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ついてない男
一
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その日の彼は、非常に不運が付きまとっていた。
朝のニュースの占いは最下位。家を出ると同時に鳥のフンが頭に直撃する。
信号は全く合わないしゲリラ豪雨でびしょ濡れになる。そして目の前を黒猫が横切る。
猫はまあ不気味というだけだがとにかく彼は不運に付き纏われていた。
営業職の彼はその日予定していた訪問先を全て回るとそんな不運の気晴らしに少し遠回りをして寂れた商店街を歩いていた。
不景気の波に逆らえず、個人商店の立ち並ぶ商店街は平日というのにシャッターの閉まった店ばかり。
開いている店の方が珍しく、彼がその店を見つけたのも必然だったと言えるかもしれない。
『貸本屋三毛猫堂』。そう看板の出された店は昔ながらのガラスの引き戸がレトロなお店だ。
貸本屋という最近では見なくなった店に興味を引かれた彼はフラフラと誘われるように店の中に入っていった。
ガラガラガラ!
引き戸の開く音すら古臭い。古い本の独特な匂いが立ち込める店内は薄暗く少々不気味だ。
狭い店内の両壁に這うように設置された本棚にはびっしりと本が詰められているが、どれも見たことのないタイトルばかり。
興味本位で入ったがこれはないなと流し見程度で店を出ようとした男だったが、ふと1冊の本が目に入った。
『幸運を呼ぶ方法百選』
なんとも胡散臭いタイトルであるが、与太話の本の割には装丁もしっかりしており、分厚い。
手に取りパラパラとめくってみると何やら理論やらに基づく開運方法みたいなものが説明と共に記載されており、中々面白い。
「気に入った本がありましたかにゃ?」
本格的に読み込みそうになったところで奥から声をかけられた。
店なのだ。店主がいるのは当たり前なのだが全く人の気配がなかったので思わず彼は驚いてしまう。
「ほっほ。ようこそ貸本屋三毛猫堂へ。その本、借りていくかい?」
奥は薄暗く店主の姿はよく見えない。しかしあちらからはこちらの姿が見えているようだ。
「あ、えーっと・・・確かに面白そうだけど冷やかしに寄っただけなんですよ。
それにこの地域に来たのもたまたまなんで次に来るのはいつかわからないし借りても返しに来れるかどうか。」
彼が今日この地域に来たのも不幸の中の1つ。係長である彼が部下のミスの謝罪のためだ。
普段彼が担当している地域はここよりもかなり離れている。
「ふむ。しかしあんたはそれを見つけてそれに興味を持ったんにゃないかね?
それなら借りていくことをお勧めするけどにゃ」
どうにもにゃーにゃーいう店主に眉を顰める。店の名前に合わせたキャラ作りでもしているのだろうか。
「だから次くるのはいつになるかわからないんだよ。」
「別に返しに来なくても結構にゃ。この店の本はその人に必要がなくなれば自動的にこの店に帰ってくるにゃ。」
そんな魔法のような話があるわけない。しかしそれならばもっと読んでみたいとも彼は思った。思ったので言われた通り借りていくことにした。
「・・・猫?」
店主は本当に猫だった。奥のカウンターに置かれた座布団で丸くなっている三毛猫。
それが声の主だった。よく見たら尻尾が2本に分かれている。いわゆる猫又というやつだろうか。
本来ならもっと驚く所なのだが店の雰囲気と相まってそこまで驚かない自分に逆に彼は驚いた。
手続きと出された借入契約は簡素なもので名前と母印1つだけ。住所なんかも必要としないので何の意味があるのか疑問だったが、
「名前と母印があれば十分にゃ」
というので名前も偽名だったらどうすると尋ねると、
「契約の意思をもって記名と自分を証明する印さえあれば契約は成立するにゃ。
そこに記載される文字は記号の羅列でしかないにゃ。」
よくわからないがそういうことらしい。
「またお越しをにゃー」
そう見送られ彼は会社へと帰っていくのだった。
朝のニュースの占いは最下位。家を出ると同時に鳥のフンが頭に直撃する。
信号は全く合わないしゲリラ豪雨でびしょ濡れになる。そして目の前を黒猫が横切る。
猫はまあ不気味というだけだがとにかく彼は不運に付き纏われていた。
営業職の彼はその日予定していた訪問先を全て回るとそんな不運の気晴らしに少し遠回りをして寂れた商店街を歩いていた。
不景気の波に逆らえず、個人商店の立ち並ぶ商店街は平日というのにシャッターの閉まった店ばかり。
開いている店の方が珍しく、彼がその店を見つけたのも必然だったと言えるかもしれない。
『貸本屋三毛猫堂』。そう看板の出された店は昔ながらのガラスの引き戸がレトロなお店だ。
貸本屋という最近では見なくなった店に興味を引かれた彼はフラフラと誘われるように店の中に入っていった。
ガラガラガラ!
引き戸の開く音すら古臭い。古い本の独特な匂いが立ち込める店内は薄暗く少々不気味だ。
狭い店内の両壁に這うように設置された本棚にはびっしりと本が詰められているが、どれも見たことのないタイトルばかり。
興味本位で入ったがこれはないなと流し見程度で店を出ようとした男だったが、ふと1冊の本が目に入った。
『幸運を呼ぶ方法百選』
なんとも胡散臭いタイトルであるが、与太話の本の割には装丁もしっかりしており、分厚い。
手に取りパラパラとめくってみると何やら理論やらに基づく開運方法みたいなものが説明と共に記載されており、中々面白い。
「気に入った本がありましたかにゃ?」
本格的に読み込みそうになったところで奥から声をかけられた。
店なのだ。店主がいるのは当たり前なのだが全く人の気配がなかったので思わず彼は驚いてしまう。
「ほっほ。ようこそ貸本屋三毛猫堂へ。その本、借りていくかい?」
奥は薄暗く店主の姿はよく見えない。しかしあちらからはこちらの姿が見えているようだ。
「あ、えーっと・・・確かに面白そうだけど冷やかしに寄っただけなんですよ。
それにこの地域に来たのもたまたまなんで次に来るのはいつかわからないし借りても返しに来れるかどうか。」
彼が今日この地域に来たのも不幸の中の1つ。係長である彼が部下のミスの謝罪のためだ。
普段彼が担当している地域はここよりもかなり離れている。
「ふむ。しかしあんたはそれを見つけてそれに興味を持ったんにゃないかね?
それなら借りていくことをお勧めするけどにゃ」
どうにもにゃーにゃーいう店主に眉を顰める。店の名前に合わせたキャラ作りでもしているのだろうか。
「だから次くるのはいつになるかわからないんだよ。」
「別に返しに来なくても結構にゃ。この店の本はその人に必要がなくなれば自動的にこの店に帰ってくるにゃ。」
そんな魔法のような話があるわけない。しかしそれならばもっと読んでみたいとも彼は思った。思ったので言われた通り借りていくことにした。
「・・・猫?」
店主は本当に猫だった。奥のカウンターに置かれた座布団で丸くなっている三毛猫。
それが声の主だった。よく見たら尻尾が2本に分かれている。いわゆる猫又というやつだろうか。
本来ならもっと驚く所なのだが店の雰囲気と相まってそこまで驚かない自分に逆に彼は驚いた。
手続きと出された借入契約は簡素なもので名前と母印1つだけ。住所なんかも必要としないので何の意味があるのか疑問だったが、
「名前と母印があれば十分にゃ」
というので名前も偽名だったらどうすると尋ねると、
「契約の意思をもって記名と自分を証明する印さえあれば契約は成立するにゃ。
そこに記載される文字は記号の羅列でしかないにゃ。」
よくわからないがそういうことらしい。
「またお越しをにゃー」
そう見送られ彼は会社へと帰っていくのだった。
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