貸本屋三毛猫堂

きょんきち

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ついてない男

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 その日から彼の運は好転していった。初めは半信半疑であったが本に記載されていた内容をルーチンにして熟すと不思議と幸運が降ってくる。

幸運は彼の心に余裕を齎し、人間関係も改善していく。

「係長、最近調子良さそうですね。何かいいことでもあったんです?」

そう話しかけてきたのは彼があの貸本屋に行くきっかけとなった部下だ。

「ま、色々だな。」

幸運と言っても些細なことばかりだ。赤信号に1度も引っ掛からなかったや美人とぶつかってお知り合いになれたとかそんな細やかな幸運ばかりだがそれも続けば嬉しくなるものである。

心の余裕は仕事にも影響を齎す。ミスが減り、成績も右肩上がりだ。たまのトラブルも余裕を持って対処できた。

それもこれもあの本のおかげ。そしてその出会いに一役買ったこの部下にも感謝してやらないといけないかもしれないと彼は思った。

「よし、良かったら昼メシでもいくか?今の時期まだ夜飲みにいくのはアレだが昼ぐらいなら奢ってやるぞ。」

世界的な感染症の波は未だに収まりきっていないがだいぶん緩和されている。

「マジっすか!行きます!ゴチになります!」

子犬のように喜ぶ部下に彼は思わず苦笑するのだった。

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 それから時が過ぎ、本に書かれた内容は彼の基本観念となった。もうずいぶんとあの本の中を確認する事もなくなり、頭の片隅にあった本の存在も次第と薄れていった。

そしてとある日、ふと思い出して本を探すがどれだけ探しても本は見つからない。

期限のない貸本だが紛失したとなると大変だ。しかしどれだけ家中をひっくり返しても見当たらない。

仕事先、通勤路、交番にも問い合わせたが見つかる気配は全くなかった。

(いよいよまずい。弁償して購入して返すか?)

しかしあれだけ読んだはずのタイトルを探してもどこにも見当たらない。

ネット検索しても全く見つからない。まるで存在しないかのように。

ふと、彼の頭にあの猫の店主の言葉が蘇る。ひょっとしたら本当にあの本はあの店に戻ったというのだろうか。

そんなわけがない。そんなオカルトな事が起きるとは思えない。

しかしあの店主自体が猫又というオカルトな存在だ。もしかしたらそんなこともあるのだろうか。

気になった彼は確認することにした。

あの日立ち寄った商店街のあの店に足を運ぶ。しあしどんなに歩き回っても商店街の中にそんな店は見当たらない。

あの古臭いガラスの引き戸も猫の店主も見当たらない。

(まるで狐に化かされたみたいだな。)

「狐とは失礼にゃ。」

どこからか声が聞こえた気がして振り返るがそこはも抜けのから。

人っこ一人、猫1匹もいない空き地があるだけだ。

結局彼はその日店にたどり着くことはなかった。
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