恋に臆病な転生王女は竜王の寵愛から逃れたい~私はあなたの番ではありませんっ~

水無瀬雨音

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  その人は不意に空から降り立ってきた。


 二年前の春。
 ヴァ―リアス王国の城の中にある秘密の花園シークレットガーデンは、色とりどりの花で満開だ。秘密の花園とは、王族しか立ち入ることのできない内庭のこと。
 庭を囲う高い塀の外は騎士が常に立っているため、警備も万全だ。咲いているものは豪華な薔薇から、野遊びでも目にするような花まで多岐にわたる。
 降り続いた雨が終わり、空には久々に晴れ間がのぞいた。
 ジャスミンは、久しぶりに庭に出て、花を愛でて楽しんでいた。その時。

バサッ、バサッ。

 羽音のようなものが聞こえて、ジャスミンは顔を上げた。

(鳥、かしら? こんなに大きな羽音なんだもの。よほど大きな鳥なんだわ)

 だが。空から降り立ってきたのは、鳥ではなかった。
 その人はジャスミンを見た途端驚き、ほっとしたような、嬉しくてたまらないというような顔をした。

「……お前が、オレの」
「……え?」

 思わず目を丸くしたジャスミンは、頭二つ分は大きいその人を、ポカンと口を開けて見上げた。
 見た目だけでいえば、年のころは二十代後半くらいだろうか。こんなに美しく、精悍な顔立ちの人をジャスミンは初めて見た。
 そしてこんな風に、優しく、愛おしくて仕方がないみたいに、見つめられるのは初めてだった。まるで唯一無二の宝物みたいに。付き合いたての恋人みたいに。
 ジャスミンは国王やウォーレスから溺愛されていたが、それでもこの人の視線は、彼らの比ではなかった。
 ぱさっと彼は羽を閉じた。背中から生えたその羽は、空の青に映えて美しい。

(綺麗な羽。……え。え? 竜族!?)

 竜族が住んでいるのはここからほど近くにある、彼らのみが住む島だ。
 距離は近いものの、交流はない。そして竜族が人の前に姿を現すことはあまりなく、その生態はあまり知られていない。
 ジャスミンも実際に見るのは、初めてだった。羽が生えている以外は、外見だけならば人間と変わらない。
 じいっと真っすぐに見つめられて、居心地が悪い。ジャスミンはそっと目を反らした。

「オレはリュディアス。見ての通り、竜族だ。お前の名は?」

 低い声だったが、普段より、できる限り優しい口調で話しているのが分かった。当惑しながらも、聞かれた通り答えた。

「え、ええと。ジャスミンです」
(な、何?)

 なぜ名前を聞かれたのだろう。
 首を傾げていると、リュディアスは満足げに頷いた。

「今すぐ結婚しよう。……お前はオレの番だ」
「……はい?」
(け、っこん……?)

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