継続可能な最高の幸せ!ただし、怪異ありきで。

豆腐屋

文字の大きさ
30 / 44

㉚水没2

しおりを挟む
 「昼間の食洗機に夢中になってる啓介さん、すっごく可愛かったです♡」

 純也は、ベッドの上で床ドンの体勢をとり自分の下に啓介を閉じ込めた。

 昼食の片付けを終え二人一緒に帰宅し、その後はずっと家の中でゆっくり過ごせたことで、余裕のある夜の時間を迎えていた。

 啓介の気持ちも、あれからは持ち直したようで外の天気を気にしながらも、あのレストランでの時ほど落ち込んだ様子はなかった。

 「っっ、可愛いわけないだろっ!それに、お前、怒ってたじゃないか!!」

 「怒ってたんじゃないです!心配してたんです!危ないからっっ!!」

 純也は、伸し掛かるように顔を近付けると触れ合うぎりぎりの距離で強く主張した。
 可愛いと言われたことに照れているのか、距離が近いことが恥ずかしいのか、一度息を飲むと啓介は黙って視線をずらした。

 「今も可愛い♡♡」

 「んっむ、ちゅっ♡」

 もともと僅かしかなった距離は一瞬でなくなり、二人の唇が重なった。

 「ね、啓介さん♡挿入れないから、してもいい?お願い♡♡」

 今日の様子だと明日も水が引くことはないだろうが、何かあった時に動けない体では困る。
 それに、啓介は明日も水の引いていないコースを放ったらかしにする気はなかった。

 純也も、啓介のそういった性格は十分に承知している。分かっていても、今日はこのまま寝るなんてできない。 

 純也は昼間に見た、自分の仕事場である厨房の常日頃使い慣れた食洗機で、無邪気に目を輝かせる啓介に胸を掴まれたままだった。

 何もしないまま寝るなんて無理!!あんな可愛い啓介さんを、厨房で見れるなんて!!

 仕事場というのは、なぜあんなにも背徳間が生まれるのだろう。
 ときめいただけで、罪な気がしてしまう。

 しかし、その背徳感や罪悪感が純也の中の欲を更に燃え上がらせるのも事実だ。

 「んっ、」

 首筋にキスを落とされ啓介の体が、小さく揺れる。

 「・・・あまり激しくしないなら、挿入れてもいい・・・。」
 
 「えっ!!!」

 驚きすぎて、そのまま声に出してしまった・・・。

 「どうしたの?啓介さんっ!!明日、休みじゃないよね?普段の日に、いいなんて・・・。」  

 嬉しくないわけがない。願ってもないことだ。けれど、ありえなさすぎて、すぐには受け入れられない。
 ストイックで真面目な啓介が、仕事のパフォーマンスが落ちるようなことを自ら申し出るなんて・・・。

 啓介の明日の出勤時間は、いつもより遅いが仕事内容は普段と変わらず肉体労働だ。

 「今日みたいな日に、一人じゃないことに安心した・・・。」

 純也が、啓介から告げられたのは意外な言葉だった。

 「コースが浸水したのは初めてじゃない・・・天災だから仕方ないと言っても・・・一日でも早く復旧させないと他の部署にも迷惑をかけるだろ?でも・・・部下達に無理をしいるわけにもいかないし・・・それに7番ホールはオープンに合わせてリニューアルしたばかりだったのに・・・いろいろ気になって・・・」

 「啓介さん・・・。」

 「前までは一人だったから・・・けど・・・今回は、お前がいる・・・。」
 
 「安心する・・・。」

 啓介は、自分の顔のすぐ横に置かれた純也の手に頬を擦り寄せた。

 「うん、安心して・・・。シーズン中のコースが復旧作業で開けられなくても、俺と倉本さんの料理でお客さんは繋ぎ止めとくよ・・・」

 一番最初に再開するのはレストランだ。次に宿泊施設、最後に復旧作業の完了したゴルフコースだ。

 客の中にはコースの開いているシーズン中しか利用しない客もいる。ゴルフを楽しむ層にとっては、ただでさえ限られた期間しかないゴルフシーズンが、数日に渡り奪われてしまうのは、かなりのがっかり案件のはずだ。

 自分のできることで、啓介の不安が軽くならできるだけのことをしたい。
 天候が落ち着いて、復旧作業が開始したら一日でも早くコースを再開させなければならない。
 責任感の強いこの人は、きっと無理をするだろう。

 その時は、また注意しなくては。

 「あぁ、よろしく頼む・・・今回も見物客が来るだろうから・・・。」

 純也の頼もしい言葉に啓介はちゃんと笑ってくれた。
が、聴き逃がせない言葉があった。

 「見物客?」

 「コースが浸水すると、それを見にくる客がいるんだ。普段は見れない景色だからって・・・。レストランからだとよく見えるだろ?俺たちが、作業してるのも普段はあまり目にすることがないから、珍しいらしくて・・・」

 純也はコースが浸水するのは、今回が初めての経験で当然、そんな客がいるなどとは知らなかった。
  
 雨水に浸かったコースなんて見たいか?微塵も理解できない。
 
そんな・・・よく分からないへきの人達の目に、仕事中の啓介さんが晒されるなんて・・・どこに変質者がいるか分からないのに・・・。

 啓介は作業着の下に黒いアンダーを着ていて、これも会社から用意してくれる制服だ。
 色は黒と決まっているが長袖、半袖、ノースリーブ、ハイネック、ユーネックなど組み合わせが何パターンかあり、各自、好きなものを注文できる。

 このアンダー、スポーツメーカー製で吸汗速乾、UVカット、超ストレッチ等かなり機能的であり、ありがたい存在だが体のラインが結構際立つのだ。

 そして、コース管理の従業員達は、作業中はほとんどの者が、上着を脱いでいる。

 啓介も例に漏れず。

 この話の流れでアンダー姿が、いやらしいから上着を脱ぐなとも言いづらい。
 ついさっき、自分を頼ってくれた恋人に心の狭い真似はしたくない。

 「見られてると気になるから・・・レストランから一番見える区域は朝一に終わらすことにしている。」

 「ですね!!仕事に集中できていいと思います!!」

 良かった!!啓介さんの危険が少しでも減って!!
 
 「・・・パジャマ脱がしていい?」

 返事を聞く前に純也の手は、啓介の前開きのパジャマのボタンを一つ外している。

 中断してしまったが、手に入れたチャンスを逃がすようなもったいない真似はしない。

 「純也!!部屋を暗くしてからにしてくれ!!」

 慌てたように啓介が、純也の手を止める。またしても純也は、明るい中での営みを実現できなかった。
 
 しかし、可愛い。

 パジャマの合わせのところを握り締めて、恥ずかしそうにしている姿が最高だ。

 仕事の話をしていた時の大人の男は、もういない。

 体はいやらしくて立派な大人なんだけど♡♡
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...