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異世界編 1章
第52話 必殺技その5
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スレイブと闘っている為次は、とても困惑していた。
何故なら、今やっている行動は自分の考えと全く逆の行為なのだから。
ついさっきまで、俺理論を妄想していた。
「自分から厄介事に首を突っ込むなど言語道断! 愚か者の極みである」
と……
しかし、どう考えても今の自分はベストな選択肢を選んだとは到底思えない。
正に自分自身が愚か者の極みに違いないのだ。
だが、為次は不思議と悪い気分では無かった。
「ははっ、ほんと愚か者だね、俺は」
「なんのことだ?」
ガキィィィン!
大剣と刀が交錯する。
スピードでは若干為次が上回っているものの、その他はスレイブが勝っている感じだ。
しかも、為次は鞘を手に持っているので、片手でしか刀が振れない。
その辺に投げ捨てればいいかも知れないが、それができなかった……
為次は何か商品を買っても、箱が捨てれないのだ!
ゲーム機は箱が保証書になっているので、まだいいが、テレビや掃除機の箱も大切に保管してある。
終いには、テレビなどの本体が壊れても、以前の箱が綺麗に残っている状態だ。
更には、ケーブルをまとめているビニールの付いた針金や、USBの先っちょに被せてある白いのも大切にとってある。
だから、どうにも鞘を手放せない。
仕方ないので、ちょくちょく刀を鞘に収めては、変な抜刀術か居合い切りみたくなっている。
それでも、為次は果敢に刀を振り回した。
能力のおかげだろう、なんとかスレイブの攻撃を受け流すことができるが、防戦一方である。
「おいおい、なんだか戦い辛そうだな」
そのスレイブの問に、為次は答えなかった。
いや、答えられなかった……
「はぁ…… はぁ……」
もの凄く息が上がっている。
まだ数分も戦っていないのに、凄く疲れてる。
尋常ではない疲れ方だ。
「くっそ(な、なんだこれ? 疲れた…… もう休みたいかも)」
その一瞬の隙であった…… スレイブの攻撃に対応が遅れた。
なんとか、刀で受け止めることはできたものの、受け流すのとは違い、モロに衝撃を受けてしまうのだ。
「ぐはぁっ!」
フルスイングされた大剣に刀ごと殴り飛ばされてしまう。
そして、そのまま近くの木に打ち付けられ崩れ落ちた。
「どうした? もう、おねんねか?」
「ぐっ…… くっそ……」
なんとか刀を杖がわりにして立ち上がる為次。
「ぜぇ…… ぜぇ……(もう無理、マジ最悪。俺は何をやっているんだ…… はぁ、次で最後かな……)」
スレイブは大剣を構え、為次を睨んでいる。
為次も刀を鞘に収めて必死に構える。
それを見たスレイブは、走って間合いを詰めに行くのだ。
為次は刀に全身全霊を込めて突っ込んで行った。
「これで、終わりだ!」
叫ぶスレイブは大剣を薙ぎ払う!
「でりゃぁぁぁぁぁ!」
しかし、為次は薙ぎ払い攻撃を寸前でジャンプして避けた。
ブォン!
大剣が空を斬る。
「何っ!?」
次の瞬間……
為次は抜刀をしながら空中で高速回転斬りをする!
「必殺…… なんちゃら斬!」
とりあえず、適当に必殺技名を付けてみた。
その動きは、とても人間業では無かった……
空中で何も無しにベクトルを無視して動きを変えるなど、不可能に決まっている。
それでも、為次は人間離れした、その動きをやってしまった。
―― 斬! ――
確かに手応えはあった……
スレイブを飛び越え後ろに着地した為次は、振り返る。
そこに見えるのは、怒りに狂ったスレイブであった。
「タメェツゥグァァァ!! 貴様もかぁぁぁ!!」
「貴様…… も?」
スレイブは、ボトリと大剣を地面に落とした……
否……
正確には大剣を掴んでいる右腕を落とした……
「がぁぁぁぁぁ!」
右腕のあった場所を押さえながら呻くスレイブ。
それでも為次を睨みつけるのだ。
しかし、当の為次は……
「うひゃひゃ、やったぞい」
「チキショー……」
「とりあえず、デザを取り返さないとねー」
そう言いうと腕を失ったスレイブは、ほかっといてターナの方を向くのだ。
「ギクッ」
ターナは苦笑いをしながら為次を見ていた。
「その、おっぱいから優しく取り出してあげまちゅよー」
なぜかターナは、今もおっぱいにデザートイーグルを挟んだままである。
「ご、ご主人様ぁ…… スイのおっぱいも…… ゲハぁ!」
スイは血を吐きながら、何か言っている……
とりあえずスイは無視して、ターナに近付こうとした時であった。
「おっぱいちゃん、待っててねー…… って、あ? あれ?」
ガクンと膝を付いてしまう。
そのままビターン! と顔面から突っ伏してしまった。
「ハァハァ…… な、何? 体が動かないお。なんか知らんが、めっちゃしんどいお…… ぜぇ…… ぜぇ……」
為次は突然動けなくなってしまった。
そんな、急に動けなくなった為次にスレイブは近寄る。
「へへっ、気力が尽きたか。気功士さんよ」
倒れる為次を睨むと思いっ切り腹を蹴飛ばした。
「ぐはっ! ぎゃぁぁぁっ」
痛みに悶ようとするのだが、体が上手く動かない。
為次は涙目で痛みを堪えるしかなかった。
「へへへ、まだ終わっちゃいないぜ」
「スレイブ…… もう、勝負はついたわ」
ターナはスレイブを止めようとした。
「終わってねぇぇってんだよっ!」
スレイブは鬼の形相で動けない為次を見下ろすと何度も蹴りまくるのだ。
ドカッ ドカッ バキッ
「がぁっ、 ぐはっ、あぁぁぁ……」
その様子を見ていたスイは立ち上がると、スレイブに駆け寄り、為次から離そうと後ろからしがみついた。
「もう、止めて下さい!」
「うるせー! 邪魔だ!」
スレイブはスイを振り払うと、残った左手で頭を鷲掴みにし放り投げる。
「きゃぁぁぁっ……」
そして、右腕の付いたままの大剣を拾い為次に向かって振り上げた。
その時……
「ダメェェェェェ!!」
叫ぶスイの手には、ポーションセットの瓶が一本握られていた。
その瓶が眩いばかりの光を突如放つ!!
スイは無意識のうちに魔法のポーションを作り上げているのだ。
呪文も唱えずに叫び声だけで、魔法が付与される。
謎の魔法のポーションは眩しい金色の光を放ったままであった。
為次にとどめを刺そうとしたスレイブも、その光景を驚いた表情で見ていた。
しかし、それ以上に驚き、驚愕したのはターナである。
「ど、どうして…… どうしてあの娘が禁忌魔法を……」
「禁忌魔法だと?」
「ご主人様は、私が命に代えても守ります!」
そう言いながら、スイは謎のポーションの蓋を取った……
「ダメよスイ!! そんな物を飲んでは!」
「もう、誰にもご主人様を傷つけさせません!」
「やめなさい! 元に戻れなくなりますわ!」
「構いませんっ! です!」
そんなやり取りを為次は朦朧とする意識の中、倒れながら聞いていた。
「な、なんだ?(スイ、何をやってんだ? 元に戻れなくなるって? やめろ…… やめてくれ…… スイ)」
スイが金色のポーションを飲もうとした、その時であった。
為次は起き上がると、全力でスイに突っ込んで行く。
自分でも分からなかった…… なぜ動けたのか?
