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異世界編 2章

第80話 迎撃その2

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 レオパルト2はポンタの正門付近で、襲い来るモンスターを迎撃していた。
 シャル曰く、どうやら砲塔上部に積載されている肉のせいで、ゴブリンどもはこちらに向かって来るらしい。
 とは言うものの、スイが同軸機関銃を撃っているだけで為次は特にやることは無い。
 仕方なく残弾数を気にしながら、外を眺めていた。
 見れば向こうで、まだ正秀がゴブリンを追いかけ回している。

 「マサもこっちを手伝ってくれればいいのに。いっそ、マサに肉を縛り付けてやろうか?」

 その時、為次は閃いた。

 「あ! それだ、いいこと思い付いた」

 「どうしばばば? あばばば、タメばばば、さばばば」

 そんな感じで為次がどうでもいいことを思い付き、スイが何を言っているのか分からない車内であった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 一方、ゴブリンと鬼ごっこをする、正秀とマヨーラはちょっと疲れてきていた。

 「くそっ! コイツらちょこまかと逃げやがって」

 「意外とすばしっこいわね、ちょっと疲れてきたわ」

 「俺もだぜ」

 ちょこまかと逃げるゴブリンに、何かと大振りな正秀の攻撃はあまり当たらない。
 それを見透かしたかのように、ゴブリンは足を止めると「ギャヒヒヒ、ギャー」と笑いながら煽ってくるのだ。
 そして、その煽りにいちいち釣られるのがマヨーラである。

 「こんのぉ、バカにしてぇ。はぁぁぁ…… ファイヤボール!」

 基本、気の短いマヨーラは、怒って適当に魔法をブッパしてしまう。
 呪文を唱えると杖から火球が出現し、ゴブリン目掛けて飛んで行く。
 
 ドーン!!

 放たれた火球が地面に当たると、巨大な火柱を上げて炸裂する。
 しかし、モーションのデカイ豪快な魔法を適当に撃ったところで当たるハズもない。
 ゴブリンが散らばって逃げ出した跡の草むらを盛大に焦がすだけであった。

 「きぃぃぃ! 逃げんなぁ!」

 「流石に逃げるだろ」

 「くっ……」

 そうやって、ゴブリンに馬鹿にされながら同じ所をグルグルと回っているのだ。
 そこは何時しか、ゴブリンのうずと化していた。

 「待てー! 逃げるな!」

 「もう! 魔法どーん!」

 攻撃を当てることだけに必死になっている二人は、それを直ぐに気が付く│由《よし》もない。
 しばらく同じことを繰り返し、疲れたので攻撃の手を休めた時だった。
 ようやく自分達の状況が理解できた。

 「ねぇ、マサヒデ……」

 「ああ、なんかヤバそうだな」

 いつの間にか、ゴブリン達に囲まれてしまっていた。

 「ど、どうするの? なんか囲まれてる気がするわ」

 「俺も同感だぜ、無線で為次に応援を頼むか?」

 「そんな時間、無いような気がするけど……」

 「だな……」

 ジリジリとにじり寄って来るゴブリン達は、今にも飛びかかろうとしている。
 さっきまで追いかけ回していたのに、知らない内に形勢が逆転していた。

 「こうなりゃ、必殺技でぶっ飛ばしてやるぜ」

 「でも、一斉に襲い掛かって来たら……」

 「くそぉ…… 何かいい手は……」

 正秀は考えた。
 必殺技の威力がどんなに高くても、前にしか撃つことができない。
 正面だけ、ふっ飛ばしても意味が無いのは分かるのだが……
 しかし、考えている暇も無い。

