22 / 84
(4-5)
しおりを挟む
おっさんの昔語りを聞かせるのが気まずくてキージェは話を止めた。
クローレは手の甲で頬をぬぐい、鼻をすすりながら顔を上げた。
赤く腫れた目はただキージェを向いているだけで、何が見えているのかは分からなかった。
「なんで偽名なんか使って逃げてたの?」
クローレのつぶやきには何の感情もこもっていなかった。
怒りでも愚痴でもなく、その質問に興味すらないように思えた。
「俺は魔物との決戦の後、黒衣騎兵を辞めようとした。盟友の死で心が折れたなんて言えばそれっぽいが、戦うことにただ疲れただけだ。だが、国王軍を統率する将軍はそれを認めなかった。だから俺は逃げた。それで追っ手が今でも襲撃してくるってわけさ」
キージェは懐から紐に吊した印章を取り出した。
常に肌身離さず持ち歩いているものだ。
「これは黒衣騎兵の指揮官が持つ印章だ」
跳躍する馬を月桂冠が取り囲んだ紋章が刻まれている。
「俺が抜けた後の黒衣騎兵は志を見失い、国王の政治に逆らうものを叩き潰すだけの暗黒の騎士団になっちまった。俺がいた頃とは別物だ」
「何があったの?」
「分からん」と、キージェは力なく首を振った。「倒した魔物の怨念とも、単なる国王の乱心とも言われているらしいが、本当のところは俺も知らない。関係を絶ったのは、もうずいぶん昔のことだからな」
クローレは涙をぬぐい、キージェを見上げた。
「じゃあ、キージェは私の村を襲った連中とは関係ないの?」
「ああ、そうだ。俺が辞めたのは十五年も前だ」
「私の村が襲撃されたのは八年前だよ」
「単純な計算だな」
「だったら、別に責任を感じる必要はないじゃない!」
キージェは苦笑し、遠くを見つめる。
「直接はないだろうが、俺が辞めてなかったら、こんなふうにはなってなかったかもしれない」
「先にそれを言ってよ」
立ち上がったクローレがいきなりキージェに抱きついた。
背中に回した腕があばらを折る勢いだ。
「お、おい」
まったく予想外の行動に中年男はうろたえるばかりだった。
――何が先読みの拡嵐心眼だよ。
無抵抗で懐に飛び込まれやがって、だらしねえったらありゃしねえ。
敵だったら即死だろ。
――いや。
本当に俺が刺されてやればよかったのかもな。
そうすれば、こいつは敵討ちが成就して過去の呪縛から解き放たれたかもしれない。
真実に意味なんかない。
そんなもの、嘘を使いこなすためのただの道具に過ぎないんだからな。
クローレは手の甲で頬をぬぐい、鼻をすすりながら顔を上げた。
赤く腫れた目はただキージェを向いているだけで、何が見えているのかは分からなかった。
「なんで偽名なんか使って逃げてたの?」
クローレのつぶやきには何の感情もこもっていなかった。
怒りでも愚痴でもなく、その質問に興味すらないように思えた。
「俺は魔物との決戦の後、黒衣騎兵を辞めようとした。盟友の死で心が折れたなんて言えばそれっぽいが、戦うことにただ疲れただけだ。だが、国王軍を統率する将軍はそれを認めなかった。だから俺は逃げた。それで追っ手が今でも襲撃してくるってわけさ」
キージェは懐から紐に吊した印章を取り出した。
常に肌身離さず持ち歩いているものだ。
「これは黒衣騎兵の指揮官が持つ印章だ」
跳躍する馬を月桂冠が取り囲んだ紋章が刻まれている。
「俺が抜けた後の黒衣騎兵は志を見失い、国王の政治に逆らうものを叩き潰すだけの暗黒の騎士団になっちまった。俺がいた頃とは別物だ」
「何があったの?」
「分からん」と、キージェは力なく首を振った。「倒した魔物の怨念とも、単なる国王の乱心とも言われているらしいが、本当のところは俺も知らない。関係を絶ったのは、もうずいぶん昔のことだからな」
クローレは涙をぬぐい、キージェを見上げた。
「じゃあ、キージェは私の村を襲った連中とは関係ないの?」
「ああ、そうだ。俺が辞めたのは十五年も前だ」
「私の村が襲撃されたのは八年前だよ」
「単純な計算だな」
「だったら、別に責任を感じる必要はないじゃない!」
キージェは苦笑し、遠くを見つめる。
「直接はないだろうが、俺が辞めてなかったら、こんなふうにはなってなかったかもしれない」
「先にそれを言ってよ」
立ち上がったクローレがいきなりキージェに抱きついた。
背中に回した腕があばらを折る勢いだ。
「お、おい」
まったく予想外の行動に中年男はうろたえるばかりだった。
――何が先読みの拡嵐心眼だよ。
無抵抗で懐に飛び込まれやがって、だらしねえったらありゃしねえ。
敵だったら即死だろ。
――いや。
本当に俺が刺されてやればよかったのかもな。
そうすれば、こいつは敵討ちが成就して過去の呪縛から解き放たれたかもしれない。
真実に意味なんかない。
そんなもの、嘘を使いこなすためのただの道具に過ぎないんだからな。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる