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それは夜明けか永久の闇か
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(1)
「もう少しだ!ほら頑張れ!」
誠が応援する。
誠司君の徒競走だ。
今年は冬吾と組み合わせが違った。
冬吾が規格外なだけで、冬吾さえいなかったら誠司君の圧勝だった。
「いやあ、こんなに気分がいいと酒が上手いね」
「ほどほどにしとけよ」
僕は誠に注意をした。
去年は誠が飲み過ぎて父兄リレーの時ふらふらで桜子に注意されたから。
「子供の前でみっともないことしないで下さい!プリントに飲酒禁止って書いてありますよ!」
今年は誠は出場しなくていい。
だからバレない。
そう思ってやりたい放題やってる。
カンナも何も言わない。
当然だ。
カンナも飲んでるんだから。
「次のプログラムは親子の綱引きです。一人でも多くの保護者の方の参加を……」
アナウンスが流れる。
「ほら、行って来い」
多田夫妻に見送られて僕は入場門に向かう。
僕は茜と純也がいるから。
愛莉は冬眞と莉子の面倒を見てる。
この炎天下に2歳の子供は放置できない。
酒井君もいた。
「この歳になると子供の運動会に参加も大変ですね」
酒井君が笑う。
酒井君は本当に大変だ。
運動会に出るという事だけの為にどれだけの犠牲を払う事か。
「どうせ、県知事だか環境大臣だか知らないけどゴルフに行くだけでしょ!」
「しかし晶ちゃん。相手も忙しいスケジュールの中わざわざ……」
「善君も子供の運動会というスケジュールがある。何か問題あるの?」
「……ありません」
これ以上晶さんを怒らせたら、また衆議院議員選挙という余計なスケジュールが出来る。
もはや国政すら晶さん達の機嫌一つで傾けてしまうほどの企業になっていた。
綱引きは僕達が勝った。
純也達の白組と紅組の勝負は拮抗していた。
今年は天音達というバランスブレーカーがいないから見てる僕達も楽しかった。
ちなみに今年の運動会は誠達の子供は誠司が徒競走にでるだけ。
それも終わったら用は無いはず。
なのに残って酒を飲んでる。
不思議だった。
「誠、お前たちはもう帰ってもいいんじゃないのか?」
「帰れって言われてないしな」
「そうじゃなくて、家でのんびり飲めばいいんじゃないのか?」
「馬鹿だな冬夜は、こうして皆が集まる時なんてそうないじゃないか」
僕が馬鹿なんだろうか?
ここは地区の運動会じゃない。
小学校の運動会だぞ?
しかし誠達は関係なしに桐谷君達と飲んで騒いでる。
必死に頑張ってる恋ちゃんなんて全く見てない桐谷君。
そういう態度が問題なんじゃないのか?
ちなみに茜も純也も日頃の運動不足からは想像つかないような身体能力を有していた。
しかし運動会の結果は白組の負けという結末を迎えた。
近年では久々の白組の負けだった。
それが何を意味するのかは親の僕達には想像のつかない事だった。
(2)
今日は土曜日。
普通は休みだ。
父さん達は純也と茜の運動会の応援に行ってる。
母さんは冬眞と莉子の面倒を見てる。
と、言っても二人共大人しいものだ。
冬眞は買ってもらったミニ四駆やプラモデルの塗装に時間を費やしている。
莉子も着せ替え人形の髪を梳いたりして遊んでる。
たまに莉子が冬眞にちょっかい出している。
冬眞はそれを嫌がったりせず手を止めて莉子の相手をしている。
父さんが帰って来た。
「お疲れ様でした」
母さんが出迎える。
「いや、暑いね。子供達もこれはたまらないだろ」
冬吾と冬莉が寝室に行って着替えて戻って来た。
冬眞と莉子の様子を見てる。
初めての自分より年下の姉弟だ。
気にもなるんだろう。
しかしそんな時間もない。
「そろそろ寝なさい。疲れたでしょう。冬眞と莉子はおもちゃを片付けなさい」
母さんがそう言うと3人はおもちゃを片付けて寝室に向かう。
しばらくして茜が帰って来た。
少し気分が沈んでいるようだ。
何かあったんだろうか?
茜は何も言わず部屋に戻っていった。
「実は今日の運動会、茜たちは負けたんだよ」
父さんが言った。
そんなに気にする事なんだろうか?
それは父さんにも分からない事らしい。
まあ、本人が言い出すまで触れない方がいいだろう。
父さんはそう判断したそうだ。
僕達も部屋に戻って美希と話をしていた。
さっきの運動会の話を美希に説明していた。
「翼や天音がいる時は勝って当たり前って部分あったでしょ。茜の気持ち私達には理解できないかもね」
美希がそう言った。
「でも、運動会ってただのお祭り騒ぎだろ?そんなに勝ち負けにこだわる事?」
「空は気づかなかったの?私達の場合はそうじゃない、大体がSH対FGに変わってしまうって事」
そして茜たちの敗北はSHの敗北。
そんなの天音が許さない。
だから怯えてるんじゃないか?
美希はそう言う。
「天音だって分かってるよ、そんな事で目くじら立てる程子供じゃないよ」
「天音がそうだったとしても茜がそう思い込んでいたら結果は同じでしょ?」
「美希はどうすればいいと思うの?」
「一言”頑張ったね”って言ってあげたら?それだけでいいと思う」
「美希の言う通りかもしれないね」
「ご飯できましたよ~」
母さんが呼んでいる。
僕はダイニングに向かう。
SHに必死に頑張った者を賞賛する者はいるけど非難するものはいない。
だから大丈夫だよ、心配することは無い。
自分がどれだけ頑張ったのか。
それを決めるのは自分次第。
運命の扉を開けるのは茜自身だ。
(3)
「やったあ!ついに勝ったぞ!!」
クラスの半分くらいの人が喜んでいた。
共通しているのは皆黒いリストバンドをしていた事。
皆気分が昂っていた。
そんな一人が私達に言う。
「これでお前らにデカい顔はさせないからな!」
挑発に等しい行為。
当然挑発に乗る者もいた。
そんな人を懸命に抑える。
私達のせいで学校の中のパワーバランスが逆転した。
運動会の結果でしかないけど、SHがFGに負けたという事実だけが突き付けられる。
帰り道私達は何も言わなかった。
黒いリストバンドをしているものが盛り上がっている。
家に帰ると部屋に戻る。
部屋には天音がいる。
「あ、お疲れ!どうだった?」
天音が聞いてくる。
翼や空や天音が築いたSHのプライドを壊してしまった。
それを聞いた天音がどんな思いになるだろう?
私は怖くて言えなかった。
「どうした?またあいつら何かやったのか?」
天音が聞いていた。
申し訳ない気持ち。
怒られるかもしれないという恐怖。
その後からくる最大の感情。
それは悔しさ。
悔しさで心が折れて私は泣き出していた。
「マジでどうしたんだ!?」
「ごめんなさい!」
私は大声で泣いていた。
天音が誤解したみたいだ。
SHの皆に確認している。
「茜が泣き出した。FGの奴ら何かやらかしたらしい。休み明けたら喜一の葬式するぞ!」
「やっと動き出したか!葬式するのもも面倒だな」
「世界には体をばらばらにして鳥に食わせる葬儀があるらしいぜ」
「あいつを挽肉にして屋上にばらまいとくか?」
事情を知らない中学生組が盛り上がっている。
だけど小学生組が事情を説明する。
運動会でSHがFGに負けたと告げる。
だけどそんな事関係なかった。
「そうか負けたか!じゃあリベンジしないとな」
「口実が出来たことには変わりないな」
「全員丸刈りにでもするか」
原因がなんであれそんな事は関係ないらしい。
FGがその気になったのなら喜んで相手してやる。
そんな好戦派が盛り上がっている。
「待て!ただ運動会で負けたってだけだろ。負けたからってリベンジは恥の上塗りじゃないか」
「運動会で負けた。喜一を殺すのにいちいち理由が必要ならば、拙者の理由はそれで十分だ」
何が何でもFGのリーダーの息の根を止めたいらしい。
懸命に説得する穏健派の動きもあって喜一の命は助かったらしい。
やりとりを終えると天音がにこりと笑う。
「まあ、そういうわけだ。運動会の勝ち負けなんか関係ない。奴らが相手して欲しいんだったら私は喜んで喜一の首を刈り取ってやる」
だからいちいち騒ぐな。
天音はそう言って私を抱きしめる。
「運動会で腹減ったんじゃねーのか?何かおやつあったかな……」
「大丈夫」
そんな話をしていると、母さんがご飯だと呼んでいる。
「とりあえず飯食おうぜ、元気が出ない時はお腹を満たすのが一番だとあんぱん男も言ってただろ?」
あのある意味ホラーな絵本か。
私はうなずくと部屋を出てダイニングへ向かう。
みんな私に気づかってか運動会の事に触れなかった。
そんな空気をぶち壊すのが父さんだ。
「茜は徒競走早かったぞ。純也達もだけど」
「そうなんですね」
いい意味でぶち壊すのが父さん。
「我が家に足りないのはやる気だな、どこからこのやる気の無さが伝染したんだか……」
お爺さんがそう言う。
やれば出来る。
チートじみたスペックを持つ片桐家。
ただやる気がないというだけで台無しにしてしまうけど。
お風呂に入ると部屋でチャットをする。
「今日徒競走で1位だった」
「スカーレットはすごいなあ」
そんな話をしていた。
悪い思い出をいい思い出に変えて生きていく。
夜明けか永久の闇か?
