姉妹チート:RE

和希

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1stSEASON

海の日

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(1)

「空、時間だよ。うわ寒いっ!空は何考えてるの?」

翼はそう言ってエアコンを止める。

「おはよう、翼……」
「空は布団かぶるくらいならエアコン切ったら?」

翼はそう言う。
わかってないな、翼は。
ガンガンに冷えた空調の中で布団をかぶって寝る心地よさをどう伝えたらいいか?
その気持ちを翼に伝えてみた。
だけど翼には理解してもらえなかったみたいだ。

「馬鹿な事考えてないで仕度して。ラジオ体操行くよ。天音が待ってる」
「いつも思うんだけどラジオ体操って行く意味あるの?」
「意味があるかは分からないけど愛莉に叱られたくなかったら行くしかないんじゃない?」
「それはそうだけどさ……」

翼と話しながら着替える。
翼に着替えるところ見られたって今さらどうってことない。
着替えが終るとラジオ体操に行く。
僕と翼は真面目にラジオ体操するんだけど天音と水奈は公園のブランコで靴飛ばして遊んでる。
そしてハンコをもらう時だけしれッと並ぶ。

「来てやってるんだから文句言うな!」

というのが天音の見解。
地獄の日々が過ぎて終業式が終り夏休みが始まった。
夏休みの宿題は7月中に終わらせるのがうちのやり方。
その分8月に遊ぶ。
取りあえずのご褒美は花火大会に連れて行ってもらう事と今年は父さんの盆休みにリゾートホテルのプールに遊びに行く。
その為に7月は必死に勉強する。
翼と天音は軽々とこなすけど。
自由研究も憶測で判断して勝手に書いてしまう。
工作の課題も2人とも手先が器用なので軽々と作ってしまう。
僕は二人と違って手先があまり器用じゃない。
いつもは終盤になって父さんに手伝ってもらうんだけど、今年は翼が一緒に作ってくれた。
そんな中今年は7月に行事が出来た。
海の日の3連休にキャンプに行こうというものだ。
父さんと母さんは高校・大学時代に「渡辺班」というものに所属していた。
その代表だった渡辺さんて人が誘ったらしい。
とても愉快な人だと聞いた。
水奈も大地も美希も酒井君も学も来るらしいので行ってきたら?と父さんが言う。
ずいぶんな大所帯になるらしい。
僕はこの日の為に翼と水着を買いに行った。
翼は僕が水着を選んでくれることが嬉しいらしい。
一方天音は不機嫌だった。水着コーナーに入る事すら大地は拒否したらしい。

「そんなに私に魅力がないのか!?」とご機嫌斜めの天音だった。

とりあえず荷物に詰め込むと翼のチェックが入る。

「だからぐちゃぐちゃに入れるの止めなさいっていつも言ってる」

翼の小言が増えた。
別に不満はない。
翼の心はそんなに怒ってるわけでも無いから。
父さんはお留守番らしい、母さんが行けないから父さんも残るそうだ。
本当にうちの両親は仲が良い。
僕達は渡辺さんの車で連れて行ってもらう。
天音は石原さんの家の車に乗る。
美希は学の家の車に乗るらしい。
渡辺さんと石原さん達がうちに来た。

「冬夜久しぶりだな」
「渡辺君久しぶり。ごめんね」
「気にするな。家族サービスの一環だ。ついでに子供同士で親睦を深めるのもいいだろう」

父さんと渡辺さんが話をしている。

「お世話になります。よろしくお願いします」

翼があいさつすると、僕も合わせて礼をする。

「ああ、うちの方こそ子供が小さいんで面倒見てやってくれ」

渡辺さんはそう言う。

「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
「空達粗相の無いようにね」

母さんが言うと渡辺さんは車を出した。
杵築の海水浴場でキャンプするらしい。
一旦別府のスーパーで集合する。
集まったのは僕達、水奈、渡辺家、石原家、酒井家、桐谷家、中島家、木元家。
水奈の父さんも母さんが妊娠中だからと自重したらしい。
スーパーで集まると食材等を買い出しして、出発する。
渡辺家の子供たちと話をしていた。
まず天音同級生の渡辺紗理奈。性格は天音に合いそうな性格だった。
続いて紗理奈さんの一つ下の茉里奈さん。姉の不始末のフォロー役の様だ。
妹のほうがしっかりしているらしい。
最後に2年生の正俊君。のんびりしている。好き嫌いはなく良く食べるそうだ。
互いに自己紹介しながら話をしていた。
渡辺さんの話も聞いていた。
奥さんの美嘉さんは水奈のお母さんと仲が良いらしい。
水奈のお母さん。多田神奈さんが妊娠した時「目出度い!飲み会しようぜ!」といって渡辺さんに怒られたらしい。
車に乗るとすぐ寝る性格らしくて今も寝てる。

「空君達の方がお兄さんだし。よろしく頼むよ」と渡辺さんが言っていた。

今日集まったのは渡辺さんが昔作った渡辺班でも最古参のメンバーらしい。
渡辺班はもっと人がいるんだそうだ。
そんな話をしていると目的地に着いた。
大人たちがテントを設置してる中、僕も翼とテントを準備する。
天音と水奈は女性陣に混ざって料理の準備をしていた。
テントには僕と翼と天音と水奈が入る。
テントの設置が終る頃、焼きそばの焼ける音が聞こえてくる。
僕達はがっつりいただいた。
あっという間になくなった。
昼食を食べると片づけは大人に任せて海で遊んで来いと言われた。
僕達はテントで水着に着替える。
そして海に走る。
海で泳いで遊ぶもの。
砂浜で山を作って遊ぶもの。
木陰で本を読んでいる美希さんと恋の面倒を見ている学。
皆それぞれ遊んでいた。
僕と翼もはしゃいでいた。
日が暮れる頃大人たちに呼ばれる。
シャワーを浴びて着替えるとジュースを手に取り渡辺さんが一言いう。

「まあ久しぶりに皆顔を合わせたんだ。今夜は楽しもう。乾杯」

そこからは自由に肉を食う。

「肉は一杯あるからな、お前ら育ち盛りなんだ。遠慮せず好きなだけ食え」

ビールを片手に美嘉さんが肉を焼く。

「ごはんも、野菜も食べるんだよ!」

学と遊と恋のお母さん。桐谷亜依さんが言う。

僕達姉弟は食べ物を前にして遠慮というルールはない。あるだけ食べる。
ジュースも飲みまくる。
正俊君も負けずに食べてた。
体格はお父さんに似たらしい。
学のお父さん達は何か怒られていた。
それを渡辺さんが宥めてる。
話を聞いた限りだとここに来るまでにレースをやったらしい。
確かに凄い飛ばしてた。
夕食が終ると大人の女性が片付けている間に僕達は花火をして遊んでいた。遊と粋、紗理奈と祈がロケット花火の打ち合いをしている中僕と翼は2人で大人しく花火を楽しんでいた。
天音と大地2人で過ごしているようだ。
もっとも天音達はやはり問題を起こすわけだけど。
大地が止めるも「キャンプにはつき物だろ!」と一蹴し。浜辺に打ち上げられていた木材や卒塔婆を集めて火をつけて燃え上がらせていた。
当然亜依さんに怒られる。
花火が終ると僕達を待っていたのは夜食のラーメン。
当然食べる。
残すなんて食べ物に失礼な真似は許されないのが我が家の家訓。
食べ終わったらすぐに眠くなって寝ようとしたんだけど「寝るにはまだ早い!」と水奈に言われて大人は大人、子供は子供で別れて話をする。
クラスメートの中島勝利君と木元輝夜さんも来ていた。
3年生の時にクラスが一緒になってすぐに家が近い事を知って二人で帰ることが増えて、3学期が終る前に勝利君が告白したらしい。
その話を勝利君がしたとき輝夜さんは頬を赤らめていた。
男子にはつまらない話だったようだ。
僕は翼が楽しそうにしてたので合わせてたけど。

「他の人は何か恋バナない?」

輝夜さんが言い出した。
遊が水奈が好きだったと告白する。
だけど水奈は好きな人がいるらしい。
それを聞いて遊は黙ってしまう。

「水奈、好きな人って誰だよ?クラスのやつか?」

天音が水奈に聞いたら水奈は「秘密」といって俯いてしまった。
なんとなく翼の顔を見る。
翼も困惑している。
翼でもうまく読み取れないのだろうか?

「図星か!?誰だよ!!」

天音が追及するが水奈は黙り込んでしまった。

「本人が言いたくないんだからそっとしておいてやりなよ」

翼はそう言って水奈を庇っている。
そっと翼と交信する。

「翼は知ってるの?」
「……わからない」

翼の表情が険しい。
これ以上追及するのも良くないと思ったので止めておいた。

「なんだよ、ノリ悪いぞ水奈」
「……ごめん」

そんな水奈とふと目があうと、水奈は慌てて目をそらした。
一通り話すと、皆さすがに眠くなってきたのだろう。
大人より先に眠りについた。
テントの中で僕達も横になる。
あ、勝利君と輝夜さんとは連絡先交換したよ。
SHに入れる為に。
翼も疲れていたのだろう。
僕にしがみついてぐっすり寝ていた。
水奈の寝相は良いらしい。
悪いのは天音だけ。
楽しい夜の宴も終わり僕達はぐっすりと眠っていた。

(2)

朝早く目が覚めた。
すると石原君のお父さん・石原望さんと僕の父さん・酒井善幸が火の番をしながら話をしていた。

「あれ?学君。もう起きたの?」

石原望さんは俺に声をかけると「一緒にコーヒーでもどう?」と言う。
俺は適当に腰掛けるとコーヒーを頂く。

「美希とは上手くやれてる?」
「お陰様で、あまり構ってやれなくて申し訳ないくらいですが」

実際映画を見に行った後、デートすら誘ってやれないくらいだ。
せいぜい一緒に帰るくらいだった。
それでも夜かかさず電話をしてくる。
俺にはもったいないくらい素敵な女子だ。

「あ、学。おはよう」

美希が起きてきた。

「おはよう」

美希に挨拶を返す。
美希は望さんに話をする。

「父さん、学と大切な話してた?」
「いや、ただの世間話だけど」
「変な事吹き込まないでね」
「わかってるよ」
「……ちょっと学借りてもいいかな?」
「ああ、行っておいで」

美希は俺を見ると「少し散歩しない?」と誘われる。
選択肢のない誘いを受けて俺は美希と散歩に出る。

「父さんと何話してたの?」

美希が聞いてきた。

「上手くやれているかどうか聞かれただけだよ」
「そう、ならいいんだけど」

その後しばらく無言で歩いた。
この空気はまずい。
何か話題を振らないと。
しかし先に話し出したのは美希だった。

「学、いつもありがとうね。私、学に迷惑かけてないかな?」
「どうしたんだ急に?」
「毎晩電話して迷惑じゃないかなって思って」
「夜電話するくらいしか美希につきあってやれてないから。俺の方こそすまない」
「気にしないで、大変なのはわかってるから」

何かあったのだろうか?

「うちの母さんがいつも言ってたから、学の母さんも同じ事言ってるのかな?って」
「どういうことだ?」
「大地にいつも言ってるの。勉強ばかりしてないでデートに誘うとか気の利いたことできないの!?って」

普通の親なら逆だと思うんだが……。

「まあ、似たようなことは言われてるな」
「やっぱり……」
「でもそれが悪い事だとは思わない」
「え?」
「母さんに言われないと美希の事をほったらかしにしてそうで。それでも夜の相手をするだけで精いっぱいだ」
「私と電話するのは嫌?」

美希が聞いてきた。

「逆だよ。むしろ毎日会いたいくらいだ。だけど中々自由な時間がなくて。そのうち美希にも愛想尽かされるんじゃないかって……」
「そんなはずないよ。……私の事信用してない?」
「こういう言葉がある『好きすぎて辛い』相手のことを思うがあまり不安になって飛び出せない時があるんだ」

我ながらみっともない話だ。

「そういう事なら分かった」
「え?」
「やっぱり今日ちゃんと話出来て良かった。学の本音聞けたから」
「美希の本音は聞かせてもらえないのか?」
「聞いてもらえますか?」
「もちろん」

すると美希は話を始めた。

「これからは私から動く。休日は学の家で過ごすとか。もっと学と仲良くなりたい。だから私の我儘を聞いてください」

今でも大事な人だから勇気を出して飛び込みます。少しでも僕との距離が近づくように。
二度とない青春なんだからもうこのチャンスを逃さない。
形のないいつも行方知れずの恋を掴みとれたのだから二度と離さない。
あなたを振り向かせるから真剣に話を聞いてください。
美希はそう言った。

