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翠がコロッケの下準備をしている間、蒼也はサラダと味噌汁を作っていた。
「料理上手ですよね」
「アメリカにいる時に、やってたからね」
「あまり外食しなかったんですか?」
「向こうは量が違うから、すぐに太るんだよ。最初の一か月でヤバイと思って、後は自炊だったね」
言葉通り、包丁さばきもリズミカルで手慣れたものだ。
負けてはいられないと翠もマッシュポテトに炒めた挽肉とマヨネーズ、粒マスタードを混ぜると、香りにつられて蒼也が鼻を突き出してくる。
「これって、ほぼポテサラだよな」
「そこまでマヨネーズは濃くないですけどね」
二人の共同作業で成形し、流れ作業でパン粉をまとわせ、油に入れると、ピチパチジュワッといいリズムを奏でながらコロッケが色づいていく。
網に引き上げると、蒼也が手を出すが、熱さに手を引っ込める。
「お行儀悪いですよ」
唇をとがらせ抗議する翠に蒼也が口づける。
「だって、こんなにうまそうなんだからさ。コロッケくらいおあずけにしないでくれよ」
「男の人って、どうしてそうつまみ食いが好きなんですか」
「男?」と、声のトーンが変わり、腕をつかまれる。「男って誰だ?」
あまりの力に、亀のように首をすくめて翠は声を絞り出した。
「う、うちの父です……けど」
「本当か?」
腕をよじりながらうなずく翠を壁際に押しつけ、蒼也は耳たぶに口づけた。
「油……危ない……ですよ」
そんな警告も無視して蒼也の唇が首筋から胸へと這っていく。
蒼也の息にくすぐられ、翠の唇から思わず赤面するような声が漏れる。
その表情を逃さず、攻撃はどんどんエスカレートしていく。
「蒼也さんの方こそ、他にお付き合いしてた方、いるんじゃないですか」
「いるわけないだろ」と、キスを止めた蒼也が顔を上げてお互いの額をくっつける。「悠輝に聞いてみろ。俺のことなら、何でも知ってる」
真剣な眼差しに、思わず翠は吹き出してしまう。
「それはそれでいやですね」
と、ピーッとアラームが鳴って、自動消火装置が作動した。
冷静さを取り戻した蒼也が手を離す。
「二人ともしたこともない火遊びで喧嘩してしまったな」
「笑い事じゃないですよ」と、翠は換気扇のスイッチを『強』に変えた。
「つい、熱くなってしまった。すまない」
「コロッケは冷めたみたいですけど」
湯気の落ち着いたコロッケを菜箸で一つつまんだ翠が蒼也の口に差しだした。
「はい、あーん」
「お、おう……」
さっきは自分から手を出していたくせに、耳を赤らめながら口を開く。
サクサクといい音を奏でながら蒼也が微笑む。
「おいしいですか」
「こんなにうまいコロッケ食べたことないぞ」
「じゃあ、はい、もっと」
「んぐ……、おい、そんなに入らないって」
お仕置きのつもりでカウンターに追い詰め、翠は蒼也の口にコロッケを押し込み、黙らせた。
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