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「そのときは、俺も死んでやる」
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俺は――迷っていた。
泣き叫ぶ亀若丸にどう話しかければいいのか、判然としないからだ。
下手な慰めではかえって傷つくかもしれない。
かと言って何も言わないという選択もなかった。
もし師匠ならばどう諭すのだろうか。
厳しい中にも優しさのある言葉を投げかけるのかもしれない。
賢い三左衛門は理をもって説得するだろう。
剣客の周助だったら特有の感覚で心に染み渡ることを言う。
芸者のふでの場合は女の気持ちが分かって……いや、違うな。ここは俺自身の言葉で言わねばならないんだ。
亀若丸が望んでいるのは俺の言葉だ。
だから俺は――向かい合う。
「いいか、亀若丸。誰が何を言おうと、お前は――生きていいんだ」
第一声で偽りのない本心が言えた。
亀若丸は泣きじゃくりながら「本当なの?」と縋ってくる。
「だっておいらには、よく分からない高貴な血が……」
「血のせいで生死が問われるなんて、泰平の世であっちゃならねえ。それにお前は悪くないだろう」
高貴な血のせいで苦しむことは多々ある。
特に武士として生まれたのなら宿命なのだろう。
それでも、亀若丸は悪くない。
生まれたことが罪になるなんて、介錯人の俺は認めねえ!
「お前だって死にたくないだろ。これからも生きていきたいに決まっているよな」
「……うん。でも、おいらがそんな高貴な血が入っているなんて、知らなかったから」
「だとしても、母親はお前を愛した。死ぬ前までお前を一番に考えた。それは違わないはずだ」
もし母親であるききょうに愛する心がなければ、高貴な血が入っている亀若丸を十歳になるまで育てなかっただろう。
それに亀若丸の出生を利用すれば喜連川藩から何かしら得ていたはずだ。そういう考えがよぎらなかったわけがない。だがききょうはしなかった。
「前にも言ったと思うが、俺は亀若丸、お前が死んだら――悲しいんだ」
「源八郎……」
「それに高貴な血が入っていようが、お前は亀若丸じゃないか」
亀若丸は泣き続けているけれど、次第に安堵の涙になっていくのが伝わってきた。
「これからどうすればいいのか、俺もはっきりと分からない。だけどなんとかしてやる。安心しろ、すべて上手くいくように努力する」
「……ごめん。言いたくないし訊きたくないけど、なんとかならなかったらどうするの?」
亀若丸の肩に手を置く。
強くではない。できる限り優しい気持ちで置いた。
「そのときは、俺も死んでやる」
「…………」
「お前を一人っきりで死なせるものか。ま、なんとかしてやる。約束だ」
呆然と俺を見つめる亀若丸だったけれど、袖で涙を拭って頬を両手でぱんっと叩く。
腫らした目以外は元通りの笑顔になった。
「あははは! 源八郎、一緒に死んでくれるんだね! ちょっと安心しちゃった!」
「ふん。なんとかするって言ったじゃあねえか」
「……ありがとう。源八郎。おいらとても嬉しいよ」
亀若丸は一切の曇りもない笑顔になった。
ようやく元気が出てくれて嬉しいと思えるのは、共に旅をしてきたからだと俺には分かっていた。
「お待たせしました。こちらが件のかんざしです」
俺たちが数度の会話をしていると、ようやく村長がかんざしを持ってきた。
十年以上前にききょうが喜連川暉氏から賜ったというのに新品のようだった。黄金色の色合いはくすんでいない。またかんざしの装飾には喜連川藩の家紋のようなものが刻まれていた。
「大事に保管していたのだな」
「ええ。いつの日か必要になるときが来ると思いまして。ききょうも亀若丸に渡したいと言っておりました」
「おっかあ、おいらが喜連川藩に行ってほしいと思ったのかな?」
そうではないと俺は思ったが、今は言わないでおこう。
村長は居ずまいを正して「これからどうなさいますか?」と訊ねた。
「そうだな……亀若丸はどうしたいんだ?」
一番の目的は亀若丸の望みを叶えることだ。
だから亀若丸に委ねることにした。
「ええっと。どうしたいって?」
「桜田村で暮らしたいのか、それとも喜連川藩で姫として暮らしたいのか。他にもいろいろあるが……」
「それなら桜田村で今までどおり暮らしたいよ。ここには友達もいるんだし」
「ならばそうなるように動かないとな」
俺は村長に「頼みがある」と持ち掛けた。
「なんでしょうか?」
「亀若丸をしばらく預かってもらいたい。すべての物事が解決するまでの間だ」
「預かるのは構いませんが……どのように解決するのですか?」
敢えて明日の天気を語るような気軽な口調で俺は言う。
「俺は喜連川藩に行く。藩主と話をつけるためにな」
「な、なんですって……」
これには亀若丸も村長も言葉が無いようだった。
しばらく沈黙が続いた。
「無礼を承知でお訊ねします……死ぬ気ですか?」
村長が慄きながらもそんなことを言うのは分かる。
敵地に単身で赴くのと等しいからだ。
亀若丸も心配そうな顔で俺を見つめる。
「死ぬ気はないさ。ただ、どの道藩主を説得しなければ家老の花房主水は止められない」
「藩主様があなたに会おうとなさるとは思えません。五千石とはいえ、相手はあの喜連川様なのですから」
「それも重々承知している。その上で会おうと言っているんだ」
すると「源八郎、大丈夫なの?」と心細い顔で亀若丸が俺の袖を引っ張る。
「おいらのために無茶する気なの?」
「無茶じゃない。なに、すべて上手くいくさ」
そうは言うものの、内心では話が通じるとは思えなかった。
だが、亀若丸が今まで通りの生活ができるのならなんでもやるつもりだった。
もはや山田朝右衛門の門人に戻ることなんてどうでも良かったのだ。
まずは藩主と会い事情を話す。
それで駄目ならば家老の花房主水を斬る。
それでも上手くいかなければ――藩主を斬る。
結果として俺は死ぬだろう。
もしくは責め苦を受けての悲惨の死を迎えるかもしれない。
俺はそれでも構わなかった。
俺が死んだら亀若丸は悲しむだろう。
しかし時が経てば悲しみは薄れていく。
笑って過ごせる日々がやってくる。
そのためなら――俺は黙って死んでやる。
「……おいらは反対だからね」
亀若丸は俺から視線を逸らして床を見つめた。
もしかすると俺の覚悟を感じ取ったのかもしれない。
俺は何か安心するようなことを言おうとして――
「村長! 大変だ!」
家の外で騒ぐ者がいる。
嫌な予感を覚えつつ、俺は村長が「どうした? 何があった?」と言いつつ外に出るのを見送った。
「源八郎……」
「大丈夫だ。俺がついている」
亀若丸の背中をさすっていると「まずいことになりました」と村長が険しい顔で戻ってきた。
「怪しい者が家を取り囲んでおります。しかも亀若丸を出せと騒いでいます」
「……村長。亀若丸を家から出すなよ」
刀を掴んで立ち上がる。
強張っている亀若丸に「外に出るな」と厳しく言う。
「お前も分かっているだろう。俺はこう見えても腕が立つんだ。あっさりと倒してくるさ」
「……うん! 絶対戻ってきてね、源八郎!」
俺は力強く頷いてから戸を開けて外に出た。
武士が五人、家の前にいた。
遠巻きに村人がこちらを窺っていた。中には子供もいた。一様に何があったのだろうという顔をしている。
「やっぱり、ここにいるのか――亀若丸」
その武士の中に見知った顔があった。
俺は「そうでなければお前はここにいないだろう」と返す。
「そうだよな――嶋田四之助」
嶋田は無表情のまま俺に告げる。
「あんたと決着をつけるときがきたようだな」
今までにない鋭い殺気を感じた。
俺はいよいよ本気なのだなと悟った。
「ああ。俺たちの戦いを――終わらせよう」
泣き叫ぶ亀若丸にどう話しかければいいのか、判然としないからだ。
下手な慰めではかえって傷つくかもしれない。
かと言って何も言わないという選択もなかった。
もし師匠ならばどう諭すのだろうか。
厳しい中にも優しさのある言葉を投げかけるのかもしれない。
賢い三左衛門は理をもって説得するだろう。
剣客の周助だったら特有の感覚で心に染み渡ることを言う。
芸者のふでの場合は女の気持ちが分かって……いや、違うな。ここは俺自身の言葉で言わねばならないんだ。
亀若丸が望んでいるのは俺の言葉だ。
だから俺は――向かい合う。
「いいか、亀若丸。誰が何を言おうと、お前は――生きていいんだ」
第一声で偽りのない本心が言えた。
亀若丸は泣きじゃくりながら「本当なの?」と縋ってくる。
「だっておいらには、よく分からない高貴な血が……」
「血のせいで生死が問われるなんて、泰平の世であっちゃならねえ。それにお前は悪くないだろう」
高貴な血のせいで苦しむことは多々ある。
特に武士として生まれたのなら宿命なのだろう。
それでも、亀若丸は悪くない。
生まれたことが罪になるなんて、介錯人の俺は認めねえ!
「お前だって死にたくないだろ。これからも生きていきたいに決まっているよな」
「……うん。でも、おいらがそんな高貴な血が入っているなんて、知らなかったから」
「だとしても、母親はお前を愛した。死ぬ前までお前を一番に考えた。それは違わないはずだ」
もし母親であるききょうに愛する心がなければ、高貴な血が入っている亀若丸を十歳になるまで育てなかっただろう。
それに亀若丸の出生を利用すれば喜連川藩から何かしら得ていたはずだ。そういう考えがよぎらなかったわけがない。だがききょうはしなかった。
「前にも言ったと思うが、俺は亀若丸、お前が死んだら――悲しいんだ」
「源八郎……」
「それに高貴な血が入っていようが、お前は亀若丸じゃないか」
亀若丸は泣き続けているけれど、次第に安堵の涙になっていくのが伝わってきた。
「これからどうすればいいのか、俺もはっきりと分からない。だけどなんとかしてやる。安心しろ、すべて上手くいくように努力する」
「……ごめん。言いたくないし訊きたくないけど、なんとかならなかったらどうするの?」
亀若丸の肩に手を置く。
強くではない。できる限り優しい気持ちで置いた。
「そのときは、俺も死んでやる」
「…………」
「お前を一人っきりで死なせるものか。ま、なんとかしてやる。約束だ」
呆然と俺を見つめる亀若丸だったけれど、袖で涙を拭って頬を両手でぱんっと叩く。
腫らした目以外は元通りの笑顔になった。
「あははは! 源八郎、一緒に死んでくれるんだね! ちょっと安心しちゃった!」
「ふん。なんとかするって言ったじゃあねえか」
「……ありがとう。源八郎。おいらとても嬉しいよ」
亀若丸は一切の曇りもない笑顔になった。
ようやく元気が出てくれて嬉しいと思えるのは、共に旅をしてきたからだと俺には分かっていた。
「お待たせしました。こちらが件のかんざしです」
俺たちが数度の会話をしていると、ようやく村長がかんざしを持ってきた。
十年以上前にききょうが喜連川暉氏から賜ったというのに新品のようだった。黄金色の色合いはくすんでいない。またかんざしの装飾には喜連川藩の家紋のようなものが刻まれていた。
「大事に保管していたのだな」
「ええ。いつの日か必要になるときが来ると思いまして。ききょうも亀若丸に渡したいと言っておりました」
「おっかあ、おいらが喜連川藩に行ってほしいと思ったのかな?」
そうではないと俺は思ったが、今は言わないでおこう。
村長は居ずまいを正して「これからどうなさいますか?」と訊ねた。
「そうだな……亀若丸はどうしたいんだ?」
一番の目的は亀若丸の望みを叶えることだ。
だから亀若丸に委ねることにした。
「ええっと。どうしたいって?」
「桜田村で暮らしたいのか、それとも喜連川藩で姫として暮らしたいのか。他にもいろいろあるが……」
「それなら桜田村で今までどおり暮らしたいよ。ここには友達もいるんだし」
「ならばそうなるように動かないとな」
俺は村長に「頼みがある」と持ち掛けた。
「なんでしょうか?」
「亀若丸をしばらく預かってもらいたい。すべての物事が解決するまでの間だ」
「預かるのは構いませんが……どのように解決するのですか?」
敢えて明日の天気を語るような気軽な口調で俺は言う。
「俺は喜連川藩に行く。藩主と話をつけるためにな」
「な、なんですって……」
これには亀若丸も村長も言葉が無いようだった。
しばらく沈黙が続いた。
「無礼を承知でお訊ねします……死ぬ気ですか?」
村長が慄きながらもそんなことを言うのは分かる。
敵地に単身で赴くのと等しいからだ。
亀若丸も心配そうな顔で俺を見つめる。
「死ぬ気はないさ。ただ、どの道藩主を説得しなければ家老の花房主水は止められない」
「藩主様があなたに会おうとなさるとは思えません。五千石とはいえ、相手はあの喜連川様なのですから」
「それも重々承知している。その上で会おうと言っているんだ」
すると「源八郎、大丈夫なの?」と心細い顔で亀若丸が俺の袖を引っ張る。
「おいらのために無茶する気なの?」
「無茶じゃない。なに、すべて上手くいくさ」
そうは言うものの、内心では話が通じるとは思えなかった。
だが、亀若丸が今まで通りの生活ができるのならなんでもやるつもりだった。
もはや山田朝右衛門の門人に戻ることなんてどうでも良かったのだ。
まずは藩主と会い事情を話す。
それで駄目ならば家老の花房主水を斬る。
それでも上手くいかなければ――藩主を斬る。
結果として俺は死ぬだろう。
もしくは責め苦を受けての悲惨の死を迎えるかもしれない。
俺はそれでも構わなかった。
俺が死んだら亀若丸は悲しむだろう。
しかし時が経てば悲しみは薄れていく。
笑って過ごせる日々がやってくる。
そのためなら――俺は黙って死んでやる。
「……おいらは反対だからね」
亀若丸は俺から視線を逸らして床を見つめた。
もしかすると俺の覚悟を感じ取ったのかもしれない。
俺は何か安心するようなことを言おうとして――
「村長! 大変だ!」
家の外で騒ぐ者がいる。
嫌な予感を覚えつつ、俺は村長が「どうした? 何があった?」と言いつつ外に出るのを見送った。
「源八郎……」
「大丈夫だ。俺がついている」
亀若丸の背中をさすっていると「まずいことになりました」と村長が険しい顔で戻ってきた。
「怪しい者が家を取り囲んでおります。しかも亀若丸を出せと騒いでいます」
「……村長。亀若丸を家から出すなよ」
刀を掴んで立ち上がる。
強張っている亀若丸に「外に出るな」と厳しく言う。
「お前も分かっているだろう。俺はこう見えても腕が立つんだ。あっさりと倒してくるさ」
「……うん! 絶対戻ってきてね、源八郎!」
俺は力強く頷いてから戸を開けて外に出た。
武士が五人、家の前にいた。
遠巻きに村人がこちらを窺っていた。中には子供もいた。一様に何があったのだろうという顔をしている。
「やっぱり、ここにいるのか――亀若丸」
その武士の中に見知った顔があった。
俺は「そうでなければお前はここにいないだろう」と返す。
「そうだよな――嶋田四之助」
嶋田は無表情のまま俺に告げる。
「あんたと決着をつけるときがきたようだな」
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