姉妹チート

和希

文字の大きさ
52 / 535

情熱の花

しおりを挟む
(1)

「空、準備出来たよ」

 翼が降りてくる。
 父さんと1階のリビングで翼の着替えを待っていた。

「空、忘れ物はありませんか?」

 母さんが言う。

「大丈夫。じゃ、行ってくる」

 そう言うと僕と翼は家を出てバス停に向かった。
 バス停には善明と美希が待っていた。
 善明と僕は美希達の浴衣姿を褒めていた。
 翼が美希にアドバイスしてた。

「男子ってね。浴衣姿だと優しくなるんだって」

 母さんから聞いたらしい。

「空はいつも優しいから」
「善明だっていつも優しいよ」

 だから楽しみなんじゃないかと翼が笑う。
 バスに乗ると、僕と美希は席に座る。
 街に着くとまずは腹ごしらえ、駅ビルのフードコートで食べる。
 腹ごしらえを済ませると商店街の中の短冊を見ながら花火大会の会場を目指す。
 ちゃんと美希を守ってあげなきゃ。
 だけどそんな気持ちは翼に筒抜けだった。

「そんなに緊張しないで、いつもの空でいいんだよ」
 
 翼がそう語りかける。
 会場につくと沢山の人がいる。
 とりあえずは出店をみる。
 沢山の食べ物を買ってそして土手に腰を下ろして打ち上がるのを待つ。
 花火が咲き始めた。
 咲いては散って、散っては夜空に消えていく。
 一瞬だけ綺麗に夜空に輝くショーは1時間ほど続いた。
 一瞬だからこそ美しい。
 繰り返し芽吹く一瞬こそ全て。
 一瞬を繰り返して今の僕達がいる。
 だけどそんな理屈なんてどうでもいい。

「綺麗だったね」
「本当だね」
「また来年も来ようね」
「うん」

 たったこれだけの言葉で全てが込められているのだから。
 帰る途中に友達と会う。
 SH、中学校1年組だ。
 翼や美希の姿を見て「綺麗だね」とみんな褒めている。
「ありがとう」と返す美希達を見て誇らしげに想う。
 家に帰ると、母さんたちはまだ帰ってなかった。
 母さんたちも冬吾達や水奈の両親と花火を観に行くって言っていた。
 部屋に戻ると部屋着に着替える。
 部屋に戻ってゲームをしていた。
 父さん達はまだ帰ってこないみたいだ。
 何をしているのだろう?
 ちなみに宿題は7月中に全て済ませた。
 毎年恒例だ。中学になっても変わらない。
 そして8月はだらだらと過ごす。
 父さん達が帰って来たみたいだ。

「あまり夜更かししてはいけませんよ」

 母さんが部屋に来てそう言った。

「じゃあ、そろそろ寝ようか」

 僕が美希にメッセージを送る。

「そうだね」

 翼が何か沈んでるみたいだ。

「どうしたの?」
「私じゃまだ物足りない?」

 どういう意味かってことくらい僕でも分かるつもりだった。

「そんなことないよ。美希は十分魅力的だよ」

 実際美希は中学になってからみるみる女性らしくなっていた。
 こうして自分を抑えられているのが不思議なくらい魅力的な女子だった。
 だから怖かった。
 こんなに綺麗な美希を僕の手で汚してしまっていいのか?
 不安だった。
 父さんもこんな気持ちだったんだろうか?
 だから僕は今の気持ちを伝えていた。
 言葉にしなくても伝わると思っていた。
 だけど美希は言葉にして、形で示して欲しいとねだる。
 僕達が中学生になってもう5か月になる。
 其れなのにキスすらしてこない。
 僕はつい見えもしないものに頼って逃げてしまう。
 美希はすぐ形で示して欲しいとごねる。
 矛盾し合ったいくつもの事が正しさを主張している。
 好きって気持ちは奥が深いんだな。
 何処まで行けば解り合えるかな?
 歌や詩に出来ないこの感情と苦悩。
 愛という素敵な嘘で騙せたら。
 僕だって思ってた人格がまた違う顔を見せる。
 それは多分美希のせいだ。
 美希に触れていたい。
 何処まで行けば辿り着けるのだろう?
 目の前に積まれたこの絶望と希望。
 美希に触れていたい。痛みすら伴い歯痒くとも切なくとも……
 とりあえずは形で示してあげよう。
 
「美希は僕に何もかもをくれた。それは十分承知してる」
「だったら……」
「だからなんだ、今はこれで十分なんだ。美希の気持ちに触れあって満足してる。幸せな気分に浸れている」

 見えもしないものに頼って逃げてる。だけど……

「焦ることはない。美希は僕に永遠を約束してくれた。だったら今はこれで十分だから。いずれ時が来たら僕が美希を攫うから」
「それはいつになるの?」

 もう決めてるんでしょ?

