ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

犬上義彦

文字の大きさ
52 / 88

(4-20)

しおりを挟む
「心配ない。何があったのか言ってごらん」

「ごめんなさい」と、翠が嗚咽を漏らす。「生理になっちゃいました」

 ――お、おう……そういうことか。

「まだもう少し先かと思ってたんですけど、急に来ちゃったみたいで」

「そ、そうか……」と、予想外の出来事に困惑しつつも蒼也は翠をしっかりと抱きしめた。「謝らなくていい。翠は何も悪くないだろ」

「でも、ごめんなさい」

 蒼也は額に口づけた。

「愛してるよ。だから泣かないでくれ。心配なんかしなくていい。翠のペースでいいんだ」

 恥ずかしそうにうつむき胸に顔を埋める妻を柔らかく抱きながら、蒼也はささやきかけた。

「これまでだって、二十年、ずっと我慢してきたんだ。いつまでも待つよ」

「そんなにはかからないですけど」

 ようやく泣き止んだ妻に蒼也はささやき続けた。

「それより、体調は大丈夫なのか。貧血とか、吐き気がしたり、匂いが気になったりしてないか?」

 今度は妻が首をかしげていた。

「俺は男だから分からないが、休暇を取る人もいるくらい辛いんだろ」

「私はそこまでひどくはならないんで大丈夫です」

「そうか。でも、無理するなよ。ゆっくり休んでいいんだからな」

 蒼也の言葉に翠が笑みをこぼす。

「よかった。がっかりさせちゃうかなって、心配だったんです」

「そんなことないよ。どんなことがあっても俺は翠を愛してる。これまでも、これからも、何があっても俺を信じていいんだよ」

「私も」と、翠が蒼也の胸に額を押しつける。「愛しています。これからもよろしくお願いします」

「ああ、俺も、よろしくな」

 と、キュルルと蒼也のおなかが鳴った。

 二人とも同時に笑い出す。

「おなか空きました?」

「さっき冷たいジャスミンティーを飲んだから刺激したかな」

「でもお夕飯の支度する時間ですよね。何がいいですか?」

「翠が食べられるものなら、なんでもいいぞ」

 気づかう蒼也の顔を見上げながら翠が吹き出す。

「なんだよ。どうした?」

「さっきから、悪阻と間違えてませんか?」

 ――ん?

 視線を上げて首をかしげる蒼也の胸を翠が人差し指でつつく。

「まだ何もしてないのに悪阻にはならないですよ」

「い、いや、べつに勘違いなんかしてないぞ」

「本当ですか?」

「当たり前だろ」

 強弁するほど翠の視線が疑り深くなっていく。

 頭に血が上って鼻に汗が浮かぶのを見られないように蒼也は冷蔵庫を開け、冷気に顔を突っ込んだ。

「そういえば、悠輝が昨日ジャガイモを持ってきたんだっけ。スポンサーからもらったらしい」

「じゃあ、コロッケ作りましょうか」と、翠も冷蔵庫をのぞき込む。

「揚げ物できるのか?」

 顔を見合わせながら翠が微笑む。

「得意ですよ」

「だったら俺も手伝うよ」

「じゃあ、先に部屋着に着替えてきますね」

 朗らかに寝室へと向かう妻の背中を見送りながら、蒼也はホッと胸をなで下ろしていた。

 ――よかった。

 うまく励ませたようだ。

 何が正解かは分からない。

 だけど、だからこそ、二人で見つけていけばいい。

 翠が笑ってくれるなら、俺は道化にだってなってみせるさ。

 鼻歌交じりにジャガイモを取り出しながら、蒼也は妻の笑顔を思い浮かべていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

愛してやまないこの想いを

さとう涼
恋愛
ある日、恋人でない男性から結婚を申し込まれてしまった。 「覚悟して。断られても何度でもプロポーズするよ」 その日から、わたしの毎日は甘くとろけていく。 ライティングデザイン会社勤務の平凡なOLと建設会社勤務のやり手の設計課長のあまあまなストーリーです。

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

先輩、お久しぶりです

吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社 秘書課 × 藤井昂良 大手不動産会社 経営企画本部 『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。 もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』 大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。 誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。 もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。 ――それも同じ会社で働いていた!? 音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。 打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

処理中です...