4 / 84
(1-4)
しおりを挟む
群衆から拍手喝采が沸き起こる中、男は剣を鞘に収め、クローレにちらりと目をやった。
「ほら」
一言だけ発し、あらためて彼女に手を差し伸べる。
クローレは涙に濡れた顔を上げ、震える手で男の手を取った。
「あ……あんたは……?」
彼女の声は弱々しいが、目には尊敬の光が宿っていた。
男は面倒くさそうに肩をすくめた。
「ただの通りすがりさ。剣を拾いなよ。冒険者は膝をついちゃいけねえよ」
彼はそれだけ言うと、マントを翻して去っていく。
「待って!」
フレイムクロウを拾い上げ、必死に群衆をかき分け男の後を追う。
「あなた、誰なの? どうしてあたしを……?」
男は足を止め、振り返らずに低くつぶやく。
「だから、通りすがりだっつうの。ほっとけって」
だが、クローレは諦めない。
彼女は男の横に並び、目を輝かせて話し始めた。
「あたし、クローレ。名乗ったんだからさ、名前くらい教えてよ」
「キージェ」と、男はぼそりと答えた。
「キージェってさ」と、早速クローレが親しげに名前を呼ぶ。「ただの冒険者じゃないよね? あんな技、見たことないもん。どうやってあんな速さで……」
「うるさいな。助けてやったんだ。それでいいだろ」
彼は歩みを速めるが、クローレはさらに食い下がる。
「ねえ、待ってよ! あなたみたいな人に会ったの、初めてなの! 師匠になってよ! 私も、強くなりたい!」
彼女の声には、さっきまでの絶望が嘘のような熱がこもっていた。
キージェは立ち止まり、うんざりした顔でクローレを見た。
「お嬢ちゃん、俺はもう引退したんだ。面倒なことに巻き込まれるのはゴメンだ」
彼は手を振って追い払おうとするが、クローレは一歩も引かない。
「でも、あなたが助けてくれたから。私、あんな目に遭って、もうダメだと思ってたけど、あなたの剣を見てまた戦いたいって思えたの」
キージェは小さく舌打ちを返す。
「ったく、しつこいな」
「お願いだから」
迫る視線を避けるように顔を背け、ぶっきらぼうに言う。
「剣を握るなら、泣く前に振ればいい。俺は関係ねえ」
頑なな態度に、クローレは口をとがらせる。
「ねえ、おじさん、お願いだからあたしの初めてになってよ」
周囲がざわつき、年の差男女に好奇な視線が集中する。
キージェはあわててクローレの腕を引き、人混みを離れた。
「なあ、おまえ、何言ってんだよ。言い方ってもんがあるだろ。誤解されたらどうする」
「どういうこと?」
「おまえ、いくつだ?」
「十八だけど」
「今まで何やってた?」
「ダンジョンでレベル上げ。これでも本当にSランクなんだよ」
「フレイムクロウの使い手か。それが、なんであんな連中に絡まれてたんだ?」
「やつらが、あたしの獲物を横取りしてさ。それで文句を言ったらあのザマでさ……かっこ悪いね、あたし」
「村を焼かれたとか言ってたよな」
「黒衣騎兵にね」
キージェの眉がピクリと上がる。
それに気づくことなくクローレが続けた。
「あたしはまだ修行に出たばかりでさ。全然歯が立たなくて、助けを求めに行ったんだ。逃げたんじゃない。だけど……ううん、本当は怖くて逃げたんだよね。そしたら、あんなことに……」
涙声になるクローレの話をキージェは押しとどめた。
「もういい。わかったよ」
「じゃあ、あたしの初めてになってくれるの?」
「だから、言い方」と、キージェは白髪交じりの頭をかく。「師匠も大げさだ。初めての先生くらいでいいだろ」
「やったあ!」
いきなり遠慮もなくキージェの腕に絡みつき、露出の多い肌が迫ってくる。
「お、おい、やめろって」
「なんでよ。うれしいんだもん」
「あのな、つまり、その……先生と教え子にはそういう軽々しい関係はふさわしくない」
「えー、そうなの」と、渋々クローレが離れる。
「あと、とりあえず、これを巻いてろ」
キージェは黒いマントを外してクローレの肩にかけた。
「おまえのその姿は人目を引く」
「ありがとう」と、クローレは素直にマントで体を覆った。「なんか、恥ずかしいね」
「今さらかよ。もっと自覚しろ」
――やれやれ。
やっかいなもん、拾っちまったなあ。
キージェは背中を丸めて白髪交じりの頭をかきながらため息をついた。
