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実践
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春朗たちと別れ、別宅に戻ったシャーロックは早速、絵を描こうと筆を取った。
春好の絵のおかげで描く方法は分かった。描く方向性も見定まった。
後は描くだけだ――
「それじゃシャーロック。晩御飯作ってくるね」
お雪は邪魔してはいけないと思い、安心した気持ちで部屋から出ようとした――
「オユキサン、マッテ」
シャーロックが神妙な顔でお雪を呼び止める。絵を描くときは周りが見えなくなるのに変ねと思いながら「シャーロック、どうしたの?」と彼女は訊ねる。
「エット、モデル……オユキサン、カキタイ。ソバニイテ」
「……私のことを描くつもりなの?」
「ウン。ワタシ、オユキサン、カキタイ」
冗談ではないようだ。シャーロックは頬を赤らめているが、顔は真剣だった。彼が絵に対して真摯な思いを抱いているのは、お雪には強く伝わっていた。
だから――断ろうと彼女は思った。
「この際だからはっきりと言うけど、私はあなたに描いてもらえるほど、綺麗な人じゃないわ」
拒絶ではない。
自分は絵の題材に相応しくないと考えている。
ましてやシャーロックのような才能あふれる青年が描くには汚れていると思い込んでいた。
「キレイ。オユキサン、トテモキレイ」
「ありがとう。でもね、そういう意味じゃないの」
儚げに笑うお雪はシャーロックの気持ちがありがたいと思っていた。こんな自分を描いてくれることが嬉しいと素直に思える。
しかし彼女は頑なに、価値のない女だと自認していた。
その思いは呪縛そのものである。
理由は今まで送ってきた半生のせいだった。
暗い道を一人で歩いていた後遺症――
『役立たず! もうあんたは一生、クズのままだよ!』
頭の中で反響する言葉。
何度も夢に出てくる言葉。
いつまでも残る、消えない――言葉。
自分が選んだ道ではないけど、選ばされて歩んだ道だけど、それでも汚れていると思ってしまう。
どうしようないほどに、思っている。
「私はね、汚れているの。どんなに身体を洗っても汚れていて、どうしようもない女なのよ」
「…………」
「だから他の人を描いて。それに想像でもいいじゃない。大顔絵だっけ。あれだけの絵を描くのは難しいと思うけど――」
そこまで言ったとき。
シャーロックは静かに涙を流した。
春好の傑作を見ても流さなかったのに。
碧眼からの涙にお雪は戸惑った。
涙の理由が分からなかった。とめどなく流れる雫の意味が判然としなかった。
「シャーロック。どうして……?」
「ワタシ、カナシイ……オユキサン、スキダカラ」
お雪は思いもかけなかった。こんな自分を見返りなしで好きになるなんてありえない。
シャーロックは続けて「マイニチ、オイシイ、ツクッテクレル……」と涙を拭う。
「ホントハ、イヤナハズナノニ、イッショニイテクレル」
「嫌なわけ、ないじゃない……」
「ワタシ、ココニイテ、ダメ」
シャーロックは分かっていた。自分が江戸にいることは大罪であることを。
それなのに重三郎やお雪が命がけで守ってくれることを。
そのことを重々承知の上でシャーロックは日の本で暮らしている。正直、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。己の目的のために利用している気がしてならなかった。
「ソンナワタシ、セワシテクレル。ウレシイ」
「だとしても、私が――」
「ヨゴレテナイ。オユキサン、キレイ。ワタシ、オモッテル」
シャーロックはそれだけは否定しなければと、必死になって訴える。
恩人が自分のことを悪く言うのが耐えられない。そんな気持ちを強く感じていた。
「ワタシ、コトバデキナイ。ウマクデキナイ。ダケド、オユキサンキレイ。ナンドモイウ。ダカラ――」
手をついて頭を下げて、お雪に懇願する。
決意を込めて――本心を伝える。
「エニナッテ。ワタシ、オユキサン、カキタイ。ソウスレバ、ワカル――オユキサン、キレイ、ダッテ」
「……うう」
お雪は涙を流さないよう我慢して、結局はこらえられなくて――ぽたぽたと頬を伝っていく。
「うっぐ、ひく……」
「オユキサン?」
「……な、泣かせないで、よ」
滂沱の涙を拭いながら、止められない自分を情けないと思って、それでも嬉しさはどうしようもなくあふれて、感情が止まらなくなっていく――
「私、みたいな女、本当に……描きたいの?」
「……ウン。カキタイ」
「あなたは知らないけど、私は汚れているのよ?」
「ワタシ、オユキサン、キレイニミエル。ソレダケデイイ」
「……いいわ。描いて」
お雪は泣いたまま、不器用な笑顔になった。
痛々しいけど、菩薩のように美しい。
そんな矛盾を孕んだ――お雪。
「あなたの思うまま、筆の進むままに、描いてちょうだい」
「ウン! ヤクソク、スル!」
◆◇◆◇
シャーロックは描く。
紅や藍などを使ってお雪を描く。
もう死体など描かない――
お雪は鬼気迫る勢いで描くシャーロックに圧倒されていた。
絵の題材になるのは初めてで、ただ座っているだけなのに、自分が紙に写し出されている感覚が痛いほど身体に触れてくる。
そうして一晩中、シャーロックは描き続けた。
お雪が疲れ果てて寝ても続けた。
それは魂を絵に入れているかのようだった。
彼もまたこんなに筆が進んだことはなかった。一心不乱になって描いたことはなかった。楽しく描いているだけでは味わえない、充足感や達成感に心を支配されていた。そして今、自分はようやく人を描けている。その確信が速度を上げていく――
「――っ!? ご、ごめんなさい、シャーロック! 私、寝てしまって!」
夜が明けて、朝の陽ざしが部屋に差し込んできた頃、お雪は目覚めた。
寝てはいけないと思っていたけど、シャーロックから発せられる熱気に当てられ、心身ともに崩れてしまった。一種の自己防衛だったのだけれど、彼女は後悔の念に駆られてしまう。せっかくシャーロックが描いてくれているのに――
「ダイジョウブ。オユキサン、カケタ」
シャーロックは畳の上に置かれた絵を示した。
お雪は「本当に? 早いわね……」と驚いた。
「見ていいの?」
「ウン。ミテ。オユキサン、キレイ、カケタ」
シャーロックの満足そうな声。
お雪はまぶたをこすりながら、絵に近づく。
見た途端、何も言えなくなる。
顔と胸部だけを描いた絵。
明らかにお雪だと分かる。
しかしそれだけではない。
首が誇張されていて、大きく長く描かれている。
端正な顔立ちだが個々の部分が際立っている。それでいて色気を感じるのが印象的だ。
美しい絵ではなく、どこか面白みを感じさせるような、この世の一つとないシャーロック独自の画風だ。
シャーロックが追い求めた描き方――画風だ。
そして何より――生きている。春好の絵は飛び出そうとしているが、シャーロックの絵は生き生きとしているあまり、飛び出ている。
絵からこの世に行こうとしているのが誰の眼から見ても分かる。
今まで絵とは一線を画す、生きている人を描いた作品だ。
二度と死体を描くことはないだろう。
シャーロックは見事に己の殻から脱却したのだ。
「……すごい。こんな絵、見たことないわ」
ようやく感想が言えたお雪に「ワタシ、カケタ。ダケド、キット、カケナカッタ」とシャーロックは笑う。
「オユキサン、イタカラ」
「シャーロック……」
「アリガトウ。デアエテ、ヨカッタ」
「……だから、泣かせないでよ」
「アッ。ナカナイデ、オユキサン」
シャーロックが描いた誇張の絵。
稀代の絵師、喜多川歌麿の言うとおり、誇らしく胸を張った絵。
シャーロックが描く、大首絵の誕生だ。
それはお雪が重三郎と約束した、ひと月の期限の三日前の朝のことだった。
春好の絵のおかげで描く方法は分かった。描く方向性も見定まった。
後は描くだけだ――
「それじゃシャーロック。晩御飯作ってくるね」
お雪は邪魔してはいけないと思い、安心した気持ちで部屋から出ようとした――
「オユキサン、マッテ」
シャーロックが神妙な顔でお雪を呼び止める。絵を描くときは周りが見えなくなるのに変ねと思いながら「シャーロック、どうしたの?」と彼女は訊ねる。
「エット、モデル……オユキサン、カキタイ。ソバニイテ」
「……私のことを描くつもりなの?」
「ウン。ワタシ、オユキサン、カキタイ」
冗談ではないようだ。シャーロックは頬を赤らめているが、顔は真剣だった。彼が絵に対して真摯な思いを抱いているのは、お雪には強く伝わっていた。
だから――断ろうと彼女は思った。
「この際だからはっきりと言うけど、私はあなたに描いてもらえるほど、綺麗な人じゃないわ」
拒絶ではない。
自分は絵の題材に相応しくないと考えている。
ましてやシャーロックのような才能あふれる青年が描くには汚れていると思い込んでいた。
「キレイ。オユキサン、トテモキレイ」
「ありがとう。でもね、そういう意味じゃないの」
儚げに笑うお雪はシャーロックの気持ちがありがたいと思っていた。こんな自分を描いてくれることが嬉しいと素直に思える。
しかし彼女は頑なに、価値のない女だと自認していた。
その思いは呪縛そのものである。
理由は今まで送ってきた半生のせいだった。
暗い道を一人で歩いていた後遺症――
『役立たず! もうあんたは一生、クズのままだよ!』
頭の中で反響する言葉。
何度も夢に出てくる言葉。
いつまでも残る、消えない――言葉。
自分が選んだ道ではないけど、選ばされて歩んだ道だけど、それでも汚れていると思ってしまう。
どうしようないほどに、思っている。
「私はね、汚れているの。どんなに身体を洗っても汚れていて、どうしようもない女なのよ」
「…………」
「だから他の人を描いて。それに想像でもいいじゃない。大顔絵だっけ。あれだけの絵を描くのは難しいと思うけど――」
そこまで言ったとき。
シャーロックは静かに涙を流した。
春好の傑作を見ても流さなかったのに。
碧眼からの涙にお雪は戸惑った。
涙の理由が分からなかった。とめどなく流れる雫の意味が判然としなかった。
「シャーロック。どうして……?」
「ワタシ、カナシイ……オユキサン、スキダカラ」
お雪は思いもかけなかった。こんな自分を見返りなしで好きになるなんてありえない。
シャーロックは続けて「マイニチ、オイシイ、ツクッテクレル……」と涙を拭う。
「ホントハ、イヤナハズナノニ、イッショニイテクレル」
「嫌なわけ、ないじゃない……」
「ワタシ、ココニイテ、ダメ」
シャーロックは分かっていた。自分が江戸にいることは大罪であることを。
それなのに重三郎やお雪が命がけで守ってくれることを。
そのことを重々承知の上でシャーロックは日の本で暮らしている。正直、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。己の目的のために利用している気がしてならなかった。
「ソンナワタシ、セワシテクレル。ウレシイ」
「だとしても、私が――」
「ヨゴレテナイ。オユキサン、キレイ。ワタシ、オモッテル」
シャーロックはそれだけは否定しなければと、必死になって訴える。
恩人が自分のことを悪く言うのが耐えられない。そんな気持ちを強く感じていた。
「ワタシ、コトバデキナイ。ウマクデキナイ。ダケド、オユキサンキレイ。ナンドモイウ。ダカラ――」
手をついて頭を下げて、お雪に懇願する。
決意を込めて――本心を伝える。
「エニナッテ。ワタシ、オユキサン、カキタイ。ソウスレバ、ワカル――オユキサン、キレイ、ダッテ」
「……うう」
お雪は涙を流さないよう我慢して、結局はこらえられなくて――ぽたぽたと頬を伝っていく。
「うっぐ、ひく……」
「オユキサン?」
「……な、泣かせないで、よ」
滂沱の涙を拭いながら、止められない自分を情けないと思って、それでも嬉しさはどうしようもなくあふれて、感情が止まらなくなっていく――
「私、みたいな女、本当に……描きたいの?」
「……ウン。カキタイ」
「あなたは知らないけど、私は汚れているのよ?」
「ワタシ、オユキサン、キレイニミエル。ソレダケデイイ」
「……いいわ。描いて」
お雪は泣いたまま、不器用な笑顔になった。
痛々しいけど、菩薩のように美しい。
そんな矛盾を孕んだ――お雪。
「あなたの思うまま、筆の進むままに、描いてちょうだい」
「ウン! ヤクソク、スル!」
◆◇◆◇
シャーロックは描く。
紅や藍などを使ってお雪を描く。
もう死体など描かない――
お雪は鬼気迫る勢いで描くシャーロックに圧倒されていた。
絵の題材になるのは初めてで、ただ座っているだけなのに、自分が紙に写し出されている感覚が痛いほど身体に触れてくる。
そうして一晩中、シャーロックは描き続けた。
お雪が疲れ果てて寝ても続けた。
それは魂を絵に入れているかのようだった。
彼もまたこんなに筆が進んだことはなかった。一心不乱になって描いたことはなかった。楽しく描いているだけでは味わえない、充足感や達成感に心を支配されていた。そして今、自分はようやく人を描けている。その確信が速度を上げていく――
「――っ!? ご、ごめんなさい、シャーロック! 私、寝てしまって!」
夜が明けて、朝の陽ざしが部屋に差し込んできた頃、お雪は目覚めた。
寝てはいけないと思っていたけど、シャーロックから発せられる熱気に当てられ、心身ともに崩れてしまった。一種の自己防衛だったのだけれど、彼女は後悔の念に駆られてしまう。せっかくシャーロックが描いてくれているのに――
「ダイジョウブ。オユキサン、カケタ」
シャーロックは畳の上に置かれた絵を示した。
お雪は「本当に? 早いわね……」と驚いた。
「見ていいの?」
「ウン。ミテ。オユキサン、キレイ、カケタ」
シャーロックの満足そうな声。
お雪はまぶたをこすりながら、絵に近づく。
見た途端、何も言えなくなる。
顔と胸部だけを描いた絵。
明らかにお雪だと分かる。
しかしそれだけではない。
首が誇張されていて、大きく長く描かれている。
端正な顔立ちだが個々の部分が際立っている。それでいて色気を感じるのが印象的だ。
美しい絵ではなく、どこか面白みを感じさせるような、この世の一つとないシャーロック独自の画風だ。
シャーロックが追い求めた描き方――画風だ。
そして何より――生きている。春好の絵は飛び出そうとしているが、シャーロックの絵は生き生きとしているあまり、飛び出ている。
絵からこの世に行こうとしているのが誰の眼から見ても分かる。
今まで絵とは一線を画す、生きている人を描いた作品だ。
二度と死体を描くことはないだろう。
シャーロックは見事に己の殻から脱却したのだ。
「……すごい。こんな絵、見たことないわ」
ようやく感想が言えたお雪に「ワタシ、カケタ。ダケド、キット、カケナカッタ」とシャーロックは笑う。
「オユキサン、イタカラ」
「シャーロック……」
「アリガトウ。デアエテ、ヨカッタ」
「……だから、泣かせないでよ」
「アッ。ナカナイデ、オユキサン」
シャーロックが描いた誇張の絵。
稀代の絵師、喜多川歌麿の言うとおり、誇らしく胸を張った絵。
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