社内マリアージュの裏切り:愛した夫と不倫相手に贈る、完璧な最後

紅葉山参

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合法的な資料監査

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 ユキから得た情報、それはタイキが去年の大型プロジェクトの報告書で大きなミスを隠蔽したという事実だった。そしてその真実を知るのはタイキの上司である営業統括部長のコジマさんだけだという。

 私は人事部という立場を最大限に利用することにした。部署内で「各部署の経費報告におけるコンプライアンス遵守状況の確認」という名目の内部監査プロジェクトを立ち上げるよう提案し、承認を得た。人事部の立場なら、これは極めて合法的な業務である。

 私の最初の監査対象は、当然ながらタイキが所属する営業統括部、特に彼の関わった去年の大型プロジェクトの資料だった。

 私は、営業部のオフィスから借り受けた資料の山の中から、タイキが作成し、コジマさんが承認した経費報告書を精査した。

 すぐに不自然な振込記録が見つかった。

 タイキの業務報告書には記載されていない、コジマさんの個人口座への「業務委託費」と称された500万円の振込履歴が、報告書の裏付け資料である経理部の電子データの隅に残されていた。この振込が行われたのは、大型プロジェクトの報告書が最終承認された直後の日付だった。

 これは、タイキがコジマさんに業務上のミスを揉み消してもらうための賄賂を渡したという、強力な間接証拠となった。この証拠は、私が業務としてアクセスした資料から見つけたものであり、私自身の立場を一切危うくしない。

 
 証拠を握った上で、私はコジマさんの席へ向かうことにした。昼休みが始まる少し前、他の社員が周りにいる状況であっても、私の目的は脅迫ではなく、静かな威嚇だ。

「コジマさん、お疲れ様です。来週の人事評価面談の件で、少し確認したいことがありまして」

 私が穏やかに話しかけるとコジマさんは眼鏡を少し持ち上げ私を見た。彼はタイキがエースとして可愛がっている部下だ。私自身にも優しく接してくれる。

「ああ、チセさん。わざわざありがとう。タイキ君は、今、外回りかね?」

「ええ、今日は終日外出のようです」私はにこやかに答えた。タイキの名前を出すことで彼の警戒心を解く。

 私は手元に持っていた評価シートのサンプルを見せるふりをして彼の機嫌を探った。

「タイキはコジマ部長のおかげで本当に大きな成果を出せていますよね。特に去年の〇〇プロジェクトは、彼にとってキャリアの決定打になったと、家でも喜んでいました」

 私が「〇〇プロジェクト」の名を出すとコジマさんの顔が一瞬硬直した。しかし彼はすぐに笑顔を取り戻した。

「ああ、タイキは優秀だよ。だが、あのプロジェクトは運も大きかった。…まぁ、報告書にまとめるのは、大変だったようだが」

「報告書ですか?」私はあくまで『知らなかったフリ』を貫いた。「タイキ、いつもはそういう事務作業は得意なのに、珍しいですね。何か、ミスでも?」

 
 コジマさんは視線を泳がせた。「いや、ミスというほどではない。ただ、数字の調整に時間がかかったというだけだ。チセさん、気にすることはないよ」

「そうですか。なら良いのですが」私は声を少し落とした。「実は、人事部で始めた経費コンプライアンス監査で、タイキさんの関わった〇〇プロジェクトの経費報告に、いくつか不透明な処理を見つけまして」

 私の言葉を聞いた瞬間、コジマさんの笑顔が完全に凍りついた。経費監査。彼はタイキとの不正な金銭のやり取りが会社側に知られたのではないかと戦慄したはずだ。

「不透明な処理、とは?」コジマさんの声がわずかに震えた。

「ええ、彼の業務報告書には記載のない、外部への不自然な大口の支出がありまして。単なる事務的なミスであればいいのですが、もし、その支出が昨年の大型プロジェクトの報告書の数字と関わっていると、上司であるコジマさんご自身の管理責任が問われかねません。人事評価に影響が出る前に、こちらで先回りして確認しておこうと思いまして」

 私は、金銭や不正といった決定的な言葉を一切使わずに、「人事評価」と「管理責任」という、彼にとって最も恐ろしいワードだけを静かに突きつけた。

 コジマさんは冷や汗をかきながらも、私の目から探るように視線を外さなかった。彼は私がどこまで知っているのかを必死に見極めようとしている。

「ああ、そうか。それは、大変失礼した。すぐにタイキに確認させる。事務的なミスだろうが、念のためだ。チセさん、ご忠告、感謝するよ」

 彼は私が去ることを望んでいる。私はにっこり微笑んだ。

「はい、お願いしますね。私たち夫婦の将来のためにも、タイキにはクリーンでいてほしいですから」

 私は、夫婦の体裁を守る「良い妻」の仮面を最後まで崩さなかった。

 これで、タイキを会社から追放する決定的な爆弾が完成した。不倫と金銭問題。社会的に彼を抹殺するには十分すぎる組み合わせである。

「タイキ。あなたは、自分の手で、自分の墓穴を掘ったのよ」
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