溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参

文字の大きさ
1 / 15

悪役令嬢追放と、甘美なる夜の始まり

しおりを挟む
 私の名前はリーシャ。第一王子ビヨンド殿下の正式な婚約者であり、もうすぐこの国の妃となる身だ。私は控えめな侯爵令嬢として育ち、自分から目立つことを好まない。その性格が、きっとあの悪役令嬢に付け入る隙を与えてしまったのだろう。

 ある夜、王宮で盛大な夜会が開かれていた。ビヨンド様はいつものように、多くの貴族たちからの挨拶を受けながらも、その鋭い青い瞳は時折私を見つめてくる。彼が私に向けてくれる優しい眼差し、それは私の宝物だった。

 その時、一人の女性が私たちの間に割って入った。伯爵令嬢ユーリーよ。彼女は派手なドレスを纏い、まるで舞台女優のように大仰な仕草でビヨンド様に話しかけた。

「ビヨンド様、リーシャ様は最近お体の調子が優れないと聞きました。どうかお妃教育など一時お休みさせて差し上げてはいかがでしょう?私でよろしければ、政務に関する書類整理などのお手伝いを…」

 ユーリーの言葉は、まるで私を病弱で役立たずな存在だと貶めているようだった。そして、自分が王子の隣に立つにふさわしいと暗に主張しているのだ。周りの貴族たちも、ユーリーの大胆な行動に注目し、ざわめき始めている。

 私は思わず顔を俯かせた。反論しようにも、もともと口達者ではない上に、注目されることに慣れていない私の足は、地面に縫い付けられたかのように動かない。

 しかし、私の愛しい婚約者殿下は、ユーリーの浅はかな策になど、微塵も動じなかった。彼はただ静かに、その美しい顔に冷たい笑みを浮かべる。

「ユーリー伯爵令嬢、私の婚約者の体調は私が一番よく知っている。リーシャは私の隣に立つべく、日夜努力を重ねてくれているのだ。それに、政務は私の職務であり、あなたが口を挟むべき領域ではない」

 ビヨンド様は、私リーシャの手を取り、優しく握りしめた。その温もりが、私の不安を打ち消してくれる。

「愛しいリーシャ、気分を害しただろうか」

 彼は周りの目も気にせず、私にだけ聞こえる声でそう囁いた。私は首を横に振る。彼が信じてくれるのなら、何も怖くない。

 ユーリーはなおも諦めない。彼女は用意周到に、次の手を打ってきた。

「ですが殿下!リーシャ様は今朝、私にひどい侮辱の言葉を浴びせました!侯爵家とはいえ、その品格のなさは、王妃となるべきお方としていかがなものか…」

 彼女は涙を流す演技まで始めた。しかし、その涙はどこか乾いていて、私にはただの芝居に見えた。

「侮辱?私の妻となる者が、そのような無様な振る舞いをするはずがない」

 ビヨンド様の声は氷のように冷たかった。彼は一歩踏み出し、ユーリーをまっすぐに見据える。その威圧感に、ユーリーはたじろいだ。

「ユーリー令嬢、きみの小細工はもう見飽きた。きみがリーシャを陥れようとしているのは明白だ。数カ月前にも、きみはリーシャのドレスを破ろうとしただろう。あれは証拠隠滅に失敗していたな」

 ビヨンド様は、私さえ知らなかったユーリーの過去の悪行までも、すべて把握していたのだ。彼は、私の知らないところで、私を守るために動いていてくれた。その事実に、私の胸は熱くなる。

「王子殿下、わ、私は…」

 ユーリーは顔面蒼白になり、言葉を失う。

「弁解は聞かない。王子の婚約者、そして将来の王妃を陥れようとした罪は重い。ユーリー・アルフレッド伯爵令嬢、きみを本日をもって社交界から追放する。明朝、きみの実家は領地を没収され、一族もろとも国外へ追放となる」

 王子の言葉は、容赦のない断罪だった。ユーリーは悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちたが、誰も彼女に手を差し伸べなかった。

