9 / 19
もしも声がとどくなら
しおりを挟む
暗がりの中で、目を閉ざすあなた。
キャン・ユー・ヒア・ミー?
この声、ああ……届いたなら。
星にも負けない輝きで、あなたの心を照らすでしょう。
暗がりに心を閉ざすあなた。
キャン・ユー・シー・ミー?
本当に何も見ないで過ごせるの?
あなたには、まだやることがある。
やってみせて。
あなたにしか、できないことがある。
見届けるわ、あなたを見つめている。
キャン・ユー・ヒア・ミー?
キャン・ユー・シー・ミー?
あなたになら、できる。
『小鳥がさえずっておりますね』
「いいから、ラッド、パーチ。おまえたちは、今日から使用人ということにしておく」
『えー』
『黙って群れて、池のはたでパクパク餌をもらっていた方が楽なのに』
『あの、魔王さま、本気でいらっしゃいますか? まさかスズキのわたくしに館中の窓を磨けと?』
「窓だけじゃない。床もだ」
『そ、それをわたくしども二人がかりで?』
「不服か?」
『いえ、ですからわたくしは餌をもらうしか能のない、しがない池の魚で……』
「よるな。魚臭い。風呂に入れ」
『どうして、陸にあがったとたん、こうなんでしょうか?』
『あの、わたくし辞退いたします。人間の館をどうこうなんて、性分にあいません』
『ああ! ずるいぞパーチ。わたくしとて池の鯉。陸では長く息が続きませんゆえ』
「そうしてしゃべっているだろうが」
『魔王さまが、無理に魔法でわたくしどもを人間にしたんでしょう!?』
『とにかく、変身魔法をといてください。乾燥にも弱いので』
「永遠に腐らない魔法をかけておいた。心配するな」
『腐る前に干からびます!』
「大丈夫だ。とにかく、ことの発端はこうだ」
『聞いてくださいよ!』
「夕べイヴァンが寝る前にだな……」
『あーもー!』
「ねえマオー。ゆうしゃってなあに?」
「坊ちゃまには、縁のないお仕事です」
「このくににおいて、どういうそんざいなのか、きいているの」
「荒っぽい手段で国を動かすのです」
「どうして、はなしあわないの?」
「話し合いのテーブルにつくことが叶わない、矮小な存在だからです」
「ふうん。それならボクはならないや」
「坊ちゃまは貴族なのですから、ならずともいいのですよ」
魔王はにっこり。
それでいい。
ところが次の日、目が醒めたイヴァンは食事の席でこういった。
「ゆめで、きれいなおねえさんが、ゆうしゃになってって。だからボク、ゆうしゃになる!」
魔王は、脳が吹っ飛ぶかと思った。
いかん、勇者がアホなままだと、この世が四散する。
征服し、支配する前に、国が亡びる。
家庭教師をつけねば。
「ということで、おまえたちに頼みたいのは実はそちら方面なのだ」
『ほほ――さようでございますか』
「私には普通がなんなのか、わからないからな。ならば、普通の人間を知るおまえたちに任せるほかあるまい」
『なんだか、頭の痛くなる勇者ですねえ』
「うむ。手を焼いている」
『魔王さまは頭の痛くなる魔王ですが』
『パーチ!』
『もうあちらへゆかれた。おまえだって思ってるんだろう? ラッド』
「あー、ところでだな」
『ふぁっ!?』
魔王がいきなり方向転換して来たので、びくっとしてしまうパーチ。
「館内には使い魔を放ってある。情報はそこから得る。おまえたちもせいぜい利用しろ」
『だから言ったんだよ……』
ラッドが小声になって眉をさげて言うと、パーチは舌打ちした。
『まだ、言うことがあるのか?』
『使い魔に聴かせる話が、これ以上あるはずない』
『だな。お仕事といきますか』
『体が重いー』
『浮力がないからな』
『手と足が痛い……』
『もともとヒレと尾だからな』
『視界が狭い……』
『目が前についてるからな』
しくしく泣くパーチを、ラッドがなぐさめた。
ていうか、魚って涙があるのか?
『ウミガメじゃあるまいし、目から水分が出てるぞ』
『池から出たら太陽の光が目に沁みて。ラッド……なんでウミガメにそんなに詳しいのか、聞いてもいい?』
『話は後にしろ』
パーチが口を閉ざすと、視界のすみにネズミの影が横切った。
キャン・ユー・ヒア・ミー?
