31 / 31
写楽
しおりを挟む
四月のからっとした晴れの日だった。
別宅の庭にいる重三郎は、焚き火の前で包み紙にくるまった、天草四郎の旗を眺めていた。
この旗が作られたのは、一揆を起こしたキリシタンの抵抗だったのだろう。後世に残るものを作れば自分たちが戦った証となる。それは確かに生きていたという証でもある。
それを思えば心苦しいが――重三郎は焚き火に旗を投げ入れた。パチパチと音を立てて燃えていく。同時に旗に仕込まれた幕府とオランダの契約書も灰となる。
「わしも後世に残るものを作ろうとしている。だが――これは残してはならぬものだ」
一人呟く重三郎。
応じる者は誰もいない。
彼らは去ってしまった――
◆◇◆◇
「手前が調べたところ、老中様との癒着が見つかりました――中川様」
長崎出島の奉行所。
顔が汗まみれになっている、長崎奉行の中川忠英に対し、証拠の書状の束を渡す重三郎。震える手で中身を確認し、全て間違いないと分かると「どうやって、調べた?」と訊ねる。
「手前の信頼する番頭が手に入れましてね。どうやって調べたのかは知りませぬ」
「おぬしは、このわしを脅すのか?」
「そう捉えてもらってもけっこうです」
あくまでも無表情な重三郎。
中川は「わしとしては、この場でおぬしを斬り捨てるという手もある」と必死の抵抗をした。
「手前を斬れば――不正が世間に公表される手はずとなっています」
「命がけで、事に臨むと申すか……」
「ええ。手前の頼みを聞き入れてくだされば、決して暴露いたしません」
中川は唇を噛み締めて「頼みとはなんだ?」と不承不承といった風に訊く。
「念入りに断れないようにしているのだ。ろくでもない頼みであろう?」
「流石でございますね。ええ、頼みというのはシャーロックのことです。彼をエゲレスに帰らせてあげてください」
エゲレスの者であるシャーロックがオランダ船に乗るというのは正規の方法では不可能に近い。つまり、密航させろと重三郎は言っているのだ。
「己の進退と法度を破ること。秤にかけろと言うのだな」
「中川様の権力ならば、簡単なことでしょう?」
「……あい分かった。シャーロックをエゲレスに連れ戻そう。約束する」
言質を取った重三郎は「ありがとうございます」を形だけ頭を下げた。
場の緊張感が無くなり、弛緩した空気が漂う――それを見計らって「それに伴い、もう一つだけお願いがございます」と重三郎は言った。
「なんだと? まだ申すか!」
「今度は見返りを用意しました。五百両です」
「ご、五百!? 正気か!? い、いや、わしに何をさせるつもりなのだ!?」
大金を手に入れるよりも、無理難題を聞かされることが厳しいという態度の中川。
重三郎は「中川様には容易いことでございます」と続けた。
「一人の女をシャーロックと共に密航させてほしいのです」
「それこそ、正気を疑うぞ?」
「手前の大事な娘の頼みなのです。聞き入れてください」
「……その娘がつらい思いをするだけだ」
中川の忠告に重三郎は「そうでしょうな」と頷いた。
「それでも、手前は娘の意思を尊重してやりたいのですよ」
その後、細かいやりとりを経て――二人の密航が決まった。
それは重三郎との別離を意味していた。
◆◇◆◇
「このオランダ船に乗れば故郷まで連れてくれる。安心しろ」
「ジューザブロー、ワタシ、サビシイ……」
船出の朝。
最後の挨拶を交わすシャーロックと重三郎、お雪の三人は寂しさが顔に出ていた。
当然だが、彼らが再会することはない。そういう別れなのだ。
「しかし、お前もシャーロックと共にエゲレスへ行くとはな。やはり情が移ったのか?」
「そうですね……長く共にいれば移るものです」
そう語るお雪は神妙な顔だった。
救ってくれた義父と会えなくなるのを惜しんでいる――
「オユキサン、ホントニイイノ?」
「いいに決まっているじゃない……実を言えば、シャーロックから離れようとしていたの」
「ドウシテ?」
「私のような女、あなたと一緒にいる資格なんてないと思ったからよ」
シャーロックが否定する前に「でもね、こう思ったのよ」とお雪は微笑んだ。
「あなたと一緒にいて、とても楽しかった。それこそ過去を忘れるくらいに。だから――離れたくないって」
「オユキサン……」
二人が見つめ合う光景に、重三郎はお雪が幸せになってくれて良かったと心から嬉しがった。ようやく、彼女は前に進める――
「さあ、出航だ。未練はないか?」
「……ジューザブロー!」
シャーロックは重三郎の手を握った。
重三郎もまた応じるように力を入れた。
「ワタシ、ジューザブロー、デアエテヨカッタ! ホントニ、アリガト!」
泣きたくなるのをぐっとこらえて、重三郎は「わしの台詞だ……」と呟く。
「達者でな。エゲレスまでは遠い。元気でやるんだぞ!」
「――ウン!」
そうして、シャーロックとお雪はエゲレスへと旅立った。
小さくなる船に重三郎は手を振った。見えなくなっても振り続けた。
「さらばだ! 東洲斎写楽!」
◆◇◆◇
重三郎は今、燃え尽きた旗を見て思う。
もし後世にシャーロックの作品が評価されたら、それを世に出した自分の名が合わさって語られることになるのかもしれない。
それを想像すると――痛快でたまらない。
あの素晴らしい作品と関われるのだから。
「シャーロック、お前は今、何を描いているんだろうな……」
ふと見上げた重三郎。
シャーロックの眼のように青く、シャーロックの髪のように輝いた空がそこにあった。
数年後、蔦屋重三郎は脚気によりこの世を去ることになる。
晩年は不遇とされていたが、その死に顔はとても満足そうなものだった。
番頭の勇助は蔦屋重三郎の名を継ぎ、二代目となる。
家業の版元を潰すことなく、かといって広げすぎもしない堅実な商売を行なった。
勝川春朗はその後、葛飾北斎と名を改める。
二代目の蔦屋重三郎と組んで数々の傑作を世に出した。
そして時の将軍、徳川家斉の目前で絵を披露するまでとなった。
しかし、彼はそれに満足せずに絵を描き続けた。
北斎の娘、お栄は健康を取り戻し、立派に成長した。
父と同じ絵師となり、葛飾応為の名は後世まで伝わっている。
守屋の行方は知られていない。
復讐を果たせなかった彼が、いったいどんな人生を歩んだのか……
そして、シャーロックとお雪は――
「シャーロック。あなたはいつも楽しく絵を描いているわね」
美しい木々に囲まれた、小さな家。
紙に向かい合って楽しげに風景を写す様は、まさしく写楽の名に相応しい。
「オユキサン。ワタシ、エヲカクノ、スキ」
シャーロックは満面の笑みで応じた。
お雪もまた、幸せそうに微笑んだ。
「サア、コッチニキテ。オユキサン、カカセテ――」
別宅の庭にいる重三郎は、焚き火の前で包み紙にくるまった、天草四郎の旗を眺めていた。
この旗が作られたのは、一揆を起こしたキリシタンの抵抗だったのだろう。後世に残るものを作れば自分たちが戦った証となる。それは確かに生きていたという証でもある。
それを思えば心苦しいが――重三郎は焚き火に旗を投げ入れた。パチパチと音を立てて燃えていく。同時に旗に仕込まれた幕府とオランダの契約書も灰となる。
「わしも後世に残るものを作ろうとしている。だが――これは残してはならぬものだ」
一人呟く重三郎。
応じる者は誰もいない。
彼らは去ってしまった――
◆◇◆◇
「手前が調べたところ、老中様との癒着が見つかりました――中川様」
長崎出島の奉行所。
顔が汗まみれになっている、長崎奉行の中川忠英に対し、証拠の書状の束を渡す重三郎。震える手で中身を確認し、全て間違いないと分かると「どうやって、調べた?」と訊ねる。
「手前の信頼する番頭が手に入れましてね。どうやって調べたのかは知りませぬ」
「おぬしは、このわしを脅すのか?」
「そう捉えてもらってもけっこうです」
あくまでも無表情な重三郎。
中川は「わしとしては、この場でおぬしを斬り捨てるという手もある」と必死の抵抗をした。
「手前を斬れば――不正が世間に公表される手はずとなっています」
「命がけで、事に臨むと申すか……」
「ええ。手前の頼みを聞き入れてくだされば、決して暴露いたしません」
中川は唇を噛み締めて「頼みとはなんだ?」と不承不承といった風に訊く。
「念入りに断れないようにしているのだ。ろくでもない頼みであろう?」
「流石でございますね。ええ、頼みというのはシャーロックのことです。彼をエゲレスに帰らせてあげてください」
エゲレスの者であるシャーロックがオランダ船に乗るというのは正規の方法では不可能に近い。つまり、密航させろと重三郎は言っているのだ。
「己の進退と法度を破ること。秤にかけろと言うのだな」
「中川様の権力ならば、簡単なことでしょう?」
「……あい分かった。シャーロックをエゲレスに連れ戻そう。約束する」
言質を取った重三郎は「ありがとうございます」を形だけ頭を下げた。
場の緊張感が無くなり、弛緩した空気が漂う――それを見計らって「それに伴い、もう一つだけお願いがございます」と重三郎は言った。
「なんだと? まだ申すか!」
「今度は見返りを用意しました。五百両です」
「ご、五百!? 正気か!? い、いや、わしに何をさせるつもりなのだ!?」
大金を手に入れるよりも、無理難題を聞かされることが厳しいという態度の中川。
重三郎は「中川様には容易いことでございます」と続けた。
「一人の女をシャーロックと共に密航させてほしいのです」
「それこそ、正気を疑うぞ?」
「手前の大事な娘の頼みなのです。聞き入れてください」
「……その娘がつらい思いをするだけだ」
中川の忠告に重三郎は「そうでしょうな」と頷いた。
「それでも、手前は娘の意思を尊重してやりたいのですよ」
その後、細かいやりとりを経て――二人の密航が決まった。
それは重三郎との別離を意味していた。
◆◇◆◇
「このオランダ船に乗れば故郷まで連れてくれる。安心しろ」
「ジューザブロー、ワタシ、サビシイ……」
船出の朝。
最後の挨拶を交わすシャーロックと重三郎、お雪の三人は寂しさが顔に出ていた。
当然だが、彼らが再会することはない。そういう別れなのだ。
「しかし、お前もシャーロックと共にエゲレスへ行くとはな。やはり情が移ったのか?」
「そうですね……長く共にいれば移るものです」
そう語るお雪は神妙な顔だった。
救ってくれた義父と会えなくなるのを惜しんでいる――
「オユキサン、ホントニイイノ?」
「いいに決まっているじゃない……実を言えば、シャーロックから離れようとしていたの」
「ドウシテ?」
「私のような女、あなたと一緒にいる資格なんてないと思ったからよ」
シャーロックが否定する前に「でもね、こう思ったのよ」とお雪は微笑んだ。
「あなたと一緒にいて、とても楽しかった。それこそ過去を忘れるくらいに。だから――離れたくないって」
「オユキサン……」
二人が見つめ合う光景に、重三郎はお雪が幸せになってくれて良かったと心から嬉しがった。ようやく、彼女は前に進める――
「さあ、出航だ。未練はないか?」
「……ジューザブロー!」
シャーロックは重三郎の手を握った。
重三郎もまた応じるように力を入れた。
「ワタシ、ジューザブロー、デアエテヨカッタ! ホントニ、アリガト!」
泣きたくなるのをぐっとこらえて、重三郎は「わしの台詞だ……」と呟く。
「達者でな。エゲレスまでは遠い。元気でやるんだぞ!」
「――ウン!」
そうして、シャーロックとお雪はエゲレスへと旅立った。
小さくなる船に重三郎は手を振った。見えなくなっても振り続けた。
「さらばだ! 東洲斎写楽!」
◆◇◆◇
重三郎は今、燃え尽きた旗を見て思う。
もし後世にシャーロックの作品が評価されたら、それを世に出した自分の名が合わさって語られることになるのかもしれない。
それを想像すると――痛快でたまらない。
あの素晴らしい作品と関われるのだから。
「シャーロック、お前は今、何を描いているんだろうな……」
ふと見上げた重三郎。
シャーロックの眼のように青く、シャーロックの髪のように輝いた空がそこにあった。
数年後、蔦屋重三郎は脚気によりこの世を去ることになる。
晩年は不遇とされていたが、その死に顔はとても満足そうなものだった。
番頭の勇助は蔦屋重三郎の名を継ぎ、二代目となる。
家業の版元を潰すことなく、かといって広げすぎもしない堅実な商売を行なった。
勝川春朗はその後、葛飾北斎と名を改める。
二代目の蔦屋重三郎と組んで数々の傑作を世に出した。
そして時の将軍、徳川家斉の目前で絵を披露するまでとなった。
しかし、彼はそれに満足せずに絵を描き続けた。
北斎の娘、お栄は健康を取り戻し、立派に成長した。
父と同じ絵師となり、葛飾応為の名は後世まで伝わっている。
守屋の行方は知られていない。
復讐を果たせなかった彼が、いったいどんな人生を歩んだのか……
そして、シャーロックとお雪は――
「シャーロック。あなたはいつも楽しく絵を描いているわね」
美しい木々に囲まれた、小さな家。
紙に向かい合って楽しげに風景を写す様は、まさしく写楽の名に相応しい。
「オユキサン。ワタシ、エヲカクノ、スキ」
シャーロックは満面の笑みで応じた。
お雪もまた、幸せそうに微笑んだ。
「サア、コッチニキテ。オユキサン、カカセテ――」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜
上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■
おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。
母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。
今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。
そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。
母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。
とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください!
※フィクションです。
※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。
皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです!
今後も精進してまいります!
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
『五感の調べ〜女按摩師異聞帖〜』
月影 朔
歴史・時代
江戸。盲目の女按摩師・市には、音、匂い、感触、全てが真実を語りかける。
失われた視覚と引き換えに得た、驚異の五感。
その力が、江戸の闇に起きた難事件の扉をこじ開ける。
裏社会に潜む謎の敵、視覚を欺く巧妙な罠。
市は「聴く」「嗅ぐ」「触れる」独自の捜査で、事件の核心に迫る。
癒やしの薬膳、そして人情の機微も鮮やかに、『この五感が、江戸を変える』
――新感覚時代ミステリー開幕!
水滸綺伝
一條茈
歴史・時代
時は北宋、愚帝のもとに奸臣がはびこる中、侵略の足音が遠くに聞こえる乱世。
義に篤く、忠を重んじながらも正道から外れて生きざるを得ない百八人の好漢たちが、天に替わって正しい道を行うため梁山泊に集う。
おおいに笑い、肉を食らい、酒を飲み、義の道を行く彼らに待つ結末とは――
滝沢馬琴が愛し、歌川国芳が描き、横山光輝や北方謙三が魅せられ、ジャイアントロボも、幻想水滸伝も、すべてはここから始まった!
108人の個性豊かな好漢、108の熱き人生、熱き想いが、滅びゆく北宋の世を彩る痛快エンターテイメント小説『水滸伝』を、施耐庵の編集に忠実に沿いながらもあらたな解釈をまじえ読みやすく。
※原作の表現を尊重し、一部差別的表現や人肉食・流血等残酷な描写をそのまま含んでおります。御注意ください。
※以前別名義でイベントでの販売等をしていた同タイトル作品の改訂・再投稿です。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる