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二人飲み
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帰宅した佑は鍋の中のカレーをかき混ぜていた。
樹と最後までしそうになってから、約二週間経過している。その間樹の自宅への誘いを色々理由をつけて断っていた。
(……痛かった)
痛がっている佑を察して樹はすぐやめてくれたけれど、いつまでもしないのもなんだか申し訳ないし、会いたいけど会ったらそういうことになるだろう。でも痛かったし、途中までするのもものすごく恥ずかしかったしと佑は葛藤していた。
(付き合って大体どのくらいでするものなんだろ)
もともと友人は多くないし、恋愛相談をできるような相手がいない。瀬奈なら喜んで相談にのってくれそうだが、女の子には内容的に相談しずらい。
(明日にでも高田くんにさりげなく相談してみよう)
もちろん相手が樹というのは伏せる。
スマホが電話の着信を知らせる。佑は鍋の火を止め、テーブルの上のスマホを手に取った。
「千堂君」
表示された名前に一瞬迷った後、佑は電話を受けた。
『もう家?』
「そうだよ。樹はまだ仕事?」
『今終わった。佑の家の近くにいるんだけど、よかったら飲まない?』
「いいよ」
10分後に佑のアパート前で待ち合わせすることになった。
「ひっさびさ佑の顔見たわ。この二週間よくも避け続けてくれたな?」
現れた樹が開口一番放った言葉はそれだった。
「別に……避けてたわけじゃ」
やっぱり当然バレていた。
佑は気まずさに顔をそらしながら答える。
「前も言ったけど、一緒に気持ちよくならないと意味ないから佑が嫌だったらしない。時間が必要なら待つから。佑に会えないのが一番つらい」
「僕も、樹に会えないの嫌だ」
佑の返事に樹がふっと笑う。
「ん」
「?」
片手を差し出してきたので、佑は握手した。
「違う」
樹は佑の手を外し、恋人つなぎにつなぎ直した。
「え?ちょ」
慌てている佑に反して樹は平然としている。そのまま駅のほうに歩き出してしまう。
「人そんないねーし、暗いから見えないよ。見られても気にしねーし」
「……うん」
樹の言葉が嬉しくて、佑は樹の手をぎゅうっと握り締めた。
佑はあまり外食をしないので、勧められる店がなかった。「駅のほう行けばなんかあるでしょー」という樹に連れられて、駅の適当な居酒屋に入る。
「なんかこう……おしゃれなとこじゃなくていいの?若者っぽい」
席に案内されて向かい合わせに座ってから、樹の耳元でひそひそと囁く。樹は佑の言葉に吹き出してから、眉根を寄せて言った。
「あんたも若者だろ。女ウケしそうな店あんま行きたくねーの。うっとうしいから」
「そうなんだ」
うっとうしいという言葉には、逆ナンされたりからまれたり、というのが含まれるのだろう。人によっては自慢のようだが樹に関しては事実だし、そういうのが本当に嫌なんだろう。
「適当に頼んでいい?とりあえず生行く?」
メニュー表を佑にも見えるようにテーブルの真ん中に広げてくれる。
「僕枝豆があればあとなんでも。あ、カクテルとかチューハイとかしか飲めないからカシスオレンジがいい」
「女の子みたい。可愛い」
また可愛いと言われた。
くすくす笑われても嫌な気がしないのは、樹が本心から言っているからだろう。
樹が店員を呼び、注文をすませてくれる。飲み物とお通しがすぐに運んでこられ、二人だけだが一応乾杯する。樹は生だ。
「あれ?会社の飲み会でビール注がれて飲んでたよな?」
以前はそんなに接点なかったのによく見ているなあと感心しつつ、
「付き合いで飲むだけ。おいしくないから嫌い」
本音を言えば飲みたくないが、飲まなければ上司がうるさいのでそこらへんは仕事の一環だと思って我慢している。
「じゃ、今度からオレの隣キープしなよ。全部オレ飲むから」
「僕と樹がずっと一緒にいたら皆に不思議がられるだろうねぇ」
女の子やカップルじゃあるまいし、飲み会中ずっと一緒に男同士でいるのはまずいない。ましてや同期でもなく、課も違う。冗談だろうなあと思いながらも樹がそう言ってくれたことは嬉しい。
「本気だよ、オレ」
「ん?」
「なんでずっと一緒にいんの、って聞かれたら『付き合ってるから』って言うし。新年会は終わったから、次は新入社員歓迎会かー」
「じょ、冗談だよね?」
念を押して聞くと、樹はにっこり笑った。
「さあ?」
深く追求するのはやめよう。
佑は話題を変えた。
「前世でどのくらいの徳を積んだら樹みたいになれるんだろうね?」
「はあ?」
穢れのなさそうな顔で、なんかものすごくスピリチュアルなことを言い出した。
「背が高くてイケメンで性格良くて仕事はできるし。美徳しかないよね?」
そうみられるように立ちまわっているから当然のことだが、なにか頼み事でもあるのかと勘繰りたくなるほどべた褒めだ。もちろん佑にそういう思惑がないのはもう分かってる。
「……俺は佑みたいになりたかったよ」
本心だった。
見た目と表面上の性格で生きやすかったのは確かだ。
でもでもそんな自分は空っぽなのと同じだったし、人を疑わずに生きている佑をうらやましく思ったことは一度や二度ではない。
「僕?なんで?」
きょとんと佑が目を丸くする。
「真っ白で世の中の汚いことなんか何にも知らなくて、汚そうったって汚れないところ」
「あのね」
カシスオレンジを一気飲みした佑が苦笑いする。
「僕だって千堂くんが思ってるような人間じゃないよ。悪いこともそれなりにしてるし」
「佑が?悪いことって何?」
どうせ子供のころ虫をいじめたとかそんなレベルのことだろう。
「昨日道にお金落ちてたんだけど、交番に行く時間なかったから拾わなかったし」
パクったんじゃないのか。
佑の言う悪事はやっぱり祐らしくて樹は吹き出す。
「後ろのおばさんが拾ってくれたみたい」
ぜってぇーパクった。それ。
言ってやっても良かったが、佑にはそのままでいて欲しかったので黙っておいた。
「軽蔑、しないの?」
佑が上目遣いで心配そうに聞く。
「いいえ?あんたを軽蔑するならオレをもっと軽蔑しないといけないし」
「そんなことない」
「だってあんた、オレのこと全部は知らないでしょ」
「でも」
佑はニコっと微笑んだ。
「僕は優しい樹を知ってるから。全部知ったところでその樹はなくならないでしょ」
樹と最後までしそうになってから、約二週間経過している。その間樹の自宅への誘いを色々理由をつけて断っていた。
(……痛かった)
痛がっている佑を察して樹はすぐやめてくれたけれど、いつまでもしないのもなんだか申し訳ないし、会いたいけど会ったらそういうことになるだろう。でも痛かったし、途中までするのもものすごく恥ずかしかったしと佑は葛藤していた。
(付き合って大体どのくらいでするものなんだろ)
もともと友人は多くないし、恋愛相談をできるような相手がいない。瀬奈なら喜んで相談にのってくれそうだが、女の子には内容的に相談しずらい。
(明日にでも高田くんにさりげなく相談してみよう)
もちろん相手が樹というのは伏せる。
スマホが電話の着信を知らせる。佑は鍋の火を止め、テーブルの上のスマホを手に取った。
「千堂君」
表示された名前に一瞬迷った後、佑は電話を受けた。
『もう家?』
「そうだよ。樹はまだ仕事?」
『今終わった。佑の家の近くにいるんだけど、よかったら飲まない?』
「いいよ」
10分後に佑のアパート前で待ち合わせすることになった。
「ひっさびさ佑の顔見たわ。この二週間よくも避け続けてくれたな?」
現れた樹が開口一番放った言葉はそれだった。
「別に……避けてたわけじゃ」
やっぱり当然バレていた。
佑は気まずさに顔をそらしながら答える。
「前も言ったけど、一緒に気持ちよくならないと意味ないから佑が嫌だったらしない。時間が必要なら待つから。佑に会えないのが一番つらい」
「僕も、樹に会えないの嫌だ」
佑の返事に樹がふっと笑う。
「ん」
「?」
片手を差し出してきたので、佑は握手した。
「違う」
樹は佑の手を外し、恋人つなぎにつなぎ直した。
「え?ちょ」
慌てている佑に反して樹は平然としている。そのまま駅のほうに歩き出してしまう。
「人そんないねーし、暗いから見えないよ。見られても気にしねーし」
「……うん」
樹の言葉が嬉しくて、佑は樹の手をぎゅうっと握り締めた。
佑はあまり外食をしないので、勧められる店がなかった。「駅のほう行けばなんかあるでしょー」という樹に連れられて、駅の適当な居酒屋に入る。
「なんかこう……おしゃれなとこじゃなくていいの?若者っぽい」
席に案内されて向かい合わせに座ってから、樹の耳元でひそひそと囁く。樹は佑の言葉に吹き出してから、眉根を寄せて言った。
「あんたも若者だろ。女ウケしそうな店あんま行きたくねーの。うっとうしいから」
「そうなんだ」
うっとうしいという言葉には、逆ナンされたりからまれたり、というのが含まれるのだろう。人によっては自慢のようだが樹に関しては事実だし、そういうのが本当に嫌なんだろう。
「適当に頼んでいい?とりあえず生行く?」
メニュー表を佑にも見えるようにテーブルの真ん中に広げてくれる。
「僕枝豆があればあとなんでも。あ、カクテルとかチューハイとかしか飲めないからカシスオレンジがいい」
「女の子みたい。可愛い」
また可愛いと言われた。
くすくす笑われても嫌な気がしないのは、樹が本心から言っているからだろう。
樹が店員を呼び、注文をすませてくれる。飲み物とお通しがすぐに運んでこられ、二人だけだが一応乾杯する。樹は生だ。
「あれ?会社の飲み会でビール注がれて飲んでたよな?」
以前はそんなに接点なかったのによく見ているなあと感心しつつ、
「付き合いで飲むだけ。おいしくないから嫌い」
本音を言えば飲みたくないが、飲まなければ上司がうるさいのでそこらへんは仕事の一環だと思って我慢している。
「じゃ、今度からオレの隣キープしなよ。全部オレ飲むから」
「僕と樹がずっと一緒にいたら皆に不思議がられるだろうねぇ」
女の子やカップルじゃあるまいし、飲み会中ずっと一緒に男同士でいるのはまずいない。ましてや同期でもなく、課も違う。冗談だろうなあと思いながらも樹がそう言ってくれたことは嬉しい。
「本気だよ、オレ」
「ん?」
「なんでずっと一緒にいんの、って聞かれたら『付き合ってるから』って言うし。新年会は終わったから、次は新入社員歓迎会かー」
「じょ、冗談だよね?」
念を押して聞くと、樹はにっこり笑った。
「さあ?」
深く追求するのはやめよう。
佑は話題を変えた。
「前世でどのくらいの徳を積んだら樹みたいになれるんだろうね?」
「はあ?」
穢れのなさそうな顔で、なんかものすごくスピリチュアルなことを言い出した。
「背が高くてイケメンで性格良くて仕事はできるし。美徳しかないよね?」
そうみられるように立ちまわっているから当然のことだが、なにか頼み事でもあるのかと勘繰りたくなるほどべた褒めだ。もちろん佑にそういう思惑がないのはもう分かってる。
「……俺は佑みたいになりたかったよ」
本心だった。
見た目と表面上の性格で生きやすかったのは確かだ。
でもでもそんな自分は空っぽなのと同じだったし、人を疑わずに生きている佑をうらやましく思ったことは一度や二度ではない。
「僕?なんで?」
きょとんと佑が目を丸くする。
「真っ白で世の中の汚いことなんか何にも知らなくて、汚そうったって汚れないところ」
「あのね」
カシスオレンジを一気飲みした佑が苦笑いする。
「僕だって千堂くんが思ってるような人間じゃないよ。悪いこともそれなりにしてるし」
「佑が?悪いことって何?」
どうせ子供のころ虫をいじめたとかそんなレベルのことだろう。
「昨日道にお金落ちてたんだけど、交番に行く時間なかったから拾わなかったし」
パクったんじゃないのか。
佑の言う悪事はやっぱり祐らしくて樹は吹き出す。
「後ろのおばさんが拾ってくれたみたい」
ぜってぇーパクった。それ。
言ってやっても良かったが、佑にはそのままでいて欲しかったので黙っておいた。
「軽蔑、しないの?」
佑が上目遣いで心配そうに聞く。
「いいえ?あんたを軽蔑するならオレをもっと軽蔑しないといけないし」
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