ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

犬上義彦

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 しばらくして、ため息とともに悠輝がぽつりとつぶやいた。

「僕のせいだよね。迷惑かけちゃったな。でもさ、蒼ちゃんを信じてやってよ」

 翠はスマホに送られてきた二枚の写真を見せた。

「うーん」と、悠輝が首をひねる。「この写真、誰かが隠し撮りしたんだろうけど、不自然というか、何なのかは分からないけど気になるよね。どちらにしろ、切り抜きなら、いくらでもこんな写真は作れるよね」

 須垣との通話内容も話すと、悠輝は今回のやり口について説明してくれた。

「ふつうは、株っていうと、安い時に買って値上がりしたら売って、その差額をもうけるっていうイメージだろ」

「そういう意味では野菜の蕪と同じですよね」

「まあね」と、悠輝は笑みを浮かべながら続けた。「だけど、須垣たちのグループはわざと株価を釣り上げておいて、高いところで今度は空売りを仕掛けたんだね」

「空売り?」

「市場から株を借りて先に売っておくんだよ。値段が下がったところでそれを買い戻せば、その差額を儲けることができるんだ。プロは上がっても下がっても儲かるんだよ」

「そんなことが許されるんですか」

「元々株価が波のように上下するのは知ってるだろ。空売りも、一方的な過熱を抑制して波を安定させるためにはむしろ必要な取引なんだ。もちろん、ルールの範囲内ならね」

「でも、悪用したら?」

「もちろん違法だけど、立証は難しいかな。わざと誤解されるような噂を流して株価を操る。おそらく取り巻きたちが自発的に協力してることで、須垣自身がやってるわけじゃないから、グレーなんだろうね」

「じゃあ、公的機関に訴えても意味がないんですか?」

「むしろ、企業イメージが悪化する悪手だろうね」

 だったら、どうしたらいいんだろう。

 翠は膝の上で拳を握りしめるばかりだった。

「果物切ってきたよ」と、父が応接間に入ってきた。

「あ、すみません。僕がやれば良かったですね」と、恐縮しながら悠輝が頭を下げる。

「本職の人にただでやらせたらまずいよ」と、父は気にせず赤いキウィを口に運ぶ。「甘くて染みるねえ」

 ――お父さん、オッサンみたいな声出さないで。

 二人からあらましを聞いた父は翠に提案した。

「問題が発生した時は、解決できることから一つずつ解きほぐしていくのが基本だ。正体の分からない相手に立ち向かう前に、確認できることから始めるんだ」

「ということは、つまり……」

「まずは、レイナさんという人に会って話を聞けばいい。ここでモヤモヤ憶測を重ねても何も解決しないからね」

 父の言葉に、翠は即行動に移した。

「悠輝さん、レイナさんの連絡先を教えてください」

「ああ、いいよ」

 翠は鞄をつかんで玄関に向かった。

「それと、車で来てますよね? レイナさんのところまで連れていってください」

「えっ、今から?」

 スマホを取り出しながら悠輝が慌てて立ち上がる。

「はい、急いでください!」

 ――時間がない。

「今度またコロッケ作りに来るから」

 玄関先まで見送りにきた父にそう言い残して、翠は暗くなった街へ飛び出した。

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