 騒ぎが収束した後、ビヨンド様は再び私リーシャの手を取る。

「さあ、愛しい人。こんなつまらない夜会はもうおしまいだ。私室に戻ろう」

 彼は私の腰に手を回し、周囲の視線から私を庇うように歩いていく。彼の側を歩いていると、世界で一番安全で、愛されていると感じる。

 私室に戻ると、彼はすぐに扉を閉め、私を抱きしめた。

「怖かっただろう、リーシャ。ごめん、きみに嫌な思いをさせてしまった」

 ビヨンド様は私の頬にそっと触れ、親指で優しく撫でる。彼の大きな手が、私リーシャの小さな顔を包み込む。

「いいえ、ビヨンド様。あなたが、私を信じてくださったから。それが、何よりも嬉しいのです」

 私の胸は、安堵と愛情でいっぱいで、今にも張り裂けそうだ。私は背伸びをして、彼の首に腕を回した。

「私の可愛い妻よ…」

 彼は、私を抱き上げ、寝室へと向かう。私の身体は、彼の力強い腕の中にすっぽりと収まり、その体温に包まれる。

「今日から、きみは完全に私のものだ。もう誰も、私たちを邪魔することはできない」

 寝台に優しく降ろされ、私は彼の真剣な眼差しを受け止めた。彼の瞳は、夜会の冷たさとは一変し、情熱的な炎を宿している。

「私は、あなたのために生きています、ビヨンド様」

 そう告げると、彼は満足そうに微笑み、私の唇を塞いだ。それは、長く深く、そして甘いキスだった。ユーリーの起こした騒動など、もう遠い過去のこと。

 この夜から、私リーシャと愛しい夫との、誰にも邪魔されない甘い日々が始まるのだ。私は、彼がくれた幸福に身を委ね、心から彼を愛する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした

鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました 幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。 心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。 しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。 そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた! 周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――? 「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」 これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。

婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです

鍛高譚
恋愛
内容紹介 「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」 王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。 婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。 「かしこまりました」 ――正直、本当に辞めたかったので。 これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し…… すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。 そしてその瞬間―― 王宮が止まった。 料理人が動かない。 書類が処理されない。 伝令がいない。 ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。 さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。 噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。 そしてついに―― 教会・貴族・王家が下した決断は、 「王太子廃嫡」 そして。 「レティシア、女王即位」 婚約破棄して宰相をクビにした結果、 王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――? これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの 完全自業自得ざまぁ物語。

【完結】悪役令嬢の身代わりで処刑されかけた侍女、悪人面強面騎士にさらわれる。

雨宮羽那
恋愛
 侍女リーリエは、処刑される予定の主・エリーゼと容姿がそっくりだったせいで、身代わりとして処刑台へ立たされていた。  (私はエリーゼ様じゃないわ!)と心の中で叫んだ瞬間、前世の記憶がよみがえり、ここが読みかけだった悪役令嬢ものの小説の世界だと気づく。  しかも小説ではエリーゼが処刑されるはずなのに、リーリエが処刑されかけているという最悪の展開。  絶体絶命の瞬間、リーリエの前に現れたのは強面で悪人面の騎士ガウェイン。  彼はなぜかリーリエを抱えあげ連れ去ってしまい――? ◇◇◇◇ ※全5話 ※AI不使用です。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております。

追放された地味令嬢、実は王国唯一の“魔力翻訳者”でした 〜役立たずと言われましたが、もう契約は終了です〜

あめとおと
恋愛
王太子から「魔法が何も起こらない役立たず」と断罪され、婚約破棄された伯爵令嬢リリア。 追放された彼女の能力は―― 魔法の“意味”を読み解き、術式そのものを理解する力《魔力翻訳》。 辺境の魔導研究所でその才能を見出された彼女は、 三百年解読不能だった古代魔法を次々と再生させていく。 一方、彼女を失った王都では魔法事故が連鎖。 国家結界すら崩壊寸前に――。 「戻ってきてほしい」 そう告げられても、もう遅い。 私を必要としてくれる場所は、 すでに別にあるのだから。 これは、役立たずと呼ばれた令嬢が 本当の居場所と理解者を見つける物語。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

処理中です...