ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

犬上義彦

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「お嬢ちゃん。お名前は?」

「咲山翠です」

 思い返してみれば、その時の私は学芸会で発表する幼稚園児みたいに、両手をぴったり体にくっつけて気をつけの姿勢で「さーきーやーまーみーどーりーでっす」と言ったんだと思う。

「むほほ、これは元気のいいお嬢さんだな。もしかして、咲山先生の娘さんかな」

 ――あれ、おじいさん、うちのお父さんのこと、知ってるの?

 男の子が横からおじいさんに言ってくれた。

「父親がこの会場にいるようなので探してあげたいのですが」

「うむ。それは良いことじゃが、心配はいらんようだぞ」

 よっこいせと膝に手を当てながら立ち上がったおじいさんが、私の両肩に優しく手を置いて、くるりと回す。

 真っ正面には、慌てた表情で駆けてくる私の父がいた。

「これはどうも、すみません。ちょっとあいさつをしていた隙に迷子にしてしまったようで」

「やはり咲山先生のお嬢さんでしたか。元気のいい娘さんですな」

「おかげで、会場の向こうから聞こえましたよ。いやあ、お恥ずかしい」

 ――もう、何よ、私のせいにして。

 大人の人と話してて私のことなんか忘れちゃったお父さんがいけないんでしょ。

 よほど私が口をとがらせていたんだろう。

 男の子が私を見て微笑んでいた。

「墨を吐いてるタコみたいだよ」

「あ、タコって言った」

 ぷんすかとそっぽを向いた私を見ておじいさんが御機嫌に笑う。

「二人とも仲がいいな」

 ――良くないもん!

「大人ばかりで楽しくないだろうから、子ども同士、別の部屋でゆっくりご飯とおやつでも食べているといい」

 おじいさんはそう言うと、近くにいた係の人を呼んだ。

 恐縮しながら父は頭を下げていた。

「うちの都合で勝手に連れて来たのに、そんなことをしていただいては申し訳ありません」

「なあに、遠慮はいりませんて。今日は先生のためのパーティーですからな」

 そして、男の子の肩をがっちりとつかんで言った。

「なあ、蒼也。翠さんの相手をしてやってくれるな」

「はい、わかりました」と、男の子はハキハキと答えた。

「じゃあ、頼んだぞ」

 私たちは係の人に誘導されて、静かなお部屋に案内された。

 そこは壁一面が大きな窓になっていて、ソファセットが置かれた応接間のような所だった。

 窓からは青空の下に広がる緑豊かな庭園が眺められる。

 それを見た時、大人ばかりの閉めきられた空間から抜け出せてホッとしたのを覚えている。

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