33 / 84
(6-4)
しおりを挟む
と、脳をくすぐられるような幼い声が聞こえた。
――耳、ふさいで。
何?
言われるままに耳を手でふさいだその瞬間だった。
ウオォォォォォォーン!
雪狼が吠えた。
山を震わせ、雪崩を起こすと言われる咆哮が巻き起こす強烈な音波で脳が揺さぶられ、めまいをこらえて思わず目を閉じる。
手で押さえていても耳がまったく聞こえなくなった。
あまりの衝撃に、少しの間顔を上げることすらできずに、キージェは薄目を開けて周囲をうかがった。
もろに咆哮を浴びた連中はもっと悲惨だった。
ヴェルザードは耳を押さえてうずくまり、リリスは膝をついて木にもたれ、吐き気をこらえきれずにえずいている。
ガルドは戦斧を自分の足に落として尻餅をついてうめいている。
髪をつかまれていたクローレは放り出され、地面に横たわっている。
「おい、クローレ!」
駆け寄ると、弟子は銀髪を泥まみれにしながらひっくり返って白目をむいていた。
――こいつが一番情けねえとはな。
抱き起こしてやっても、意識が戻らない。
「しっかりしろ、おい」
キージェは雪狼のかたわらにクローレを運んでそっともたれさせた。
「ちょっとこいつのことを見ててくれ」
――任せて。
やはり心に直接声が響いてくる。
「おまえ、話せるんだな」
吠えた雪狼自身は澄ました表情でキージェを見つめている。
金色の瞳が燃え、その姿には神聖な威圧感が宿っているが、キージェとの間には、奇妙な連帯感ができあがっていた。
「頼むぜ」
立ち上がってストームブレイドを握りしめると、キージェはヴェルザードの鼻先に剣の錆をこすりつけた。
「おまえら、許さねえぞ」
ヴェルザードは杖を投げ捨て、膝をついてキージェを見上げた。
「ま、待て。降参だ」
よろめきながら立ち上がったリリスはガルドの背中に隠れている。
「罠の鍵をよこせ」
「ほらよ」と、ヴェルザードはあっさり鍵を投げ出した。
地面に落ちている杖を蹴り上げたキージェはストームブレイドを振るい、真っ二つに切断した。
「失せろ」
「い、いいのか……」
ヴェルザードは膝をついたまま後ろへ下がり、立ち上がったかと思うと背中を見せて逃げていく。
「ちょ、置いてかないでよ」
「ずりいぞ、おまえ」
リリスとガルドも武器を投げ捨て走り去る。
三人の姿が森に見えなくなったところで、「覚えてやがれよ」と、捨て台詞が木々のざわめきに紛れて消えた。
キージェは鍵を拾い上げ、雪狼のもとへ歩み寄ると、慎重に罠を外してやった。
脚に食い込んでいた鋭い金属の歯を抜くと、白い毛が血に染まる。
「痛むか?」
キージェはとりあえず、布で押さえて止血した。
――大丈夫。
「歩けないだろ」
――治せる。
ん?
「ヒーリング能力があるのか?」
雪狼はうなずくかのように、キージェの腕に頬をこすりつけた。
――耳、ふさいで。
何?
言われるままに耳を手でふさいだその瞬間だった。
ウオォォォォォォーン!
雪狼が吠えた。
山を震わせ、雪崩を起こすと言われる咆哮が巻き起こす強烈な音波で脳が揺さぶられ、めまいをこらえて思わず目を閉じる。
手で押さえていても耳がまったく聞こえなくなった。
あまりの衝撃に、少しの間顔を上げることすらできずに、キージェは薄目を開けて周囲をうかがった。
もろに咆哮を浴びた連中はもっと悲惨だった。
ヴェルザードは耳を押さえてうずくまり、リリスは膝をついて木にもたれ、吐き気をこらえきれずにえずいている。
ガルドは戦斧を自分の足に落として尻餅をついてうめいている。
髪をつかまれていたクローレは放り出され、地面に横たわっている。
「おい、クローレ!」
駆け寄ると、弟子は銀髪を泥まみれにしながらひっくり返って白目をむいていた。
――こいつが一番情けねえとはな。
抱き起こしてやっても、意識が戻らない。
「しっかりしろ、おい」
キージェは雪狼のかたわらにクローレを運んでそっともたれさせた。
「ちょっとこいつのことを見ててくれ」
――任せて。
やはり心に直接声が響いてくる。
「おまえ、話せるんだな」
吠えた雪狼自身は澄ました表情でキージェを見つめている。
金色の瞳が燃え、その姿には神聖な威圧感が宿っているが、キージェとの間には、奇妙な連帯感ができあがっていた。
「頼むぜ」
立ち上がってストームブレイドを握りしめると、キージェはヴェルザードの鼻先に剣の錆をこすりつけた。
「おまえら、許さねえぞ」
ヴェルザードは杖を投げ捨て、膝をついてキージェを見上げた。
「ま、待て。降参だ」
よろめきながら立ち上がったリリスはガルドの背中に隠れている。
「罠の鍵をよこせ」
「ほらよ」と、ヴェルザードはあっさり鍵を投げ出した。
地面に落ちている杖を蹴り上げたキージェはストームブレイドを振るい、真っ二つに切断した。
「失せろ」
「い、いいのか……」
ヴェルザードは膝をついたまま後ろへ下がり、立ち上がったかと思うと背中を見せて逃げていく。
「ちょ、置いてかないでよ」
「ずりいぞ、おまえ」
リリスとガルドも武器を投げ捨て走り去る。
三人の姿が森に見えなくなったところで、「覚えてやがれよ」と、捨て台詞が木々のざわめきに紛れて消えた。
キージェは鍵を拾い上げ、雪狼のもとへ歩み寄ると、慎重に罠を外してやった。
脚に食い込んでいた鋭い金属の歯を抜くと、白い毛が血に染まる。
「痛むか?」
キージェはとりあえず、布で押さえて止血した。
――大丈夫。
「歩けないだろ」
――治せる。
ん?
「ヒーリング能力があるのか?」
雪狼はうなずくかのように、キージェの腕に頬をこすりつけた。
10
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる