四分割ストーリー

安東門々

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現実と夢

アクション実行

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「相変わらず、雪の思考回路がどうなっているのか、疑問だが、その提案はいいな、ただし! 全て冷たいモノじゃなくて、昼飯は暖かいのを所望する」

「そうね、以前のように冷や飯に氷をトッピングしてきたのは、さすがにビックリしたけど、それが無いなら賛成ね」

「はいはい! 私も美味しいの食べたいです!」

 満場一致となった雪道の提案に、更に肉付けしていく各々、その姿はとてもイキイキとしており、まさに今を楽しんでいる。

 その帰り道、秀は千香を駅まで送りにいき、雪道は珍しく傘を忘れてきた寧音を家まで送り届けていく。

 そして、千香は駅まで残り一キロほどになったときに、隣を歩く先輩に、今の懸念事項を相談した。

「このままだと、ダメだと思うんですよね」

「なんだよいきなり、主語がないぞ」

「いや、よく考えてみてくださいよ! 私、雪先輩と付き合いたくて先輩を利用して近づいたのに、まったく行動できていません。むしろ、現状が居心地がよすぎて進歩どころか後退しているような気もします」

「おい、改めて利用されているとストレートに言われると、なんとなく傷つくな……でも、居心地がいいのは認める。だから、俺もそれに甘んじて、今まで行動できていなかった」

「こうなったら、行動あるのみですね!」

「そうだけど、何か作戦はあるのか?」

 その問いに対して、彼女は少し悩むような素振りを見せるが、少し歩くと項垂れながら、「秀先輩……」と涙目になりながら訴えてきた。

「ちょっとはアイディアを述べてから、降参してくれると後が楽なんだが、そうだな、俺もこれといって打開策があるわではないが、あの二人が唯一、別々の趣味があるのは知っている」

「そ、それは⁉」

「映画だ」

「映画ですか?」

「そうだ、ああ見えて雪は、映画も嗜んでいてよく観ているんだが、寧音とは趣味嗜好が違っていて、一緒に観に行ったときは無かったはずだ」

「寧音先輩も好きなんですか映画?」

「好きだな、たまに休み時間中に映画館の上映スケジュールを確認しているから」

「ちなみに、どんなのに興味があるのかご存知ですか?」

「一般的なオチだと、寧音がスプラッター系かと思いきや、甘々な恋愛映画が好きだとはリサーチ済み、ちなみに、雪はミリタリーアクションやSF関連は強い気がするが、アクションなら幅広く観ている。それにファミリーむけのアニメ映画も全然観れていた」

「では、その映画に私たちが別で誘えば、一緒に行ける可能性があるってことですか?」

「そうなるな」

「よっしゃあああああ! 帰ったら早速リサーチするので、夜に連絡入れますね」

「わかった。こっちも他にいいアイデアが無いか捻ってみるよ」

 話しの終着点が見えたところで、駅が見えてきた。
 新たなチャレンジに胸を膨らませながら、二人は挨拶を済ませて、また別々の帰路にたつ。

「ねえ、聞いていい?」

「何を?」

 秀と千香とは真逆の方向へ進んでいる彼らは、雪道が肩に少しだけ雨を被る形で、それでも歩調はゆっくりと流れている。
 
「なんで、急にあんなことを言い出したの?」

「あんなことって?」

「あなたの家で冷たい食べ物を食べるって」

「ああ、そのことね、もう俺らって学園生活終わるじゃん」

 一言だけ、そう、ただ一言だけ力強く彼はその言葉を唱えることで、寧音は驚きの顔を差し向けると、「そっか、そうだもんね。」と優しく下を見つめる。
 この雨は徐々に彼女の靴や鞄を濡らしていくが、彼の磨かれた靴は雨を弾き返していた。
 それ以降の会話は、いつも通り寧音が話題をだし、雪道が適当に答えていくといった、単純な内容ではあるが、二人の距離がいつもより近いせいか、会話のペースも早くなっている。

 寧音の家についてからも、少しだけ会話をしてから「さようなら」を言い合い、雪道は、いつも彼女の家から帰るときは振り向くことなく、帰っていく。

 そして、機嫌のよい彼女は玄関に入ると、折りたたみ傘を鞄から取り出し、いつもの定位置に置いた。
 鼻歌混じりの歌声は、いつにも増して体を軽くしてくれるようで、手早く着替えを済ませ、イヤホンを耳にセットすると、先ほどまで脳内で流れていた曲が入り込んでくる。
 そうなれば、あとはゆっくりと机に座り、先日購入したばかりの文庫本に目を落としていくだけだ。

 
 次の日は珍しく、千香と秀が二人に話があると言い出し、誰も利用しない広報委員会室に集合すると、二人は頭を下げてお願いがあると告げる。

「すまん! 俺と千香とで映画に行こうとしたんだが、俺のミスでまったく違う映画のチケットを購入してしまった」
  
「しかも、ジャンルがどちらも特殊で、他の人も誘いにくいので、ご迷惑でなければ、ご一緒にいかかでしょう?」

「でも、片方分しかないんじゃないの?」
 
「ごもっともですが、このままでは両方無駄になってしまうので、是非ともお願いします。」

「めずらしいね。 秀が映画に興味あるなんて知らなかった」

 映画と聞いて、ダレていた雪道は机から体を離すと、二人に向き直る。
 
「それで、一応どんな映画のチケットを購入したのか教えてくれるかな?」
 
 それを聞いた千香は、鞄にしまってある手帳からチケットを取り出し、二人に渡すと、雪道はチケットを見るなり興奮しだし、若干ではあるが鼻息が荒くなっている。

 それとは逆に寧音は落ち着いているように見えるが、その胸の内は穏やかでなく、直ぐに携帯端末で出演者情報を調べたい欲求にかりたてられている。
 二人が用意していたチケットは、『電光の山脈』と題された作品と、『カスミソウの日々』の二作品であり、カスミソウの花言葉は「幸福」といわれているだけあって、内容は純愛の甘めな設定であると評判だ。
 しかし、『電光の山脈』は、歴史映画で、カルタゴの将軍ハンニバルのアルプス越えを描いた映画であり、こちらの内容は若干専門知識も必要で、特殊な分野といえよう。

「これを観に行きたいの?」

「はい、なんとかお願いできませんか? チケット分はこちらでだしますから」

 先に決断したのは、雪道がチケットを握り「俺は行く」と伝えると、それに続いて、「しょうがないわね」と、寧音が承諾してくれた。

 その返事を聞いて、二人は内心でガッツポーズを決めると、いよいよ作戦行動を開始する。
 この段階では、どちらが、どの映画を観るのかは伝えておらず、当日まで秘密にしておく必要があるが、目の前の二人は既に千香たちの術中にはまっているのに気が付いていない。

 そして、映画を観にいく日にちは、土曜日と決まり、次の日曜日に雪道の家に集まることにした。
 帰り道に雪道は駅側の書店に寄りたいと主張すると、他の三人は特に予定もないので、ついてくと、店内に入るなり、真っ先に歴史コーナーの棚に向かう。
 ハンニバルの伝記とその時代の歴史書を購入し、予習しておくそうであるが、さすがにそこまでの気力は千香にはなかった。

「しかし、歴史書ってけっこういいお値段するんですね」

「雪はあまり無駄遣いはしないが、何かハマった場合の行動力は凄いぞ」

 千香と秀が雪道に注目している後ろでは、寧音がひっそりと映画の原作漫画を数冊購入していた。
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