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――夫婦っていうのは、合理性だけで片づけちゃいけないと思うんだけどな。
そんな相手の不満を読み取ることなどできそうにない男だから、悠輝は蒼也のことが心配でならない。
なにしろ、目の前でもう本人は相棒に片づけを任せて、早速タブレットを引き寄せ、また画面とにらめっこを始めているのだから。
「悠輝、明日の夜はメシいらないぞ」
「そうなの。残念」
「悪いな、アポが取れたんで食事会になった」
「まあ、いいや。僕もネット仲間の交流会に誘われてたから顔を出しておくよ」
「そうか。楽しんでこいよ」
「翠ちゃんも行くかな」
悠輝は視界の端に蒼也の姿を捉えながらあえてつぶやいてみた。
だが、蒼也は教会の柱から見下ろす聖者の彫像のように冷徹な表情を変えない。
「有名な配信者がたくさん来るから喜ぶかも」
煽ってみても、眉一つ動かさない。
皿を洗い終えた悠輝は蒼也のそばに歩み寄ってラグの上に腰を下ろすと、自分のスマホを取り出し、蒼也に突き出した。
「ねえ、ほら、見てよ。いい写真だろ」
スカイツリーが真横に見えるタワマンで開催されたホームパーティーで、悠輝と翠がピタリと寄り添って画面に収まっている。
その時は二人とも誘っていたのだが、仕事の都合で蒼也にドタキャンされて、翠にだけ来てもらったのだ。
「翠ちゃん、いつ見ても笑顔が素敵だよね。他の連中もチラチラ視線を送ったりしててさ、ガードするのにヒヤヒヤだったよ」
話しかければかけるほど意固地になるようで、返事がない。
「少しは妬いたら?」と、悠輝が蒼也をのぞき込む。「許嫁が他の男と親しくしてるんだよ」
「他の男って、おまえだろうが」と、返事はしてもやはりタブレットから目を離さない。「俺の前では一度も笑顔なんか見せたことないけどな」
「そうなの?」
「なんかいつも口とがらせて怒ってんだよ。俺のことが好きじゃないだろ」
「そんなに突き放すんなら、僕が奪っちゃうよ」
と、そんな軽口を言った瞬間、ぎろりと獅子のような目で睨まれ、ゆるんでいた部屋の空気が一瞬で凍りつく。
「おお、こわ」
おびえる悠輝を蒼也が鼻で笑う。
「おまえなあ、調子に乗りすぎだぞ」
「え、どこが?」
と、しらばっくれる悠輝の頬に蒼也が人差し指を突きつける。
「そういうところだよ」
「ちゃんと言ってくれないと分からないなあ」
「お望みなら、分からせてやろうか」と、指のドリルをねじこんでくる。
「はいはい、勘弁してよ、もう。ごめんって、本気なわけないだろ」
「まったく俺の気も知らないでチャラチャラしやがって」
表情では笑っている蒼也の横顔を眺めながら悠輝は心の中でため息をついていた。
――まったく。
何も分かってないのは、蒼ちゃんの方だろ。
翠ちゃんだってほったらかしのくせにさ。
昔から罪な男だったよ。
『俺の気も知らないで』だって?
そっちこそ、僕の気も知らないでさ。
そんな相手の不満を読み取ることなどできそうにない男だから、悠輝は蒼也のことが心配でならない。
なにしろ、目の前でもう本人は相棒に片づけを任せて、早速タブレットを引き寄せ、また画面とにらめっこを始めているのだから。
「悠輝、明日の夜はメシいらないぞ」
「そうなの。残念」
「悪いな、アポが取れたんで食事会になった」
「まあ、いいや。僕もネット仲間の交流会に誘われてたから顔を出しておくよ」
「そうか。楽しんでこいよ」
「翠ちゃんも行くかな」
悠輝は視界の端に蒼也の姿を捉えながらあえてつぶやいてみた。
だが、蒼也は教会の柱から見下ろす聖者の彫像のように冷徹な表情を変えない。
「有名な配信者がたくさん来るから喜ぶかも」
煽ってみても、眉一つ動かさない。
皿を洗い終えた悠輝は蒼也のそばに歩み寄ってラグの上に腰を下ろすと、自分のスマホを取り出し、蒼也に突き出した。
「ねえ、ほら、見てよ。いい写真だろ」
スカイツリーが真横に見えるタワマンで開催されたホームパーティーで、悠輝と翠がピタリと寄り添って画面に収まっている。
その時は二人とも誘っていたのだが、仕事の都合で蒼也にドタキャンされて、翠にだけ来てもらったのだ。
「翠ちゃん、いつ見ても笑顔が素敵だよね。他の連中もチラチラ視線を送ったりしててさ、ガードするのにヒヤヒヤだったよ」
話しかければかけるほど意固地になるようで、返事がない。
「少しは妬いたら?」と、悠輝が蒼也をのぞき込む。「許嫁が他の男と親しくしてるんだよ」
「他の男って、おまえだろうが」と、返事はしてもやはりタブレットから目を離さない。「俺の前では一度も笑顔なんか見せたことないけどな」
「そうなの?」
「なんかいつも口とがらせて怒ってんだよ。俺のことが好きじゃないだろ」
「そんなに突き放すんなら、僕が奪っちゃうよ」
と、そんな軽口を言った瞬間、ぎろりと獅子のような目で睨まれ、ゆるんでいた部屋の空気が一瞬で凍りつく。
「おお、こわ」
おびえる悠輝を蒼也が鼻で笑う。
「おまえなあ、調子に乗りすぎだぞ」
「え、どこが?」
と、しらばっくれる悠輝の頬に蒼也が人差し指を突きつける。
「そういうところだよ」
「ちゃんと言ってくれないと分からないなあ」
「お望みなら、分からせてやろうか」と、指のドリルをねじこんでくる。
「はいはい、勘弁してよ、もう。ごめんって、本気なわけないだろ」
「まったく俺の気も知らないでチャラチャラしやがって」
表情では笑っている蒼也の横顔を眺めながら悠輝は心の中でため息をついていた。
――まったく。
何も分かってないのは、蒼ちゃんの方だろ。
翠ちゃんだってほったらかしのくせにさ。
昔から罪な男だったよ。
『俺の気も知らないで』だって?
そっちこそ、僕の気も知らないでさ。
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