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シーズベルトとレオナルド1
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レオナルド様は優秀な方だった。困難な案件を処理する能力に、感情を悟られない笑顔の鉄面皮。感情に流されない、冷静かつ冷徹な判断力。民を憂う心。何より王にふさわしい威厳。
どれをとっても国王になるのに不可欠なものだ。
あの方をオレは王位につかせたい。
そう思ったのは、公爵である父が突然の事故で急逝し、オレが後を継いで間もなくのことだった。若くして公爵となったオレを、同情するものもいれば、腹立たしげに見ている者もいた。
王宮の庭の一角。
男たちがニヤニヤとしたニヤケヅラで、殿下に提出する予定だった書類を、池の上でひらひらさせる。
バカなのだろうか。
とオレはあきれた。
オレの信用は確かに失墜するだろう。だが、それ以上に政務に支障が出る。
もともとオレのことを快く思っていなかったのは分かっていたが、オレが公爵になってから、こいつらの嫌がらせが顕著になってきた。男爵であるこいつらよりも、オレのほうが身分が高いことが気に入らないのだろうが、今回のことは影響がオレだけですまないので、度が過ぎている。
どうこいつらの神経を逆なでずに説得しようか、と考えあぐねていると、
「なーにしてんの?」
ふいに現れた声の主は、レオナルド殿下だった。
にっこりと笑って、
「君らさっき宰相に呼び出されてなかった? こんなとこで遊んでる暇あんのー? その手に持ってるの重要書類みたいだけど、まさか違うよね。爵位はく奪じゃすまないよ?」
落ち着いた中に、威厳のある口調。
さすがにレオナルド殿下にたてつこうとは思わなかったらしい。
「じ、冗談です! 陛下へのご報告はお許しくださいー!」
書類をオレに持たせて、男たちは走り去っていった。
「レオナルド殿下のお手を煩わせて申し訳ございません」
深々と頭を下げると、殿下は手を振る。
「散歩のついでだからかまわない。シーズベルトは、公爵になったばかりだったね」
「は、はい」
雑談などしたことはないので、ゆったりと話し続ける殿下に背筋が緊張する。
「ああいう小物にやっかまれることもあるだろう。適当なあしらい方覚えないと、苦労するのはおまえだよ?」
「……心得ます」
「なんだか心配だな。おまえは真面目だから」
殿下は顎の下にこぶしをあて、考え込むようなしぐさをした。しばらくして、
「ああ、最近僕の側近の枠が開いたんだよね。小賢しいこと考え始めたから。お前くる?」
「……は?」
にっこりととんでもないことを軽く言うので、オレは間抜けにも口を開けてしまった。
一旦は恐れ多いことだと辞したのだが、殿下も陛下も強く推してくださったので、レオナルド殿下の側近になることになった。
側近についてしばらくして、レオナルド殿下の私室に呼ばれた。殿下の座っている向かいのソファーに、恐縮しながら座る。
オレにはワインを勧めてきたが、レオナルド殿下と同じ紅茶を飲むことにした。メイドが下がったのを見計らって口を開く。
「私のような若造を、あなたの側近にしてよろしいのですか? この立場に立つために画策しているものが多いことは、あなたもご承知のはず。面倒くさいことになるかもしれませんよ」
「いいよ。誰つかせたって、どこからかは文句が出ることは分かってる。古だぬき置くくらいだったら、僕はおまえを傍に置きたい」
そこでレオナルド殿下は一旦口を閉じて、足を組むと微笑んだ。
「ああ。分かってると思うけど、他の王位継承者のスパイになろうとしたり、余計なこと考えた時点で殺すから」
この方は本当にそうするだろう。オレがそれまでどれほど尽くそうとも。
オレはごくり、と息を飲んだ。もちろんそのような恐れ多いことは考えたこともないし、これからもそうだろう。
殿下が目を細める。先ほどまでのにこやかな口調とは違う、とがった口調で、
「でも、僕がこの国にふさわしくない人間になった時、僕を殺すのはおまえだよ?」
「……仰せのままに。殿下」
オレは恭しく頭を下げた。
レオナルド様を王位につかせたい。
よりそう思った。
どれをとっても国王になるのに不可欠なものだ。
あの方をオレは王位につかせたい。
そう思ったのは、公爵である父が突然の事故で急逝し、オレが後を継いで間もなくのことだった。若くして公爵となったオレを、同情するものもいれば、腹立たしげに見ている者もいた。
王宮の庭の一角。
男たちがニヤニヤとしたニヤケヅラで、殿下に提出する予定だった書類を、池の上でひらひらさせる。
バカなのだろうか。
とオレはあきれた。
オレの信用は確かに失墜するだろう。だが、それ以上に政務に支障が出る。
もともとオレのことを快く思っていなかったのは分かっていたが、オレが公爵になってから、こいつらの嫌がらせが顕著になってきた。男爵であるこいつらよりも、オレのほうが身分が高いことが気に入らないのだろうが、今回のことは影響がオレだけですまないので、度が過ぎている。
どうこいつらの神経を逆なでずに説得しようか、と考えあぐねていると、
「なーにしてんの?」
ふいに現れた声の主は、レオナルド殿下だった。
にっこりと笑って、
「君らさっき宰相に呼び出されてなかった? こんなとこで遊んでる暇あんのー? その手に持ってるの重要書類みたいだけど、まさか違うよね。爵位はく奪じゃすまないよ?」
落ち着いた中に、威厳のある口調。
さすがにレオナルド殿下にたてつこうとは思わなかったらしい。
「じ、冗談です! 陛下へのご報告はお許しくださいー!」
書類をオレに持たせて、男たちは走り去っていった。
「レオナルド殿下のお手を煩わせて申し訳ございません」
深々と頭を下げると、殿下は手を振る。
「散歩のついでだからかまわない。シーズベルトは、公爵になったばかりだったね」
「は、はい」
雑談などしたことはないので、ゆったりと話し続ける殿下に背筋が緊張する。
「ああいう小物にやっかまれることもあるだろう。適当なあしらい方覚えないと、苦労するのはおまえだよ?」
「……心得ます」
「なんだか心配だな。おまえは真面目だから」
殿下は顎の下にこぶしをあて、考え込むようなしぐさをした。しばらくして、
「ああ、最近僕の側近の枠が開いたんだよね。小賢しいこと考え始めたから。お前くる?」
「……は?」
にっこりととんでもないことを軽く言うので、オレは間抜けにも口を開けてしまった。
一旦は恐れ多いことだと辞したのだが、殿下も陛下も強く推してくださったので、レオナルド殿下の側近になることになった。
側近についてしばらくして、レオナルド殿下の私室に呼ばれた。殿下の座っている向かいのソファーに、恐縮しながら座る。
オレにはワインを勧めてきたが、レオナルド殿下と同じ紅茶を飲むことにした。メイドが下がったのを見計らって口を開く。
「私のような若造を、あなたの側近にしてよろしいのですか? この立場に立つために画策しているものが多いことは、あなたもご承知のはず。面倒くさいことになるかもしれませんよ」
「いいよ。誰つかせたって、どこからかは文句が出ることは分かってる。古だぬき置くくらいだったら、僕はおまえを傍に置きたい」
そこでレオナルド殿下は一旦口を閉じて、足を組むと微笑んだ。
「ああ。分かってると思うけど、他の王位継承者のスパイになろうとしたり、余計なこと考えた時点で殺すから」
この方は本当にそうするだろう。オレがそれまでどれほど尽くそうとも。
オレはごくり、と息を飲んだ。もちろんそのような恐れ多いことは考えたこともないし、これからもそうだろう。
殿下が目を細める。先ほどまでのにこやかな口調とは違う、とがった口調で、
「でも、僕がこの国にふさわしくない人間になった時、僕を殺すのはおまえだよ?」
「……仰せのままに。殿下」
オレは恭しく頭を下げた。
レオナルド様を王位につかせたい。
よりそう思った。
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