「まあ、誘ってくれるのは嬉しいかな。僕もあまり慣れてなくてな……」

美希はくすっと笑ってた。

「今度花火を観に行きませんか?」
「いいよ」
「その後はプールに行ったり」
「それなら母さんたちがリゾートホテル予約してあるそうだ」
「うん、その話は聞いてる。そうじゃなくて市民プールに2人だけで行かない?」
「日にあたって大丈夫なのか?」
「屋内だから大丈夫だよ」
「わかった」
「リゾートホテル楽しみだね」
「そうだね」
「とっておきの下着用意しておかなくちゃ」

え?
美希の顔を見た瞬間美希の唇が僕の唇に振れた。
初めてのキスだった。

「覚悟してね。私母さんの子だから」

僕はただ笑っていた。

「そろそろ戻ろっか?」

美希はそう言ってを差し出す。
美希の手を取って、きた道を戻った。

(3)

よせては引いていく波。
そんな波を輝夜と見ていた。
朝から陽射しが強い。
木陰に合った流木に座ってみていた。

「楽しかったね」

輝夜が言った。
SHに招待された。
きっといい奴ばかりなんだろう。
遊たちもはいっている。

「私男の人ってあまりイメージなかったんだ。父さんがそうだったから」

輝夜が言う。

「どんなイメージだったの?」
「一言で言うと『釣った魚に餌はやらない』感じかな」
「なるほどね……」

輝夜のお父さんの話は聞いてる。
平日は仕事で帰ってこない。早いときはバスケに夢中になってる。
休みの日もバスケ三昧で母さん・木元花菜さんや輝夜の相手をしてもらえない。
うちの親もそうだ。
休みの日は遊の父親・桐谷瑛大さんと遊び惚けてる。
そんな互いの愚痴が共鳴して意気投合して、そして恋に替わった。
そして今君は隣にいてくれる。
こんなに居心地のいいものは無いから不思議だった。
どうして人は忘れてしまうのだろう?
僕も父さんみたいになるのだろうか?
隣にいる人の事を忘れてしまうのだろうか?
輝夜の名前が示す通り月は「強く輝け」と命に告げる。
悲しみの果てにある今を忘れてしまったら、悲しみの意味は一体誰の為であろうと語りかけた。
気づいたら輝夜の手を握っていた。
輝夜が僕の手を握っていた。

「そろそろ戻ろうか?」

輝夜が立ち上がる。

「そうだね」

海を見る。
押して寄せてそして引いていく。
しっかりと握りしめよう。
波に飲み込まれないように。

(4)

朝起きる。
3人ともまだ寝てた。
私はテントを出る。
大人の女性は皆朝ごはんの仕度をしていた。
私も加勢しようとした。

「あら、水奈。休んでていいのに。遊、水奈とちょっと散歩でもしてきな!」

遊の母さんが遊に言った。
そっか、遊は両親には話してないんだな。
昨日の話も聞いていなかったようだ。
これ以上にない気まずい組み合わせなんだけど。
事実を話したら余計に気を使わせそうだから黙っておいた。
遊と2人で散策する。
昨日の晩に買ってきた樹液を塗った木には虫が集まっていた。
しかし塗った当の本人は寝ている。
何のために塗ったのやら。

「ごめん、親には水奈が好きだったことすら話してないんだ」

恋はなぜか気づいていたみたいだけどな。と気まずそうに笑う。

「女の直感って馬鹿にしないほうがいいよ?」

きっと遊のお母さんも気づいてるはず。

「まじかよ!」
「気にしないで、友達でいようって言ったでしょ?」

その後二人で話をしていた。
話題はいくらでもあった。
お互いの学校生活、趣味、空と翼のこと……。
語る事はいくらでもあった。
しかし男子の勘も馬鹿に出来なかったみたいだ。

「あのさ……昨夜の話なんだけど。水奈の好きな男子ってひょっとして……」

気づかれたみたいだ。
それはそうだろう。
私が空を見ていたように、きっと遊も私の事を見ていたのだろうから。
私は何も言わなかった。
否定もしなかった。
その意味を遊は察したらしい。

「頑張れ。俺が言う事じゃないけど」
「ありがとう」

テントにもどると学が恋の世話をしていた。
恋は私たちに気づいて私の所に来た。

「遊と何してたの?」
「ただの散歩だよ」

嘘はついてない。
そんな時、学の父さんが言った。

「遊、お前水奈の事が好きなのか!?相手が悪すぎる!どう考えたって神奈さんに似てるじゃないか!」

学の父さんが言うと場の空気が冷える。
母さんってハズレなの?
私はハズレなのか?
体が震える。
だめだ、今は空達も見てる。
こんな情けない姿見せられない。
私はその場から遠くに逃げた。

(5)

「この馬鹿!子供の恋愛を台無しにする気か!」

母さんが父さんをどついている。
よく見る光景だ。

「遊もぼーっとしてないで水奈を追いかけな!」

母さんが言うと我に返って水奈を追いかける。
水奈の運動能力が優っているとはいえ男と女、簡単に追いつけた。
水奈の手を掴んだ。
意外にも水奈は素直に立ち止まってくれた。

「水奈、父さんの言う事は気にする必要ない。俺はあんな風には思ってないよ」

水奈は何も言わない。

「俺が言うのもなんだけど、水奈は素敵な女子だよ。きっと……分かってくれる」
「……母さんから聞いた話だ。聞いてくれるか?」
「ああ」
「母さんは人生で3回恋をした。一度目は相手に気付いてもらえなくて二度目は告白した時は既に友達に奪われてて3回目でやっと手に入れたらしい」
「今の水奈の父さんだっけ?」
「ああ、あのくそ野郎だ」
「水奈、自分の親を悪く言うのはよくない。だってそのお父さんがいなかったら水奈はいなかったんだぞ?」
「学の父さんの話も聞いてる。グループでもうちのくそ野郎と並んで問題児だったらしい」

その話は母さんから聞いた。
母さんも偶に愚痴ってる。「高校時代にもどりたい!」と
母さんと水奈の母さんは偶に飲みに行くらしい。
育児の相談とか亭主に対する不満とか色々積もる話があるそうだ。
それでも……。

「天音の父さんが言ってたらしいんだ。「過去」の積み重ねが将来につながるんだって」

繰り返し芽吹く一瞬こそ全てなんだって。

「どんなに酷い過去があったとしてその過去があるからこそ今俺はこうして命を授かった。そう思ってる」

悲しみの上にある今を忘れてはいけない。

「母さんが言ってた。恋愛は賭けだって。その瞬間に乗るか見逃すかで将来は大きく変わる。だから直感を信じろって。……私は自分の選択をいつも信じてる」
「俺も同感だな」

優しく声をかけてやった。
水奈はやっとこっちを見ると抱きついてきた。
そっと頭を撫でてやる。
背は高いけど、気は強いけど、俺の腕の中では小さく震えてる。
恋のように。
水奈は俺を見ると目を閉じる。
その行動の意図が分からなかった。
水奈は目を開けると俺を見て笑う。

「今だったら私を落とすチャンスだったかもしれないぞ」
「……俺だって馬鹿じゃない。水奈の意思を尊重するよ」
「遊のそういうところは嫌いじゃないぞ」

水奈は少し恥ずかしそうに笑ってた。

「そろそろもどらない?朝食出来てる頃だろうし」
「そうだな……」

それを見つけた父さんが言う。

「よう、遊!遅かったじゃないか!皆待ってたぞ!キスでもしてたか。それとももっと先に……いてぇ!」
「本当にどうしようもない父親だな!お前も少しは学習しろ!」

母さんが父さんをどついている。
この二人はどんな軌跡を歩いてきたんだろう?
俺達はどんな軌跡を歩いていくんだろう?
今日も陽射しが強い。
俺の真上にある太陽はいつまでもあるのだろうか?
だけど、泣き笑い怒る水奈の表情をいつまでも守るべきなのは俺じゃない。
もし、いずれすべてなくなるのならば俺と水奈の出会いに感謝しよう。
あの日あの時あの場所の思い出は、誰にも分からない先に続いているだろうから。
なぜ俺がここにいて水奈がここにいて水奈に出会えた。
水奈に出逢えた事、それが運命だとしたら振られたのも運命。
花びらのように散ってゆく事も運命だと受け入れてゆこう。
水奈が僕に残したものは「今」という現実の宝物。
だから俺ももう一度走り出そう。
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