ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

犬上義彦

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「マイルストーンってさ、研究の進展段階ごとにもらえる成果報酬のことだろ。もしかして、うまくいってないの?」

「まあな」と、蒼也がもう一つおつまみに手を伸ばす。「だけど、創薬ベンチャーではごくありふれたことだから心配はない。アメリカの投資家との話も進んでいるからそっちは問題ないんだ」

「じゃあ、何なのさ?」

「ドイツの製薬メーカーから提携を持ちかけられている」

「いい話じゃん」

「今のうちのキャパでは対応しきれない。かといってこれ以上の設備投資はリスクが大きいし、人材の確保も簡単にはいかない。この業界では優秀な研究者の引き抜きは日常茶飯事だからな」

「たいへんなんだね」

「だからこそ、うまくいった時の儲けは莫大だ」

「そこが蒼也の腕の見せ所ってわけか」

 スペアリブができあがった頃合いを見計らって悠輝がキッチンへ戻る。

「うまそうな匂いだな」

 カウンターで盛りつけている悠輝の耳に蒼也のつぶやきが届く。

 ――本人の前ではっきり言えばいいのに。

 苦笑しつつ料理を運ぶと、テーブルに置かれた蒼也のタブレットにメッセージアプリがポップアップする。

「おっ、噂をすれば、来日してるのか」

 スマホに持ち替え、投資家にアポを取るように秘書に指示を出す蒼也を冷ややかな目で見つめて悠輝はついに苦言を呈した。

「食事の時くらい仕事を忘れなよ」

「だったら食事の時間を短くするよ」

「言うと思ったよ」

 とりあえず通信機器は脇へどかしラグに座り直すと、蒼也はちゃんと手を合わせ、「いただきます」と頭を下げる。

「はい、召し上がれ」

「ポークジンジャー風の味付けか」

「また、批評家になってる」

「批評はしてないだろ。ただ感想を言っただけだ」

 そんな強情な親友がスペアリブを口に運ぶ様子を眺めていると、悠輝は笑いをこらえきれずに、つい吹き出してしまった。

「なんだよ」

「蒼ちゃんさ、将来翠ちゃんをお嫁さんにもらったら、ちゃんと言葉にして感謝しないとすぐに出て行かれちゃうよ」

「おまえを相手にするのとは違うよ」

「どうだか。普段の態度はにじみ出るものだからね」

 と、そんな話をしているうちに、もう料理はなくなっていた。

「だけど、実際、作る時間に比べたら、食べるのはあっという間だよな」

「きれいに食べてもらえるとうれしいよ」

「まあ、なんだ。あっという間に食べ終わるのは、おまえの料理がうまいからだろ」

「なんか上から目線なんだよな。評論家っていうより、ネットによくいる鼻につくレビュワーっぽい。褒めると負けみたいな、ただ難癖つけたいだけのシロウト」

「おまえの方が辛辣だろ。自分から炎上の種をまくスタイルとはな」

「充分気をつけてますよ」

「ごちそうさま」と、蒼也が率先して皿をカウンターへ運んでいく。

 ――そういうところはちゃんとしてるんだよな。

 ただそれは、早く仕事を再開したいからというのもいつものことで、べつに皿洗いを手伝うわけでもない。

 二人でやっても非効率だろ、とあくまでも合理的なのだ。

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