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呻る双腕重機は雪の香り
第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ②
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部屋に入ると、彼は落ち着かないのかドアの近くでただ立っているだけだった。
私は椅子を差し出して座るように促した。
その椅子にゆっくりと腰を落ち着けるのを確認すると、私も愛用の椅子に座って本を読み始める。
そう言えば、使用人とお父様を除いてこの部屋に異性を入れたのは初めてで、いつもの自分ならば絶対にこのような行動はしない。
なぜ今回このような展開になったのか、自分でもよく理解できないが、彼に対して警戒心が薄いと思う。
ただ、それが「なぜ?」と問われると、返答に困ってしまう。
私の私生活の空間に入ってきても、嫌な感じがまったくしないのだ。
本をめくる。 横目で確認してみると蒲生さんは私の部屋をあちこち見渡していた。
「あの……。 そんなにジロジロと見られると、さすがに――」
「も、申し訳ないです。 これもクセですね。 この部屋ならどうやってお嬢様をお守りできるかを考えておりました」
なるほど、普段から汚さないようにはしているが、仕事のためとは言え、やはり恥ずかしい気持ちはある。
”やめて”とは言っていないが、部屋を見渡すのをやめて静かに瞼を閉じた彼は、寝ているわけではなく、何かを考えているようで顔は真剣だった。
私も本に視線を戻すと、再び別の世界の旅を始める。
今回読んでいる本は、長靴を履いた猫が、そのまま猫の姿でローマの剣闘士へ転生してしまう物語で、今日を生き残るためのギリギリの生活が魅力の一冊だった。
半分ほど読み終えて、少し固まった首の筋肉を解放しようとする。
いつものように、紅茶を飲もうかと思い使用人を呼んだ。
紅茶が来るまでもう少し読もうとすると、視界の端に人影が入る。
ゆっくりとその人影へ視線を移すと、整った顔立ちで瞬きすることなく、私を見つめている蒲生さんがいた。
私は読書に集中するあまり、彼の存在を忘れていたのだ。
そもそも、物音は一切しなかったし気配すらなかった。 まるで空気のような存在であったが、この部屋に誘ったのは私だったのに忘れてしまうとは、とんだ失態である。
私は慌ててなにか話題を探して彼から、話しかけようと視線を逸らし、考え始めることにした。
「ずっとそうしていたの?」
結局何を言っていいのかわからず、適当なことを呟いてしまう。
そもそも、いつもの私ならばきっと黙ったままにしているが、そうはいかなかった。
不思議と彼とはなにかしらのコミュニケーションをとってみたいと思っている自分に驚いてしまう。
「そうしていた? とは?」
「その、ずっと私を見ていたのかってことです」
顔が熱くなるのがわかる。 この暖房の効いた部屋が原因ではなく、なぜ私はこの質問をしてしまったのだろうか?
後悔よりも恥ずかしさが勝っている。
「そう、ですね……。 ずっと見ておりました。真剣にお読みになっていたので、邪魔はしていないつもりでしたが」
自分が私の読書を邪魔していると思ったのか、それは違うと伝えた。
しかし、これからは気になってしまって集中できないかもしれない。
「そうですか、ならば安心いたしました」
ニッコリと微笑むその顔を見ていると、こちらが何かしでかしているかのように思ってしまう。
しかし、よく考えてみると私がそれほど集中して読書できたのは訳があるのではないかと。
この部屋にいながらまるで「日常」のように存在する蒲生さんに、私は意識を向けなかった。
それだけ、この空間に馴染んでいるのだろうか? ただ単に彼が気配を消していたからだろうか?
悶々とした気持ちで考えていると、紅茶が運ばれてくる。
運んできたのは、先日倒れた執事の爺だったが、特に大きな怪我もなく、早々に復帰してくれた。
爺は部屋の中に蒲生さんがいるのに驚いたが、すぐにいつもの顔に戻ると私に紅茶をもってくる。
「こちらにおられましたか、蒲生さん」
「えぇ、お嬢様のご配慮によりお邪魔させていただいております」
「いや、最初は驚きましたが逆に安心いたしました。 どうか、愛お嬢様をお守りください」
深々と頭を下げる爺に、彼は慌てて立ち上がると頭を上げるようにと言いながら、戸惑いながら爺に駆け寄ってきた。
私はそのやり取りを飲みながら観察している。
どんな会社から来て、なぜ立候補してまで危険な任務に就いてくれたのだろうか?
気になることだらけな存在に、私は少なからず興味をもっているのかもしれない。
だから、このような行動をとっているのだろうか?
熱めの紅茶を勢いよく飲み込みそうになるのを無理やり止めて、揺れる自分の姿を見つめて落ち着かせようとする。
「そうそう、お嬢様。 午後はいかがいたしますか? いつもの習い事等は旦那様のご配慮でしばらくの間は中止となっております」
休日の午後は、いつも何かしらの習い事をしているのだが、確か今日の予定は珠算だったきがする。
先週は囲碁だったので、間違いない。
しかし、昨日の出来事があったので、できるだけ人とは接するなと言われている。
どこの誰にASHINAの息がかかっているのかわからないからだ。
「できれば本を買いたいのだけど」
ストックの本が無くなってしまう。 ネット通販でもよいが本は自分で見て触れて買いたいので、できれば直接本屋に行きたかった。
「それは、難しいですね。 外ではどんな危険が待ち受けているのかわかりません」
爺が心配そうに私に言ってくる。 その気持ちは痛いほどわかるが、どうしても本は必要なのだ。
私は椅子を差し出して座るように促した。
その椅子にゆっくりと腰を落ち着けるのを確認すると、私も愛用の椅子に座って本を読み始める。
そう言えば、使用人とお父様を除いてこの部屋に異性を入れたのは初めてで、いつもの自分ならば絶対にこのような行動はしない。
なぜ今回このような展開になったのか、自分でもよく理解できないが、彼に対して警戒心が薄いと思う。
ただ、それが「なぜ?」と問われると、返答に困ってしまう。
私の私生活の空間に入ってきても、嫌な感じがまったくしないのだ。
本をめくる。 横目で確認してみると蒲生さんは私の部屋をあちこち見渡していた。
「あの……。 そんなにジロジロと見られると、さすがに――」
「も、申し訳ないです。 これもクセですね。 この部屋ならどうやってお嬢様をお守りできるかを考えておりました」
なるほど、普段から汚さないようにはしているが、仕事のためとは言え、やはり恥ずかしい気持ちはある。
”やめて”とは言っていないが、部屋を見渡すのをやめて静かに瞼を閉じた彼は、寝ているわけではなく、何かを考えているようで顔は真剣だった。
私も本に視線を戻すと、再び別の世界の旅を始める。
今回読んでいる本は、長靴を履いた猫が、そのまま猫の姿でローマの剣闘士へ転生してしまう物語で、今日を生き残るためのギリギリの生活が魅力の一冊だった。
半分ほど読み終えて、少し固まった首の筋肉を解放しようとする。
いつものように、紅茶を飲もうかと思い使用人を呼んだ。
紅茶が来るまでもう少し読もうとすると、視界の端に人影が入る。
ゆっくりとその人影へ視線を移すと、整った顔立ちで瞬きすることなく、私を見つめている蒲生さんがいた。
私は読書に集中するあまり、彼の存在を忘れていたのだ。
そもそも、物音は一切しなかったし気配すらなかった。 まるで空気のような存在であったが、この部屋に誘ったのは私だったのに忘れてしまうとは、とんだ失態である。
私は慌ててなにか話題を探して彼から、話しかけようと視線を逸らし、考え始めることにした。
「ずっとそうしていたの?」
結局何を言っていいのかわからず、適当なことを呟いてしまう。
そもそも、いつもの私ならばきっと黙ったままにしているが、そうはいかなかった。
不思議と彼とはなにかしらのコミュニケーションをとってみたいと思っている自分に驚いてしまう。
「そうしていた? とは?」
「その、ずっと私を見ていたのかってことです」
顔が熱くなるのがわかる。 この暖房の効いた部屋が原因ではなく、なぜ私はこの質問をしてしまったのだろうか?
後悔よりも恥ずかしさが勝っている。
「そう、ですね……。 ずっと見ておりました。真剣にお読みになっていたので、邪魔はしていないつもりでしたが」
自分が私の読書を邪魔していると思ったのか、それは違うと伝えた。
しかし、これからは気になってしまって集中できないかもしれない。
「そうですか、ならば安心いたしました」
ニッコリと微笑むその顔を見ていると、こちらが何かしでかしているかのように思ってしまう。
しかし、よく考えてみると私がそれほど集中して読書できたのは訳があるのではないかと。
この部屋にいながらまるで「日常」のように存在する蒲生さんに、私は意識を向けなかった。
それだけ、この空間に馴染んでいるのだろうか? ただ単に彼が気配を消していたからだろうか?
悶々とした気持ちで考えていると、紅茶が運ばれてくる。
運んできたのは、先日倒れた執事の爺だったが、特に大きな怪我もなく、早々に復帰してくれた。
爺は部屋の中に蒲生さんがいるのに驚いたが、すぐにいつもの顔に戻ると私に紅茶をもってくる。
「こちらにおられましたか、蒲生さん」
「えぇ、お嬢様のご配慮によりお邪魔させていただいております」
「いや、最初は驚きましたが逆に安心いたしました。 どうか、愛お嬢様をお守りください」
深々と頭を下げる爺に、彼は慌てて立ち上がると頭を上げるようにと言いながら、戸惑いながら爺に駆け寄ってきた。
私はそのやり取りを飲みながら観察している。
どんな会社から来て、なぜ立候補してまで危険な任務に就いてくれたのだろうか?
気になることだらけな存在に、私は少なからず興味をもっているのかもしれない。
だから、このような行動をとっているのだろうか?
熱めの紅茶を勢いよく飲み込みそうになるのを無理やり止めて、揺れる自分の姿を見つめて落ち着かせようとする。
「そうそう、お嬢様。 午後はいかがいたしますか? いつもの習い事等は旦那様のご配慮でしばらくの間は中止となっております」
休日の午後は、いつも何かしらの習い事をしているのだが、確か今日の予定は珠算だったきがする。
先週は囲碁だったので、間違いない。
しかし、昨日の出来事があったので、できるだけ人とは接するなと言われている。
どこの誰にASHINAの息がかかっているのかわからないからだ。
「できれば本を買いたいのだけど」
ストックの本が無くなってしまう。 ネット通販でもよいが本は自分で見て触れて買いたいので、できれば直接本屋に行きたかった。
「それは、難しいですね。 外ではどんな危険が待ち受けているのかわかりません」
爺が心配そうに私に言ってくる。 その気持ちは痛いほどわかるが、どうしても本は必要なのだ。
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