「ほら」
一言だけ発し、あらためて彼女に手を差し伸べる。
クローレは涙に濡れた顔を上げ、震える手で男の手を取った。
「あ……あんたは……?」
彼女の声は弱々しいが、目には尊敬の光が宿っていた。
男は面倒くさそうに肩をすくめた。
「ただの通りすがりさ。剣を拾いなよ。冒険者は膝をついちゃいけねえよ」
彼はそれだけ言うと、マントを翻して去っていく。
「待って!」
フレイムクロウを拾い上げ、必死に群衆をかき分け男の後を追う。
「あなた、誰なの? どうしてあたしを……?」
男は足を止め、振り返らずに低くつぶやく。
「だから、通りすがりだっつうの。ほっとけって」
だが、クローレは諦めない。
彼女は男の横に並び、目を輝かせて話し始めた。
「あたし、クローレ。名乗ったんだからさ、名前くらい教えてよ」
「キージェ」と、男はぼそりと答えた。
「キージェってさ」と、早速クローレが親しげに名前を呼ぶ。「ただの冒険者じゃないよね? あんな技、見たことないもん。どうやってあんな速さで……」
「うるさいな。助けてやったんだ。それでいいだろ」
彼は歩みを速めるが、クローレはさらに食い下がる。
「ねえ、待ってよ! あなたみたいな人に会ったの、初めてなの! 師匠になってよ! 私も、強くなりたい!」
彼女の声には、さっきまでの絶望が嘘のような熱がこもっていた。
キージェは立ち止まり、うんざりした顔でクローレを見た。
「お嬢ちゃん、俺はもう引退したんだ。面倒なことに巻き込まれるのはゴメンだ」
彼は手を振って追い払おうとするが、クローレは一歩も引かない。
「でも、あなたが助けてくれたから。私、あんな目に遭って、もうダメだと思ってたけど、あなたの剣を見てまた戦いたいって思えたの」
キージェは小さく舌打ちを返す。
「ったく、しつこいな」
「お願いだから」
迫る視線を避けるように顔を背け、ぶっきらぼうに言う。
「剣を握るなら、泣く前に振ればいい。俺は関係ねえ」
頑なな態度に、クローレは口をとがらせる。
「ねえ、おじさん、お願いだからあたしの初めてになってよ」
周囲がざわつき、年の差男女に好奇な視線が集中する。
キージェはあわててクローレの腕を引き、人混みを離れた。
「なあ、おまえ、何言ってんだよ。言い方ってもんがあるだろ。誤解されたらどうする」
「どういうこと?」
「おまえ、いくつだ?」
「十八だけど」
「今まで何やってた?」
「ダンジョンでレベル上げ。これでも本当にSランクなんだよ」
「フレイムクロウの使い手か。それが、なんであんな連中に絡まれてたんだ?」
「やつらが、あたしの獲物を横取りしてさ。それで文句を言ったらあのザマでさ……かっこ悪いね、あたし」
「村を焼かれたとか言ってたよな」
「黒衣騎兵にね」
キージェの眉がピクリと上がる。
それに気づくことなくクローレが続けた。
「あたしはまだ修行に出たばかりでさ。全然歯が立たなくて、助けを求めに行ったんだ。逃げたんじゃない。だけど……ううん、本当は怖くて逃げたんだよね。そしたら、あんなことに……」
涙声になるクローレの話をキージェは押しとどめた。
「もういい。わかったよ」
「じゃあ、あたしの初めてになってくれるの?」
「だから、言い方」と、キージェは白髪交じりの頭をかく。「師匠も大げさだ。初めての先生くらいでいいだろ」
「やったあ!」
いきなり遠慮もなくキージェの腕に絡みつき、露出の多い肌が迫ってくる。
「お、おい、やめろって」
「なんでよ。うれしいんだもん」
「あのな、つまり、その……先生と教え子にはそういう軽々しい関係はふさわしくない」
「えー、そうなの」と、渋々クローレが離れる。
「あと、とりあえず、これを巻いてろ」
キージェは黒いマントを外してクローレの肩にかけた。
「おまえのその姿は人目を引く」
「ありがとう」と、クローレは素直にマントで体を覆った。「なんか、恥ずかしいね」
「今さらかよ。もっと自覚しろ」
――やれやれ。
やっかいなもん、拾っちまったなあ。
キージェは背中を丸めて白髪交じりの頭をかきながらため息をついた。
14
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる