ほんのり駄勇者とラスボス執事

れなれな

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秀才リリス

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「……つまり、正の数の絶対値が、負の数の絶対値より小さいとき、解は負となる。だからa-b=cはa<bのとき、c<0。と表せる、だね?」

『あー、わたくしめになにか聞きましたかー?』

 ラッドは、耳をふさいで言う。

 イヴァンは、何も知らぬげにくすくす笑っている。

 リリスが腰に手を当て、ずすいと前へ出た。

「じゃあ、仮にa>bだったら? 解はゼロより大きいの? 小さいの?」

『大きいです』

 瞬時に真顔。子供に嘘を教えちゃいけないと思う、正直者のパーチ。

「c>0,a>b,a+(-b)=cと。ありがとー」

『『いえいえ、どういたしましてー』』




 魔王はリリスのもってきた答案をみて一言。

「使用人にやらせましたね?」

 リリスは首をすくめる。

 考えることを放りだしたな。よい兆候だ。

「どうしてバレたの?」

「答えの書き方でバレバレです。a=bのとき、c=0! これは証明できましたか?」

「わかんなーい」

 まじめにやれっ! しかしまあ、頭がよくなられても困るので答えは教えておく。

「ちなみに、a=b=0,c=0ですよ。こちらをからめてもよい答えが導き出せるはずです」

「へーえ」

「はい、やったんさい。証明問題の基礎ですよ」

「え――!? めんどくさーい!」

 これでよしと。

 

 リリスが次の日も聞いてきた。

 まだ懲りないのか。

「ねえ、マオ。公約数ってなに?」

「複数の数に対し、共通する約数のことです」

「約数って、なによ?」

「数には必ず二つ以上あるものです」

「なぞなぞは別なのにして!」

 しかたがない。混乱させてやろう。

「樹形図というのがありまして」

「それが今の問題にどう関係するの?」

「この方法を用いると、約数がどれだけあるのかわかります」

「それ、お得じゃない」

 そう。そこが落とし穴。

「約数は因数ともよばれます。この因数には素因数というものがあり……」

「そいんすうってなに?」

「数には必ず二つ以上の約数があると言いましたよね?」

「あー、うん。なんとなく……」

「素因数とは、約数が二つしかないものをさします」

「へえ、他の因数と素因数はどう違うの?」

「ですから、素因数は1の数とその数しか約数がないんです」

「もう一度聞くけど、約数ってなに?」

「数をわったり、分けたりして、別の数にすることができる整数です」

「あ、また! わけわかんないのが出てきた、せいすうってなに?」

「0~9の数字の組み合わせからできた、数値のことです」

「すうちって?」

「数のことです」

「どうして最初から数っていわないの?」

「それは……そういうものでございますゆえ」

 魔王はにっこりと笑顔をふりまいた。

「数……数値……整数。それと因数、素因数。約数。公約数、じゅけい……なんとか。わかんないけど、わかんないけど、とにかくわかったつもりにならないと、負けた気がする……!」

 リリスの単純脳めが、おもしろい具合にこんがらがっている。

 やったやった、成功だ。

「じゃあ、55を四捨五入したら60で、二倍にしたら、120の概算になる、これでただしい?」

 もっとも魔法式なら、漸化式でいくらでもパワーアップできるがな。憶えられると厄介だ。

「そうでございますね」

「じゃあ、どうして魔力は計算と違う数値になるの?」

 それはだな、俗にF数列、T数列、L数列などという謎の数列というものがあってだね、魔力というのは自然界に属する特別な計算式によって導き出される、不思議な数値だからなのだよ。

 足し算引き算、乗除の数式しかわからない頭では理解もしようがない。

 ――とは言わない。

「どうしてでございましょうねえ。不思議、ですねえ。まあ、ウサギのつがいの総数やアリ、ハチの家系など、どうでもいいことではございませんか」

 とおーくを見る。

 これで勇者が目覚めることはない。

 めでたい。 




 どかーん、と納屋で物音がしたので駆けつけた。

 そこにはリリスと、イヴァンが真っ黒になってへたりこんでいた。

「えっと……魔法実験は、ご遠慮くださいと申し上げましたよね!?」

「……ラッドが、やってみるのが一番の近道だっていうから」

「人のせいにしない――!!!」

 この小娘が! 危うく、勇者を目覚めさせるところだったじゃないか!

 魔王は、ラッドを永久に許さないところだった。

 魔王は表に目をやる。

 もう、西日が傾いている。

 パーチが温室の窓を磨いているのが見えた。

 今頃なにをやっているんだ、あいつは!

「この館、入浴にお湯は使えるの?」

 リリスが隣にやって来た。

「あ、はあ……」

 言葉を濁す、魔王。

「何時から何時まで?」

「大量の湯を沸かすのには、少々時間がかかります。薪を使いますので」

「なーんだ。じゃあ、自分でお湯沸かすわ」

「と、言われますと?」

「魔法で、どばーっと。そうね、薔薇湯がいいわ。たまにはあったかい湯につかりたい」

 リリスは前方に両腕を突き出した。

 そのままむにゃむにゃと呪文を唱えだす。

「しばらくお待ちください」

 魔王は、ゲンコツしそうになるのを必死でこらえた。

「ラッド、リリスさまがご入浴されるそうだ」

『え? 朝なら朝づみの薔薇湯もご用意できますが、今は夕方ですよ?』

「いいから、ゲストのご要望だ!」

『あ、はい……』

「なんで、魔法使っちゃだめなのよー?」

 リリスはぶつくさ。

 決まっているだろう。

 魔法の発動は魔力の共鳴を起こし、イヴァンの魔法の才が開花してしまうかもしれないからだ!

 ――とは言えない。

 もう、泣いていいかな……?

 ああ、今日も、ほんっとうに、疲れた……。
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