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ラットとアイラ
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「ネズミみてえにこそこそしやがって! ホーク、てめえはここで終わりだ!」
シラク草原――短い雑草が生えているだけで、描写もしようがない、ただそれだけの草原である。しかし今は立派な戦場である。何故なら――武装した武士が十三人、ラットを取り囲んでいるのだから。
その十三人の武士から離れて、斬馬刀を担いでいる大きな体躯の男――アイラがたった一人の味方もいないラットを威圧していた。こちらの勝ちは揺るぎない。十三人の武士はどれも腕利きでいくらラットでも切り抜けられぬだろう。
「だがな。あの娘の小太刀を返し、なおかつわしに忠誠を誓うのなら、考えてやってもいい」
ここで敢えて妥協案を出すところが、アイラの嫌らしいところでもある。無論、小太刀を素直に返しても、ラットを殺すことは確定している。そしてラットがこちらの案に乗らないことも理解している。これは心を揺さぶるための放言だった。
「うだうだ言ってないで、かかってこい」
対してラットは、刀を抜いた。アイラの話など最初からなかったような反応。それでいて闘志を剥きだしにした態度。その全てがアイラの癇に障った――額に青筋が立ったアイラ。
「お前ら、やっちまえ!」
十三人の武士の内、五人が一斉に襲い掛かった。アイラは自然とにやけてしまう。あの阿呆、すぐに死ぬ。くだらん意地を張って死ぬとは。ある意味哀れなやつだと。
だが、アイラにとって予想外のことが起こる――
「――しゃら!」
上段から素早く振り落とした斬撃を、ラットは斜め前に出ることで回避し、そのまま攻撃してきた武士の首を横薙ぎで斬りおとした。一緒に襲い掛かった二人の武士はハッとして自分の胴を守る――火花が散った――もし守らなければ、斬られていたという戦慄を抱いたまま、二撃目の突きを受けてしまう武士。首を斬られた武士と同時に崩れ落ちてしまった。
三人目と四人目と五人目は先の二人への攻撃を見て、慎重に動こうと目で合図した。扇状になり、徐々にラットを追い詰める――流石、アイラが認めた腕利きの武士である。
「……遠ざかれば、勝てると思うのか?」
三人目の武士はラットがその言葉を発したと同時に、顔面に何か重いものがぶつかったのを感じ、他の二人は彼の鼻骨が折れる音が聞こえた。仰向けに倒れる武士を思わず目で追ってしまった二人に対し、冷静にラットは一人ずつ対処する。左の四人目の武士の両手首を狙って――斬る。
「ぎゃあああああ!」
悲鳴をあげつつ、自分の両手首の出血を何とか止めようとするが、止血などできるわけもなく、陸にあげられた魚のように暴れ回る。その際、偶然にも大量に吹き出た血が五人目の男の目に入った――否、ラットは意図的に狙ったのだ。
「目が、目が――」
それが五人目の武士の最期の言葉だった。ラットは目に入った血を拭おうとした武士の腹部に刀を刺して、一気に引き抜く。ラットの着流しが赤く染まる。それを見た残りの武士は、まるで地獄の鬼のようだと心底震えた。
ラットは鼻を押さえている三人目と声にならない叫びを上げている武士にとどめを刺し、残りの七名の武士と呆然としてアイラに向かって声をかけた。
「どうした? 殺す気でかかってこないと、お前ら死ぬぞ」
アイラはごくりと唾を飲み込んだ。残りの七人の武士はすっかり飲み込まれている。いや、それ以上にラットが三人目に投げた物にほとんどの者が怯えていた。ラットが投げた物、それは、一人目の生首だった。
生首は武士の魂が宿るとこの世界では考えられていた。取った首は清めたりして大切に扱うものだ。それを、いくら敵とはいえ、武器のように投擲するとは、考えられなかった。言葉を選ばずに言えば、武士の誇りを感じられない、外道の行ないである。
「……ふん。武士の誇りはどうした? ホーク」
「武士の誇りだけでは、人は守れない」
ラットは血ぶるいして、刃を掲げた。星明りで照らされる刀身は怪しくも美しかった。まるで人を惑わす魔性のように。
「それに、今の俺には――武士の誇りなどない」
「ならば、何ゆえに戦う?」
「失ったものを、取り戻すためだ」
ラットは刃先をアイラに向けて、悲しげな表情で物悲しげに言う。心の奥底に隠していた、大切な何かを吐露するように。
「取り戻すために、俺は戦う。戦い続ける。たとえ不利だとしても、勝つ可能性が低くても」
「……ふははは。気に入った! そそられたぞ!」
アイラは斬馬刀を担ぎながらラットに近づく。交えるだけで相手の刀を砕くという、使いこなせる者がほとんどいないと呼ばれる斬馬刀。アイラは自身の怪力と技量をもって、それを軽々と器用に扱う。
「一騎打ちしてやる。かかってこい!」
どんなに卑怯な手を使っても、アイラの根底にあるのは、武士の誇りである。武士の道から外れた、口が裂けても決して正当な武士とは言えないラットに、武士の誇り以上のものを感じた彼は、それを砕こうと一騎打ちを名乗り出た。
「……高みの見物を決め込んだと思っていた。だが――見直したぜ」
ラットは内心驚きながらも、アイラの申し出を受けた。残りの七人の武士は手を出せない――否、出さない。彼らもまた、武士であるからだ。
「ローゲン家当主、アイラ・ローゲン。いざ尋常に勝負!」
「無所属、ラット――来い!」
アイラは水平に構えた斬馬刀を自身が誇る筋力と贅力で――ラットに目がけて振り回した。それは遠心力が十分に乗った、当たれば肉が裂け、骨も砕ける一撃だった。
「でえええやりゃあああああ!」
まさに一撃必殺の攻撃――ラットには避けるしか方法はなかった。彼はほとんど体勢を崩すように倒れながら避けた。
「甘いわ、小僧!」
アイラはそのままの回転で一周し、もう一度攻撃した。まるで独楽のような動き。言わば回転斬りと呼ばれる、アイラの奥義だった。しかも軌道がラットに合わさっている。避けようがない――
「――っ!?」
ここでなんとラットは攻撃に転じた。斬馬刀を避けることはできない。受けることもできない。ならば――刀の軌道をほんの少し狂わすことを目的とした攻撃。ラットは斬馬刀の刃の腹を全身の力を込めて押し上げた。座っている体勢で、押し上げることのみに集中した、軌道だけを逸らす攻撃。
アイラの筋力と贅力では変えられた軌道を修正するのは不可能だった。常人以上の怪力をもってしても、その怪力に遠心力が加わった力を制御するのは難しい――結果として、アイラは刀を跳ね飛ばされてしまう。
「しゃらああああああ!」
ここしかなかった。ラットは座った体勢から飛び上がるように、刀を真っ直ぐにして、アイラの心臓を狙って――刺した。アイラは斬馬刀を手放して、震える両手を組んで、最後の抵抗でラットを殴りつけようとしたが、その前にラットが刀を抜いてしまう。噴き出る血。アイラは――仰向けに倒れてしまった。
荒い息遣い。乱れる呼吸。何とか整えようとラットは深く深呼吸した。目の前には白目を向いたアイラ。彼は何も言い残さず、野望を果たすことなく絶命してしまった。
七人の武士は自らの主が負けたことが信じられなかった。またすぐに復讐しようとも思わなかった。あるのは戦いが終わったときに広がる余韻だった。
「……アイラの殿さま、死んじゃったか」
どことなく淋しげな声。ラットと七人の武士がその方向を向くと、そこにはドクが怪我だらけのプルート・イースンに肩を貸して、こちらに歩いていた。そしてその横には、暗い顔をしたスフィアがいた。
「あの人、恐かったけど、嫌いじゃなかったんだよなあ。でもまあ、仕方ないよね」
「……僕はあなたという人が分かりません。謀叛を起こしたんじゃないんですか?」
「あははは。そんな単純なことじゃないよ」
ドクは七人の武士に「アゴン様から手出し無用の命令が出ているよ」と言った。七人はここでようやく、敵討ちの言葉が浮かんだけど、それをしなくていいとほっとしてしまった。
「ラット……」
「スフィアか」
短く互いの名を呼ぶ二人。静かに風と時が流れる。プルートも七人の武士も、そしてあのドクでさえ、何も発さずに二人の動向を見ていた。
「正直に答えて。父上を殺したのは、あなたなの?」
スフィアの目は真っ直ぐラットを見つめていた。それはただ真実を知りたいという目だった。それ以外、何も望まないという目。
そんな純粋な目にラットは五年と半年、黙っていた事実を口にした。
「いや、俺は殺していない」
「……じゃあ、誰が殺したの? オウル?」
ラットは首を横に振った。ドクは内心、やっぱり違うんだと思った。
「誰なの? 教えてよ、ラット!」
「…………」
「そんな苦しそうな顔をするくらいなら、教えてよ!」
ラットの首元を掴んで激しく揺さぶるスフィア。それもラットは答えない。彼女から涙溢れても、彼は言わなかった。
「……ああ! そういえば、小太刀はどうしたんですか!?」
プルートが突然、大声で叫んだ。ドクは「ホークが持っているんじゃないの?」と言う。しかしラットは「俺は持っていない」と答えた。
「あの女忍び――サファイアが持っている。スフィアを助けるとき、二手に分かれる際に渡した」
「……えっ?」
「よく分からんが、小太刀を持った武士から取り返したときに、サファイアが提案してきたんだ」
プルートとスフィアの顔が青ざめる。考えがたいことだが、小太刀の秘密を知っていたら――
その予感は的中していた。女忍びのサファイアは闇夜を駆けていた。
「やっと手に入れた――これでようやく、願いが叶う」
独り言を呟きつつ、彼女はひた走る。ラットとホークに任せれば、スフィアは解放されると知った上での行動だった。彼女の安全が保証されたことを確認して、彼女は走る。
「これで、ご主人さまの願いが叶います」
溢れる涙を拭いながら、その願いを叶えてくれる者のところへ走る。
その者は今、将軍の居城のサザンクロス城にて、サファイアを待っていた。
「待っててください――ご主人さま」
彼女に小太刀を持ってくるように命じ、小太刀の秘密を知っている者。
それは――オウル・アクスその人だった。
シラク草原――短い雑草が生えているだけで、描写もしようがない、ただそれだけの草原である。しかし今は立派な戦場である。何故なら――武装した武士が十三人、ラットを取り囲んでいるのだから。
その十三人の武士から離れて、斬馬刀を担いでいる大きな体躯の男――アイラがたった一人の味方もいないラットを威圧していた。こちらの勝ちは揺るぎない。十三人の武士はどれも腕利きでいくらラットでも切り抜けられぬだろう。
「だがな。あの娘の小太刀を返し、なおかつわしに忠誠を誓うのなら、考えてやってもいい」
ここで敢えて妥協案を出すところが、アイラの嫌らしいところでもある。無論、小太刀を素直に返しても、ラットを殺すことは確定している。そしてラットがこちらの案に乗らないことも理解している。これは心を揺さぶるための放言だった。
「うだうだ言ってないで、かかってこい」
対してラットは、刀を抜いた。アイラの話など最初からなかったような反応。それでいて闘志を剥きだしにした態度。その全てがアイラの癇に障った――額に青筋が立ったアイラ。
「お前ら、やっちまえ!」
十三人の武士の内、五人が一斉に襲い掛かった。アイラは自然とにやけてしまう。あの阿呆、すぐに死ぬ。くだらん意地を張って死ぬとは。ある意味哀れなやつだと。
だが、アイラにとって予想外のことが起こる――
「――しゃら!」
上段から素早く振り落とした斬撃を、ラットは斜め前に出ることで回避し、そのまま攻撃してきた武士の首を横薙ぎで斬りおとした。一緒に襲い掛かった二人の武士はハッとして自分の胴を守る――火花が散った――もし守らなければ、斬られていたという戦慄を抱いたまま、二撃目の突きを受けてしまう武士。首を斬られた武士と同時に崩れ落ちてしまった。
三人目と四人目と五人目は先の二人への攻撃を見て、慎重に動こうと目で合図した。扇状になり、徐々にラットを追い詰める――流石、アイラが認めた腕利きの武士である。
