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通じた想い
しおりを挟むここは議論を交わす場所ーーーー
そこにはアルベルト王、ローラ王妃、騎士団長カイル、治療所所長カバル、そして他多数の大臣などが集まっていた。
「さて、議論すべき事は皆、分かっていると思うが、現在ラナを狙った者が多数捕らえられているな?」
「はい、他国からの密偵と、賊を地下牢へ捕らえています。
現在、情報の出所を探っている所です。」
「…また、人身売買ブローカーや、その手の者の入国を防ぐよう取り締まりを強化していますが、やはり絶対的に安心とは言い切れませんな。」
「…そうだな。」
アルベルト王はあご髭を撫でつけながら考える。
「それはそうと、さらにやっかいなことになりましたな。
動物と意思疎通ができる者など、今まで聞いたことがない。
これも人魚の力なのだろうか?」
1人の大臣がそう口にする。
「これまでの文献にもそのようなことは載っていなかった。
おそらく人魚という種族特有のものなのであろう。」
「しかし、王よ。
このままでは、今まで以上にラナ様への危険が増す一方かと。」
「…わたくしは、同じ女性として狙われているのを黙って見ているのは戴けませんわ。
捕らわれたらどんな運命が待っているのかなんて、考えただけでも恐ろしいことです…。」
ローラ王妃がそう憂いた。
ラナは王妃と共に中庭を散歩する程の仲だ。
「カイルよ。そなたはどう思う?」
「…私は、
……私の名でラナ殿をお守りできるならと、
そう考えております。」
「ほぅ。ラナを娶りたいと?
(皆の前でも宣言したか。)」
「…っ………はい…。
…出来る事ならば、私が一生をかけて守りたい…と。
初めて愛しいと思えた存在なのです。」
「よいよい、仲のいいことは喜ばしいことよ。
皆もそう思うであろう?」
「ふむ、高い地位ではないが、カイル殿は数々の偉業を成しているのだ、
その名は広く轟いているはず。
カイル殿のラナ様贔屓は有名ですからな。
それでなくとも手を出すなど恐ろしい。」
「そうですな。
カイル殿の妻に手を出したとなれば、ただでは済まんだろうな。
あぁ…恐ろしや。」
「…お前は皆に普段どのような振る舞いをしているのだ?
私には全く教えてくれんからなぁ。
…まあ、よかったではないか、カイル。初めから皆に認められることはそうそう無いぞ?」
アルベルト王はニヤリと笑う。
「…もう何も言いませんよ。有り難くそのお言葉頂戴致します。」
「…なんだ、つまらんな。」
アルベルト王は口を尖らせた。
「もう、あなたったら、意地が悪いんだから!カイル、わたくしは素直に祝福致しますわ。」
「おい、私だって祝福しているさ。しかし、そこまで言うからには、ラナには想いを伝えたのだろう?
それで、どんな反応であった?」
「いえ、それは…。まだ…。」
バツが悪そうなカイルを見て、
アルベルト王とその周りの者は驚いた。
「…カイル殿、無理強いはいけませんよ?
いくら守りたいという一心であれ…。
ラナ殿のお気持ちも大切かと。」
「…分かっているカバル殿。
近いうちに伝えるつもりだった。」
「(…まぁ、侍女から話を聞く限り、答えは分かりきっているようなものだがな。)
カイル、男を見せる時だぞ?
良い報告を待っているからな。」
アルベルト王はカイルを激励したのだった。
ラナの自室にてーー
「それにしても、どうして人魚には動物の言葉が分かるのかしら?」
『それはぼくにもわからないよ。
むかしから、にんぎょのなかでもとくべつなものとしかはなせなかったんだって!
そうおじいちゃんがいってたよ!』
「そう。そもそも、あなたはどうして私の所に来てくれたの?」
『ぼくは、らながうまれたときからずっとそばにいたよ!
ことばがつうじるようになったのは、あのよるだったんだ!』
「…何かキッカケがあったのかしら。
それじゃあ、他の動物とも話せるの?」
『どうだろうね?よんでこようか?まってて!』
そう言ったかと思うと、開いた窓から飛んでいってしまった。
「え⁈ちょっと!(何を連れてくるつもり…⁈)」
それから数分後…
『らなー!つれてきたよ、ぼくのおともだち!』
そう言って小鳥の足に掴まれて来たのは1匹の小リスであった。
『こんにちは、あなた、らなっていうんでしょ?わたしのいってることほんとにわかる?』
「えぇ…分かるわ。
あなたは小鳥さんのお友達なのね?」
『そうよ!すごい!ほんとににんげんとおはなしできてる!』
リスは興奮したように飛び上がる。
「まぁ、他の動物とも話せることは分かったけれど、これからあなた達はどうするの?
森へ帰るなら、カイルさんにお願いしてみるけれど…。」
『えっ⁈いやだよ!ぼくこれからも、らなのそばにいる!
やっとおはなしもできるようになったんだ!』
そう言うと、小鳥はラナの頰に張り付いた。
『じゃあ、わたしも、らなといる!
もりにはかぞくもいないし、おともだちだけだったから!』
反対の頰には小リスが張り付いて来た。
「(か、可愛いけど、いいのかしら?
一応カイルさんに聞いてみなくちゃ。
許可がでたら、名前をつけてあげましょう!)」
ラナは両頬にリスと鳥をくっつけながら、そう思った。
ーーーー
「…ラナ殿、なんか増えてないか?」
「なんか、そうしてると可愛さ倍増だね!
小動物が小動物に懐かれてる感じ?」
この子達を飼う許可をもらうため、カイルのもとへ向かっていた時、偶然その本人とルイスに出会ったのだった。
「あの、カイルさん。この子達、私の元で飼うことはできませんか?
つい先程小リスも増えてしまったんですが…。」
「それは構わない。陛下も初めからそのつもりだ。
今回の件のように、色々と役にも立ってくれるだろうからな。」
『ぼく、らなのためにがんばるよ!』
『わたしも!』
「ふふ、この子達が頑張るって言ってくれてます。
その、ありがとうございます!早速名前を考えなきゃ!」
「そうか。」
「…あの、よろしければ一緒に考えていただけませんか?」
「あぁ。仕事もひと段落ついたし、俺は構わない。」
「…それじゃ、お邪魔虫は退散しますよーっと!またね、姫さん!」
そう言ってルイスは去っていった。
「え?ルイスさんも一緒に、
あぁ…行っちゃった。」
「……俺だけでは不満か?」
「い、いえ、その、2人きりって状況が久しぶりで、
…ちょっと緊張するといいますか…。」
ラナは慌てて否定した。
「…大丈夫だ。俺も緊張している。…ラナ殿、後で時間をもらえないだろうか?」
「…?はい。もちろん大丈夫ですよ!」
「ありがとう。それでは中庭に行こう。
今日は良く晴れていて気持ちがいいだろうからな。」
「はい!」
2人は中庭のベンチに腰掛け、目の前で戯れている2匹の動物を見つめる。
「うーん、名前、何がいいかしら?」
「そうだな…あの小鳥は雄か?」
「えぇ。」
「なら、『ノア』はどうだ?
遠い異国では自由を意味するそうだ。空も陸も自由に生きるそいつにはいい名だと思うんだが。」
「ノア!素敵な名前!…どうかしら?」
『ぼく、のあがいい!かっこいいなまえ!』
2人の会話を聞いていた小鳥がラナの肩にとまり、格好いい名を貰えたことを羽をバタつかせて喜んだ。
「ふふ、喜んでるわ。」
『わたしは⁈わたしにもつけて!』
子リスがラナの足元に駆け寄ってくる。
「そうね、あなたは……『メイリー』っていうのはどうかしら?」
『めいりー!かわいいひびき!わたしめいりーがいい!』
「そう、よかった。気に入ってくれて。」
「そうか、メイリーは女の子なんだな。
ノアにメイリー、これからラナ殿のことを頼むぞ。」
『『うん!まかせて!!』』
2匹はそう言うと、嬉しそうに再び中庭で戯れはじめた。
「ふふ、頼もしいわね。」
それから2人はしばらく外の空気を楽しみながら、時を忘れたように話をした。
そして、2人を夕焼けが包み始めた頃…
「……ラナ殿、もうこの城には慣れただろうか?」
「…?はい。もうだいぶ経ちますもの。
あれから半年ですものね。」
カイルは徐に立ち上がり、ラナの前に跪いた。
「…ラナ殿、貴女に聞いてほしいことがある。」
「っはい…、」
その只ならぬ雰囲気にラナはドキリとした。
そしてカイルは告げる。
「…俺は、あなたのことを好いている。
…愛しているんだ。どうかこの想いを受け取って欲しい。」
「……えぇっ⁈あ、の。わ、私を、ですか⁈」
ラナは一瞬きょとんとした後、事を理解し、顔だけではなく、全身まで真っ赤に染めた。
「…あぁ。俺はおそらく初めて会ったあの時から、貴女のことが気になっていたんだ。
好きだと自覚したのはつい最近、貴女と城下に行った時だ…。情けないことにな。」
カイルはそう言うと、ラナの手をとりその掌へと口付ける。
掌へのキスは、自分の女になって欲しいと心から願う心理。
「あ、その…私は…っ」
「……返事はまた今度で構わない。その時はいい返事を期待している。」
そう言ってカイルは名残惜しそうにラナの手を離し、立ち去ろうとした。
「っ待って!…っ私も、私も貴方のことが好きです!!
初めて会ったあの時から…!
私も、自覚したのは城下に行った時なんです…。ふふ、鈍いのはお互い様ですね。」
ラナはカイルに駆け寄り、そう恥ずかしそうに微笑んだ。
「っラナ殿…!
本当か?本当に俺のことを…」
「こ、こんなことに嘘なんてつけません!
…あ、愛していますわ。カ、カイル…。」
「っラナ…っ」
カイルはラナを強く抱きしめ、
そして2人は見つめ合い、そっと口付けを交わした。
『みて、めいりー!らなが、かいるとちゅーしてる!』
『ほんとだー!きゃーっ、ちゅーしてるー!』
2匹は2人の真似をしてぎゅっと抱き合い、
そう声をあげたのだった。
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