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異世界編 2章
第79話 迎撃その1
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モンスターの襲撃からポンタ街を守る為に、迎撃に向かったはずの貞宗とクリス。
彼らのお手伝いしようと、レオパルト2と戦車クルーの四人も街の外までやって来た。
その目に映る戦場は冒険者達と多数のゴブリンが入り乱れて戦う、まさに圧巻の光景であった。
「よっしゃ! 俺達も行くぜ!」
「ちょっとマサヒデ待ってよ、あたしも行くわ」
二人は砲塔から飛び降りると武器を構え、手近なターゲットを探す。
しかし、探す必要は無かった。
敵の方からワラワラと襲って来る。
ゴブリンも手には剣や棍棒などの武器を持っていた。
茶色のモンスターであるコボルトに至っては弓まで持っている。
「へへっ、やってやるぜ! お前らは下がってな」
と、一緒に出て来た戦士2人に向かって言う正秀。
向かって来るゴブリンの群れに狙いを定める。
「はりゃぁぁぁ! 必殺滅殺撲殺斬ぁぁぁぁぁん!!」
大剣が地面を叩くと同時に、凄まじい音と衝撃波が発生する。
その衝撃波はゴブリンの集団に向かって一閃、地面を抉りながら進撃する。
正秀の必殺技が敵を薙ぎ払う威力は、借家で為次に自慢したそれとは比較にもならなかった。
どう見ても、あからさまにオーバーキルである。
衝撃波に巻き込まれたゴブリンとコボルトは、エレメンタルストーンの砕けた結晶を撒き散らしながら消滅した。
「おお、すげぇ威力だぜ」
「流石マサヒデね」
「よし! このままどんどん行くぜ!」
次々と襲い来る敵を、大剣を振り回しながら打ち倒す正秀。
しかし、敵も学習しているらしく散開しつつ距離を取り始めた。
どうやら、正秀を厄介な敵と認識た様子である。
習性なのか? 考えての行動なのか? は分からないが、意外とゴブリン達はまとまった動きで襲ってくる。
それに対して、冒険者や自警団の戦い方は酷いものであった。
ある程度は一定のメンバーで戦っているものの、それぞれのパーティー間の連携がまったく取れていなかった。
普段から集団での戦闘を行わない冒険者にとって、個々の戦闘能力はモンスターより上でも、複数入り乱れての乱戦は不利であった。
※ ※ レオパルト2車内 ※ ※
「どうすんだ、これ?」
周囲の状況を見る為次は、唖然としていた。
「うわっ! なんだアレ…… 喰ってるよ……」
見ると、ゴブリンは落ちている人間の手足や死体を貪っている。
「何こいつら…… 肉食なの?」
「魔獣は全部お肉を食べるです」
「え? こいつら魔獣なの? 魔法も効いてるけど?」
「エレメンタルストーンが小さいと、魔法も結構有効なのですよ」
「へー、スイは物知りだなぁ」
「えへへー、それほどでも…… あっ! タメツグ様ぁ、向こうの冒険者様がヤられそうです」
「んー、向こうって何処だ?」
「あっちです」
あっちがどっちなのか分からないが、視界の悪いペリスコープから辺りを見回すと、確かに今にも殺られそうな戦士が左前方に確認できた。
他にも危なそうな冒険者も居るが、手近なとこではその戦士である。
良く見ると、戦士の傍らには魔道士であろう人物が一人倒れている様子だ。
どうやら、戦士は倒れた魔道士を守っているらしく、その場から動かず長い髪をなびかせながら必死にゴブリンを迎え討っている。
「女か? ありゃ、もたんな。スイ、やれる?」
「やってみますです」
「りょかーい」
スイは射撃モードを同軸機関銃へと切り替える。
レオパルト2の同軸機関銃にはMG3が装備されており、正秀が外して手持ちにしているのと合わせると、副装備がMG3×2となっている。
「あんまり、人に当てないでね」
「スイに、おまかせあれ」
スイは以前教えられたことを思い出しながら、射撃サイトを覗きながら引き狙いを定めた。
そして、トリガーボタンを押す。
「あばばばばばばばばばば」
射撃に合わせて、変な声を出しながら射撃を始めた。
ダララララララララララ
主砲の横から閃光が走る。
初めて撃った機関銃の弾は、目標を逸れ草原の彼方へと飛んで行った。
だが、スイは諦めないのです。
「すーはー…… です」
深呼吸をすると、再び狙いを定める。
今度は教えてもらったことを、よーく思い出しながら射撃を始める。
「あばばば、あばばば、あばばば」
「なんか楽しそうだねー」
「あばばば、あばばば、あばばば」
1匹ずつ的確に狙いを定め、小刻みにトリガーボタンを押していく。
すると、7.62ミリの弾丸は女戦士の周りに居たゴブリンの頭を、1つまた1つと吹き飛ばして行くのだ。
粉砕されるゴブリンからは緑色の液体が、ビチャビチャと周囲に飛び散り近くに居た女戦士にもぶっ掛かる。
激しい音と共に周りのゴブリンが突然に飛び散る様を、女戦士は何が起きたのか分からなかった。
緑色の液体など気にせず、ただ音のした方向にあるレオパルト2を茫然と眺めるだけであった。
「やりましたっ!」
「おお、上手いじゃないか、凄いぞスイ」
「えへへへー」
などと喜んでいるのも束の間、射撃音に反応したのは女戦士だけではなかった。
周りに居た、ゴブリンとコボルトも一斉に振り向いてしまった。
すると、「ギャギャ、ギャ」などと奇声を発しながら戦車に近寄って来た。
「うわ、なんかこっち見てるお」
「いっぱい寄って来ますね、撃ちますか?」
「弾が勿体ないけど、仕方ないかにゃー」
「仕方ニャーニャーなのです」
「そいじゃ、壁際まで下がるから、それから撃ってちょ」
「はいです」
為次はレオパルト2を後退させようと思ったが、今しがた助けた女戦士を見ると、倒れた魔道士に寄り添っている。
そこへ、別のゴブリンが数匹向かって行くのが確認できた。
「くそっ! こっちもめんどくさいのに」
「どうされました?」
「スイ! さっき助けた奴を回収するぞ」
「はいです」
スイはハッチから飛び出すと、砲塔の上でライトブレードを展開させ、太ももからポーションを取り出し飲む。
すると、為次は女戦士へと向かうゴブリンに戦車で突っ込んで行く。
「アクセル全かーい、ひゃっほーぅ」
鉄の塊が激しい音を立て突進して来るのを見たゴブリンは驚いた様子で足を止めた。
そこへ、すかさずレオパルト2を突っ込ませる。
2匹には避けられたが他の数匹はグチャグチャと轢き殺すことができた。
「うわっ、なんか緑の汁が…… きちゃない」
残ったゴブリンの内、1匹は「ギャワワー」と怒りながら、手に持っていた棍棒を投げつけてくる。
それとは逆に、もう1匹は一目散に逃げ出した。
「つばい様は私が守ります! うりゃぁぁぁ!」
叫びながら、スイは砲塔から跳ぶと飛んで来た棍棒を叩き斬る。
更に着地と同時に、棍棒を投げたゴブリンへと猛ダッシュし一刀両断。
「そこぉぉぉぉぉ!」
すぐさま逃げたゴブリンにライトブレードを横にして向けると、刃を撃ち出した。
光の刃はゴブリンの首筋を貫き、頭部を切り落とす。
残った胴体はしばらくヨタヨタと走ると、ドサリと崩れ落ちるのであった。
そうやって、スイが2匹のゴブリンを相手にしている隙に、為次はレオパルト2を女戦士へと寄せていた。
ハッチから頭を出す為次。
「早く乗れ!」
「すまない、助かる」
倒れた魔道士を必死に担ぎ上げる女戦士。
しかし、彼女の疲弊も酷く、深手を負っていた。
魔道士の肩を担ぎ、ヨロヨロと戦車に近寄るのが精一杯であった。
「あああ、もう、早くしてよ。発車時刻過ぎたら置いてくよ!」
まだまだ沢山居るゴブリンは、どんどんと寄ってくる。
先程倒した数匹など、焼け石に水であった。
「先程のゴブリンを蹴散らしてくれたのは、君か?」
女戦士は為次に訊ねた。
「あ、うん。まあ、そうかもね」
「何度もすまないが、妹を……」
「あ、うん。応援するよ、がんばれがんばれ」
「くっ…… せめて妹だけでも……」
そう言いながら、意地でも降りてこようとしない為次を懇願の目で見つめている。
「あーもー、おおいっ、スイ!」
「はいでーす。只今参上なのです!」
ジャジャーン!
どこからともなく、スイがスッ飛んで来た。
そして、女戦士と多分妹であろう魔道士を両脇に抱えるとジャンプ!
砲塔に飛び乗り車長ハッチを開けボトボトと2人を投げ込んだ。
「んぎゃ」って、ちょっと女戦士の悲鳴が聞こえたけど気にしない。
無事に? 収容が終わったらしくスイと為次も車内に潜り込みハッチを閉ざすのであった。
「よっしゃ! 後退や」
車体を正門の方へと向け移動する。
正門の前には、門を開けてくれた戦士2人に数人の冒険者と防衛艇が3艘ほど確認できた。
右手には、ゴブリンを楽しそうに追い掛け回す正秀と、それを追うマヨーラが見える。
「あいつら何やってんだよ…… んもぅ、まあいいか。それよりスイ、回収した2人は?」
「今、ヒールポーション飲んでるです」
「うい」
「ういなのです……」
「着いた」
レオパルト2を正門近くの壁際に移動させると、反転して壁を背にした。
横には防衛艇や冒険者が居るので、これで正面だけに集中できるはずである。
「よし、スイ撃て撃て」
「はい…… あばばば、あばばば」
襲い来るゴブリンとコボルトをMG3が迎え撃つ。
防衛艇のバリスタも闘魔導士の魔法も激しく応戦するのだが、どうにも、どんどんと寄ってくるのだ。
「うは、なんだってこっちにばっかり……」
少しでも戦力の欲しい為次は、女戦士と妹魔導士に向かって言う。
「ねぇ、ポーション飲んだならあんた達も手伝ってよ」
「もちろん手伝うが、ここにある食料を少し分けてもらえないだろうか?」
女戦士は言った。
「食料? 別にいいよ…… あ、腹が減ってると回復しないんだっけ」
「そうなんだ、色々とすまないな、食べたら直ぐに外で戦うから」
「あ、はい、頼んます。外にも肉とかいっぱいあるから食べていいよ」
「そうか…… ん? 今なんと? もぐもぐ」
「え? 肉がいっぱいあるよって、肉」
「違うそうじゃない、何処に置いてあるんだ!?」
「だから、砲塔の上に」
「砲塔? もぐもぐ」
「説明もめんどいな…… 陸上艇の上にいっぱいあるから!」
「なんだと! バカかお前は!」
「ええ!? なんで怒るのー」
「大量の肉を戦場で持ち歩くなんて、もぐもぐ、魔獣を引き寄せているようなものだ!」
「あっ!?」
為次はようやく理解できた。
ゴブリン…… 魔獣は肉食、お肉大好きなのだ!
サイクスを出発する時に、大量に積んだ食料が砲塔の上に置きっぱなしである。
潰れると困るからと、上の方に積んだ玉子や野菜は池の畔で半分くらい吹っ飛んだけど、肉はまだまだある。
レオパルト2に群がるのも当然なのだと。
「ちきしょー! ねぇ、あんた外に出て全部食べてよ」
「食えるわけないだろう! それに私の名前は……」
「うわー! うわー! 待て待て!」
女戦士が名を名乗ろうとするが、為次が慌てて遮ってくれた。
助かった。
「どうした?」
「名前はいい、言わなくていい」
「どうしてだ? それに、助けてもらったのに名前も名乗らないのも失礼であろう」
「でも、いいから。言わなくていいから」
必死に名前を言わないようにしてくれる為次。
「ふむ、分かった……」
ヨカッタ。
「ああ、それとな」
「何?」
「シャルとシムリだ、私がシャルで妹がシムリだ」
「あ……」
ぎゃぁぁぁぁぁ!
名前を聞いた私は驚愕し叫んだ!
ネームキャラを増やさないでくれ。
と……
「最低だな…… もぐもぐ……」
と、シャルは囁いていた……
彼らのお手伝いしようと、レオパルト2と戦車クルーの四人も街の外までやって来た。
その目に映る戦場は冒険者達と多数のゴブリンが入り乱れて戦う、まさに圧巻の光景であった。
「よっしゃ! 俺達も行くぜ!」
「ちょっとマサヒデ待ってよ、あたしも行くわ」
二人は砲塔から飛び降りると武器を構え、手近なターゲットを探す。
しかし、探す必要は無かった。
敵の方からワラワラと襲って来る。
ゴブリンも手には剣や棍棒などの武器を持っていた。
茶色のモンスターであるコボルトに至っては弓まで持っている。
「へへっ、やってやるぜ! お前らは下がってな」
と、一緒に出て来た戦士2人に向かって言う正秀。
向かって来るゴブリンの群れに狙いを定める。
「はりゃぁぁぁ! 必殺滅殺撲殺斬ぁぁぁぁぁん!!」
大剣が地面を叩くと同時に、凄まじい音と衝撃波が発生する。
その衝撃波はゴブリンの集団に向かって一閃、地面を抉りながら進撃する。
正秀の必殺技が敵を薙ぎ払う威力は、借家で為次に自慢したそれとは比較にもならなかった。
どう見ても、あからさまにオーバーキルである。
衝撃波に巻き込まれたゴブリンとコボルトは、エレメンタルストーンの砕けた結晶を撒き散らしながら消滅した。
「おお、すげぇ威力だぜ」
「流石マサヒデね」
「よし! このままどんどん行くぜ!」
次々と襲い来る敵を、大剣を振り回しながら打ち倒す正秀。
しかし、敵も学習しているらしく散開しつつ距離を取り始めた。
どうやら、正秀を厄介な敵と認識た様子である。
習性なのか? 考えての行動なのか? は分からないが、意外とゴブリン達はまとまった動きで襲ってくる。
それに対して、冒険者や自警団の戦い方は酷いものであった。
ある程度は一定のメンバーで戦っているものの、それぞれのパーティー間の連携がまったく取れていなかった。
普段から集団での戦闘を行わない冒険者にとって、個々の戦闘能力はモンスターより上でも、複数入り乱れての乱戦は不利であった。
※ ※ レオパルト2車内 ※ ※
「どうすんだ、これ?」
周囲の状況を見る為次は、唖然としていた。
「うわっ! なんだアレ…… 喰ってるよ……」
見ると、ゴブリンは落ちている人間の手足や死体を貪っている。
「何こいつら…… 肉食なの?」
「魔獣は全部お肉を食べるです」
「え? こいつら魔獣なの? 魔法も効いてるけど?」
「エレメンタルストーンが小さいと、魔法も結構有効なのですよ」
「へー、スイは物知りだなぁ」
「えへへー、それほどでも…… あっ! タメツグ様ぁ、向こうの冒険者様がヤられそうです」
「んー、向こうって何処だ?」
「あっちです」
あっちがどっちなのか分からないが、視界の悪いペリスコープから辺りを見回すと、確かに今にも殺られそうな戦士が左前方に確認できた。
他にも危なそうな冒険者も居るが、手近なとこではその戦士である。
良く見ると、戦士の傍らには魔道士であろう人物が一人倒れている様子だ。
どうやら、戦士は倒れた魔道士を守っているらしく、その場から動かず長い髪をなびかせながら必死にゴブリンを迎え討っている。
「女か? ありゃ、もたんな。スイ、やれる?」
「やってみますです」
「りょかーい」
スイは射撃モードを同軸機関銃へと切り替える。
レオパルト2の同軸機関銃にはMG3が装備されており、正秀が外して手持ちにしているのと合わせると、副装備がMG3×2となっている。
「あんまり、人に当てないでね」
「スイに、おまかせあれ」
スイは以前教えられたことを思い出しながら、射撃サイトを覗きながら引き狙いを定めた。
そして、トリガーボタンを押す。
「あばばばばばばばばばば」
射撃に合わせて、変な声を出しながら射撃を始めた。
ダララララララララララ
主砲の横から閃光が走る。
初めて撃った機関銃の弾は、目標を逸れ草原の彼方へと飛んで行った。
だが、スイは諦めないのです。
「すーはー…… です」
深呼吸をすると、再び狙いを定める。
今度は教えてもらったことを、よーく思い出しながら射撃を始める。
「あばばば、あばばば、あばばば」
「なんか楽しそうだねー」
「あばばば、あばばば、あばばば」
1匹ずつ的確に狙いを定め、小刻みにトリガーボタンを押していく。
すると、7.62ミリの弾丸は女戦士の周りに居たゴブリンの頭を、1つまた1つと吹き飛ばして行くのだ。
粉砕されるゴブリンからは緑色の液体が、ビチャビチャと周囲に飛び散り近くに居た女戦士にもぶっ掛かる。
激しい音と共に周りのゴブリンが突然に飛び散る様を、女戦士は何が起きたのか分からなかった。
緑色の液体など気にせず、ただ音のした方向にあるレオパルト2を茫然と眺めるだけであった。
「やりましたっ!」
「おお、上手いじゃないか、凄いぞスイ」
「えへへへー」
などと喜んでいるのも束の間、射撃音に反応したのは女戦士だけではなかった。
周りに居た、ゴブリンとコボルトも一斉に振り向いてしまった。
すると、「ギャギャ、ギャ」などと奇声を発しながら戦車に近寄って来た。
「うわ、なんかこっち見てるお」
「いっぱい寄って来ますね、撃ちますか?」
「弾が勿体ないけど、仕方ないかにゃー」
「仕方ニャーニャーなのです」
「そいじゃ、壁際まで下がるから、それから撃ってちょ」
「はいです」
為次はレオパルト2を後退させようと思ったが、今しがた助けた女戦士を見ると、倒れた魔道士に寄り添っている。
そこへ、別のゴブリンが数匹向かって行くのが確認できた。
「くそっ! こっちもめんどくさいのに」
「どうされました?」
「スイ! さっき助けた奴を回収するぞ」
「はいです」
スイはハッチから飛び出すと、砲塔の上でライトブレードを展開させ、太ももからポーションを取り出し飲む。
すると、為次は女戦士へと向かうゴブリンに戦車で突っ込んで行く。
「アクセル全かーい、ひゃっほーぅ」
鉄の塊が激しい音を立て突進して来るのを見たゴブリンは驚いた様子で足を止めた。
そこへ、すかさずレオパルト2を突っ込ませる。
2匹には避けられたが他の数匹はグチャグチャと轢き殺すことができた。
「うわっ、なんか緑の汁が…… きちゃない」
残ったゴブリンの内、1匹は「ギャワワー」と怒りながら、手に持っていた棍棒を投げつけてくる。
それとは逆に、もう1匹は一目散に逃げ出した。
「つばい様は私が守ります! うりゃぁぁぁ!」
叫びながら、スイは砲塔から跳ぶと飛んで来た棍棒を叩き斬る。
更に着地と同時に、棍棒を投げたゴブリンへと猛ダッシュし一刀両断。
「そこぉぉぉぉぉ!」
すぐさま逃げたゴブリンにライトブレードを横にして向けると、刃を撃ち出した。
光の刃はゴブリンの首筋を貫き、頭部を切り落とす。
残った胴体はしばらくヨタヨタと走ると、ドサリと崩れ落ちるのであった。
そうやって、スイが2匹のゴブリンを相手にしている隙に、為次はレオパルト2を女戦士へと寄せていた。
ハッチから頭を出す為次。
「早く乗れ!」
「すまない、助かる」
倒れた魔道士を必死に担ぎ上げる女戦士。
しかし、彼女の疲弊も酷く、深手を負っていた。
魔道士の肩を担ぎ、ヨロヨロと戦車に近寄るのが精一杯であった。
「あああ、もう、早くしてよ。発車時刻過ぎたら置いてくよ!」
まだまだ沢山居るゴブリンは、どんどんと寄ってくる。
先程倒した数匹など、焼け石に水であった。
「先程のゴブリンを蹴散らしてくれたのは、君か?」
女戦士は為次に訊ねた。
「あ、うん。まあ、そうかもね」
「何度もすまないが、妹を……」
「あ、うん。応援するよ、がんばれがんばれ」
「くっ…… せめて妹だけでも……」
そう言いながら、意地でも降りてこようとしない為次を懇願の目で見つめている。
「あーもー、おおいっ、スイ!」
「はいでーす。只今参上なのです!」
ジャジャーン!
どこからともなく、スイがスッ飛んで来た。
そして、女戦士と多分妹であろう魔道士を両脇に抱えるとジャンプ!
砲塔に飛び乗り車長ハッチを開けボトボトと2人を投げ込んだ。
「んぎゃ」って、ちょっと女戦士の悲鳴が聞こえたけど気にしない。
無事に? 収容が終わったらしくスイと為次も車内に潜り込みハッチを閉ざすのであった。
「よっしゃ! 後退や」
車体を正門の方へと向け移動する。
正門の前には、門を開けてくれた戦士2人に数人の冒険者と防衛艇が3艘ほど確認できた。
右手には、ゴブリンを楽しそうに追い掛け回す正秀と、それを追うマヨーラが見える。
「あいつら何やってんだよ…… んもぅ、まあいいか。それよりスイ、回収した2人は?」
「今、ヒールポーション飲んでるです」
「うい」
「ういなのです……」
「着いた」
レオパルト2を正門近くの壁際に移動させると、反転して壁を背にした。
横には防衛艇や冒険者が居るので、これで正面だけに集中できるはずである。
「よし、スイ撃て撃て」
「はい…… あばばば、あばばば」
襲い来るゴブリンとコボルトをMG3が迎え撃つ。
防衛艇のバリスタも闘魔導士の魔法も激しく応戦するのだが、どうにも、どんどんと寄ってくるのだ。
「うは、なんだってこっちにばっかり……」
少しでも戦力の欲しい為次は、女戦士と妹魔導士に向かって言う。
「ねぇ、ポーション飲んだならあんた達も手伝ってよ」
「もちろん手伝うが、ここにある食料を少し分けてもらえないだろうか?」
女戦士は言った。
「食料? 別にいいよ…… あ、腹が減ってると回復しないんだっけ」
「そうなんだ、色々とすまないな、食べたら直ぐに外で戦うから」
「あ、はい、頼んます。外にも肉とかいっぱいあるから食べていいよ」
「そうか…… ん? 今なんと? もぐもぐ」
「え? 肉がいっぱいあるよって、肉」
「違うそうじゃない、何処に置いてあるんだ!?」
「だから、砲塔の上に」
「砲塔? もぐもぐ」
「説明もめんどいな…… 陸上艇の上にいっぱいあるから!」
「なんだと! バカかお前は!」
「ええ!? なんで怒るのー」
「大量の肉を戦場で持ち歩くなんて、もぐもぐ、魔獣を引き寄せているようなものだ!」
「あっ!?」
為次はようやく理解できた。
ゴブリン…… 魔獣は肉食、お肉大好きなのだ!
サイクスを出発する時に、大量に積んだ食料が砲塔の上に置きっぱなしである。
潰れると困るからと、上の方に積んだ玉子や野菜は池の畔で半分くらい吹っ飛んだけど、肉はまだまだある。
レオパルト2に群がるのも当然なのだと。
「ちきしょー! ねぇ、あんた外に出て全部食べてよ」
「食えるわけないだろう! それに私の名前は……」
「うわー! うわー! 待て待て!」
女戦士が名を名乗ろうとするが、為次が慌てて遮ってくれた。
助かった。
「どうした?」
「名前はいい、言わなくていい」
「どうしてだ? それに、助けてもらったのに名前も名乗らないのも失礼であろう」
「でも、いいから。言わなくていいから」
必死に名前を言わないようにしてくれる為次。
「ふむ、分かった……」
ヨカッタ。
「ああ、それとな」
「何?」
「シャルとシムリだ、私がシャルで妹がシムリだ」
「あ……」
ぎゃぁぁぁぁぁ!
名前を聞いた私は驚愕し叫んだ!
ネームキャラを増やさないでくれ。
と……
「最低だな…… もぐもぐ……」
と、シャルは囁いていた……
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猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
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