「僕、父さんに話をしてみようと思うんだ」
「何を?」
「大学に行ったら美希と二人で暮らしたいと思う」

 美希は驚いたようだ。

「美希に苦労はさせない、バイトでもして生活費くらいは稼ぐよ」
「……私もバイトする。いつも一緒だよ」
「そしたら二人きりになれるだろ?その時に……」

 美希をください。
 そう伝えると美希は受け入れてくれた。

「答えが分かってるのに卑怯だよ」

 美希は嬉しそうだった。

「うん、空がそう言うなら私は我慢するよ。ただ一つ悔しいけどね」
「なにが?」
「初体験は翼に負けるのかな?って」

 そう言って美希は笑ってるようだった。
 心の中に永遠なる花を咲かせよう。
 真夏の夜に情熱の花を咲かせた。
 今年の夏の最大の想い出。
 そんな日記を書いたら大変だけど。
 初めての夜を過ごした。

(2)

 僕達はキャンプをするため湖に来た。
 毎年の恒例行事だ。
 テントを張って、BBQをして花火を打ち上げて。そして子供たちは寝る。
 大人だけで夜の宴を開いていた。
 話題はやっぱり誠の引退についてだった。
 誠は頑張ったと思う。
 そしてこれからも頑張れる選手だと思う。
 それでも誠が限界だと思うならその意志を尊重しよう。
 そんな話をしていた。
 誠の夢は息子の誠司がちゃんと受け取っている。
 誠はちゃんと誠司にバトンを渡した。
 あとは後姿を見送るだけ。
 誠は来年からはコーチとして若手の指導に当たるらしい。
 自分の息子の成長を見守りたいという思いもあるのだろう。

「子供に夢を託すか……羨ましい選択肢だな」

 渡辺君がそう言って笑った。

「私達だって茉里奈が継いでくれる……ちゃんと私達の背中を見て成長しているよ」

 美嘉さんが言った。

「皆真っ直ぐ育ってくれてるんですね」

 愛莉が言う。

「お前もとりあえず事業を継いでくれる子供がいるじゃないか」

 渡辺君が言った。

「しっかり形に残しておかないといけないけどね」

 とりあえず従業員と事務所を拡張した。
 理由は顧客が増えてとてもじゃないけど数名だけでは請け負いきれなくなったから。
 仕事はいくらでもある。
 志水、江口、石原、酒井、如月、白鳥グループ。それに地元銀行等から紹介される企業だけで十分食べていける。
 それに誠の所属する地元チームの選手の関係者も入れたらもう個人経営の会社では手に負えなくなっていた。
 片桐税理士事務所は法人化した。
 さらに相続税の相談等も引き受ける為に資格もさらに取った。
 空が後を継いでくれるらしい。
 その先はどうなるか分からないけど。
 冬吾は恐らくサッカー選手として生きて行くのだろう。
 天音は石原家に嫁ぐ気でいるらしい。
 でも天音もやってみたい事があると言っていた。
 それは大地君と結婚するまでの間の夢。
 美嘉さんの店で雇って欲しいと頼んだらしい。
 美嘉さんもまた店舗を増やすつもりでいたらしく快諾した。
 まだ当分先の話だけど。
 夜も遅くなったので僕達は寝る。
 翌朝起きると朝食を食べてテントを片付ける。
 そしていつものあのテーマパークへ行く。
 子供たちははしゃいでいる。
 僕も冬吾を抱えて見て回る。
 そんなに長居はしなかった。
 帰りに銭湯に寄ってファミレスで食事をして帰る。
 盆休みは片桐・遠坂家の親戚で宴会を開いた。
 繁華街外れの料亭でフグ料理を食べる。
 翼も空も必死に食べてた。
 なぜかうちの親戚は近所に住む人が多い。
 その理由は分からない。
 そのうち近所の大半が親戚になるんじゃないだろうか?
 子供たちがまだ小さいので2次会はなかった。

「楽しかった」

 天音はそう言った。
 翼と空も思い出を残せたらしい。
 そして夏休みが終わり、2学期がはじまる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...