「……遠ざかれば、勝てると思うのか?」
三人目の武士はラットがその言葉を発したと同時に、顔面に何か重いものがぶつかったのを感じ、他の二人は彼の鼻骨が折れる音が聞こえた。仰向けに倒れる武士を思わず目で追ってしまった二人に対し、冷静にラットは一人ずつ対処する。左の四人目の武士の両手首を狙って――斬る。
「ぎゃあああああ!」
悲鳴をあげつつ、自分の両手首の出血を何とか止めようとするが、止血などできるわけもなく、陸にあげられた魚のように暴れ回る。その際、偶然にも大量に吹き出た血が五人目の男の目に入った――否、ラットは意図的に狙ったのだ。
「目が、目が――」
それが五人目の武士の最期の言葉だった。ラットは目に入った血を拭おうとした武士の腹部に刀を刺して、一気に引き抜く。ラットの着流しが赤く染まる。それを見た残りの武士は、まるで地獄の鬼のようだと心底震えた。
ラットは鼻を押さえている三人目と声にならない叫びを上げている武士にとどめを刺し、残りの七名の武士と呆然としてアイラに向かって声をかけた。
「どうした? 殺す気でかかってこないと、お前ら死ぬぞ」
アイラはごくりと唾を飲み込んだ。残りの七人の武士はすっかり飲み込まれている。いや、それ以上にラットが三人目に投げた物にほとんどの者が怯えていた。ラットが投げた物、それは、一人目の生首だった。
生首は武士の魂が宿るとこの世界では考えられていた。取った首は清めたりして大切に扱うものだ。それを、いくら敵とはいえ、武器のように投擲するとは、考えられなかった。言葉を選ばずに言えば、武士の誇りを感じられない、外道の行ないである。
「……ふん。武士の誇りはどうした? ホーク」
「武士の誇りだけでは、人は守れない」
ラットは血ぶるいして、刃を掲げた。星明りで照らされる刀身は怪しくも美しかった。まるで人を惑わす魔性のように。
「それに、今の俺には――武士の誇りなどない」
「ならば、何ゆえに戦う?」
「失ったものを、取り戻すためだ」
ラットは刃先をアイラに向けて、悲しげな表情で物悲しげに言う。心の奥底に隠していた、大切な何かを吐露するように。
「取り戻すために、俺は戦う。戦い続ける。たとえ不利だとしても、勝つ可能性が低くても」
「……ふははは。気に入った! そそられたぞ!」
アイラは斬馬刀を担ぎながらラットに近づく。交えるだけで相手の刀を砕くという、使いこなせる者がほとんどいないと呼ばれる斬馬刀。アイラは自身の怪力と技量をもって、それを軽々と器用に扱う。
「一騎打ちしてやる。かかってこい!」
どんなに卑怯な手を使っても、アイラの根底にあるのは、武士の誇りである。武士の道から外れた、口が裂けても決して正当な武士とは言えないラットに、武士の誇り以上のものを感じた彼は、それを砕こうと一騎打ちを名乗り出た。
「……高みの見物を決め込んだと思っていた。だが――見直したぜ」
ラットは内心驚きながらも、アイラの申し出を受けた。残りの七人の武士は手を出せない――否、出さない。彼らもまた、武士であるからだ。
「ローゲン家当主、アイラ・ローゲン。いざ尋常に勝負!」
「無所属、ラット――来い!」
アイラは水平に構えた斬馬刀を自身が誇る筋力と贅力で――ラットに目がけて振り回した。それは遠心力が十分に乗った、当たれば肉が裂け、骨も砕ける一撃だった。
「でえええやりゃあああああ!」
まさに一撃必殺の攻撃――ラットには避けるしか方法はなかった。彼はほとんど体勢を崩すように倒れながら避けた。
「甘いわ、小僧!」
アイラはそのままの回転で一周し、もう一度攻撃した。まるで独楽のような動き。言わば回転斬りと呼ばれる、アイラの奥義だった。しかも軌道がラットに合わさっている。避けようがない――
「――っ!?」
ここでなんとラットは攻撃に転じた。斬馬刀を避けることはできない。受けることもできない。ならば――刀の軌道をほんの少し狂わすことを目的とした攻撃。ラットは斬馬刀の刃の腹を全身の力を込めて押し上げた。座っている体勢で、押し上げることのみに集中した、軌道だけを逸らす攻撃。
アイラの筋力と贅力では変えられた軌道を修正するのは不可能だった。常人以上の怪力をもってしても、その怪力に遠心力が加わった力を制御するのは難しい――結果として、アイラは刀を跳ね飛ばされてしまう。
「しゃらああああああ!」
ここしかなかった。ラットは座った体勢から飛び上がるように、刀を真っ直ぐにして、アイラの心臓を狙って――刺した。アイラは斬馬刀を手放して、震える両手を組んで、最後の抵抗でラットを殴りつけようとしたが、その前にラットが刀を抜いてしまう。噴き出る血。アイラは――仰向けに倒れてしまった。
荒い息遣い。乱れる呼吸。何とか整えようとラットは深く深呼吸した。目の前には白目を向いたアイラ。彼は何も言い残さず、野望を果たすことなく絶命してしまった。
七人の武士は自らの主が負けたことが信じられなかった。またすぐに復讐しようとも思わなかった。あるのは戦いが終わったときに広がる余韻だった。
「……アイラの殿さま、死んじゃったか」
どことなく淋しげな声。ラットと七人の武士がその方向を向くと、そこにはドクが怪我だらけのプルート・イースンに肩を貸して、こちらに歩いていた。そしてその横には、暗い顔をしたスフィアがいた。
「あの人、恐かったけど、嫌いじゃなかったんだよなあ。でもまあ、仕方ないよね」
「……僕はあなたという人が分かりません。謀叛を起こしたんじゃないんですか?」
「あははは。そんな単純なことじゃないよ」
ドクは七人の武士に「アゴン様から手出し無用の命令が出ているよ」と言った。七人はここでようやく、敵討ちの言葉が浮かんだけど、それをしなくていいとほっとしてしまった。
「ラット……」
「スフィアか」
短く互いの名を呼ぶ二人。静かに風と時が流れる。プルートも七人の武士も、そしてあのドクでさえ、何も発さずに二人の動向を見ていた。
「正直に答えて。父上を殺したのは、あなたなの?」
スフィアの目は真っ直ぐラットを見つめていた。それはただ真実を知りたいという目だった。それ以外、何も望まないという目。
そんな純粋な目にラットは五年と半年、黙っていた事実を口にした。
「いや、俺は殺していない」
「……じゃあ、誰が殺したの? オウル?」
ラットは首を横に振った。ドクは内心、やっぱり違うんだと思った。
「誰なの? 教えてよ、ラット!」
「…………」
「そんな苦しそうな顔をするくらいなら、教えてよ!」
ラットの首元を掴んで激しく揺さぶるスフィア。それもラットは答えない。彼女から涙溢れても、彼は言わなかった。
「……ああ! そういえば、小太刀はどうしたんですか!?」
プルートが突然、大声で叫んだ。ドクは「ホークが持っているんじゃないの?」と言う。しかしラットは「俺は持っていない」と答えた。
「あの女忍び――サファイアが持っている。スフィアを助けるとき、二手に分かれる際に渡した」
「……えっ?」
「よく分からんが、小太刀を持った武士から取り返したときに、サファイアが提案してきたんだ」
プルートとスフィアの顔が青ざめる。考えがたいことだが、小太刀の秘密を知っていたら――
その予感は的中していた。女忍びのサファイアは闇夜を駆けていた。
「やっと手に入れた――これでようやく、願いが叶う」
独り言を呟きつつ、彼女はひた走る。ラットとホークに任せれば、スフィアは解放されると知った上での行動だった。彼女の安全が保証されたことを確認して、彼女は走る。
「これで、ご主人さまの願いが叶います」
溢れる涙を拭いながら、その願いを叶えてくれる者のところへ走る。
その者は今、将軍の居城のサザンクロス城にて、サファイアを待っていた。
「待っててください――ご主人さま」
彼女に小太刀を持ってくるように命じ、小太刀の秘密を知っている者。
それは――オウル・アクスその人だった。
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