 「よしっ! 俺に任せな。マヨーラ」

 「何か、いいことでも思い付いたの?」

 特にグッドアイディアは思い浮かばない正秀だが、どうにかなるだろうとの考えに至った。
 すると、突然片手でマヨーラを抱き寄せる。

 「え! えええっ!? こんなとこで……」

 突然抱きしめられたマヨーラは益々、Burning Heartである。

 「うぅ……(何これ? あたしと正秀、今抱き合ってる? 抱き合っちゃってるのね!)」

 「いいか? 離れるんじゃないぞ?」

 「もちろんよ! もう、二度と放さないわー!」

 ちょっと興奮気味である。

 「よしっ! やってやるぜー!」

 「どんとこいよ! どんな愛でも受け止めて見せるわ!」

 ちょっと何を言ってるのか分からないマヨーラが、しがみ付いたのを確認した正秀。
 両手で大剣をしっかりと握り頭上に掲げる。
 そして、刃先が下を向くように持ち替えた。

 「イクぜ! ……なあ、マヨーラ?」

 「何かしら?」

 「必殺技の名前は何がいい?」

 「そんなの決まってるじゃないの!」

 「カッコいいのを頼むぜ!」

 「今のあたしの気持ち『バーニング ハート』よぉぉぉーーー!!」

 マヨーラの愛の叫びを合図としたかのように、ゴブリン達が一斉に襲い掛かって来た!
 だが、今の二人にはそんなものOut of 眼中である!

 「分かったぜ! 喰らえっ!」

 「必殺!」

 「愛の結晶!」

 「「バーニィィィーング ハアァァァト!!」」

 二人の恥ずかしい叫び声と共に、正秀は全身全霊の剣気が籠もった大剣を大地に突き下ろす。

 ドゴォォォォォン!!

 切っ先が地面に触れると同時に、正秀の周り全体から衝撃波が発生した。
 辺りに轟音が響き渡る!

 衝撃波に巻き込まれたゴブリン達は、何が起きたのか分からなかった。
 否、考えることができなかった。
 自分の身に起きたことを理解する前に、全身が引き千切られ行く。
 体内のエレメンタルストーンも粉砕され、ゴブリンだった肉片と共に飛び散って行った。

 そして……

 巻き上げられた肉片も砂埃も、吹き飛んで行き、視界は直ぐに晴れるのである。
 跡には、巨大なクレーターとその中央に立つ正秀とマヨーラが残されるだけであった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 と……

 恥ずかしいセリフを叫ぶ正秀とマヨーラを、為次はハッチから頭を出して眺めていた。
 敵が攻めて来ているのにハッチを開けたくはなかったが、なんとなく二人がヤバそうだったので一応デザートイーグルを構えていたのだ。
 実は、ゴブリンが飛び掛かった時に一発ほど撃ったが、あまり意味はない様子でした。

 「あいつら何を、こっずかしいこと叫んでんだ? バカじゃねーの?」

 呟きながら二人の無事を確認した為次はさっさと車内に入りハッチを閉ざす。
 車内に入ると、シャルが射撃中のスイが居る砲手席へと無理矢理に降りて来ていた。

 「あばばば、むぎゅ、狭いのです」

 妹は、まだ車長席に居るのだろう、為次からは姿が見えない。

 「今の爆発音は? 何が起きたのだ?」

 外の見えないシャルは、少し不安そうに訊いた。

 「お? もう元気になったの?」

 「ああ、おかげ様でな」

 「妹さんは?」

 「妹のシムリも無事だ。今はヒールポーションを飲んで食事を摂っている。直ぐに元気になると思う」

 「そりゃどうも、おめでとう」

 「それより、外の状況はどうなっている? 必要ならば私も手伝うぞ?」

 「戦況はいちじるしくないね。だけどいいこと思いついたよ。さっきのマサの技も使えそうだし」

 「いいこと?」

 「じゃあ、いも…… シムリも元気になったら手伝ってもらおうかな」

 「分かった、何をすればいい?」

 「そいじゃ外に出て、そこら辺の陸上艇を1つ持って来て上の食い物全部そっちに移してよ」

 「食い物を? 分かったが、それでどうするんだ?」

 「ふふふ、後のお楽しみだ」

 「ふむ……?」

 シャルは為次を得体の知れない奴だと思いながらも、一応は命の恩人である。
 とりあえず、従うことにするのであった。
 仲間として戦うならば、名前ぐらいは聞いておきたい。

