♡」

 「気持ちよかった♡ありがとう♡」

 「可愛い♡好き♡大好き♡可愛い♡」

 純也は思いのままに言葉し、啓介の顔中にキスを降らす。
まだ平常ではない啓介は、軽く身動ぎするものの大人しく全てを受け入れている。

 あんまり続けると恥ずかしがった啓介が怒り出したりしそうなものだが、この時はいける。
 
 ツンツンしているのは可愛い。けれど大人しいのも可愛い。

 啓介は純也からの言葉とキスを受けながら、体の熱を冷まそうと潤んだ目を閉じた。

 行為の最中も着たままだったTシャツは、胸の上まで捲れ何も隠せていない。純也の愛撫せいで、胸の先端は赤く腫れている。少ししたらマシにはなるだろうが、明日はまだ熱を持って敏感なままかもしれない。

 「ひぁっっ!!」

 「啓介さん、抜くから、少し我慢して・・・」

 「あっ、まだっっ!」

 純也の陰茎が体の中から僅かに引き抜かれると、それに反応して啓介の腸壁がきつく締め付ける。
 そんなつもりはないのに、まるで引き止めているようで顔が熱くなる。

 啓介は、もう少し体が落ち着いてから動いてほしいと言いたいが上手く言葉が出す、目を見開いて快感の波が引くのを待った。

 「啓介さん、待ってあげたいんだけど・・・あんまり入れっぱなしにしてると、もう一回したくなっちゃう・・・」

 純也は申し訳なそうに啓介に告げると身を屈めて、彼の唇に小さなキスを落とし、腰を引いた。

 「んんぁっんっ♡♡」

 敏感な内側の肉を擦られて、甘い痺れが全身を駆け巡った。
 我慢しようと食いしばっていたはずの口からは声が漏れ、手元にあったシーツを思わず握りしめた。
 純也の全てが抜け出たあと、冷たい空気がそこに触れぞくりとした。

 「っん・・・」

 まるで最中のように悩ましい啓介の声に、純也は再び反応しそうになるのを無理矢理おさえこんだ。
 いくら明日が休みでも、これ以上は啓介の体が心配だ。



 シャワーを浴びた後、純也はきちんとパジャマを着た啓介を腕の中に抱いてベッドの中にいた。
 啓介はすぐに寝てしまったが、純也は気になることがあって寝れずにいる。

 『啓介さん!啓介さん!』

 外から啓介を呼ぶ声がする。知っている男の声だ。

 先程から家の周りをぐるぐると周り、玄関のドアを叩いたかと思えば、馴れ馴れしく啓介を呼んでいる。

 そしてついに二人の寝室の窓を叩いた。それ程強いノックではないが、なんせ30分以上続いている。

 呼ばれている啓介本人が、まったく気付かず寝ているのは幸いだ。
 こんな時間にこんな場所をうろついているのが普通の人間なわけがない。

 時刻は丑三つ刻。怪異達がもっとも活発になると言われている時間帯だ。

 奴らは人のテリトリーでは好き勝手できないらしく、生活空間の中には入ってこれない。
 人間側に招き入れてもらうため様々な罠を仕掛けてくる。

 『啓介さん!啓介さん!』

 ほんとひつこい・・・。

 純也は、いよいよ嫌気がさしてきた。この状況、実は初めてではない。
 二人の夜の営みの後、高確率で現れるのだ。デリカシーがないにも程がある。

 毎回、ひつこい。啓介が気付いたことなど一回もないのに。
 それに、この声・・・

 なんで俺がここにいるのに、俺の声真似るの・・・。
例え、聞こえたとしても引っかからないでしょ・・・。

 純也は、腕の中の啓介の寝顔を覗き込む。普段から自分より体温の高い啓介は、寝ているときは更にポカポカと温かい。

 穏やかな寝顔に唇を寄せる。啓介が起きない程度に、一度、強く抱き締めると純也は布団から抜け出し窓の方へ向う。

 いまだ、そこにいる相手の影が窓ガラスの向こうにぼんやり見える。
 なんとなく、サイズも自分と似ているように見えた。

 純也は、窓ガラスに両手を付くとスレスレまで顔を近づけ、向こう側を睨む。

 「いい加減にしろ。この人は俺のだ。馴れ馴れしく呼ぶなと何度言ったら分かるんだ!」

 寝ている啓介に配慮し、小声ながら怒りをぶつける。何度、教え込んでもこりずにまた来る。
 情事後の啓介に何をしようというのだろうか・・・。

 「啓介さんが、お前に答えることはありえない。諦めろ。」

 二度と来るなと言おうとした、その時

 「・・・ん、じゅんやぁ?」

 思いっきり寝起きの声で、名前を呼ばれた。

 「ごめんなさい、啓介さん。起こしちゃいましたね。」

 できれば起こしたくなかったが、思ったりよりも声が大きかったのかもしれない。
 
 「どうした?外がどうかしたのか?」

 啓介は窓に張り付いている純也を不思議そうに見て、次に窓ガラスに視線を向ける。

 窓の外の影は、まるで啓介の視線を感じとったかのように、それまでの人影から形を崩し大きく膨れ上がった。

 『啓介さんっ!!啓介さんっ!!』

 狂喜乱舞するようにガラスの向こうで影はざわめき、喜びに溢れた声で啓介を呼んでいる。

 だんっっ!!!

 純也が拳で窓ガラスを打った。それなりに手加減したのと防寒用の分厚いガラスなこともあり割れはしないが、啓介は驚いてすっかり目が覚めてしまったようだった。
 衝撃で大人しくなった影に、純也は聞き取れない程の小さな声で、何か囁く。

 「純也、もしかして外に「何もいません!寝ましょう♡」

 「でも「窓ガラスに虫が集まってただけです。さっきので散ったんで、もういないです♡」

 啓介の言葉に被せるように答えると、勢いよくカーテンを閉める。

 純也は起き上がろうとする啓介の横に滑り込み、再び腕に抱いて布団の中で抱き締める。

 窓の外は静かになっていた。気配もない。脅しが効いたようだった。

  ・・・塩まくぞ・・・。

 わざわざ地方から取り寄せている天然物の粗塩だ。お高い塩だが、こうやって料理以外にも役立ってくれるので、十分に元はとれている。

 一応、盛り塩もしているのだが、山の怪異共は置いてあるだけの塩は平気らしかった。
 
  
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