この声、ああ……届いたなら。
星にも負けない輝きで、あなたの心を照らすでしょう。
暗がりに心を閉ざすあなた。
キャン・ユー・シー・ミー?
本当に何も見ないで過ごせるの?
あなたには、まだやることがある。
やってみせて。
あなたにしか、できないことがある。
見届けるわ、あなたを見つめている。
キャン・ユー・ヒア・ミー?
キャン・ユー・シー・ミー?
あなたになら、できる。
『小鳥がさえずっておりますね』
「いいから、ラッド、パーチ。おまえたちは、今日から使用人ということにしておく」
『えー』
『黙って群れて、池のはたでパクパク餌をもらっていた方が楽なのに』
『あの、魔王さま、本気でいらっしゃいますか? まさかスズキのわたくしに館中の窓を磨けと?』
「窓だけじゃない。床もだ」
『そ、それをわたくしども二人がかりで?』
「不服か?」
『いえ、ですからわたくしは餌をもらうしか能のない、しがない池の魚で……』
「よるな。魚臭い。風呂に入れ」
『どうして、陸にあがったとたん、こうなんでしょうか?』
『あの、わたくし辞退いたします。人間の館をどうこうなんて、性分にあいません』
『ああ! ずるいぞパーチ。わたくしとて池の鯉。陸では長く息が続きませんゆえ』
「そうしてしゃべっているだろうが」
『魔王さまが、無理に魔法でわたくしどもを人間にしたんでしょう!?』
『とにかく、変身魔法をといてください。乾燥にも弱いので』
「永遠に腐らない魔法をかけておいた。心配するな」
『腐る前に干からびます!』
「大丈夫だ。とにかく、ことの発端はこうだ」
『聞いてくださいよ!』
「夕べイヴァンが寝る前にだな……」
『あーもー!』
「ねえマオー。ゆうしゃってなあに?」
「坊ちゃまには、縁のないお仕事です」
「このくににおいて、どういうそんざいなのか、きいているの」
「荒っぽい手段で国を動かすのです」
「どうして、はなしあわないの?」
「話し合いのテーブルにつくことが叶わない、矮小な存在だからです」
「ふうん。それならボクはならないや」
「坊ちゃまは貴族なのですから、ならずともいいのですよ」
魔王はにっこり。
それでいい。
ところが次の日、目が醒めたイヴァンは食事の席でこういった。
「ゆめで、きれいなおねえさんが、ゆうしゃになってって。だからボク、ゆうしゃになる!」
魔王は、脳が吹っ飛ぶかと思った。
いかん、勇者がアホなままだと、この世が四散する。
征服し、支配する前に、国が亡びる。
家庭教師をつけねば。
「ということで、おまえたちに頼みたいのは実はそちら方面なのだ」
『ほほ――さようでございますか』
「私には普通がなんなのか、わからないからな。ならば、普通の人間を知るおまえたちに任せるほかあるまい」
『なんだか、頭の痛くなる勇者ですねえ』
「うむ。手を焼いている」
『魔王さまは頭の痛くなる魔王ですが』
『パーチ!』
『もうあちらへゆかれた。おまえだって思ってるんだろう? ラッド』
「あー、ところでだな」
『ふぁっ!?』
魔王がいきなり方向転換して来たので、びくっとしてしまうパーチ。
「館内には使い魔を放ってある。情報はそこから得る。おまえたちもせいぜい利用しろ」
『だから言ったんだよ……』
ラッドが小声になって眉をさげて言うと、パーチは舌打ちした。
『まだ、言うことがあるのか?』
『使い魔に聴かせる話が、これ以上あるはずない』
『だな。お仕事といきますか』
『体が重いー』
『浮力がないからな』
『手と足が痛い……』
『もともとヒレと尾だからな』
『視界が狭い……』
『目が前についてるからな』
しくしく泣くパーチを、ラッドがなぐさめた。
ていうか、魚って涙があるのか?
『ウミガメじゃあるまいし、目から水分が出てるぞ』
『池から出たら太陽の光が目に沁みて。ラッド……なんでウミガメにそんなに詳しいのか、聞いてもいい?』
『話は後にしろ』
パーチが口を閉ざすと、視界のすみにネズミの影が横切った。
0
あなたにおすすめの小説
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
もしもゲーム通りになってたら?
クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが
もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら?
全てがゲーム通りに進んだとしたら?
果たしてヒロインは幸せになれるのか
※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。
※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。
※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。
※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる