契約溺愛婚~眠り姫と傲慢旦那様には秘密がある~

水無瀬雨音

文字の大きさ
29 / 52
二章 スピード婚と結婚生活

彼女と僕の回想 邂逅1

しおりを挟む
 プリシラと再会したのは、うだるような夏の暑い日のことだ。
 

 療養のため10年近く田舎にあるカントリーハウスで暮らしていたが、環境がよかったのと体が成長してきたことで幸いにも病気は快方に向かっていた。15歳の誕生日を迎えてしばらくして、「もう完治と見ていいでしょう」と医者からも太鼓判をもらったので、この度タウンハウスに戻ってきた。

 カントリーハウスにいる間も、僕は漫然と過ごしていたわけではない。その間プリシラと結婚を認められるような男になるために、経営学などを学び、人脈を広げていった。
 この国では爵位はもちろん大事だが、それよりもむしろ人脈や経済力が重んじられている。だから僕はプリシラを養えるような経済力を身に着けるために、会社を経営するための基盤を整えていたのだ。
 タウンハウスに戻ってきた僕が最初にしたことは、プリシラに面会のための手紙を出したことだ。間もなくして、すぐに面会の了承の返事が来た。

 久しぶりに会ったプリシラは、以前と同じようにいや以前よりかなり美しい娘に成長していた。少女のころの面影は残しながらも、大人の女性へと変貌を遂げようとしていたのだ。あの頃よりも身長が伸び、胸は大きいのに腰はくびれて女性らしい体つきになっている。もっともプリシラであれば背が低かろうが、胸がなかろうがどうでもよかった。

「お座りください」

 にこにこと思い出の中のそのままの笑顔を浮かべ、プリシラは僕に自分がかけているソファーの向かい側を勧めた。

「ありがとうございます」

 勧められるがままに僕は腰かけた。

「失礼します。何かございましたらお呼びくださいませ」

 メイドがお茶の用意を終えると、一礼して退室する。ただしプリシラは未婚の女性なので、扉は細く開けたままだ。

「僕のこと、覚えていらっしゃいますか」
「覚えているわよ?
 『王子様みたいに、綺麗な男の子だなぁ』って思ったの。大きくはなったけど、あの頃の面影があるからすぐ分かったわ。
 二人でお茶会したわよね。ふふ。お会いしたのは一度だけだったけど、楽しかった。またお会いできて嬉しいです。
 お体が悪いっておっしゃってたけど、今は体調はいかがなの?」

 相変わらずプリシラはよくしゃべる。
 にこにことしていた顔が、急に心配そうな表情になる。表情がくるくる変わる。
 幼い頃、そのままにプリシラは成長したようだった。そしてその様子で分かる。プリシラが僕をだと思ってないのが。

「療養のために今まで田舎のカントリーハウスにいました。完治したので、ようやくこちらに戻ってきました」
「治ったのね!よかったわ」

 また、プリシラの表情が変わった。他人のことなのに、本当に嬉しそうにほころぶ。

「こちらに来て、一番にあなたに会いに来ました。プリシラ」

 真っすぐに射貫くようにプリシラの目を見つめると、彼女はにこにことしていた表情を引っ込めて、僕から目をそらす。

「そ、そうなの……?嬉しいわ」

 明らかに狼狽し始めた。
 プリシラは大人になった。そして、それは僕も同じだ。
 僕はソファから立ち上がると、プリシラの前に立つ。

「今日はご挨拶だけです。次は、あなたの心を手に入れます。その時は求婚させてください。今日のところは僕のことを少しだけ意識してください。僕はあなたの弟でなく、一人の男だと。レディプリシラ」

 ひざまずいて手を取り、その甲に口づけながら言うと、

「え……あ……はい……。……アンセル様」

 プリシラは頬を赤らめて、ぼうっとした顔つきでうなづいた。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

処理中です...