それを決めるのは自分次第。
(4)
今日は朝一で学校に来て大地が来るのを待ってる。
朝一番で笑顔で「おはよう」って言ってやろうと思って。
あいつの喜ぶ顔がみたいからは理由にならないか?
だが、あいつより先に喜一が来た。
喜一は私を見ると近づいてくる。
そんなに殺されたいのかこいつは?
「小学校の運動会、FGが勝ったそうだよ?」
「だからどうした?」
「へえ、言い訳はしないんだね。物分かりがいいじゃないか?」
大地は来てないな。
私は立ち上がって喜一を睨みつける。
朝から気分は最悪だ。
「お前のせいで私の大切な時間は台無しだ。お前を屋上から突き飛ばす理由はそれだけで十分だ」
「やる気?約束破っていいの?」
「お前何か勘違いしてないか?」
「勘違い?」
私は喜一の胸ぐらを掴み上げる。
「お前を殺すのに理由なんていらない。一々理由を探してこいというならお前の存在が目障りだ。それだけで理由は十分だ」
「や、約束が違うぞ!」
人を一々イライラさせて約束に逃げるとはどこまでも情けない奴だな。
「そうだ、約束だ。お前を殺したら駄目って言われてるから生かしておいてやるだけだ。忘れるな。お前はいつだって秤にかけられてる。約束と私の機嫌の秤だ。それが少しでも傾いたらいつでもおまえを殺す」
他にも理由はある。
私の立場というのはとても重要だ。
私が問題を起こせば両親はもちろん大地に迷惑をかける。一々面倒事を増やしてやりたくない。
それに、いちいち病院のベッドを用意するのも病院に迷惑をかける。それなら一度葬儀屋に頼んだ方が手っ取り早い。
その気になればいつでもやる、分かったら教室の隅で許しを請いながらガタガタ震えてやがれ。
私はそう言ったらいつの間にか教室に大地たちがいた。
大地は私の側に来て「おはよう天音」と言った。
大地の他にはいつものメンバーがいる。
「天音も頑張って我慢してるんだな」
祈が言う。
「だけど天音、我慢する必要はないんだ。わざわざ天音の手を煩わせる程の事でもない」
大地が言った。
「どういう意味だ?」
喜一が聞いていた。
「病院も葬儀屋も手を煩わせる必要がない。ちょっと手間がかかるけど誰にも迷惑をかけない方法がある」
大地が言った。
戸籍の抹消。喜一の身柄を某国に売り渡す。あとはシベリアに送られるなり諜報員として教育されるなり勝手にしろ。
「理解できた?あとは天音の言う通り。お前の運命は天音の気分一つでどうにでもできる」
策者がデリートをするだけでお前の存在は無かったことに出来る。
今の喜一は策者が何か使い道があるかもしれないという不安定な気分の上に立ってるだけに過ぎない。
「理解出来たらこれ以上天音が気分を害する前に目の届かないところで今日を生きれることを感謝してガタガタ震えてろ」
祈が言うと私は喜一を解放する。
喜一は自分の席に戻っていった。
「ごめん、もう少し早く来ればよかった」
「気にするな。たまたま私が早かっただけだ」
それにしても大地も本当に逞しくなったな。
本当に私は大地に頼りっぱなしでもいいかもしれない。
私が動かなくても大地が動いてくれる。
そう思ったから今まで動かなかった。
然し今の喜一にどんな利用価値があるのだろう?
そんな事を考えながら、大地たちと朝を楽しい物に書き換えていた。
担任が入ってくる。
私達は席につく。
また一週間が始まる。
2学期がはじまって一月が経とうとしていた。
「もう少しだ!ほら頑張れ!」
誠が応援する。
誠司君の徒競走だ。
今年は冬吾と組み合わせが違った。
冬吾が規格外なだけで、冬吾さえいなかったら誠司君の圧勝だった。
「いやあ、こんなに気分がいいと酒が上手いね」
「ほどほどにしとけよ」
僕は誠に注意をした。
去年は誠が飲み過ぎて父兄リレーの時ふらふらで桜子に注意されたから。
「子供の前でみっともないことしないで下さい!プリントに飲酒禁止って書いてありますよ!」
今年は誠は出場しなくていい。
だからバレない。
そう思ってやりたい放題やってる。
カンナも何も言わない。
当然だ。
カンナも飲んでるんだから。
「次のプログラムは親子の綱引きです。一人でも多くの保護者の方の参加を……」
アナウンスが流れる。
「ほら、行って来い」
多田夫妻に見送られて僕は入場門に向かう。
僕は茜と純也がいるから。
愛莉は冬眞と莉子の面倒を見てる。
この炎天下に2歳の子供は放置できない。
酒井君もいた。
「この歳になると子供の運動会に参加も大変ですね」
酒井君が笑う。
酒井君は本当に大変だ。
運動会に出るという事だけの為にどれだけの犠牲を払う事か。
「どうせ、県知事だか環境大臣だか知らないけどゴルフに行くだけでしょ!」
「しかし晶ちゃん。相手も忙しいスケジュールの中わざわざ……」
「善君も子供の運動会というスケジュールがある。何か問題あるの?」
「……ありません」
これ以上晶さんを怒らせたら、また衆議院議員選挙という余計なスケジュールが出来る。
もはや国政すら晶さん達の機嫌一つで傾けてしまうほどの企業になっていた。
綱引きは僕達が勝った。
純也達の白組と紅組の勝負は拮抗していた。
今年は天音達というバランスブレーカーがいないから見てる僕達も楽しかった。
ちなみに今年の運動会は誠達の子供は誠司が徒競走にでるだけ。
それも終わったら用は無いはず。
なのに残って酒を飲んでる。
不思議だった。
「誠、お前たちはもう帰ってもいいんじゃないのか?」
「帰れって言われてないしな」
「そうじゃなくて、家でのんびり飲めばいいんじゃないのか?」
「馬鹿だな冬夜は、こうして皆が集まる時なんてそうないじゃないか」
僕が馬鹿なんだろうか?
ここは地区の運動会じゃない。
小学校の運動会だぞ?
しかし誠達は関係なしに桐谷君達と飲んで騒いでる。
必死に頑張ってる恋ちゃんなんて全く見てない桐谷君。
そういう態度が問題なんじゃないのか?
ちなみに茜も純也も日頃の運動不足からは想像つかないような身体能力を有していた。
しかし運動会の結果は白組の負けという結末を迎えた。
近年では久々の白組の負けだった。
それが何を意味するのかは親の僕達には想像のつかない事だった。
(2)
今日は土曜日。
普通は休みだ。
父さん達は純也と茜の運動会の応援に行ってる。
母さんは冬眞と莉子の面倒を見てる。
と、言っても二人共大人しいものだ。
冬眞は買ってもらったミニ四駆やプラモデルの塗装に時間を費やしている。
莉子も着せ替え人形の髪を梳いたりして遊んでる。
たまに莉子が冬眞にちょっかい出している。
冬眞はそれを嫌がったりせず手を止めて莉子の相手をしている。
父さんが帰って来た。
「お疲れ様でした」
母さんが出迎える。
「いや、暑いね。子供達もこれはたまらないだろ」
冬吾と冬莉が寝室に行って着替えて戻って来た。
冬眞と莉子の様子を見てる。
初めての自分より年下の姉弟だ。
気にもなるんだろう。
しかしそんな時間もない。
「そろそろ寝なさい。疲れたでしょう。冬眞と莉子はおもちゃを片付けなさい」
母さんがそう言うと3人はおもちゃを片付けて寝室に向かう。
しばらくして茜が帰って来た。
少し気分が沈んでいるようだ。
何かあったんだろうか?
茜は何も言わず部屋に戻っていった。
「実は今日の運動会、茜たちは負けたんだよ」
父さんが言った。
そんなに気にする事なんだろうか?
それは父さんにも分からない事らしい。
まあ、本人が言い出すまで触れない方がいいだろう。
父さんはそう判断したそうだ。
僕達も部屋に戻って美希と話をしていた。
さっきの運動会の話を美希に説明していた。
「翼や天音がいる時は勝って当たり前って部分あったでしょ。茜の気持ち私達には理解できないかもね」
美希がそう言った。
「でも、運動会ってただのお祭り騒ぎだろ?そんなに勝ち負けにこだわる事?」
「空は気づかなかったの?私達の場合はそうじゃない、大体がSH対FGに変わってしまうって事」
そして茜たちの敗北はSHの敗北。
そんなの天音が許さない。
だから怯えてるんじゃないか?
美希はそう言う。
「天音だって分かってるよ、そんな事で目くじら立てる程子供じゃないよ」
「天音がそうだったとしても茜がそう思い込んでいたら結果は同じでしょ?」
「美希はどうすればいいと思うの?」
「一言”頑張ったね”って言ってあげたら?それだけでいいと思う」
「美希の言う通りかもしれないね」
「ご飯できましたよ~」
母さんが呼んでいる。
僕はダイニングに向かう。
SHに必死に頑張った者を賞賛する者はいるけど非難するものはいない。
だから大丈夫だよ、心配することは無い。
自分がどれだけ頑張ったのか。
それを決めるのは自分次第。
運命の扉を開けるのは茜自身だ。
(3)
「やったあ!ついに勝ったぞ!!」
クラスの半分くらいの人が喜んでいた。
共通しているのは皆黒いリストバンドをしていた事。
皆気分が昂っていた。
そんな一人が私達に言う。
「これでお前らにデカい顔はさせないからな!」
挑発に等しい行為。
当然挑発に乗る者もいた。
そんな人を懸命に抑える。
私達のせいで学校の中のパワーバランスが逆転した。
運動会の結果でしかないけど、SHがFGに負けたという事実だけが突き付けられる。
帰り道私達は何も言わなかった。
黒いリストバンドをしているものが盛り上がっている。
家に帰ると部屋に戻る。
部屋には天音がいる。
「あ、お疲れ!どうだった?」
天音が聞いてくる。
翼や空や天音が築いたSHのプライドを壊してしまった。
それを聞いた天音がどんな思いになるだろう?
私は怖くて言えなかった。
「どうした?またあいつら何かやったのか?」
天音が聞いていた。
申し訳ない気持ち。
怒られるかもしれないという恐怖。
その後からくる最大の感情。
それは悔しさ。
悔しさで心が折れて私は泣き出していた。
「マジでどうしたんだ!?」
「ごめんなさい!」
私は大声で泣いていた。
天音が誤解したみたいだ。
SHの皆に確認している。
「茜が泣き出した。FGの奴ら何かやらかしたらしい。休み明けたら喜一の葬式するぞ!」
「やっと動き出したか!葬式するのもも面倒だな」
「世界には体をばらばらにして鳥に食わせる葬儀があるらしいぜ」
「あいつを挽肉にして屋上にばらまいとくか?」
事情を知らない中学生組が盛り上がっている。
だけど小学生組が事情を説明する。
運動会でSHがFGに負けたと告げる。
だけどそんな事関係なかった。
「そうか負けたか!じゃあリベンジしないとな」
「口実が出来たことには変わりないな」
「全員丸刈りにでもするか」
原因がなんであれそんな事は関係ないらしい。
FGがその気になったのなら喜んで相手してやる。
そんな好戦派が盛り上がっている。
「待て!ただ運動会で負けたってだけだろ。負けたからってリベンジは恥の上塗りじゃないか」
「運動会で負けた。喜一を殺すのにいちいち理由が必要ならば、拙者の理由はそれで十分だ」
何が何でもFGのリーダーの息の根を止めたいらしい。
懸命に説得する穏健派の動きもあって喜一の命は助かったらしい。
やりとりを終えると天音がにこりと笑う。
「まあ、そういうわけだ。運動会の勝ち負けなんか関係ない。奴らが相手して欲しいんだったら私は喜んで喜一の首を刈り取ってやる」
だからいちいち騒ぐな。
天音はそう言って私を抱きしめる。
「運動会で腹減ったんじゃねーのか?何かおやつあったかな……」
「大丈夫」
そんな話をしていると、母さんがご飯だと呼んでいる。
「とりあえず飯食おうぜ、元気が出ない時はお腹を満たすのが一番だとあんぱん男も言ってただろ?」
あのある意味ホラーな絵本か。
私はうなずくと部屋を出てダイニングへ向かう。
みんな私に気づかってか運動会の事に触れなかった。
そんな空気をぶち壊すのが父さんだ。
「茜は徒競走早かったぞ。純也達もだけど」
「そうなんですね」
いい意味でぶち壊すのが父さん。
「我が家に足りないのはやる気だな、どこからこのやる気の無さが伝染したんだか……」
お爺さんがそう言う。
やれば出来る。
チートじみたスペックを持つ片桐家。
ただやる気がないというだけで台無しにしてしまうけど。
お風呂に入ると部屋でチャットをする。
「今日徒競走で1位だった」
「スカーレットはすごいなあ」
そんな話をしていた。
悪い思い出をいい思い出に変えて生きていく。
夜明けか永久の闇か?
それを決めるのは自分次第。
(4)
今日は朝一で学校に来て大地が来るのを待ってる。
朝一番で笑顔で「おはよう」って言ってやろうと思って。
あいつの喜ぶ顔がみたいからは理由にならないか?
だが、あいつより先に喜一が来た。
喜一は私を見ると近づいてくる。
そんなに殺されたいのかこいつは?
「小学校の運動会、FGが勝ったそうだよ?」
「だからどうした?」
「へえ、言い訳はしないんだね。物分かりがいいじゃないか?」
大地は来てないな。
私は立ち上がって喜一を睨みつける。
朝から気分は最悪だ。
「お前のせいで私の大切な時間は台無しだ。お前を屋上から突き飛ばす理由はそれだけで十分だ」
「やる気?約束破っていいの?」
「お前何か勘違いしてないか?」
「勘違い?」
私は喜一の胸ぐらを掴み上げる。
「お前を殺すのに理由なんていらない。一々理由を探してこいというならお前の存在が目障りだ。それだけで理由は十分だ」
「や、約束が違うぞ!」
人を一々イライラさせて約束に逃げるとはどこまでも情けない奴だな。
「そうだ、約束だ。お前を殺したら駄目って言われてるから生かしておいてやるだけだ。忘れるな。お前はいつだって秤にかけられてる。約束と私の機嫌の秤だ。それが少しでも傾いたらいつでもおまえを殺す」
他にも理由はある。
私の立場というのはとても重要だ。
私が問題を起こせば両親はもちろん大地に迷惑をかける。一々面倒事を増やしてやりたくない。
それに、いちいち病院のベッドを用意するのも病院に迷惑をかける。それなら一度葬儀屋に頼んだ方が手っ取り早い。
その気になればいつでもやる、分かったら教室の隅で許しを請いながらガタガタ震えてやがれ。
私はそう言ったらいつの間にか教室に大地たちがいた。
大地は私の側に来て「おはよう天音」と言った。
大地の他にはいつものメンバーがいる。
「天音も頑張って我慢してるんだな」
祈が言う。
「だけど天音、我慢する必要はないんだ。わざわざ天音の手を煩わせる程の事でもない」
大地が言った。
「どういう意味だ?」
喜一が聞いていた。
「病院も葬儀屋も手を煩わせる必要がない。ちょっと手間がかかるけど誰にも迷惑をかけない方法がある」
大地が言った。
戸籍の抹消。喜一の身柄を某国に売り渡す。あとはシベリアに送られるなり諜報員として教育されるなり勝手にしろ。
「理解できた?あとは天音の言う通り。お前の運命は天音の気分一つでどうにでもできる」
策者がデリートをするだけでお前の存在は無かったことに出来る。
今の喜一は策者が何か使い道があるかもしれないという不安定な気分の上に立ってるだけに過ぎない。
「理解出来たらこれ以上天音が気分を害する前に目の届かないところで今日を生きれることを感謝してガタガタ震えてろ」
祈が言うと私は喜一を解放する。
喜一は自分の席に戻っていった。
「ごめん、もう少し早く来ればよかった」
「気にするな。たまたま私が早かっただけだ」
それにしても大地も本当に逞しくなったな。
本当に私は大地に頼りっぱなしでもいいかもしれない。
私が動かなくても大地が動いてくれる。
そう思ったから今まで動かなかった。
然し今の喜一にどんな利用価値があるのだろう?
そんな事を考えながら、大地たちと朝を楽しい物に書き換えていた。
担任が入ってくる。
私達は席につく。
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2学期がはじまって一月が経とうとしていた。
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