 「ところで、君の名前を聞いてもいいかな?」

 「あ、こっちは名乗ってなかったか。俺が為次で横で「あばばば」言ってるのがスイだよ」

 「タメツグ君にスイ君だな。了解だ、よろしくなタメツグ君」

 「はい、よろしく」

 「では、シムリの様子を見てみる」

 シャルは後ろを振り向き少し上を見る。

 「シムリ、調子はどうだ?」

 「お姉ちゃん…… もう、大丈夫だよ」

 「元気になったか、良かった。ならば仕事だ」

 「うん」

 シムリの回復を見たシャルは、外に出ようとするが何処から出ていいのか分からない。
 入った時は、上の丸い所から投げ込まれたのは知っているが、今は閉まっていて開かない。
 そんな、戸惑うシャルの後姿を為次は眺めていた。
 腰巻の隙間からチラチラ見えるレオタードが悩ましいのだ。

 「なあ、タメツグ君」

 「うひゃっ!? え? あ? な、な、なんもしてないよ、ほんとだよ!」

 「ん? そんなに慌てて、どうかしたのかい?」

 「あ、いや…… 何も見てないよ、うん、見てない」

 「君は、おかしな奴だな…… まあいい、それより、これはどうやって外に出るんだい?」

 「おおう、そうだ、そうだ、隣のスイに聞くといいよ」

 覗いていたのがバレなくて安心した為次はそっと呟く。

 「ふー、あぶない、あぶない」

 でも、聞こえてたらしい。

 「何が危ないのだ?」

 「あわわわ、アレだよアレ! 狭いから危ないよ! そう、狭いから気を付けて!」

 「うむ、分かった。気を付けるとしよう」

 「スイ! もう撃たなくていいから、教えてあげて」

 「あばば? ば? はいです、何をですか?」

 「だからハッチの開け方だよ!」

 そうして、ハッチの開け方をスイから聞くとシャルとシムリは降車した。
 為次も外に出ようとするが、ちょっと怖い。
 デザートイーグルでは心許こころもとないので、外してあるMG3を持って出ることにした。

 「ねぇ、スイ!」

 「はーい、なんでしょうか?」

 「降車するから、スイも降りて援護してよ」

 「はいー、お任せ下さいー」

 為次はMG3をめんどくさそうに引き摺りだして、車体後部に周る。
 スイも言われたように、あるじを守る為にライトブレードを持ちながら付いて行った。
 辺りを見回すと、向こうでシャルが防衛艇の船長らしき人物と話をしている。

 しばらくすると、船長を連れて為次の元へとやって来た。

 「連れて来たぞ」

 「人じゃなくて、船を……」

 船長は為次に近づいて言う。

 「お前か? 俺の陸上艇を使いたいって奴は」

 「あ、はい」

 「何をする気だ?」

 「掃討作戦だよ、陸上艇に肉を詰め込んでモンスターを誘き寄せるの」

 「なんだと!? 俺の船を囮にしようってのか?」

 「ダメっすか?」

 「…………」

 船長は黙って戦況を見つめる。

 スイが同軸射撃をやめたせいであろう、かなり押されている。
 冒険者も自警団も頑張ってはいるのだが、如何いかんせん敵の数が多過ぎるのだ。
 早急に何かしらの手を打たないとマズいのは、誰の目から見ても明らかであった。

 「聞かせてもらおうか、手短かにな」

 「あー、うん」

 為次は面倒臭そうに、作戦の説明をすることになった。

 もっとも、只の囮作戦だ。
 作戦とは、とても呼べるようなものではない。
 しかし、為次は何故だか自信満々で話し始めるのであった。

 そんな為次をシムリは姉の背中に隠れるようにして、ジッと見ているのだった…… 
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