もう、動ける気力もなく、意識もほとんど無かった、それでも……
「うわぁぁぁぁぁ!」
為次は今まで一番速く走れたと思った。
スイが金色のポーションを飲む寸前に体当たりをかましたのだ。
為次とスイは絡み合うと、地面にゴロゴロと転がる。
その拍子に、飲もうとしていたポーションの入った瓶が宙を舞う。
瓶は草むらに落ちると、金色の液体がコポコポとこぼれてしまった。
「なんだ、タメツグの野郎、まだ動けたのかよ」
「……スレイブ、 ……逃げなさい」
「ん? どうした、ターナ?」
「いいから、早く! その二人を連れて逃げて!」
スレイブは二人を見るとスイは起き上がり、為次を呼びながら必死に揺さぶっている。
「ご主人様ぁ…… ご主人様ぁ……」
だが、為次は苦しそうに呼吸をするだけで、動かなかった。
だから、スレイブは意味が分からない。
「なんで、こんな奴らを連れて逃げるんだ?」
そう言いながらターナの方を振り向いた。
しかし、スレイブの目に映った者はターナではなかった。
目の前には不気味に増殖する謎の植物の姿がある……
「な、なんだこりゃぁ……」
瓶の落ちた場所にあった草がみるみる内に、巨大な草の塊になって行く。
その成長した大きさは優に8メートルは超えているのだろうか?
増殖が止まると、大きな草の怪物は、大きな口を開け吠えた。
開かれた口の中には鋭い歯が何本も生えている。
「て、テンドリキュロス…… こんなものが……」
ターナは突如発生した草の魔獣を見て言った。
「ど、どうなってんだよ……」
テンドリキュロスはターナに近づくと触手のような手を伸ばす。
「きゃぁぁぁぁぁ……」
ターナは触手に捕まり吊るされると、怪物の大きな口に入れられようとする。
「ターナ!」
スレイブは咄嗟に、右腕の付いたままの大剣で触手を斬り落とす。
そして、触手に絡まれたまま地面に落ちるターナを助けに行こうとするが……
テンドリキュロスの切り落とされた触手は、すぐに再生し、再び2人を襲うのだ。
スレイブは大剣を捨て、必死に片手でターナを連れて逃げようとする。
しかし、手負いのスレイブでは逃げ切れなかった。
「くそっ! なんだよコイツはっ!」
「スレイブ、あなただけでも逃げてちょうだい」
「そんなこと、できる分けねーだろ!」
だが、テンドリキュロスの触手が2人を掴もうとしたその時である。
ズバッ!
触手は、またも切断されてしまった。
「「……え?」」
ターナとスレイブは何が起こったのか分からなかった。
見ると少し離れた所に、抜刀直後のポーズで為次が立っている。
「どうして…… タメツグ」
「タメツグ…… お前……」
為次はもう、自分が何をしているのか、よく分からなかった。
あまりにも眠いので、目もうまく開けれず視界も悪い。
全身だるくて、立っているのも不思議なくらいである。
「はぁ(まだ、なんかあるのか…… めんどくさ)」
為次は面倒臭いのが嫌いだ、何よりも嫌いだ。
だから、もう終わりにしたかった。
再び刀を鞘に納める。
そして……
「あああああ! めんどくせぇぇぇ!」
テンドリキュロスの足らしき足元まで一気に潜り込むと、上に向かって抜刀し、そのままの勢いで飛び上がる!
しかも、抜刀された刀身は炎に包まれているのだ。
炎を纏う刀は一閃、テンドリキュロスを下から上に切り裂いて行く!
テンドリキュロスは叫ぶことすらできなかった。
一瞬の出来事である…… 体を縦に真っ二つにされ燃え上がるのだ。
怪物は燃え草となり、残骸を残すだけであった……
一方、8メートル以上も飛び上がってしまった為次は、上の方でヘロヘロになってしまった。
結局、着地はできずに、そのまま落っこちて地面に叩き付けられてしまった。
地面で小刻みにビクンビクンする為次をスイは抱き寄せる。
そして、静かに涙を流すのであった……
スイの胸に抱かれ、薄れゆく意識の中で為次は思う。
また、スイは泣いているのか…… ほんと泣き虫だなぁ
と……
何故なら、今やっている行動は自分の考えと全く逆の行為なのだから。
ついさっきまで、俺理論を妄想していた。
「自分から厄介事に首を突っ込むなど言語道断! 愚か者の極みである」
と……
しかし、どう考えても今の自分はベストな選択肢を選んだとは到底思えない。
正に自分自身が愚か者の極みに違いないのだ。
だが、為次は不思議と悪い気分では無かった。
「ははっ、ほんと愚か者だね、俺は」
「なんのことだ?」
ガキィィィン!
大剣と刀が交錯する。
スピードでは若干為次が上回っているものの、その他はスレイブが勝っている感じだ。
しかも、為次は鞘を手に持っているので、片手でしか刀が振れない。
その辺に投げ捨てればいいかも知れないが、それができなかった……
為次は何か商品を買っても、箱が捨てれないのだ!
ゲーム機は箱が保証書になっているので、まだいいが、テレビや掃除機の箱も大切に保管してある。
終いには、テレビなどの本体が壊れても、以前の箱が綺麗に残っている状態だ。
更には、ケーブルをまとめているビニールの付いた針金や、USBの先っちょに被せてある白いのも大切にとってある。
だから、どうにも鞘を手放せない。
仕方ないので、ちょくちょく刀を鞘に収めては、変な抜刀術か居合い切りみたくなっている。
それでも、為次は果敢に刀を振り回した。
能力のおかげだろう、なんとかスレイブの攻撃を受け流すことができるが、防戦一方である。
「おいおい、なんだか戦い辛そうだな」
そのスレイブの問に、為次は答えなかった。
いや、答えられなかった……
「はぁ…… はぁ……」
もの凄く息が上がっている。
まだ数分も戦っていないのに、凄く疲れてる。
尋常ではない疲れ方だ。
「くっそ(な、なんだこれ? 疲れた…… もう休みたいかも)」
その一瞬の隙であった…… スレイブの攻撃に対応が遅れた。
なんとか、刀で受け止めることはできたものの、受け流すのとは違い、モロに衝撃を受けてしまうのだ。
「ぐはぁっ!」
フルスイングされた大剣に刀ごと殴り飛ばされてしまう。
そして、そのまま近くの木に打ち付けられ崩れ落ちた。
「どうした? もう、おねんねか?」
「ぐっ…… くっそ……」
なんとか刀を杖がわりにして立ち上がる為次。
「ぜぇ…… ぜぇ……(もう無理、マジ最悪。俺は何をやっているんだ…… はぁ、次で最後かな……)」
スレイブは大剣を構え、為次を睨んでいる。
為次も刀を鞘に収めて必死に構える。
それを見たスレイブは、走って間合いを詰めに行くのだ。
為次は刀に全身全霊を込めて突っ込んで行った。
「これで、終わりだ!」
叫ぶスレイブは大剣を薙ぎ払う!
「でりゃぁぁぁぁぁ!」
しかし、為次は薙ぎ払い攻撃を寸前でジャンプして避けた。
ブォン!
大剣が空を斬る。
「何っ!?」
次の瞬間……
為次は抜刀をしながら空中で高速回転斬りをする!
「必殺…… なんちゃら斬!」
とりあえず、適当に必殺技名を付けてみた。
その動きは、とても人間業では無かった……
空中で何も無しにベクトルを無視して動きを変えるなど、不可能に決まっている。
それでも、為次は人間離れした、その動きをやってしまった。
―― 斬! ――
確かに手応えはあった……
スレイブを飛び越え後ろに着地した為次は、振り返る。
そこに見えるのは、怒りに狂ったスレイブであった。
「タメェツゥグァァァ!! 貴様もかぁぁぁ!!」
「貴様…… も?」
スレイブは、ボトリと大剣を地面に落とした……
否……
正確には大剣を掴んでいる右腕を落とした……
「がぁぁぁぁぁ!」
右腕のあった場所を押さえながら呻くスレイブ。
それでも為次を睨みつけるのだ。
しかし、当の為次は……
「うひゃひゃ、やったぞい」
「チキショー……」
「とりあえず、デザを取り返さないとねー」
そう言いうと腕を失ったスレイブは、ほかっといてターナの方を向くのだ。
「ギクッ」
ターナは苦笑いをしながら為次を見ていた。
「その、おっぱいから優しく取り出してあげまちゅよー」
なぜかターナは、今もおっぱいにデザートイーグルを挟んだままである。
「ご、ご主人様ぁ…… スイのおっぱいも…… ゲハぁ!」
スイは血を吐きながら、何か言っている……
とりあえずスイは無視して、ターナに近付こうとした時であった。
「おっぱいちゃん、待っててねー…… って、あ? あれ?」
ガクンと膝を付いてしまう。
そのままビターン! と顔面から突っ伏してしまった。
「ハァハァ…… な、何? 体が動かないお。なんか知らんが、めっちゃしんどいお…… ぜぇ…… ぜぇ……」
為次は突然動けなくなってしまった。
そんな、急に動けなくなった為次にスレイブは近寄る。
「へへっ、気力が尽きたか。気功士さんよ」
倒れる為次を睨むと思いっ切り腹を蹴飛ばした。
「ぐはっ! ぎゃぁぁぁっ」
痛みに悶ようとするのだが、体が上手く動かない。
為次は涙目で痛みを堪えるしかなかった。
「へへへ、まだ終わっちゃいないぜ」
「スレイブ…… もう、勝負はついたわ」
ターナはスレイブを止めようとした。
「終わってねぇぇってんだよっ!」
スレイブは鬼の形相で動けない為次を見下ろすと何度も蹴りまくるのだ。
ドカッ ドカッ バキッ
「がぁっ、 ぐはっ、あぁぁぁ……」
その様子を見ていたスイは立ち上がると、スレイブに駆け寄り、為次から離そうと後ろからしがみついた。
「もう、止めて下さい!」
「うるせー! 邪魔だ!」
スレイブはスイを振り払うと、残った左手で頭を鷲掴みにし放り投げる。
「きゃぁぁぁっ……」
そして、右腕の付いたままの大剣を拾い為次に向かって振り上げた。
その時……
「ダメェェェェェ!!」
叫ぶスイの手には、ポーションセットの瓶が一本握られていた。
その瓶が眩いばかりの光を突如放つ!!
スイは無意識のうちに魔法のポーションを作り上げているのだ。
呪文も唱えずに叫び声だけで、魔法が付与される。
謎の魔法のポーションは眩しい金色の光を放ったままであった。
為次にとどめを刺そうとしたスレイブも、その光景を驚いた表情で見ていた。
しかし、それ以上に驚き、驚愕したのはターナである。
「ど、どうして…… どうしてあの娘が禁忌魔法を……」
「禁忌魔法だと?」
「ご主人様は、私が命に代えても守ります!」
そう言いながら、スイは謎のポーションの蓋を取った……
「ダメよスイ!! そんな物を飲んでは!」
「もう、誰にもご主人様を傷つけさせません!」
「やめなさい! 元に戻れなくなりますわ!」
「構いませんっ! です!」
そんなやり取りを為次は朦朧とする意識の中、倒れながら聞いていた。
「な、なんだ?(スイ、何をやってんだ? 元に戻れなくなるって? やめろ…… やめてくれ…… スイ)」
スイが金色のポーションを飲もうとした、その時であった。
為次は起き上がると、全力でスイに突っ込んで行く。
自分でも分からなかった…… なぜ動けたのか?
もう、動ける気力もなく、意識もほとんど無かった、それでも……
「うわぁぁぁぁぁ!」
為次は今まで一番速く走れたと思った。
スイが金色のポーションを飲む寸前に体当たりをかましたのだ。
為次とスイは絡み合うと、地面にゴロゴロと転がる。
その拍子に、飲もうとしていたポーションの入った瓶が宙を舞う。
瓶は草むらに落ちると、金色の液体がコポコポとこぼれてしまった。
「なんだ、タメツグの野郎、まだ動けたのかよ」
「……スレイブ、 ……逃げなさい」
「ん? どうした、ターナ?」
「いいから、早く! その二人を連れて逃げて!」
スレイブは二人を見るとスイは起き上がり、為次を呼びながら必死に揺さぶっている。
「ご主人様ぁ…… ご主人様ぁ……」
だが、為次は苦しそうに呼吸をするだけで、動かなかった。
だから、スレイブは意味が分からない。
「なんで、こんな奴らを連れて逃げるんだ?」
そう言いながらターナの方を振り向いた。
しかし、スレイブの目に映った者はターナではなかった。
目の前には不気味に増殖する謎の植物の姿がある……
「な、なんだこりゃぁ……」
瓶の落ちた場所にあった草がみるみる内に、巨大な草の塊になって行く。
その成長した大きさは優に8メートルは超えているのだろうか?
増殖が止まると、大きな草の怪物は、大きな口を開け吠えた。
開かれた口の中には鋭い歯が何本も生えている。
「て、テンドリキュロス…… こんなものが……」
ターナは突如発生した草の魔獣を見て言った。
「ど、どうなってんだよ……」
テンドリキュロスはターナに近づくと触手のような手を伸ばす。
「きゃぁぁぁぁぁ……」
ターナは触手に捕まり吊るされると、怪物の大きな口に入れられようとする。
「ターナ!」
スレイブは咄嗟に、右腕の付いたままの大剣で触手を斬り落とす。
そして、触手に絡まれたまま地面に落ちるターナを助けに行こうとするが……
テンドリキュロスの切り落とされた触手は、すぐに再生し、再び2人を襲うのだ。
スレイブは大剣を捨て、必死に片手でターナを連れて逃げようとする。
しかし、手負いのスレイブでは逃げ切れなかった。
「くそっ! なんだよコイツはっ!」
「スレイブ、あなただけでも逃げてちょうだい」
「そんなこと、できる分けねーだろ!」
だが、テンドリキュロスの触手が2人を掴もうとしたその時である。
ズバッ!
触手は、またも切断されてしまった。
「「……え?」」
ターナとスレイブは何が起こったのか分からなかった。
見ると少し離れた所に、抜刀直後のポーズで為次が立っている。
「どうして…… タメツグ」
「タメツグ…… お前……」
為次はもう、自分が何をしているのか、よく分からなかった。
あまりにも眠いので、目もうまく開けれず視界も悪い。
全身だるくて、立っているのも不思議なくらいである。
「はぁ(まだ、なんかあるのか…… めんどくさ)」
為次は面倒臭いのが嫌いだ、何よりも嫌いだ。
だから、もう終わりにしたかった。
再び刀を鞘に納める。
そして……
「あああああ! めんどくせぇぇぇ!」
テンドリキュロスの足らしき足元まで一気に潜り込むと、上に向かって抜刀し、そのままの勢いで飛び上がる!
しかも、抜刀された刀身は炎に包まれているのだ。
炎を纏う刀は一閃、テンドリキュロスを下から上に切り裂いて行く!
テンドリキュロスは叫ぶことすらできなかった。
一瞬の出来事である…… 体を縦に真っ二つにされ燃え上がるのだ。
怪物は燃え草となり、残骸を残すだけであった……
一方、8メートル以上も飛び上がってしまった為次は、上の方でヘロヘロになってしまった。
結局、着地はできずに、そのまま落っこちて地面に叩き付けられてしまった。
地面で小刻みにビクンビクンする為次をスイは抱き寄せる。
そして、静かに涙を流すのであった……
スイの胸に抱かれ、薄れゆく意識の中で為次は思う。
また、スイは泣いているのか…… ほんと泣き虫だなぁ
と……
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