秘密〜あなたにだけは知られてはならない〜

月樹《つき》

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中編

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 潮音君とは海がある小さな村の小学校で知り合った。

 その当時の私は、父と母の離婚のため、一時的に祖父母に預けられていたので、少し精神的に不安定だった。
 両親の離婚の原因は父の浮気だ。 

 まだ幼く、よく分かっていなかった私にとっては、父が突然家に帰って来なくなり、母も仕事で夜遅くまで帰って来れなくて、1人ボッチになった…それが現実だった。

 離婚したばかりの頃の母は、1人で私を育てなくてはならなくなり、経済的にも体力的にも精神的にも一杯一杯で、私にまで気を回す余裕がなかった。
 そんな母に心配かけないよう、私は子供ながらに頑張った。
 でも身体はそれについていけなくて、悲鳴を上げていて…朝起きられなくなり、学校で何度も腹痛を起こし、休みがちになった…。
 突然泣き出したり、独り言が増えたりといった症状も表れだした時、母は『このままでは母子共に駄目になる』と、一時的に私を祖父母の所に預ける決心をした。

 潮音君とは、そんな祖父母の家から通っていた小学校で出会った。

 当時の私はまだ精神状態が不安定だったため、地味でオドオドしてて、積極的に他人ひとと関わることができなかった。 
 そんな私に話し掛けてくれたのが、美奈ちゃんと潮音君だ。

 美奈ちゃんはいかにも陽キャといった感じの元気な女の子で、学校中のみんなと仲良しだった。
 まあ、みんなと言っても、6学年全員足しても、この学校の1クラスの人数より少なかったけれど…。 

 潮音君は今と異なり、華奢で中性的な雰囲気の綺麗な男の子だった。
 身長もそれほど高くなく、私とそんなに変わらなかったと思う。
 今では、肩幅も広くなり、身長なんて私より20cmは高い。綺麗な顔は変わらないけれど…。


 あの頃の私は、他人とかかわるより、1人で本を読むことを好んだ。
 十分に傷つき、心が疲れ果てていたので、他人から傷つけられることがない架空の世界に籠もることを選んだのだ。

 でも、美奈ちゃんも潮音君もそんな私を見捨てたりせず、根気強く話し掛けてくれた。
 美奈ちゃんは多少強引なところもあったけれど、面白みなんて全くない私に「一緒に遊ぼう!」と誘ってくれた。
 何度も誘ってくれる美奈ちゃんに根負けして、一緒に出掛けることが増え話ししているうちに、気がつけば親友と言える存在になっていた。
 潮音君は、私の様子を見ながら、困っていそうだと思ったらさり気なく助けてくれる…そんな優しい人だった。


 私が本の世界にハマったのは、年の離れた従姉の真理まりちゃんの影響も大きい。

 お盆の帰省で、祖父母の家に泊まりに来ていた真理ちゃんは、娯楽の少ない村で幼い私が退屈しているだろうと、自分が読まなくなった本や漫画を沢山持ってきてくれた。
 5歳年上の真理ちゃんが選ぶ本は、少し難しいものもあったけれど、しっかり私の心を掴んだ。
 今まで小学生向けに作られた本しか読んだことのなかった私にとって、そこに描かれる世界は全て、見たこともないワクワクするものだった。
 それからは村や小学校にある図書館でも、興味を持った本を片っ端から読んでいった。
 真理ちゃんも家に来るたび、自分が読み終わったものを持ってきてくれた。

 その中にとてもグッと来る、切なくも美しい恋愛の本があった。絵もとても綺麗だったので感情移入して読んでしまった。

 私がそう感想を述べると、真理ちゃんは他にも私の好みそうな本をどんどん貸してくれた。

 そして…気がつけば、私は小学生ながら立派なとなっていた…。

 もちろん大人な表現は無いものを選んで貸してくれていたので、ご安心を…。

 すっかりその世界にハマってしまった私は、6年生の夏休み頃には、自分で漫画を創作するまでになっていた。
 もちろん誰にも披露したりせず、1人でこっそり楽しんでいただけだ。

 でも、ある日事件は起こった。

 私は小学校を卒業したら、ママと再婚相手のジョージさんが住むカリフォルニアに引っ越す事が決まっていた。
 最後に思い出として、大好きな潮音君にバレンタインのチョコを渡すか渡さないかで私は迷っていた。
 潮音君は人気者なので、みんな彼に憧れていたし、たぶん美奈ちゃんも彼のことが好きだと思った…。
 卒業後に引っ越しが決まっていた私は、付き合いたいとかそういう気持ちはなかったけれど、ただ最後にありがとうの気持ちを込めて、潮音君にチョコを渡したかった。

 渡すかどうかはまだ迷ったまま、とりあえずチョコレートを購入した。


「エミリちゃんは、バレンタインデー、誰かにチョコ渡すの?」
 美奈ちゃんに、いきなり尋ねられ、返答に困った。
「どうして…?」
「だって、エミリちゃんがおかし屋さんでチョコ買ってるの見たって、アヤちゃんが言ってたもの」
「…チョコレートは、自分で食べるために買っただけ…」
「そうなんだ、良かった~。
 私は潮音君に渡すつもりだから、親友のエミリちゃんもそうだったら嫌だな~と思ってたんだ。
 中学校からは他の小学校の子も一緒になるでしょ?だから、ライバルが増える、その前に告白するつもり!
 エミリちゃんも応援してね!!」

 親友の美奈ちゃんにそう言われたら、チョコは渡せなくなった…。

 けれど、せっかく彼を思って買ったチョコレートを自分で食べる事も出来ず…私は未練たらしくカバンの中にしまったままにしていた。

 そしてバレンタイン当日…。

「今日はバレンタインデーなので、学校にチョコを持ってきている人はいないか、カバンの中身を抜き打ち検査しま~す」

 クラスの男子の島田君がふざけて、そんなことを言い出した。

「やめてよ~」
「島田、最低~」
「ふざけんな!!」

 女子のブーイングを受ける中、島田君はますます調子にのって、運悪く隣の席だった私のカバンを取り上げた。

「じゃあ、まずば田中さんのカバンから…」

 これまた運悪く、教科書を机にしまおうとしていた私のカバンは蓋が開いた状態だったため、島田君が引っ張った勢いで、中身を全部ぶち撒けてしまった…。

『『『『・・・・』』』』

 カバンの中には、教科書以外にチョコレート…
 そしても入っていた…。

 最悪なことに、そのは絶対に人に見られてはいけないページを開いた状態で、ぶち撒けられていた…。

「これ、なあに…漫画?」
 そのノートにいち早く反応したのは美奈ちゃんだ。

「え~っ!!男の子同士で抱き合ってるよ、これ!!しかも名前がシオン君になってる~!!」
 美奈ちゃんが大声で叫んだため、クラスのみんなに私がBL漫画を描いていたこと…しかも潮音君を主人公にしていたことがバレてしまった…。

 私は無言でカバンの中のものを全て詰め込むと、そのまま逃げるように家に帰った。

 それから結局一回も、小学校には行けなかった…。

 家に、何度も美奈ちゃんと潮音君が訪ねて来てくれたけれど、2人に合わせる顔がなくて…特に潮音君には申し訳なくて、絶対会えなかった。

「エミリちゃん、ごめんみんなの前で叫んだりして!!
 みんな気にしてないし、待ってるから、学校に来て!!」

「エミリちゃん、大丈夫だから…何があっても僕が守るから、一緒に学校に行こう」

 結局、その後、美奈ちゃんの告白がどうなったのかは分からいけれど、2人はいつも一緒に、朝のお迎えに来てくれた。
 でも、私は2人に会うことも出来ず、おばあちゃんが代わりにお礼を言って、謝ってくれていた。

 そして卒業式のあった日も、潮音君は1人、卒業証書を持って家を訪ねてくれた。
 その日はお母さんも家に来ていたので、私の代わりにお母さんが受け答えをしてくれた。

「いつもありがとう。卒業証書もありがとうね。
 後で他の荷物と一緒に、学校に取りに行くつもりだったんだけれど…お友達に持ってきてもらえて、笑里も喜ぶと思うわ」
「エミリちゃんに会えませんか?直接、彼女に渡して、話ししたいんです」
「ごめんなさいね…いまちょっと家に居なくて…」
 お母さんは、どうしても学校の人に会いたくない!!と言う私の我儘を聞いて、居留守を使ってくれた。
「じゃあ、中学校の入学式は迎えに行くから、一緒に行こうとお伝えください」

 お母さんは、流石にもう私がいないのに、迎えに来てもらうのは申し訳ないと思った。

「せっかく誘ってくれたのに…ごめんなさい。
 春から、笑里も一緒にアメリカに引っ越すの。
 だから、同じ中学校には通えないのよ…」
「アメリカに…!?」

 潮音君は、私の部屋がある2階に向かって叫んだ。

「エミリちゃん、僕は君の事を絶対忘れない!!
 君が僕からどんなに遠く離れても…絶対覚えているから!!」





■□■□■□■□■□■□■□

お読みいただきありがとうございます。

島田くん、エミリちゃんが初恋の相手でした。

美奈ちゃん、もちろん全て分かってやってます。
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