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そもそも、私がミサラギグループの御曹司と関係があるなんて、園児の保護者に知られたら面倒なことになるんだけどね。
だからこそ、園長は穏便に事を運ぼうとしてくれたんだろうけど、あんな目立つ車で来てたら、意味ないじゃないのよ。
支度を済ませて戻ってくると、蒼也はいきなり手を引いて翠を車へと押し込んだ。
――まるで誘拐じゃないのよ。
蒼也が乗り込むとすぐに運転手が後輪を沈ませながら黒塗りセダンを発進させた。
どこへ行くのか訪ねようとしたら、蒼也が口にハンカチを押しつけてきた。
「翠」
まさか、拉致監禁?
「ケチャップついてる」
え、うそ!?
うわあ、危ないところだった。
また園児たちに笑われるところだった。
って、車はすでに幼稚園から遠く離れ、高速道路に乗って、都心へ向かっている。
「どこに行くんですか?」
「病院だ」
仕事の邪魔までして連れ出しておいて、一言だけの返事はあんまりじゃないかと、蒼也の横顔を見ると、言葉を継げないほど深刻に思い悩んでいるようだった。
「どうしたんですか?」
「実は、祖父なんだが……」と、蒼也は深くため息をついた。「食道癌が見つかってね。あと数ヶ月、長くて半年かそこらだそうだ」
「えっ?」
――余命半年?
お正月にご挨拶したときは全然お元気そうだったのに。
「治療方法はないんですか」
「もともと五年前に左脚の腫瘍を摘出してるだろ。経過観察をして一度は寛解と言われていたんだが、たまたま先日、心房細動が出て精密検査をした時に見つかったんだ。すでに肺とリンパへの転移も確認されているし、年齢も年齢だけに、手術はかえって危険だろうというのが医者の見解だ。なにより、本人が、あらがうことなく、受け入れたいと言っているんでね」
祖父の幸之助は九十歳だ。
二十年前に初めてお目にかかったときは経営の最前線にいたが、その後まもなく息子、つまり蒼也の父にあらゆる権限を譲って引退し、悠々自適の隠居生活を送っていた。
五年前の手術で自力での歩行が難しくなり、車椅子に頼る生活になっていたものの、日課として自宅の庭に出たりして、老け込まないようにしていたのだった。
それでもいつかそういう時は来るものなのだ。
翠は変えようのない運命の重さに胸が締めつけられ、言葉が出なかった。
だからこそ、園長は穏便に事を運ぼうとしてくれたんだろうけど、あんな目立つ車で来てたら、意味ないじゃないのよ。
支度を済ませて戻ってくると、蒼也はいきなり手を引いて翠を車へと押し込んだ。
――まるで誘拐じゃないのよ。
蒼也が乗り込むとすぐに運転手が後輪を沈ませながら黒塗りセダンを発進させた。
どこへ行くのか訪ねようとしたら、蒼也が口にハンカチを押しつけてきた。
「翠」
まさか、拉致監禁?
「ケチャップついてる」
え、うそ!?
うわあ、危ないところだった。
また園児たちに笑われるところだった。
って、車はすでに幼稚園から遠く離れ、高速道路に乗って、都心へ向かっている。
「どこに行くんですか?」
「病院だ」
仕事の邪魔までして連れ出しておいて、一言だけの返事はあんまりじゃないかと、蒼也の横顔を見ると、言葉を継げないほど深刻に思い悩んでいるようだった。
「どうしたんですか?」
「実は、祖父なんだが……」と、蒼也は深くため息をついた。「食道癌が見つかってね。あと数ヶ月、長くて半年かそこらだそうだ」
「えっ?」
――余命半年?
お正月にご挨拶したときは全然お元気そうだったのに。
「治療方法はないんですか」
「もともと五年前に左脚の腫瘍を摘出してるだろ。経過観察をして一度は寛解と言われていたんだが、たまたま先日、心房細動が出て精密検査をした時に見つかったんだ。すでに肺とリンパへの転移も確認されているし、年齢も年齢だけに、手術はかえって危険だろうというのが医者の見解だ。なにより、本人が、あらがうことなく、受け入れたいと言っているんでね」
祖父の幸之助は九十歳だ。
二十年前に初めてお目にかかったときは経営の最前線にいたが、その後まもなく息子、つまり蒼也の父にあらゆる権限を譲って引退し、悠々自適の隠居生活を送っていた。
五年前の手術で自力での歩行が難しくなり、車椅子に頼る生活になっていたものの、日課として自宅の庭に出たりして、老け込まないようにしていたのだった。
それでもいつかそういう時は来るものなのだ。
翠は変えようのない運命の重さに胸が締めつけられ、言葉が出なかった。
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