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ツッコミに疲れ、お芝居にしては情熱的なキスに気が遠くなりかけた時、ようやく蒼也が顔を離した。
翠が目を開けると、あれほどまっすぐに見つめていた蒼也が目を泳がせていた。
「演技ですよね」
翠が抗議すると、蒼也の顔が真っ赤に茹で上がる。
「も、もちろん」
キスは上手だけど、役者としては大根ですよ。
二人並んでベッドを向くと、幸之助は目を閉じて静かに胸を上下させていた。
「じいさん、寝てる」と、蒼也が笑みをこぼす。
はあ。
今の結局、何だったんですか。
口をとがらせる翠に蒼也が顔を寄せてささやいた。
「損したとか言うなよ」
「言いませんよ」
――ていうか、そっちは損したと思ってるんですか。
ちょうどそこへ看護師さんが入ってきたので、二人は退出した。
エレベーターに乗り込んで蒼也はボタンを押し、翠は奥の壁際に立った。
振り向いた蒼也が前髪をかき上げながら笑みを浮かべた。
「協力してくれてどうもありがとう。すこしでも安心してもらいたかったんだ」
「お役に立てて何よりです」
「それでだな」と、蒼也が口ごもる。
「どうかしましたか?」
見上げる翠から視線をそらして蒼也がつぶやく。
「咲山先生にはいつご挨拶に行ったらいいだろうか」
「うちの父に……って、何のですか?」
「結婚のご報告に決まっているだろう」
「何言ってるんですか。演技ですよね?」
「それはそうなんだが、祖父が生きている間は演技を続けなくちゃならないだろ」
「まあそうですけど」
「だから、翠も俺のマンションに来るわけだし、当然、先生にもご了承をいただかないと」
「ちょ、え、蒼也さんのマンションに?」
動揺して言葉が途切れたところで、エレベーターが一階に到着した。
患者さんや付き添いの人々で混雑するロビーを抜けて表に出る。
車寄せには介護施設の患者さんを乗せてきた車が連なっていたので、蒼也は駐車場に向かって歩いていく。
また三倍速いその背中を追ってみどりは駆け足で追いかけた。
「蒼也さん!」
「ん?」
「あの、同居は困ります」
息の荒い翠に、蒼也は涼しい顔で答えた。
「だけど、いつかは正式に結婚するわけだろ。予行練習みたいなものだと思えばいいさ」
「仕事もあるし、心の準備とかも」
「幼稚園にはうちの運転手に送迎させるよ。準備は当分の間の着替えくらいでいいさ」
「あの、そういうわけには」
と、駐車場の入り口で運転手さんが待っていた。
「お車はこちらです」
「ありがとう。そうだ……」と、蒼也が急に振り向く。「理化学大学はこの近くだったよな。今から会いに行ってみよう」
――はあ?
「今からって、そんな」
運転手さんが開けたドアに押し込まれ、今度こそ本当に拉致監禁されながら翠は父の勤める理化学大学へと連れていかれた。
翠が目を開けると、あれほどまっすぐに見つめていた蒼也が目を泳がせていた。
「演技ですよね」
翠が抗議すると、蒼也の顔が真っ赤に茹で上がる。
「も、もちろん」
キスは上手だけど、役者としては大根ですよ。
二人並んでベッドを向くと、幸之助は目を閉じて静かに胸を上下させていた。
「じいさん、寝てる」と、蒼也が笑みをこぼす。
はあ。
今の結局、何だったんですか。
口をとがらせる翠に蒼也が顔を寄せてささやいた。
「損したとか言うなよ」
「言いませんよ」
――ていうか、そっちは損したと思ってるんですか。
ちょうどそこへ看護師さんが入ってきたので、二人は退出した。
エレベーターに乗り込んで蒼也はボタンを押し、翠は奥の壁際に立った。
振り向いた蒼也が前髪をかき上げながら笑みを浮かべた。
「協力してくれてどうもありがとう。すこしでも安心してもらいたかったんだ」
「お役に立てて何よりです」
「それでだな」と、蒼也が口ごもる。
「どうかしましたか?」
見上げる翠から視線をそらして蒼也がつぶやく。
「咲山先生にはいつご挨拶に行ったらいいだろうか」
「うちの父に……って、何のですか?」
「結婚のご報告に決まっているだろう」
「何言ってるんですか。演技ですよね?」
「それはそうなんだが、祖父が生きている間は演技を続けなくちゃならないだろ」
「まあそうですけど」
「だから、翠も俺のマンションに来るわけだし、当然、先生にもご了承をいただかないと」
「ちょ、え、蒼也さんのマンションに?」
動揺して言葉が途切れたところで、エレベーターが一階に到着した。
患者さんや付き添いの人々で混雑するロビーを抜けて表に出る。
車寄せには介護施設の患者さんを乗せてきた車が連なっていたので、蒼也は駐車場に向かって歩いていく。
また三倍速いその背中を追ってみどりは駆け足で追いかけた。
「蒼也さん!」
「ん?」
「あの、同居は困ります」
息の荒い翠に、蒼也は涼しい顔で答えた。
「だけど、いつかは正式に結婚するわけだろ。予行練習みたいなものだと思えばいいさ」
「仕事もあるし、心の準備とかも」
「幼稚園にはうちの運転手に送迎させるよ。準備は当分の間の着替えくらいでいいさ」
「あの、そういうわけには」
と、駐車場の入り口で運転手さんが待っていた。
「お車はこちらです」
「ありがとう。そうだ……」と、蒼也が急に振り向く。「理化学大学はこの近くだったよな。今から会いに行ってみよう」
――はあ?
「今からって、そんな」
運転手さんが開けたドアに押し込まれ、今度こそ本当に拉致監禁されながら翠は父の勤める理化学大学へと連れていかれた。
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