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一週間ぶりに蒼也のマンションにもどると、翠は部屋の空気を思い切り吸い込んで、「ただいま」とつぶやいていた。
「少しの間なのに、懐かしいですね」
「そうか」と、蒼也は後ろから翠を抱きしめた。「おかえり」
「汗かいちゃってますよ」
首をすくめる彼女の耳にささやきかける。
「先にシャワー浴びてきなよ」
「い、いきなりですか」
「本当の妻にするって約束しただろ。ここなら邪魔は入らないよな」
一瞬のためらいの後に、蒼也が後ろから翠の胸に右手を当てると、すかさず彼女の手が重なる。
翠の耳が真っ赤に染まるが、嫌がる様子はない。
薄いワンピース越しにレース素材の感触が伝わる。
恥ずかしそうにうつむく姿も首をかしげる様子も、そんななにげない仕草すべてが愛おしい。
本当に俺が独り占めにしていいのか。
……っつうか、誰にも渡すわけないけどな。
かわいすぎて、なんだか意地悪したくなる。
これまで模範的優等生だった俺のどこかにスイッチが入った気がする。
それもこれも、俺の心をくすぐる翠がいけないんだ。
蒼也は肺いっぱいに翠の髪の香りを吸い込み、左手で背中のファスナーを引き下ろした。
「シャ、シャワー浴びてきますね」
肩で服を押さえながら翠が蒼也の腕を抜け出す。
その姿を目に焼きつけながら送り出し、自分もスーツを脱いでハンガーに掛けた。
窓の外には日が傾いてもなお陽炎の立つ猛暑の街が広がっている。
じっとりと張りつくシャツを脱ぎ上半身をタオルで何度拭いても、自分の腕の中にいた妻の体の感触が胸をうずかせ、汗が引くどころかいくらでも吹き出してくる。
冷蔵庫からジャスミンティーを取り出し、グラスに注いで一息にあおる。
火照った体を貫くように冷たい液体が流れ落ちる。
――焦るな、落ち着け。
ここまで長いことかかったが、もう心配はない。
誠意を伝え、受け止めてもらえた。
自分には一切やましいところはない。
愛しい彼女とこの瞬間を迎えるために俺は翠一筋に生きてきた。
あとはただ、本能に身を委ねるだけだ。
と、その時だった。
「蒼也さん」と、背後から呼ぶ声がした。
「ん?」
カウンターに腰をぶつける勢いで振り向くと、シャワーを浴びに行ったはずの翠がさっきの格好のまますぐ後ろに立って子どものように泣きじゃくっていた。
背を丸めて視線を合わせ、蒼也はしっかりと肩を支えながら声をかけた。
「どうした?」
「ごめんなさい」
謝られても、状況がまったく分からない。
まさか、やっぱり俺ではだめだというのか。
ギラつく男の本性を見せたのが嫌われたのか。
籠にいた鳥が羽ばたいていくのを見送るような絶望を感じつつも平静を装って蒼也は穏やかにたずねた。
「大丈夫だよ。どうかしたのか?」
「ごめんなさい」
ただ謝るだけの妻を抱きしめ、蒼也は背中を撫でて落ち着かせた。
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