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二章 スピード婚と結婚生活
彼女と僕の回想 邂逅1
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プリシラと再会したのは、うだるような夏の暑い日のことだ。
療養のため10年近く田舎にあるカントリーハウスで暮らしていたが、環境がよかったのと体が成長してきたことで幸いにも病気は快方に向かっていた。15歳の誕生日を迎えてしばらくして、「もう完治と見ていいでしょう」と医者からも太鼓判をもらったので、この度タウンハウスに戻ってきた。
カントリーハウスにいる間も、僕は漫然と過ごしていたわけではない。その間プリシラと結婚を認められるような男になるために、経営学などを学び、人脈を広げていった。
この国では爵位はもちろん大事だが、それよりもむしろ人脈や経済力が重んじられている。だから僕はプリシラを養えるような経済力を身に着けるために、会社を経営するための基盤を整えていたのだ。
タウンハウスに戻ってきた僕が最初にしたことは、プリシラに面会のための手紙を出したことだ。間もなくして、すぐに面会の了承の返事が来た。
久しぶりに会ったプリシラは、以前と同じようにいや以前よりかなり美しい娘に成長していた。少女のころの面影は残しながらも、大人の女性へと変貌を遂げようとしていたのだ。あの頃よりも身長が伸び、胸は大きいのに腰はくびれて女性らしい体つきになっている。もっともプリシラであれば背が低かろうが、胸がなかろうがどうでもよかった。
「お座りください」
にこにこと思い出の中のそのままの笑顔を浮かべ、プリシラは僕に自分がかけているソファーの向かい側を勧めた。
「ありがとうございます」
勧められるがままに僕は腰かけた。
「失礼します。何かございましたらお呼びくださいませ」
メイドがお茶の用意を終えると、一礼して退室する。ただしプリシラは未婚の女性なので、扉は細く開けたままだ。
「僕のこと、覚えていらっしゃいますか」
「覚えているわよ?
『王子様みたいに、綺麗な男の子だなぁ』って思ったの。大きくはなったけど、あの頃の面影があるからすぐ分かったわ。
二人でお茶会したわよね。ふふ。お会いしたのは一度だけだったけど、楽しかった。またお会いできて嬉しいです。
お体が悪いっておっしゃってたけど、今は体調はいかがなの?」
相変わらずプリシラはよくしゃべる。
にこにことしていた顔が、急に心配そうな表情になる。表情がくるくる変わる。
幼い頃、そのままにプリシラは成長したようだった。そしてその様子で分かる。プリシラが僕を男だと思ってないのが。
「療養のために今まで田舎のカントリーハウスにいました。完治したので、ようやくこちらに戻ってきました」
「治ったのね!よかったわ」
また、プリシラの表情が変わった。他人のことなのに、本当に嬉しそうにほころぶ。
「こちらに来て、一番にあなたに会いに来ました。プリシラ」
真っすぐに射貫くようにプリシラの目を見つめると、彼女はにこにことしていた表情を引っ込めて、僕から目をそらす。
「そ、そうなの……?嬉しいわ」
明らかに狼狽し始めた。
プリシラは大人になった。そして、それは僕も同じだ。
僕はソファから立ち上がると、プリシラの前に立つ。
「今日はご挨拶だけです。次は、あなたの心を手に入れます。その時は求婚させてください。今日のところは僕のことを少しだけ意識してください。僕はあなたの弟でなく、一人の男だと。レディプリシラ」
ひざまずいて手を取り、その甲に口づけながら言うと、
「え……あ……はい……。……アンセル様」
プリシラは頬を赤らめて、ぼうっとした顔つきでうなづいた。
療養のため10年近く田舎にあるカントリーハウスで暮らしていたが、環境がよかったのと体が成長してきたことで幸いにも病気は快方に向かっていた。15歳の誕生日を迎えてしばらくして、「もう完治と見ていいでしょう」と医者からも太鼓判をもらったので、この度タウンハウスに戻ってきた。
カントリーハウスにいる間も、僕は漫然と過ごしていたわけではない。その間プリシラと結婚を認められるような男になるために、経営学などを学び、人脈を広げていった。
この国では爵位はもちろん大事だが、それよりもむしろ人脈や経済力が重んじられている。だから僕はプリシラを養えるような経済力を身に着けるために、会社を経営するための基盤を整えていたのだ。
タウンハウスに戻ってきた僕が最初にしたことは、プリシラに面会のための手紙を出したことだ。間もなくして、すぐに面会の了承の返事が来た。
久しぶりに会ったプリシラは、以前と同じようにいや以前よりかなり美しい娘に成長していた。少女のころの面影は残しながらも、大人の女性へと変貌を遂げようとしていたのだ。あの頃よりも身長が伸び、胸は大きいのに腰はくびれて女性らしい体つきになっている。もっともプリシラであれば背が低かろうが、胸がなかろうがどうでもよかった。
「お座りください」
にこにこと思い出の中のそのままの笑顔を浮かべ、プリシラは僕に自分がかけているソファーの向かい側を勧めた。
「ありがとうございます」
勧められるがままに僕は腰かけた。
「失礼します。何かございましたらお呼びくださいませ」
メイドがお茶の用意を終えると、一礼して退室する。ただしプリシラは未婚の女性なので、扉は細く開けたままだ。
「僕のこと、覚えていらっしゃいますか」
「覚えているわよ?
『王子様みたいに、綺麗な男の子だなぁ』って思ったの。大きくはなったけど、あの頃の面影があるからすぐ分かったわ。
二人でお茶会したわよね。ふふ。お会いしたのは一度だけだったけど、楽しかった。またお会いできて嬉しいです。
お体が悪いっておっしゃってたけど、今は体調はいかがなの?」
相変わらずプリシラはよくしゃべる。
にこにことしていた顔が、急に心配そうな表情になる。表情がくるくる変わる。
幼い頃、そのままにプリシラは成長したようだった。そしてその様子で分かる。プリシラが僕を男だと思ってないのが。
「療養のために今まで田舎のカントリーハウスにいました。完治したので、ようやくこちらに戻ってきました」
「治ったのね!よかったわ」
また、プリシラの表情が変わった。他人のことなのに、本当に嬉しそうにほころぶ。
「こちらに来て、一番にあなたに会いに来ました。プリシラ」
真っすぐに射貫くようにプリシラの目を見つめると、彼女はにこにことしていた表情を引っ込めて、僕から目をそらす。
「そ、そうなの……?嬉しいわ」
明らかに狼狽し始めた。
プリシラは大人になった。そして、それは僕も同じだ。
僕はソファから立ち上がると、プリシラの前に立つ。
「今日はご挨拶だけです。次は、あなたの心を手に入れます。その時は求婚させてください。今日のところは僕のことを少しだけ意識してください。僕はあなたの弟でなく、一人の男だと。レディプリシラ」
ひざまずいて手を取り、その甲に口づけながら言うと、
「え……あ……はい……。……アンセル様」
プリシラは頬を赤らめて、ぼうっとした顔つきでうなづいた。
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