継続可能な最高の幸せ!ただし、怪異ありきで。

豆腐屋

文字の大きさ
28 / 44

㉘雨の日4

しおりを挟む
 暗闇の中、鳥居が見つかるなんて、やっぱり自分は運が良い。今回だって、きっと何とかなる。
 こんなの山をおりたら、笑い話だ。

 そう思っていた。

 やっぱり、気をつけなければいけないのは帰り道なのだ。



 鳥居を目指して足を進め始めた矢先、国生達は全員まとめて斜面を転がり落ちた。



 最後尾の友人が足を滑らせ、それに巻き込まれる形で下の地面まで止まることなく一気だった。 

 先頭を下っていた国生は、何とか踏み止まろうとしたが、男三人分の体重の落下には逆らえなかった。  

 木と木の隙間のような、まったく道ではないところを進んでいたのに、木の幹にぶつかって止まることもなかった。

 国生は落ちていく途中までの記憶しかない。

 体をあちこちぶつけているのに痛みを感じなかった。でも感触はあって、あとは浮遊感や落下の恐怖、後悔、この山に誘った友人への申し訳なさ・・・別れを言えない家族の顔・・・

 自分は、ここで死ぬ。


 

 目が覚めた時、病院のベッドの上だった。

 白花岳の従業員が倒れて意識ない国生達を発見し、救急車を呼んでくれた。
 ゴルフ場内とはいえ雪山なので、すごく迷惑と苦労かけた。

 不法侵入だったので警察に事情も聞かれた。けれど、不法侵入については国生の親が何とかしてくれて、ゴルフ場側が告訴しなかったので罪には問われなかった。
 国生は、自分が友人達を白花岳に誘ったと周りに頭を下げた。
 友人達は友人達で、国生のせいじゃないとかばってくれた。

 父親が、自分と友人のために随分と金を積んでくれただろうことは気付いていた。

 全員、明くる日中には意識を取り戻し、命に別状もなかった。擦り傷や打撲はあったものの、必要な検査を受け2日程で退院した。

 全員で泣きながら抱き合って無事を喜びあった。

 友人達の親からは、ずいぶん恨まれたが。

 国生達は運ばれた先で、全員、同じ病室にまとめられていた。

 三人だった。

 国生を入れて三人。

 「四人?倒れていたのが発見された時、君たちは三人だったけど、もう一人いたのか?その子とは途中ではぐれた?」

 いや・・・もう一人って誰だ?三人だ。自分と友人は二人。

 チョコバーを食べたのは?

 鳥居に向かう斜面で足を滑らせたのは?

 最初、帰り道を間違えたのは?

 いつから四人だった?  

 警察から聞かれて、国生達はようやく気付いた。



 国生がコース管理で働き始めて五年経つが、あの時、どこで迷っていたのか分からない。
 夜と昼間では見え方も変わるし、自然の風景だって姿を変えるだろう、とは思う。
 細かい記憶があるわけじゃない。

 スノーボードで遊んだ場所や、転がり落ちた斜面、それらしき場所を探すも、ここだと思う場所がない。
 山の上で、木の生えてない整備された広い地面は、ゴルフコース内のはずなのに。

 自分達が倒れていたと聞いた場所の近くにも鳥居はなかった。

 一緒にいた、もう一人は誰なのか。

 どこに迷いこんでいたのか。



 救急車をよんでくれたのは、倉本だった。意識ないまま、雪山に一晩放置されたら命はなかったと言われた。

 時刻は丑三つ刻とよばれる午前二時。

 国生にとって運命の出会いだった。

 意識はなかったが。





 ~♪♬~♪♬~♪♬~♪♬

 国生のスマホの着信が鳴った。

 「大石さんっっ!!どこなんすかっ?」

 何度かけても出なかった上司からの折返しだった。車をとめて、着信をとる。もう、本当に時間がない。
 夜の山の恐ろしさを、国生は嫌というほど知っている。

 昔のことを思い出していたせいか、今では慣れ親しんだはずの自身の仕事場なのに居心地が悪かった。

 こんな近くで大音量の祭囃子を聞いたのは初めてだ。部下をおいて、一人であがってきたことを少し後悔した。

 『4番ホールだ。悪い、いろいろ見てたら遅くなった!!』 

 国生がこれから向かう予定だった現場だ。現在地から近い。すぐに合流できそうだ。

 「すぐ帰ってきて下さい!川井は?祭囃子やばいぐらなってんすよ!!」

 『川井は・・・祭囃子がなってるってずっと言ってる・・・。』
 
 「なんで無視してんすかっ!!」

 いくら大人しいとはいえ、何も言わないはずはない。人間なら、とっくに山をおりるレベルだ。

 『無視したわけじゃないっ!中途半端にできないだろっ!!』

 「・・・もう、おりてきてすか?俺、今3番ホールの手前なんすけど待ってるんで、さっさっとおりてきてください!祭囃子、マジうっさいんすよ!!」

 「もう、おりてる!・・・純也に言ったか?」

 このタイミングでなんなんだ、なんの心配をしているんだと思う。
 国生は、仕事においては啓介を純粋に尊敬している。サブキーパーの今でも、彼から教わることは多い。入社したての頃なんて、本当に世話になった。

 「怒られてください。」

 あの王子様は、仕事が手につかないほど心配しているに決まっている。
 助言を無視され続けた川井のために、しっかり叱っといて欲しいが、あまり期待はできない。

 どう考えても、可哀想なのは川井だ。

 二人が電話に出なかった理由は、スマホが濡れて故障したら困るから車の中に置きっぱなしで外を見回っていたからだった。




 「えっ!?ぶなぴが?」

 ディナーの予約が入っている今日は、友緖も夜の仕事が入っている。
 
 勤務時間が長くなるので休憩時間に一度、様子を見に帰った時はアパートの部屋の中に、ぶなぴはちゃんといた。

 そのぶなぴは、なぜか啓介に保護されているという。コースへ上がる道の入口辺りで、びしょ濡れになっていたので車に乗せていたらしい。

 玄関のドアは鍵をかけ忘れたとしても、猫の力で開けれるわけがないので、どこかの窓から出たのかもしれない。

 「・・・すみません、ありがとうございます・・・。」

 「啓介さんが一緒に家に連れて帰ってるみたいだから、仕事終わりにうちに寄ってもらってもいい?」

 「はい。ほんとにすみません・・・。」

 「気にしないで。ぶなぴと遊べて喜んでるから。」

 啓介には友緖からお礼の品として、再び例のアイスクリームが贈られた。ちゃんと純也の分もあった。

 川井に、と預けられたアイスクリームは、啓介経由で本人の手に渡ったが、その情報は国生経由で倉本の耳に入り、後日、『ただの礼だから勘違いするな』と睨まれつつ、昼食のおかずが一品増やされていた。   

 そして、それを見た国生から睨まれた。

 可哀想だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」 幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...