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仕事から帰ってきた翠は《会議で出社する。夕飯は食べていてくれ。俺の分はいらない》との書き置きを見て、ため息をついていた。
――せっかくお惣菜を買ってきたのに。
話題の海鮮春巻きを食べてほしかったんだけどな。
ま、お仕事じゃ、しょうがないもんね。
一人で食事を済ませ、風呂から出ると、蒼也からメッセージが入っていた。
《まだ終わりそうにないから先に寝ていてくれ》
もう十時過ぎだった。
そんなに遅くなるなんて。
経営者が一般の社員とは働き方が違うことは頭では理解していても、やはりこういうことがあると、健康を心配してしまう。
心が安まる時もないのではないだろうか。
だからこそ、支えてあげたいし、責任をまっとうする姿を応援したいとも思う。
ただ、正直なところ、ちゃんと休んでほしいし、早く帰ってきてほしい。
もしも、求められるなら、受け入れてあげたいし。
――私はいつでもいいですよ、蒼也さん。
昨夜のことを思い出して体が熱くなる。
広いリビングで一人、首がちぎれそうなほどぶんぶんと振って頭から妄想を弾き出す。
日付が変わるくらいまでは待っていようと、翠は幼稚園から持ち帰ってきた材料をテーブルの上に広げると、九月から使う秋をモチーフにした折り紙やちぎり絵を作り始めた。
お月見のお団子にススキ、紅葉、きのこ、赤トンボに蓑虫……。
しかし、昨夜は蒼也に寝させてもらえなかったせいで、さすがに眠気が襲ってきた。
赤い紙をちぎっているうちに、いつしか翠は眠りに落ちていた。
◇
目を覚ますと、ベッドの上だった。
――あれ?
私、蒼也さんを待ちながら工作の途中で……。
ガバッと飛び起き、隣を見ても蒼也はいない。
まさか、帰ってないとか?
でも、私、自分でここまで来たの?
ベッドを降りてリビングへ行くと、ソファで蒼也が眠っていた。
スーツのままだ。
――ちょ、えっ。
また、そんな格好で。
起こそうと歩み寄った足が止まる。
テーブルの上に紅葉のちぎり絵ができあがっていた。
もしかして、眠っている間に作ってくれてたの?
童話に出てくる小人さんのお手伝いじゃないんだから。
「ありがとう。大きな小人さん」
お礼をつぶやくと、蒼也が薄く目を開けた。
「ん、朝か?」
「おはようございます」と、翠は自分から口づけた。
「お姫様のキスで目覚める朝は最高だな」と、抱き寄せられて、蒼也の上に倒れかかる。
「翠……」
爽やかな朝のキスが濃厚に重ねられていく。
「ちょ、ちょっと、蒼也さん」
「ベッドに行くか?」
「そういうことじゃありません」
翠は蒼也を抱き起こすようにラグの上に腰を下ろし、正座した。
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