11 / 19
秀才リリス
しおりを挟む「……つまり、正の数の絶対値が、負の数の絶対値より小さいとき、解は負となる。だからa-b=cはa<bのとき、c<0。と表せる、だね?」
『あー、わたくしめになにか聞きましたかー?』
ラッドは、耳をふさいで言う。
イヴァンは、何も知らぬげにくすくす笑っている。
リリスが腰に手を当て、ずすいと前へ出た。
「じゃあ、仮にa>bだったら? 解はゼロより大きいの? 小さいの?」
『大きいです』
瞬時に真顔。子供に嘘を教えちゃいけないと思う、正直者のパーチ。
「c>0,a>b,a+(-b)=cと。ありがとー」
『『いえいえ、どういたしましてー』』
魔王はリリスのもってきた答案をみて一言。
「使用人にやらせましたね?」
リリスは首をすくめる。
考えることを放りだしたな。よい兆候だ。
「どうしてバレたの?」
「答えの書き方でバレバレです。a=bのとき、c=0! これは証明できましたか?」
「わかんなーい」
まじめにやれっ! しかしまあ、頭がよくなられても困るので答えは教えておく。
「ちなみに、a=b=0,c=0ですよ。こちらをからめてもよい答えが導き出せるはずです」
「へーえ」
「はい、やったんさい。証明問題の基礎ですよ」
「え――!? めんどくさーい!」
これでよしと。
リリスが次の日も聞いてきた。
まだ懲りないのか。
「ねえ、マオ。公約数ってなに?」
「複数の数に対し、共通する約数のことです」
「約数って、なによ?」
「数には必ず二つ以上あるものです」
「なぞなぞは別なのにして!」
しかたがない。混乱させてやろう。
「樹形図というのがありまして」
「それが今の問題にどう関係するの?」
「この方法を用いると、約数がどれだけあるのかわかります」
「それ、お得じゃない」
そう。そこが落とし穴。
「約数は因数ともよばれます。この因数には素因数というものがあり……」
「そいんすうってなに?」
「数には必ず二つ以上の約数があると言いましたよね?」
「あー、うん。なんとなく……」
「素因数とは、約数が二つしかないものをさします」
「へえ、他の因数と素因数はどう違うの?」
「ですから、素因数は1の数とその数しか約数がないんです」
「もう一度聞くけど、約数ってなに?」
「数をわったり、分けたりして、別の数にすることができる整数です」
「あ、また! わけわかんないのが出てきた、せいすうってなに?」
「0~9の数字の組み合わせからできた、数値のことです」
「すうちって?」
「数のことです」
「どうして最初から数っていわないの?」
「それは……そういうものでございますゆえ」
魔王はにっこりと笑顔をふりまいた。
「数……数値……整数。それと因数、素因数。約数。公約数、じゅけい……なんとか。わかんないけど、わかんないけど、とにかくわかったつもりにならないと、負けた気がする……!」
リリスの単純脳めが、おもしろい具合にこんがらがっている。
やったやった、成功だ。
「じゃあ、55を四捨五入したら60で、二倍にしたら、120の概算になる、これでただしい?」
もっとも魔法式なら、漸化式でいくらでもパワーアップできるがな。憶えられると厄介だ。
「そうでございますね」
「じゃあ、どうして魔力は計算と違う数値になるの?」
それはだな、俗にF数列、T数列、L数列などという謎の数列というものがあってだね、魔力というのは自然界に属する特別な計算式によって導き出される、不思議な数値だからなのだよ。
足し算引き算、乗除の数式しかわからない頭では理解もしようがない。
――とは言わない。
「どうしてでございましょうねえ。不思議、ですねえ。まあ、ウサギのつがいの総数やアリ、ハチの家系など、どうでもいいことではございませんか」
とおーくを見る。
これで勇者が目覚めることはない。
めでたい。
どかーん、と納屋で物音がしたので駆けつけた。
そこにはリリスと、イヴァンが真っ黒になってへたりこんでいた。
「えっと……魔法実験は、ご遠慮くださいと申し上げましたよね!?」
「……ラッドが、やってみるのが一番の近道だっていうから」
「人のせいにしない――!!!」
この小娘が! 危うく、勇者を目覚めさせるところだったじゃないか!
魔王は、ラッドを永久に許さないところだった。
魔王は表に目をやる。
もう、西日が傾いている。
パーチが温室の窓を磨いているのが見えた。
今頃なにをやっているんだ、あいつは!
「この館、入浴にお湯は使えるの?」
リリスが隣にやって来た。
「あ、はあ……」
言葉を濁す、魔王。
「何時から何時まで?」
「大量の湯を沸かすのには、少々時間がかかります。薪を使いますので」
「なーんだ。じゃあ、自分でお湯沸かすわ」
「と、言われますと?」
「魔法で、どばーっと。そうね、薔薇湯がいいわ。たまにはあったかい湯につかりたい」
リリスは前方に両腕を突き出した。
そのままむにゃむにゃと呪文を唱えだす。
「しばらくお待ちください」
魔王は、ゲンコツしそうになるのを必死でこらえた。
「ラッド、リリスさまがご入浴されるそうだ」
『え? 朝なら朝づみの薔薇湯もご用意できますが、今は夕方ですよ?』
「いいから、ゲストのご要望だ!」
『あ、はい……』
「なんで、魔法使っちゃだめなのよー?」
リリスはぶつくさ。
決まっているだろう。
魔法の発動は魔力の共鳴を起こし、イヴァンの魔法の才が開花してしまうかもしれないからだ!
――とは言えない。
もう、泣いていいかな……?
ああ、今日も、ほんっとうに、疲れた……。
0
あなたにおすすめの小説
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
もしもゲーム通りになってたら?
クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが
もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら?
全てがゲーム通りに進んだとしたら?
果たしてヒロインは幸せになれるのか
※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。
※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。
※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。
※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる