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未来への条件
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(1)
福助から電話が着た。
電話に出る。
「おめでとう」
「ありがとう」
私は無事ジュニアテニス選手権で優勝を決めた。
福助と特訓した甲斐があった。
そして福助もまたインターハイ連覇を成し遂げた。
そのことを祝う。
お互いこの後の大きな大会は国体が待っている。
国体には妹の渚も出場する。
福助も兄弟で国体にでるそうだ。
お互い頑張ろう。
でも、その前に一日にくらい夏休みを楽しまないか?と誘って来た。
もちろん私はそれを承諾した。
電話が終ると当日に着ていく服を選んでいた。
そして当日駅前で福助と待ち合せ。
人の事言えないけど福助も体格ががっちりしていて小麦色に焼けていた。
昼を食べてゲーセンで遊んでカラオケに行く。
そして私の今後を聞いていた。
国体の後はとりあえずは受験勉強に時間を割く予定。
その後は春休みや夏休み中にある大会でプロの世界を体感するつもりだと話した。
プロテニスと言えばグランドスラム等が有名だけど国内でもいくつか大会がある。
もちろんランキングが低い私は予選から勝ち上がっていかなければならない。
もし勝つことが出来たら、上のランクを狙うつもりだった。
どうしても大学を続けることが困難だと判断したら両親と相談する。
進学先の大学のサークルの練習だけではとてもじゃないけど厳しい。
スポンサーの酒井コーポレーションが私の為にスタッフを集めてくれた。
コートも貸し切りで練習を積むことになる。
現在も部活が休みの日に練習を積んでいる。
賞金額はまだ気にしなくていい。
一つでも上の大会を目指して今は経験と実績を重ねる時だと説明を受けた。
実績はジュニアテニス選手権とインターハイですでに作っている。
だけどそれだけではまだまだ足りない。
本当はITFの試合に一つでも多く出たいところだが焦る必要はないと言われた。
女子プロテニスの平均年齢は25歳。
大学卒業した後でもまだ若い方だ。
その後本格的に活動したらいい。
引退年齢はだいたい27歳くらいだ。
もしもの場合もある。
勉強して資格を取っておく事に越したことはないと聞いた。
スポンサーは選手が試合に勝つことだけを目標としていると思ったが違うようだ。
それも大事だけど引退後の進路も考えて予定を組み立ててくれる。
USEと契約しておくことも勧められた。
マネジメントをしてくれる事務所は必要なのだそうだ。
そんな事を福助に話していた。
福助はじっと聞いてくれていた。
「引退年齢が27歳か……案外短いんだな」
福助がそんな感想を漏らす。
「でも丁度いいかもしれない。俺も弁護士としてやっていくのはそのくらいになると思うし」
「どういう意味?」
私が聞くと福助は少し黙っていた。
そして話し出す。
「俺が弁護士になれたら棗と結婚したい」
高校生で求婚されるとは思っても見なかった。
でも私達も18になる。
結婚が許される歳だ。
おかしい事ではない。
「……イケメンのプロテニス選手と出会うかもよ?」
芸能人と接触することだってある。
「あ、そうか」
悩んでいる福助を見て笑った。
「ちゃんと話しておかないとね”結婚前提の交際相手がいます”って」
結婚したらすぐに子供作らないと時間もないね。と話した。
福助の表情が明るくなる。
「私がツアー中に妙な真似しないでよ」
「もちろん」
カラオケ店を出ると夕食を食べてから帰る。
「今度は国体が終ったらまた打ち上げしよう」
そう言って別れる。
国体は地元があらゆる種目で強くなっていた。
バレー、テニス、サッカーは鉄板だった。
テニスは男女共に優勝してみせた。
福助達も最後の公式戦で有終の美を飾ることが出来ただろう。
私もジュニアテニスの次のステップへと進む。
まずは一つでも勝つことを目指した。
最初の大会は4月末の大会に照準を合わせる事にした。
「でも勉強はちゃんとしないとだめよ。落ちたらテニス漬けにしてやるからね」
そう言われた。
まずは大学入試か。
部活は引退したのでテニススクールでの練習に専念しながら勉強をするという過酷な毎日を過ごしていた。
(2)
僕はテレビに釘付けになっていた。
空兄さん達も見ている。
クラスメートが出てるらしい。
汗まみれになってピッチを走り回る選手たち。
性別なんて関係ない。
身体を張ってボールを確保する。
今日はU-20女子W杯決勝。
日本の相手はスペインだった。
ボールの支配率は圧倒的に日本だった。
もちろんスペインの守備は固い。
そしてなかなか枠の中にシュートが決まらない。
前を向く事すらできない堅固な守備。
エースの水島みなみもマークがついて思うようにパスを受け取れないでいた。
試合を見ているとつい夢中になってしまう。
自分ならどう動くか?
今ならあそこに飛び込める。
ドリブルでかわせるはず。
色んなプレイをイメージしながら試合を観ていた。
夢中になっている僕をただ見守っている父さんと母さん。
そして父さんはぼーっと見ているようでしっかり要所を抑えているようだ。
「冬吾、しっかり見てなさい」
父さんがそういうと決まって凄いプレイが出てくる。
コーナーまで追いつめられた日本のSHがクロスを上げる。
ゴール前にいたみなみ選手が少し下がる。
ゴールに背を向けていた。
しかしタイミングを合わせてバイシクルシュートを決める。
家族は皆拍手していた。
このプレイでみなみ選手はハットトリックを決めた。
3点差がついたこの試合。
だけどサッカーは終了するまで分からない。
僅か10分で3点決められて逆転負けした試合だってあるそうだ。
最後まで集中力を切らしてはいけない。
強気で行かなければいけない。
そして日本代表は最後まで容赦なく攻め続けた。
そして優勝を決めた。
盛り上がるサポーターたち。
実況も興奮していた。
「終わったのでしょ?そろそろ寝る時間ですよ」
母さんがそういうので僕は部屋に戻って寝る。
次の日朝刊のトップを飾っていた。
「点を決めるのが私の役割なので必死でした」
みなみ選手はインタビューでそう答えたらしい。
点を決められると思った時全体がスローモーションになって自分のするべきプレーが見えてくるんだそうだ。
その感覚は何となくわかる。
僕も得点につながるプレイをする時周りが止まって見えたりする。
なんとなく先が見える。
その一連のプレイが絵となって思いつく。
翌日サッカーの練習があった。
当たり前だけど夏でも練習をする。
僕達はいつも通りボールを蹴っていた。
皆の話題は昨夜の決勝戦。
僕もリフティングをやりながら皆の話に混ざっていた。
両足を使わない理由は左足で蹴るのが得意だから。
最初は注意されていたけどやがてされなくなった。
皆は回数を競っていたけど僕は混ぜてもらえなかった。
別に仲間外れにされているわけじゃない。
止められるまで延々と続けているから、回数を数えるのも馬鹿馬鹿しくなる。
もちろん基礎トレーニングも忘れない。
走り込みもちゃんとする。
昨日の試合を見て改めて分かった。
1回の試合で幾つもチャンスがある。
だけど全てを確実に決められるわけじゃない。
一つでも多くのチャンスを活かす為にはとにかく動くしかない。
試合時間フルに動けない選手は要らない。
フルに動くというのは闇雲に走り回る意味じゃない。
戦術的に自分が何をするべきかどこにいるべきか考えて動きいつでも動ける状態にしておくこと。
そうやってチャンスを作り出す。
しかし、まだ僕達は子供。
難しい理論なんて必要ない。
今はただ体力をつける時。
もちろん一日中走ってるわけじゃない。
指示された分だけ走る。
ただランニングするだけじゃない。
時にはダッシュだけをするときもある。
練習の時に出来るドリブルテクニックも試合で使うメンタルが無ければ意味がない。
コースが空いていればシュートを打ち、無ければドリブルで突破する。
それらを瞬時に判断する頭脳が求められる。
バテてる状態し出来るわけがない。
僕や誠司達はスタメンとは別メニューをこなしている。
それは全部試合に出る為の準備。
それも短時間。
あとはひたすらボールで遊んでいる。
練習が終わると母さんが迎えに来る。
家に帰るとお風呂に入って夕食にする。
夏休みの宿題は7月中に済ませる。
片桐家のルールに従っている。
だから夏休みの終わりに慌てることはしない。
最近はゲームをしたり父さん達とリビングでテレビを観たりしてる。
父さんはあまりテレビに興味はない。
じゃあ、何で見るのだろう?
そう父さんに聞いたことがある。
「世の中興味がある事だけをやってたらダメなんだ。例えばテレビの話題を会社でやっていたらそれに混ざる知識が必要だろ?」
父さんはそう答えた。
それに様々な視点から一つの物事を捕らえる事が必要だ。
例えばネットの記事だけに偏った知識は物事を正確にとらえることは困難だと言う。
もちろんゲームも必要だ。
まだ小学生だからゲームの話題は出てくる。
22時になると部屋に戻る。
瞳子にメッセージを送る。
宿題に追われてるそうだ。
「冬吾君はもう終わったの?」
「7月中に終わらせたよ」
「何でそんなに早いの!?あ、お姉さんたちに聞いた?」
「ちゃんと自分でやったよ」
「すごいな~」
瞳子は驚いていた。
もうすぐ夏休みが終わる。
また皆に会える。
きっと日焼けして真っ黒なんだろうな。
2学期が始まるのを楽しみにしていた。
(3)
夏休み最後の日曜日。
俺は美翔と駅前で会っていた。
「3連覇おめでとう」
「ありがとう。とりあえず映画でも見ようか?」
「わかった」
そう言って美翔と駅ビルの映画館に行く。
都会の女子高生が田舎に帰ってきて出会った男子と恋に落ちる話。
恋愛ものだった。
映画が終ると、適当に空いてる店で昼食にする。
俺は肉を、美翔はパスタを注文していた。
この店は洒落ていてなおかつ焼き立てのパンを食べ放題というありがたいお店。
昼食を終えると定番のカラオケに行く。
交互に歌って美翔が歌っている時は歌を聴いてる。
間違ってもスマホを見たりしない。
選曲も歌い終わってからにする。
ただ歌ってるだけじゃない。
2人でおしゃべりしたり、ドリンクを頼んだりしている。
いつしか全く歌わなくなりおしゃべりに夢中になっていた。
俺達は国体に出場するためもう少しの間部活をする。
就職は地元のVリーグチームに内定が決まっている。
だから国体が終わった後に免許を取りに行くつもりだ。
Vリーグのチームからの収入はそんなに多くない。
だが、幸いにも3兄弟という特徴とインターハイ3連覇春高バレー連覇という実績がある。
広告やCMの依頼も来ていて副収入が見込める。
その仲介役をUSEに頼むことにした。
サッカーや野球選手ほどじゃないけどそれなりの収入にはなりそうだ。
引退後もタレントとして生き残る道を作ってくれるという。
将来は心配しなくていい。
もちろんこれからも実績を残さないと駄目だけど。
美翔は中学の頃から言ってたように教師を目指すらしい。
今でもソロライブを開いたりしている。
真面目にプロになってはどうか?と言われたらしい。
それでも彼女は断った。
まだ吹奏楽に触れたことのない子供たちに教える事。
そして真面目に吹奏楽に取り組む生徒に道を作ってやる事を夢にしているそうだ。
「ま、それもそんなに長い期間してられないけどね」
「どうして?」
「どうして?って克人君は私との将来考えてくれないの?」
「え?」
「さすがに妊娠したら専業主婦になるわよ」
むせた。
「最短で大学卒業して結婚でしょ?あ、克人が収入あるなら別に在学中でもいいんだっけ」
「まあ、大学くらい卒業しておけよ。手に職持っていた方が都合もいいだろう」
「は~い」
時間になるとそろそろ出る事にした。
夕食を食べてバス停に行く。
「じゃ、国体優勝したらお祝いしようよ。その頃には私も納車済んで運転も慣れてるだろうから」
「なんか美翔に運転させるのってかっこ悪いよな」
「そんな昔の概念捨てちゃいなよ」
どうせ少しの間だけだしと美翔はいう。
バスが来たので乗り込む。
「またね」
美翔がそう言うとバスのドアが閉まった。
そしてバスが動き出す。
その後国体は見事に優勝した。
美翔の運転でドライブに行く。
その後から自動車学校に通い免許を取った。
ディーラーに行って車を選ぶ。
秋に皆で紅葉狩りに行こうと計画していた。
それまでには納車は間に合うそうだ。
俺の隣に美翔を乗せる。
かっこ悪い真似はできない。
だけど美翔の親にとって大切な娘を乗せるんだって事を忘れちゃいけない。
車が来るのを楽しみにしていた。
(4)
「失礼します!大区工業高等学校建築科3年亀梨光太です。履歴書を持ってまいりました」
科棟の職員室に行くときに必ず言わなければならない事。
夏休みの間は徹底される。
そしてその儀式を終えて認められると入室を許可され担任に履歴書をチェックされる。
夏だから汗をかく。
当然手汗もかく。
その汗で履歴書が汚れないようにタオルをして書く。
例えば名前を書く時、前は何センチ後は何センチ。上下の隙間も指導される。
当然、ボールペンで書く。
一発勝負だ。
失敗したらやり直し。
履歴書がもったいないのでコピーしたのを使って練習して許可が下りたら清書する。
チェックが細かい。
この字はここはハネが必要だとか、真っ直ぐじゃなくて少し曲線気味に書けとか。
住所を書いたりするのは大変だ。
学歴も小学校卒業から書く。
そして持っている資格等を書き込む。
一応真面目に勉強してきたので取れる資格は全て取って来た。
ただ暇をつぶして過ごしてきたわけじゃない。
だけどこの時ばかりは資格の量を恨めしく思った。
あまり字が汚い者はシャーペンで下書きしてボールペンで書くというやり方をする。
注意しないと下書きを消しゴムで消す際にボールペンのインクがかすれてしまう。
当然やり直し。
要領のいい者は夏休み頭でこの作業を終えていたけど、俺と麗華はこの時期まで残ってしまった。
そしてこの日ようやく1枚の履歴書が完成した。
埋まってないのは志望動機のみ。
志望先が公表されていないので当たり前だけど。
それを持って教室に戻ると荷物をまとめて帰る。
俺達の学校生活最後の夏休みは履歴書作成で終わってしまった。
それじゃ、あまりにも酷いからせめてカラオケくらい行くか?と麗華を誘った。
カラオケで何時間か過ごして夕食を食べて帰る。
来週からはいよいよ2学期だ。
2学期が始まれば求人票が掲示される。
就職先が決まってるらしい俺達は関係ない事だけど。
甲子園も終わりインターハイも終わり夏の終わりが来た。
部活生は最後の大会を終わらせた。
国体にでる選手はまだだけど。
SHの中にも何人かいた。
皆どんな夏を過ごしたのだろう?
これからどんな2学期が待っているのだろう?
夏休みは終わるけど暑い日々はまだ続くようだ。
福助から電話が着た。
電話に出る。
「おめでとう」
「ありがとう」
私は無事ジュニアテニス選手権で優勝を決めた。
福助と特訓した甲斐があった。
そして福助もまたインターハイ連覇を成し遂げた。
そのことを祝う。
お互いこの後の大きな大会は国体が待っている。
国体には妹の渚も出場する。
福助も兄弟で国体にでるそうだ。
お互い頑張ろう。
でも、その前に一日にくらい夏休みを楽しまないか?と誘って来た。
もちろん私はそれを承諾した。
電話が終ると当日に着ていく服を選んでいた。
そして当日駅前で福助と待ち合せ。
人の事言えないけど福助も体格ががっちりしていて小麦色に焼けていた。
昼を食べてゲーセンで遊んでカラオケに行く。
そして私の今後を聞いていた。
国体の後はとりあえずは受験勉強に時間を割く予定。
その後は春休みや夏休み中にある大会でプロの世界を体感するつもりだと話した。
プロテニスと言えばグランドスラム等が有名だけど国内でもいくつか大会がある。
もちろんランキングが低い私は予選から勝ち上がっていかなければならない。
もし勝つことが出来たら、上のランクを狙うつもりだった。
どうしても大学を続けることが困難だと判断したら両親と相談する。
進学先の大学のサークルの練習だけではとてもじゃないけど厳しい。
スポンサーの酒井コーポレーションが私の為にスタッフを集めてくれた。
コートも貸し切りで練習を積むことになる。
現在も部活が休みの日に練習を積んでいる。
賞金額はまだ気にしなくていい。
一つでも上の大会を目指して今は経験と実績を重ねる時だと説明を受けた。
実績はジュニアテニス選手権とインターハイですでに作っている。
だけどそれだけではまだまだ足りない。
本当はITFの試合に一つでも多く出たいところだが焦る必要はないと言われた。
女子プロテニスの平均年齢は25歳。
大学卒業した後でもまだ若い方だ。
その後本格的に活動したらいい。
引退年齢はだいたい27歳くらいだ。
もしもの場合もある。
勉強して資格を取っておく事に越したことはないと聞いた。
スポンサーは選手が試合に勝つことだけを目標としていると思ったが違うようだ。
それも大事だけど引退後の進路も考えて予定を組み立ててくれる。
USEと契約しておくことも勧められた。
マネジメントをしてくれる事務所は必要なのだそうだ。
そんな事を福助に話していた。
福助はじっと聞いてくれていた。
「引退年齢が27歳か……案外短いんだな」
福助がそんな感想を漏らす。
「でも丁度いいかもしれない。俺も弁護士としてやっていくのはそのくらいになると思うし」
「どういう意味?」
私が聞くと福助は少し黙っていた。
そして話し出す。
「俺が弁護士になれたら棗と結婚したい」
高校生で求婚されるとは思っても見なかった。
でも私達も18になる。
結婚が許される歳だ。
おかしい事ではない。
「……イケメンのプロテニス選手と出会うかもよ?」
芸能人と接触することだってある。
「あ、そうか」
悩んでいる福助を見て笑った。
「ちゃんと話しておかないとね”結婚前提の交際相手がいます”って」
結婚したらすぐに子供作らないと時間もないね。と話した。
福助の表情が明るくなる。
「私がツアー中に妙な真似しないでよ」
「もちろん」
カラオケ店を出ると夕食を食べてから帰る。
「今度は国体が終ったらまた打ち上げしよう」
そう言って別れる。
国体は地元があらゆる種目で強くなっていた。
バレー、テニス、サッカーは鉄板だった。
テニスは男女共に優勝してみせた。
福助達も最後の公式戦で有終の美を飾ることが出来ただろう。
私もジュニアテニスの次のステップへと進む。
まずは一つでも勝つことを目指した。
最初の大会は4月末の大会に照準を合わせる事にした。
「でも勉強はちゃんとしないとだめよ。落ちたらテニス漬けにしてやるからね」
そう言われた。
まずは大学入試か。
部活は引退したのでテニススクールでの練習に専念しながら勉強をするという過酷な毎日を過ごしていた。
(2)
僕はテレビに釘付けになっていた。
空兄さん達も見ている。
クラスメートが出てるらしい。
汗まみれになってピッチを走り回る選手たち。
性別なんて関係ない。
身体を張ってボールを確保する。
今日はU-20女子W杯決勝。
日本の相手はスペインだった。
ボールの支配率は圧倒的に日本だった。
もちろんスペインの守備は固い。
そしてなかなか枠の中にシュートが決まらない。
前を向く事すらできない堅固な守備。
エースの水島みなみもマークがついて思うようにパスを受け取れないでいた。
試合を見ているとつい夢中になってしまう。
自分ならどう動くか?
今ならあそこに飛び込める。
ドリブルでかわせるはず。
色んなプレイをイメージしながら試合を観ていた。
夢中になっている僕をただ見守っている父さんと母さん。
そして父さんはぼーっと見ているようでしっかり要所を抑えているようだ。
「冬吾、しっかり見てなさい」
父さんがそういうと決まって凄いプレイが出てくる。
コーナーまで追いつめられた日本のSHがクロスを上げる。
ゴール前にいたみなみ選手が少し下がる。
ゴールに背を向けていた。
しかしタイミングを合わせてバイシクルシュートを決める。
家族は皆拍手していた。
このプレイでみなみ選手はハットトリックを決めた。
3点差がついたこの試合。
だけどサッカーは終了するまで分からない。
僅か10分で3点決められて逆転負けした試合だってあるそうだ。
最後まで集中力を切らしてはいけない。
強気で行かなければいけない。
そして日本代表は最後まで容赦なく攻め続けた。
そして優勝を決めた。
盛り上がるサポーターたち。
実況も興奮していた。
「終わったのでしょ?そろそろ寝る時間ですよ」
母さんがそういうので僕は部屋に戻って寝る。
次の日朝刊のトップを飾っていた。
「点を決めるのが私の役割なので必死でした」
みなみ選手はインタビューでそう答えたらしい。
点を決められると思った時全体がスローモーションになって自分のするべきプレーが見えてくるんだそうだ。
その感覚は何となくわかる。
僕も得点につながるプレイをする時周りが止まって見えたりする。
なんとなく先が見える。
その一連のプレイが絵となって思いつく。
翌日サッカーの練習があった。
当たり前だけど夏でも練習をする。
僕達はいつも通りボールを蹴っていた。
皆の話題は昨夜の決勝戦。
僕もリフティングをやりながら皆の話に混ざっていた。
両足を使わない理由は左足で蹴るのが得意だから。
最初は注意されていたけどやがてされなくなった。
皆は回数を競っていたけど僕は混ぜてもらえなかった。
別に仲間外れにされているわけじゃない。
止められるまで延々と続けているから、回数を数えるのも馬鹿馬鹿しくなる。
もちろん基礎トレーニングも忘れない。
走り込みもちゃんとする。
昨日の試合を見て改めて分かった。
1回の試合で幾つもチャンスがある。
だけど全てを確実に決められるわけじゃない。
一つでも多くのチャンスを活かす為にはとにかく動くしかない。
試合時間フルに動けない選手は要らない。
フルに動くというのは闇雲に走り回る意味じゃない。
戦術的に自分が何をするべきかどこにいるべきか考えて動きいつでも動ける状態にしておくこと。
そうやってチャンスを作り出す。
しかし、まだ僕達は子供。
難しい理論なんて必要ない。
今はただ体力をつける時。
もちろん一日中走ってるわけじゃない。
指示された分だけ走る。
ただランニングするだけじゃない。
時にはダッシュだけをするときもある。
練習の時に出来るドリブルテクニックも試合で使うメンタルが無ければ意味がない。
コースが空いていればシュートを打ち、無ければドリブルで突破する。
それらを瞬時に判断する頭脳が求められる。
バテてる状態し出来るわけがない。
僕や誠司達はスタメンとは別メニューをこなしている。
それは全部試合に出る為の準備。
それも短時間。
あとはひたすらボールで遊んでいる。
練習が終わると母さんが迎えに来る。
家に帰るとお風呂に入って夕食にする。
夏休みの宿題は7月中に済ませる。
片桐家のルールに従っている。
だから夏休みの終わりに慌てることはしない。
最近はゲームをしたり父さん達とリビングでテレビを観たりしてる。
父さんはあまりテレビに興味はない。
じゃあ、何で見るのだろう?
そう父さんに聞いたことがある。
「世の中興味がある事だけをやってたらダメなんだ。例えばテレビの話題を会社でやっていたらそれに混ざる知識が必要だろ?」
父さんはそう答えた。
それに様々な視点から一つの物事を捕らえる事が必要だ。
例えばネットの記事だけに偏った知識は物事を正確にとらえることは困難だと言う。
もちろんゲームも必要だ。
まだ小学生だからゲームの話題は出てくる。
22時になると部屋に戻る。
瞳子にメッセージを送る。
宿題に追われてるそうだ。
「冬吾君はもう終わったの?」
「7月中に終わらせたよ」
「何でそんなに早いの!?あ、お姉さんたちに聞いた?」
「ちゃんと自分でやったよ」
「すごいな~」
瞳子は驚いていた。
もうすぐ夏休みが終わる。
また皆に会える。
きっと日焼けして真っ黒なんだろうな。
2学期が始まるのを楽しみにしていた。
(3)
夏休み最後の日曜日。
俺は美翔と駅前で会っていた。
「3連覇おめでとう」
「ありがとう。とりあえず映画でも見ようか?」
「わかった」
そう言って美翔と駅ビルの映画館に行く。
都会の女子高生が田舎に帰ってきて出会った男子と恋に落ちる話。
恋愛ものだった。
映画が終ると、適当に空いてる店で昼食にする。
俺は肉を、美翔はパスタを注文していた。
この店は洒落ていてなおかつ焼き立てのパンを食べ放題というありがたいお店。
昼食を終えると定番のカラオケに行く。
交互に歌って美翔が歌っている時は歌を聴いてる。
間違ってもスマホを見たりしない。
選曲も歌い終わってからにする。
ただ歌ってるだけじゃない。
2人でおしゃべりしたり、ドリンクを頼んだりしている。
いつしか全く歌わなくなりおしゃべりに夢中になっていた。
俺達は国体に出場するためもう少しの間部活をする。
就職は地元のVリーグチームに内定が決まっている。
だから国体が終わった後に免許を取りに行くつもりだ。
Vリーグのチームからの収入はそんなに多くない。
だが、幸いにも3兄弟という特徴とインターハイ3連覇春高バレー連覇という実績がある。
広告やCMの依頼も来ていて副収入が見込める。
その仲介役をUSEに頼むことにした。
サッカーや野球選手ほどじゃないけどそれなりの収入にはなりそうだ。
引退後もタレントとして生き残る道を作ってくれるという。
将来は心配しなくていい。
もちろんこれからも実績を残さないと駄目だけど。
美翔は中学の頃から言ってたように教師を目指すらしい。
今でもソロライブを開いたりしている。
真面目にプロになってはどうか?と言われたらしい。
それでも彼女は断った。
まだ吹奏楽に触れたことのない子供たちに教える事。
そして真面目に吹奏楽に取り組む生徒に道を作ってやる事を夢にしているそうだ。
「ま、それもそんなに長い期間してられないけどね」
「どうして?」
「どうして?って克人君は私との将来考えてくれないの?」
「え?」
「さすがに妊娠したら専業主婦になるわよ」
むせた。
「最短で大学卒業して結婚でしょ?あ、克人が収入あるなら別に在学中でもいいんだっけ」
「まあ、大学くらい卒業しておけよ。手に職持っていた方が都合もいいだろう」
「は~い」
時間になるとそろそろ出る事にした。
夕食を食べてバス停に行く。
「じゃ、国体優勝したらお祝いしようよ。その頃には私も納車済んで運転も慣れてるだろうから」
「なんか美翔に運転させるのってかっこ悪いよな」
「そんな昔の概念捨てちゃいなよ」
どうせ少しの間だけだしと美翔はいう。
バスが来たので乗り込む。
「またね」
美翔がそう言うとバスのドアが閉まった。
そしてバスが動き出す。
その後国体は見事に優勝した。
美翔の運転でドライブに行く。
その後から自動車学校に通い免許を取った。
ディーラーに行って車を選ぶ。
秋に皆で紅葉狩りに行こうと計画していた。
それまでには納車は間に合うそうだ。
俺の隣に美翔を乗せる。
かっこ悪い真似はできない。
だけど美翔の親にとって大切な娘を乗せるんだって事を忘れちゃいけない。
車が来るのを楽しみにしていた。
(4)
「失礼します!大区工業高等学校建築科3年亀梨光太です。履歴書を持ってまいりました」
科棟の職員室に行くときに必ず言わなければならない事。
夏休みの間は徹底される。
そしてその儀式を終えて認められると入室を許可され担任に履歴書をチェックされる。
夏だから汗をかく。
当然手汗もかく。
その汗で履歴書が汚れないようにタオルをして書く。
例えば名前を書く時、前は何センチ後は何センチ。上下の隙間も指導される。
当然、ボールペンで書く。
一発勝負だ。
失敗したらやり直し。
履歴書がもったいないのでコピーしたのを使って練習して許可が下りたら清書する。
チェックが細かい。
この字はここはハネが必要だとか、真っ直ぐじゃなくて少し曲線気味に書けとか。
住所を書いたりするのは大変だ。
学歴も小学校卒業から書く。
そして持っている資格等を書き込む。
一応真面目に勉強してきたので取れる資格は全て取って来た。
ただ暇をつぶして過ごしてきたわけじゃない。
だけどこの時ばかりは資格の量を恨めしく思った。
あまり字が汚い者はシャーペンで下書きしてボールペンで書くというやり方をする。
注意しないと下書きを消しゴムで消す際にボールペンのインクがかすれてしまう。
当然やり直し。
要領のいい者は夏休み頭でこの作業を終えていたけど、俺と麗華はこの時期まで残ってしまった。
そしてこの日ようやく1枚の履歴書が完成した。
埋まってないのは志望動機のみ。
志望先が公表されていないので当たり前だけど。
それを持って教室に戻ると荷物をまとめて帰る。
俺達の学校生活最後の夏休みは履歴書作成で終わってしまった。
それじゃ、あまりにも酷いからせめてカラオケくらい行くか?と麗華を誘った。
カラオケで何時間か過ごして夕食を食べて帰る。
来週からはいよいよ2学期だ。
2学期が始まれば求人票が掲示される。
就職先が決まってるらしい俺達は関係ない事だけど。
甲子園も終わりインターハイも終わり夏の終わりが来た。
部活生は最後の大会を終わらせた。
国体にでる選手はまだだけど。
SHの中にも何人かいた。
皆どんな夏を過ごしたのだろう?
これからどんな2学期が待っているのだろう?
夏休みは終わるけど暑い日々はまだ続くようだ。
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侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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