襲われて意識がないうちに、父親が誰か分からない子供を妊娠した私を支えてくれた優しい夫が結婚式当日に亡くなったところで前世を思い出しました

月樹《つき》

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第八話 ナターシャ

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「もう、いつになったらローランド様は迎えに来てくれるの!?
 せっかく邪魔者クリスティーナを誰かが消してくれたから、お父様にお願いして…あんなにいっぱい条件をのんで…やっと婚約者の座を手に入れたのに…。
 お前の教え方が悪いからよ!!」
 ナターシャは、まだお茶が入っているティーカップをムシャクシャする思いのまま、家庭教師のルパートに投げつけた。

「ナターシャ様、力不足で誠に申し訳ございません…。しかし契約にしたためられておりますので、全ての課題が基準に達さなければ、あちらの国に入国することもできません…もし、契約を一方的に反故にして無理やり入国しようものなら、その時点でこちら側の契約不履行となり、ナターシャ様が王太子妃になることは叶わなくなります…」
 額から流れる血をハンカチで押さえながら、正統な理由を語るルパートに、ナターシャの怒りは更に爆発する。

「だいたい、何でそんな契約をしたのよ!!
 愛し合う私達にそんなもの必要ないじゃない!!
 王太子妃教育なんて…向こうに行って結婚してから少しずつ、ローランド様が教えてくれたら良いんだから!!」
 契約をしたのは、ナターシャとサラマンド王だ。
 そもそもローランド王太子は愛しているどころか、断るために無理難題をふっかけたのに、それを全て了承して無理やり婚約を結んだのも、この二人だ…。

 サラマンド王国民のルパートにとっては、そんな誰が見ても分かる、一方的に自国に不利な契約を、こんな砂漠に水を撒くよりも吸収率の悪い馬鹿な王女のために結んだ国王に呆れていたし、怒ってもいた…。
 けれど…少しでも国に利を生むためには、こんな王女でも嫁がせてバイオレット王国と縁を結ぶくらいしか方法はなかった…。
 この契約は一方的にバイオレット王国に有利になるよう結ばれていたので、もしこちらから婚約を無かったことにしてくれるよう申し出たとしても、一度定められた不平等な貿易条件などはそのまま保たれるようになっていた…。

 ただ…1つだけこの不平等な条件を見直す方法が組み込まれていて…

 サラマンド王はそんなことはあり得ないと思って見落としていたけれど…

 それは…

 ~・~・~・~・~

「ローランド様、サラマンド王国から書簡が届きました」

 最近、父王は第一王子スカイ第二王子マリンの相手をするのに夢中で、執務のほとんどをこちらに振ってくる…。

 うちの王国は別に若くして譲位しても構わない制度のため、近々王位を譲られそうだ…。

 フィリップから渡された、サラマンド王の封蝋がされた書簡を開け、中身に目を通す…。

「結構粘ったようだけれど…やっと交代したか…」
 それは、サラマンド王が流行り病で亡くなり、ラルフ王太子が王位につくことになったという知らせであった。
 またそこには、ナターシャも王の後を追うように病にかかり、息を引き取ったと記されていた。

「さてさて…本当に病で亡くなったのか?
 はたまた怒り狂う民衆による、拷問の末に亡くなったのか…?」

「ローランド様にしては、珍しく血なまぐさいことを嬉しそうに語りますね…」
 封筒に戻した書簡を受け取りながら…フィリップが不思議そうに尋ねると…

「うん、前世で晴らせなかった恨みを、やっと晴らすことが出来たからね」

 この世界でナターシャに会った時、中山くるみアイツだとすぐに分かった。
 
 その時からすでに、この計画も立てられていた。
 前世では、もう恐怖も苦しみも分からない、正気ではない状態であっさり死なせてしまったことが悔しくて仕方なかった…。
 だから、今世では絶対生きてきたことを後悔させて、死の恐怖を十分に味あわせてから殺してやると思っていた。

 ラルフ王太子は気の弱い男だったから、なかなか独裁的な父王に歯向かうことが出来なかったけれど…
 もう食べるのに困った国民が暴徒化し、反乱が起きるという瀬戸際になって、やっと立ち上がった。

 私は、ただ…
『こんな状況の元凶になったのは誰だ?
 誰のせいで国民は飢えているのか?
 もし…万が一、契約にも書いたように契約人であるが亡くなるようなことがあれば、私はまた条件を見直し、新たな契約を結ぶつもりだ…。
 もちろん君達が国を良く変えたいと思うなら、協力は惜しまない…』
 とラルフ王太子に対して書簡を送っただけ…。
 そこに、少し王と王女への怨恨を混ぜて…。



 真由は中山くるみのことを何も知らない。
 彼女はこんな醜い思いを知らなくて良い…。
 いまは前世では産めなかった第三子を、そのお腹に宿している。
 どうしても娘が欲しかった僕の執念の賜物だろうか…?まだ男女どちらか分からないのだけれど…。

 空、海と来たら…次は陸か?
 女の子にランド…はどうなんだろう…?
 まあ、女の子の時は残念だけれど、妻に命名権を譲ろう。

 どちらにしても今からその時が待ち遠しい…。

『~この子誰の子?~』
 もちろん、みんな僕の子だ!!


 ■□■□■□■□

 お読みいただきありがとうございます。
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