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しばらくして会話が途切れたところで、ようやく開けた場所に出た。
「よし、ここだ」
森に湧き出た泉のほとりだ。
キージェもふだんここで鍛錬をし、汗をかいたらそのまま風呂代わりに使っている。
「わあ、きれいな泉! 冷たくて気持ちいい!」
さっそく水に手を差し入れはしゃぐクローレにキージェは苦言を呈した。
「遊びに来たんじゃねえよ」
「はいはい。どんな練習するんですか」
キージェは池の畔にそびえる針葉樹を指した。
「まずはあの木に向かって技を繰り出してくれ」
「そんなの簡単」
マントを脱ごうとするクローレをキージェは止めた。
「着たままでやれ」
「なんでよ」と、口をとがらせたクローレがすぐに手をたたく。「あっ、そうか、動きを制限して技を見たいんだ。さすが師匠、そこまで考えてたんですね」
――何も考えてねえよ。
何も考えたくねえから、言ってんだよ。
剣を振るえば、あの女の香りがまき散らされるし、露出の多い肌を無視できるほど、俺は人間ができてはいない。
そもそも、広場でこいつを助けたのだって、『おっぱい!』なんて下品な野次が飛ぶあの肉体を衆人の好奇な目にさらしたくなかったからだ。
俺以外の目には……な。
「あ、ちょっと師匠、ごめんなさい」
クローレは頭の後ろに手を回し、髪の毛をまとめ始めた。
脇が上がってマントの前が開く。
――うわおっ。
キージェは思わず背中を向けた。
敵にも背中なんか見せねえのに。
油断も隙もありゃしない……ていうか、隙だらけなのか、俺もこいつも。
いちいち見せつけるんじゃねえよ。
「師匠、どうしたの?」
「準備できたら、早くやれ」
「はいっ!」
返事の調子が変わる。
「いいか、さっきの憎たらしい相手を思い浮かべてもいい。殺気をぶつけるんだ」
「さっきと殺気、駄洒落?」と、ニヤけたクローレが振り向く。
破門だ、てめえ。
せっかく真面目になったかと思ったのによ。
キージェはかろうじて乱暴な言葉を飲み込んだ。
木と正対したクローレはフレイムクロウを抜いて構える。
キージェは背後からその姿を眺めていた。
――いい殺気だ。
決してマントに隠れていても分かるその流麗な腰つきに見とれているわけではない。
断じてそんなことはない。
キージェは剣士の目になってクローレの演武を見つめた。
「ハッ!」
幹に向かって踏み込んだクローレがフレイムクロウに炎をまとわせ、右、左と突きを繰り出す。
右へ飛び退き、再び打突を二撃。
幹の背後に回って炎弧旋回からの火炎乱舞。
――ほう。
流れるような一連の技に隙はない。
だが、キージェは黙って歩み寄ると、クローレの腕をつかんだ。
「遅い」
「ちょ、何!」
演武を中断されたクローレは呆然と剣を下ろした。
「いきなり何するのよ」
「流れはいいが、遅い」
クローレは左頬を膨らませてうつむく。
「遅くないもん」
「事実だろ。現に、こうして俺に止められてる」
剣士としての面目が潰れて唇を噛む。
「だけど、あたし、爪竜だって倒したんだよ」と、クローレは剣を掲げた。「このフレイムクロウは戦利品の爪で作ったんだから」
「あれは爪がでかいだけに、動きは遅いだろ。翼竜じゃねえから、空へは逃げないし、背中を取って力任せにやれば勝てる。もちろん口で言うほど簡単じゃねえけどな」
見てきたように言い当てられて、クローレは口をとがらせて顔を背けた。
キージェはあえて冷たい言葉を投げた。
「やめたければやめろ。俺はべつに構わないぞ」
――その方が、俺も助かる。
「よし、ここだ」
森に湧き出た泉のほとりだ。
キージェもふだんここで鍛錬をし、汗をかいたらそのまま風呂代わりに使っている。
「わあ、きれいな泉! 冷たくて気持ちいい!」
さっそく水に手を差し入れはしゃぐクローレにキージェは苦言を呈した。
「遊びに来たんじゃねえよ」
「はいはい。どんな練習するんですか」
キージェは池の畔にそびえる針葉樹を指した。
「まずはあの木に向かって技を繰り出してくれ」
「そんなの簡単」
マントを脱ごうとするクローレをキージェは止めた。
「着たままでやれ」
「なんでよ」と、口をとがらせたクローレがすぐに手をたたく。「あっ、そうか、動きを制限して技を見たいんだ。さすが師匠、そこまで考えてたんですね」
――何も考えてねえよ。
何も考えたくねえから、言ってんだよ。
剣を振るえば、あの女の香りがまき散らされるし、露出の多い肌を無視できるほど、俺は人間ができてはいない。
そもそも、広場でこいつを助けたのだって、『おっぱい!』なんて下品な野次が飛ぶあの肉体を衆人の好奇な目にさらしたくなかったからだ。
俺以外の目には……な。
「あ、ちょっと師匠、ごめんなさい」
クローレは頭の後ろに手を回し、髪の毛をまとめ始めた。
脇が上がってマントの前が開く。
――うわおっ。
キージェは思わず背中を向けた。
敵にも背中なんか見せねえのに。
油断も隙もありゃしない……ていうか、隙だらけなのか、俺もこいつも。
いちいち見せつけるんじゃねえよ。
「師匠、どうしたの?」
「準備できたら、早くやれ」
「はいっ!」
返事の調子が変わる。
「いいか、さっきの憎たらしい相手を思い浮かべてもいい。殺気をぶつけるんだ」
「さっきと殺気、駄洒落?」と、ニヤけたクローレが振り向く。
破門だ、てめえ。
せっかく真面目になったかと思ったのによ。
キージェはかろうじて乱暴な言葉を飲み込んだ。
木と正対したクローレはフレイムクロウを抜いて構える。
キージェは背後からその姿を眺めていた。
――いい殺気だ。
決してマントに隠れていても分かるその流麗な腰つきに見とれているわけではない。
断じてそんなことはない。
キージェは剣士の目になってクローレの演武を見つめた。
「ハッ!」
幹に向かって踏み込んだクローレがフレイムクロウに炎をまとわせ、右、左と突きを繰り出す。
右へ飛び退き、再び打突を二撃。
幹の背後に回って炎弧旋回からの火炎乱舞。
――ほう。
流れるような一連の技に隙はない。
だが、キージェは黙って歩み寄ると、クローレの腕をつかんだ。
「遅い」
「ちょ、何!」
演武を中断されたクローレは呆然と剣を下ろした。
「いきなり何するのよ」
「流れはいいが、遅い」
クローレは左頬を膨らませてうつむく。
「遅くないもん」
「事実だろ。現に、こうして俺に止められてる」
剣士としての面目が潰れて唇を噛む。
「だけど、あたし、爪竜だって倒したんだよ」と、クローレは剣を掲げた。「このフレイムクロウは戦利品の爪で作ったんだから」
「あれは爪がでかいだけに、動きは遅いだろ。翼竜じゃねえから、空へは逃げないし、背中を取って力任せにやれば勝てる。もちろん口で言うほど簡単じゃねえけどな」
見てきたように言い当てられて、クローレは口をとがらせて顔を背けた。
キージェはあえて冷たい言葉を投げた。
「やめたければやめろ。俺はべつに構わないぞ」
――その方が、俺も助かる。
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