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幻を信じる2人
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(1)
「お前生意気なんだよ!」
そんな理不尽な理由で髪を引っ張られたり暴行を受けていた。
毎朝の事だ。
朝礼が始まれば収まる。
そして授業中はもちろん昼休みも渡辺茉里奈達がいるからそんな真似はしない。
自分たちが標的になるのを恐れていたから。
渡辺茉里奈達はこの教室の治安を維持している。
別に正義感でやってるわけじゃない。
いつも、振り上げた拳をどこにぶつけようか探しているだけの話だ。
気に入らない事を見つけたら容赦なく叩きのめすグループが渡辺茉里奈達のグループSHだった。
今私達に暴行を加えているのは第3勢力と呼ばれるグループ。
今地元では二つの大きなグループがある。
一つはさっき言ったSH、そのSHに逆らう事が絶対に出来ないグループFG。
FGは県内全域に勢力を伸ばしていた。
伸ばさざるを得なかった。
理由は市内では活動できないから。
市内はSHが占拠している。
対抗しようものなら拉致被害者が1人増えるだけ。
冗談だろうと思ったらそうでもない。
現にFGのリーダーは投身自殺として新聞記事に載る寸前までいったらしい。
それが本当だと証明するように彼のトレードマーク、黒いリストバンドをした連中はこの学校でも廊下の端を歩いて目立たないように行動している。
外すことは組抜けを意味する。
そうすれば制裁が待っている。
県内最強の勢力に入ったと思ったら県内最悪のグループの標的にされていた。
SHのリーダーとFGのリーダーは協定を結んでいるらしい。
互いの活動に干渉しない。
しかし実際は違う。
SHの気に障る行動をしたらその時点でリーダーを焼却炉に放りこむと宣言したそうだ。
そしてSHのメンバーは日に日に増え続けてしかも誰がそうなのか分からない。
だからSHが確実にいない田舎で活動をする。
第3勢力はどちらにも属さないグループ。
しかし二つが抗争をしていない今では目立てばSHの標的になるだけ。
潰すわけじゃない、生かさず殺さずいたぶられるだけ。
「まずい!茉里奈達が来た!」
見張りがそう告げるとそこで私への暴行は止む。
「密告したらもっとひどい目にあうからな」
リーダー格の女子が言う。
学校の帰りを狙われることはない。
帰りは彼氏の榊山哲之が迎えに来てくれるから。
朝の20分ほどだけを我慢すればいいだけだ。
そしてもうすぐ夏休み。
学校に来なくていい期間が来る。
その日が早く来ないかと楽しみにしていた。
そんな日をずっと待っていたけど楽しみはどんどん遠ざかるばかり。
あと少しだけが何日続くのだろう?
今日が最後だったみたいだ。
「へえ、そんなことしてたんだ?」
いつの間にか待ち伏せしてた茉里奈達が現れた。
茉里奈達は不思議に思っていたらしい。
最近の女子高生にしては私の髪の毛が異常に乱れていたこと。
朝にも関わらず制服が汚れていたこと。
そして楽しい朝なのに浮かない私の表情が気になっていたらしい。
だけど私に聞いたところで本当の事を話すはずがない。
茉里奈達は空白の時間に何かがあるとにらんで早めに来て隠れていたそうだ。
何も言わないグループのリーダー格に茉里奈が違づくと髪を思いっきり引っ張る。
「離してよ!!」
抗議するリーダーを無視して私を見る。
「後何されてたの?」
茉里奈が私に聞く。
だけど明日からの仕返しが怖くて何も言えなかった。
「隠したってバレてるぞ。夏服だ。腕のあざやら言われなくてもわかる」
恐らく背中や胸も一緒なんだろう?
足にもあるに違いない。
「怖がることはねーよ。お前は今日から私達の仲間だ。今後弓恵に手を出したらこいつらが首を吊る羽目になるだけだ」
どういう事?
茉里奈はSHの仲間をを通じて哲之から相談を受けていたらしい。
どうも教室でなにかあるみたいだと。
最初から全部バレていたのか?
「とりあえずはやられた分やり返しておかないとな」
茉里奈はそう言って机に向かってリーダーを投げ飛ばす。
派手な音が鳴る。
リーダーが悲鳴を上げる。
「そのくらいで泣きわめく奴が人を虐めて楽しんでるんじゃねえ!」
茉里奈の暴行は容赦を知らない。
教師が教室に入ってくるまで徹底的に痛めつけられていた。
朝のHRは茉里奈が生徒指導室に連れて行かれて誰もいない状態にあった。
状況は変わらなかった。
他のSHのメンバーがリーダーに色々仕掛ける。
机の中味をぶちまけて、元に戻すとまたぶちまけて。
仲間達は自分たちに標的が変わるのを恐れて助けようとしなかった。
私が受けた暴行を何割か増しでお返ししてた。
学校が終わった後も続く。
放課後教室に呼び出して徹底的にいたぶる。
リーダーは泣いて許しを請う。
だが、茉里奈は許さない。
「同じ様に震えていた弓恵に何をした!?」
中途半端じゃ済まさない。
すると上級生が教室に入ってくる。
「まだやってたんか?」
茉里奈の姉の紗理奈だ。
紗理奈が言うと茉里奈は手を止める。
「話は妹から聞いてる。今度同じ真似したら次は吊るすよ?」
リーダーはただ怯えていた。
後日のそのグループは解散した。
見て見ぬふりをしていたメンバーとの確執が生じたのが原因らしい。
リーダーの威厳も何もあったもんじゃない。
だけど他のグループに混ざってまた同じことを繰り返すのだろう。
私達は校舎を出ると校門で哲之が他のSHのメンバーと待っていた。
「今まで気づいてやれなくてごめん」
気づいていても打つ手が無くて困っていたそうだ。
「哲之のせいじゃないよ」
私が助けを求める勇気がなかっただけ。
その場で私達はSHに入った。
「じゃ、なんか食って帰ろうぜ」
片桐天音が言う。
途中でサンドイッチを食べて帰った。
夕食を食べてお風呂に入って部屋に戻る。
SHの皆はお喋りを続けていた。
小学生から社会人までいるグループ。
話が入り交ざって大変だ。
時間になると眠りについた。
朝になると制服を着て準備をしてバス停に向かう。
皆が待っていた。
空をよぎる一瞬を息をひそめて見つめる。
短い間だったけど永遠の様に感じた。
真実の輝きが誰かに届いた。
今はそんな儚い幻を信じている。
誰も知らない未来。
人はそれを信じて生きる。
悲しみの彼方にある微笑みを。
見えない未来を探す気持ち。
それは奇跡を起こす力。
(2)
「あれ?小豆失恋でもしたんか?」
私はさっぱりした森川小豆の頭を見て言った。
「違うよ茉里奈、ただ暑いから思い切って切っただけ」
まあ、暑いと長い髪は鬱陶しいよな。
でもそんなのゴムで纏めりゃ済む話じゃないか?
現に昨日までは色々アレンジしてまとめてたじゃねーか。
いつもキレイに髪の毛を手入れしている小豆が急に髪を切った。
何かあると直感した。
まだコバエみたいな連中が生存しているんだな。
「ふーん、でも確かにショートも似合ってるぜ」
「ありがとう……」
あんまり嬉しくなさそうな顔をみて確信した。
だけどそれは多分本人の口からは絶対に言わないだろう。
休み時間が終ると午後の授業がある。
そして終礼を済ませると小豆の所にいった。
「偶には一緒に帰らない?」
「ごめん、用事があって……」
「そうか。じゃあ、また今度な!ケーキでも食べようぜ」
そう言って教室を出る。
他のSHのメンバーも黙って教室を出た。
昇降口まで歩くと時計を見る。
皆で申し合わせたかのように頷くと教室に戻る。
「お前渡辺に余計な事言ってないだろうな!?」
そんな声が聞こえていた。
私一人で入口に近づいて中の様子をうかがう。
小豆1人を数人の女子が囲んでいた。
「何も言ってない。髪を切ったことについて聞かれただけ」
「小豆はいいよね。髪を切っても切らなくても不細工には変わりないんだから」
そう言って連中は笑っている。
「まあ、短い方が似合ってるんじゃない?ついでだからスカートも切っちゃおうか?」
「そ、それは母さんに怒られる……」
昨日髪をグループの連中に切られて誤魔化す為に美容室行って制服を買い換える小遣いなんてない。
そう小豆は訴える。
「お金が欲しいのか?じゃあ、いい方法教えてやるよ」
グループの一人が言った。
「パンツ脱げよ。心配するな、新しいの買ってやるから。買ってもお釣りが出るくらいの価格で売れるぜ」
「そ、それはやばいよ」
「別にお前に直接売れって言ってるわけじゃねーよ。交渉は私がしてやるからお前は写真とパンツを用意するだけでいい」
「今更恥ずかしがる事ねーだろ!どうせ彼氏の前では裸になるんだろ?ブスの癖に彼氏がいるってことは体売るくらいしてんだろ!?」
滅茶苦茶な言いがかりだ。
「早く脱げよ」
リーダー格の女子が言うといっせいに「脱げ」と連呼する。
半べそかいて脱ごうとしている小豆。
そろそろ頃合いか。
「そんなに高額で売れるならなんで自分の売らないんだ?」
私が教室に乱入した。
「な、なんで渡辺がここにいるんだよ!?」
「私がどこに居ようとお前に一々許可がいるのか?」
小豆も驚いていたようだ。
「お前には関係ない事だから引っ込んでろ!」
「私に指図するなんてお前何様のつもり?」
「渡辺こそ私達に指図するなんて何様のつもりだ?」
「俺様。何か文句あるなら聞いてやるぞ?」
そう言うとSHのメンバーも教室に入って来た。
「話を続けようぜ。お前のパンツよこせよ。私が売ってやるから」
「顔写真もいるんでしょ?今ここで自撮りすれば解決だよね?」
美衣が言った。
「こんなブスの顔写真で売れるの?」
蒼衣が言うと皆で笑う。
「大丈夫だよ。最近のアプリなら少し盛るくらいわけないから」
美衣が言う。
グループが教室を出ようとするのを私が邪魔する。
「どけよ」
「用件が済んだらどいてやるよ」
さっさと脱げ。
グループの女子は震えあがっていた。
私は本気で脱がせるつもりだった。
本気で売るのか?
掲示板にでも貼り付けて晒しものにしてやるよ。
タイミングの悪い所で見回りの教師がやってきた。
「部活やってるわけでもないんだったらとっとと帰れ」
そう言われるとリーダー格の女子の顎を掴み上げる。
「今後二度と小豆に近づくな。もし私の友達に何かしてみやがれ。その制服八つ裂きにしてやる!」
そう言って解放すると逃げるように帰っていった。
そんな奴らを無視して小豆に声をかける。
小豆は堪えていた涙を流す。
そんな小豆を慰めてやる。
小豆が泣き止むのを待って小豆に言う。
「連絡先交換しない?」
SHにまた新しい仲間が加わった。
(3)
バタン!
派手にこけた。
「胡桃って本当にドジだな!」
グループの女子から言われる。
多分体当たりしてきたのも彼女だろう。
もう慣れてる。
いつもの事だ。
私の名前は伊東胡桃。
桜丘高校1年生。
調理科に通ってる。
運悪く入学式の日から目をつけられていた。
私の高校生活は始まった時から暗く閉ざされていた。
カバンや教科書をゴミ箱に捨てられる日々が続いた。
中学の時も似たようなものだったから悲しいという感情は麻痺していた。
淡々とゴミ箱に捨てられたものを拾い席に戻る。
高校に進学すると虐めもレベルが上がるらしい。
私の反応に不満を覚えた女子は私がトイレに入ってる時に水をかぶせる。
怒る気力もなかった。
また3年間耐えるだけでいい。
私にも心の支えがいた。
こんな私でも好きになってくれる大事な人がいた。
心配かけるわけにはいかない。
じっと耐えてその分彼に甘えてた。
だけど彼は大学に進学するつもりらしい。
放課後は塾へ行く。
休日も勉強詰めだ。
彼の邪魔はしたくない。
それでも彼は私との時間を作ってくれる。
そんな優しさに偶に涙が出る。
今も泣いている。
両足の激痛に耐えられなかった。
皆は無様な私を見て笑う。
「伊東何してる?早く立ちなさい」
体育教師が言う。
教師よりも先に渡辺茉里奈が気が付いたらしい。
「お前、ひょっとして立てないのか?」
私は頷くのが精いっぱいだった。
「多分下手に動かさない方がいいだろうな。美衣!保健室行って先生呼んでくれ」
「分かった」
茉里奈に言われて相楽美衣が保健室に向かう。
事の重大さを理解した教師が駆け付ける。
「伊東、具体的にどこが痛いかわかるか?」
「わかりません」
ただ両足に力が入らないという事だけ。
クラスの皆がざわついている。
保健室の先生が来た。
先生が私の足に触れる。
さらに痛みが増す。
「伊東さん、ちょっと辛抱しててね。今すぐ救急車呼んでくるから」
その日の体育は私のへまで台無しになった。
それを喜ぶものもいた。
病院に運ばれると処置を受けた。
両足骨折。
バスケットの授業で普通はあり得ない事態だ。
幸か不幸か全治2ヶ月。
ギリギリ夏休みが終わる頃には治るだろうと告げられた。
翌日から私は車いすで登校した。
学校までは母さんが送ってくれる。
教室は1階だったので助かった。
昇降口前の階段は茉里奈達が加勢してくれた。
そして朝礼が始まる前に私は校長室に呼び出された。
普通にバスケットの授業をして両足骨折なんてあり得ない。
何があったのか正直に言いなさいと先生が言う。
「単にこけただけです」
運動神経が鈍いから無様なこけ方をした。
ただそれだけなんだと思い込むことにした。
だけど天はそれを許さなかった。
「いい加減大人しく歩きやがれ!」
そう言って校長室に怒鳴り込んだのは茉里奈達だった。
校長の机に私にぶつかって来た女子を投げつける。
「そいつがわざと胡桃にぶつかるのを見た奴がいるんだよ」
「私で~す」
美衣が偶然見てたそうだ。
一部始終を事細かに説明する美衣。
そして校長に判断を委ねる。
退学にしたらきっと私を逆恨みする。
そう判断したらしい校長は無期限停学という処分を下そうとした。
それに待ったをかけたのは茉里奈だった。
「わざとぶつかったけど骨折したのは事故だ。見逃してやってくれないか?」
「しかし……」
「お願いします!」
茉里奈が頭を下げてるなんて初めて見た。
校長は茉里奈に説得されて今回の件は不問にした。
しかしそれが茉里奈の罠だとは誰も気づかなかった。
「茉里奈、助かったよ。ありがとう、危うくこのトロイ女のせいで人生ふいにするところだったわ」
教室に戻るとぶつかって来た女子は茉里奈に礼を言う。
だけど茉里奈は予想外の事を言った。
「お前何か勘違いしてね?」
「え?」
私にも意味が分からなかった。
理由もなく頭を下げてまで助けるわけがないと思っていたけど。
茉里奈はその女子の席に行くと中味を漁り出す。
「ちょっと何してるの?」
そう言って茉里奈を止めようとする女子を律姫と美衣が止める。
「もうめんどくさいから机ごといっとくか」
茉里奈はそう言って机を窓から放り投げる。
「ふざけるな!」
女子は怒鳴りつけるが茉里奈は怯まない。
それどころか女子の前に立って平手打ちをする。
「お前のせいで気分最悪。どうしてくれんの?」
「自分でやっておいてその言い分おかしくない?」
「お前まだ理解できてないの?」
茉里奈はそう言って説明した。
ただ家に謹慎してたところで休学と変わらない。
だったら、いっそのこと処分を無しにして私刑してやろう。
そういう判断を茉里奈達はしたらしい。
反論しようとする女子を何度も平手打ちする。
やがて女子は泣き出した。
「泣けば済むと思ってないだろうな?お前の涙程度じゃ胡桃の今までの苦しみは洗えねーんだよ!」
茉里奈達のグループSHは桜丘高校でも大規模なグループ。
私が受けた仕打ちを全部把握したらしい。
「人にこんなダサい真似させやがって。お前の学校生活をバラ色に変えてやるよ!」
それから茉里奈達のイビリが始まった。
助けを請うても誰も茉里奈達に逆らえない。
朝から放課後まで続いた。
そして夏休み近くには女子は学校を休んだ。
だけど休む程度で許すほど茉里奈達は甘くなかった。
家を突き止めて迎えに行って引きずって学校に連れてくる。
女子は親に訴えた。
そして親は校長に直訴する。
だけど校長は茉里奈達に手が出せなかった。
茉里奈だけじゃない。SHのメンバーは処分されない。
校長ですら手を出せない存在がSH。
終業式の日に女子は退学届を提出していた。
理由は他県に引っ越すことを決めたそうだ。
苛めが原因じゃない。
茉里奈達SHの怒りの矛先は親にも向かったようだ。
急な転勤を命じられたらしい。
形の上では栄転だそうだが。
一方私と彼氏はSHに招待された。
終業式の日は午前中で終わる。
茉里奈の提案でSAPで遊ぶことになった。
カラオケで歌い続ける。
人の命は短いけど永遠を願っている。
真実の輝きが今心に届く。
だから儚い幻でも私達は信じている。
誰も知らない未来を人は信じて生きる。
見えない未来を探す気持ちは奇跡を起こす力になるだろう。
「お前生意気なんだよ!」
そんな理不尽な理由で髪を引っ張られたり暴行を受けていた。
毎朝の事だ。
朝礼が始まれば収まる。
そして授業中はもちろん昼休みも渡辺茉里奈達がいるからそんな真似はしない。
自分たちが標的になるのを恐れていたから。
渡辺茉里奈達はこの教室の治安を維持している。
別に正義感でやってるわけじゃない。
いつも、振り上げた拳をどこにぶつけようか探しているだけの話だ。
気に入らない事を見つけたら容赦なく叩きのめすグループが渡辺茉里奈達のグループSHだった。
今私達に暴行を加えているのは第3勢力と呼ばれるグループ。
今地元では二つの大きなグループがある。
一つはさっき言ったSH、そのSHに逆らう事が絶対に出来ないグループFG。
FGは県内全域に勢力を伸ばしていた。
伸ばさざるを得なかった。
理由は市内では活動できないから。
市内はSHが占拠している。
対抗しようものなら拉致被害者が1人増えるだけ。
冗談だろうと思ったらそうでもない。
現にFGのリーダーは投身自殺として新聞記事に載る寸前までいったらしい。
それが本当だと証明するように彼のトレードマーク、黒いリストバンドをした連中はこの学校でも廊下の端を歩いて目立たないように行動している。
外すことは組抜けを意味する。
そうすれば制裁が待っている。
県内最強の勢力に入ったと思ったら県内最悪のグループの標的にされていた。
SHのリーダーとFGのリーダーは協定を結んでいるらしい。
互いの活動に干渉しない。
しかし実際は違う。
SHの気に障る行動をしたらその時点でリーダーを焼却炉に放りこむと宣言したそうだ。
そしてSHのメンバーは日に日に増え続けてしかも誰がそうなのか分からない。
だからSHが確実にいない田舎で活動をする。
第3勢力はどちらにも属さないグループ。
しかし二つが抗争をしていない今では目立てばSHの標的になるだけ。
潰すわけじゃない、生かさず殺さずいたぶられるだけ。
「まずい!茉里奈達が来た!」
見張りがそう告げるとそこで私への暴行は止む。
「密告したらもっとひどい目にあうからな」
リーダー格の女子が言う。
学校の帰りを狙われることはない。
帰りは彼氏の榊山哲之が迎えに来てくれるから。
朝の20分ほどだけを我慢すればいいだけだ。
そしてもうすぐ夏休み。
学校に来なくていい期間が来る。
その日が早く来ないかと楽しみにしていた。
そんな日をずっと待っていたけど楽しみはどんどん遠ざかるばかり。
あと少しだけが何日続くのだろう?
今日が最後だったみたいだ。
「へえ、そんなことしてたんだ?」
いつの間にか待ち伏せしてた茉里奈達が現れた。
茉里奈達は不思議に思っていたらしい。
最近の女子高生にしては私の髪の毛が異常に乱れていたこと。
朝にも関わらず制服が汚れていたこと。
そして楽しい朝なのに浮かない私の表情が気になっていたらしい。
だけど私に聞いたところで本当の事を話すはずがない。
茉里奈達は空白の時間に何かがあるとにらんで早めに来て隠れていたそうだ。
何も言わないグループのリーダー格に茉里奈が違づくと髪を思いっきり引っ張る。
「離してよ!!」
抗議するリーダーを無視して私を見る。
「後何されてたの?」
茉里奈が私に聞く。
だけど明日からの仕返しが怖くて何も言えなかった。
「隠したってバレてるぞ。夏服だ。腕のあざやら言われなくてもわかる」
恐らく背中や胸も一緒なんだろう?
足にもあるに違いない。
「怖がることはねーよ。お前は今日から私達の仲間だ。今後弓恵に手を出したらこいつらが首を吊る羽目になるだけだ」
どういう事?
茉里奈はSHの仲間をを通じて哲之から相談を受けていたらしい。
どうも教室でなにかあるみたいだと。
最初から全部バレていたのか?
「とりあえずはやられた分やり返しておかないとな」
茉里奈はそう言って机に向かってリーダーを投げ飛ばす。
派手な音が鳴る。
リーダーが悲鳴を上げる。
「そのくらいで泣きわめく奴が人を虐めて楽しんでるんじゃねえ!」
茉里奈の暴行は容赦を知らない。
教師が教室に入ってくるまで徹底的に痛めつけられていた。
朝のHRは茉里奈が生徒指導室に連れて行かれて誰もいない状態にあった。
状況は変わらなかった。
他のSHのメンバーがリーダーに色々仕掛ける。
机の中味をぶちまけて、元に戻すとまたぶちまけて。
仲間達は自分たちに標的が変わるのを恐れて助けようとしなかった。
私が受けた暴行を何割か増しでお返ししてた。
学校が終わった後も続く。
放課後教室に呼び出して徹底的にいたぶる。
リーダーは泣いて許しを請う。
だが、茉里奈は許さない。
「同じ様に震えていた弓恵に何をした!?」
中途半端じゃ済まさない。
すると上級生が教室に入ってくる。
「まだやってたんか?」
茉里奈の姉の紗理奈だ。
紗理奈が言うと茉里奈は手を止める。
「話は妹から聞いてる。今度同じ真似したら次は吊るすよ?」
リーダーはただ怯えていた。
後日のそのグループは解散した。
見て見ぬふりをしていたメンバーとの確執が生じたのが原因らしい。
リーダーの威厳も何もあったもんじゃない。
だけど他のグループに混ざってまた同じことを繰り返すのだろう。
私達は校舎を出ると校門で哲之が他のSHのメンバーと待っていた。
「今まで気づいてやれなくてごめん」
気づいていても打つ手が無くて困っていたそうだ。
「哲之のせいじゃないよ」
私が助けを求める勇気がなかっただけ。
その場で私達はSHに入った。
「じゃ、なんか食って帰ろうぜ」
片桐天音が言う。
途中でサンドイッチを食べて帰った。
夕食を食べてお風呂に入って部屋に戻る。
SHの皆はお喋りを続けていた。
小学生から社会人までいるグループ。
話が入り交ざって大変だ。
時間になると眠りについた。
朝になると制服を着て準備をしてバス停に向かう。
皆が待っていた。
空をよぎる一瞬を息をひそめて見つめる。
短い間だったけど永遠の様に感じた。
真実の輝きが誰かに届いた。
今はそんな儚い幻を信じている。
誰も知らない未来。
人はそれを信じて生きる。
悲しみの彼方にある微笑みを。
見えない未来を探す気持ち。
それは奇跡を起こす力。
(2)
「あれ?小豆失恋でもしたんか?」
私はさっぱりした森川小豆の頭を見て言った。
「違うよ茉里奈、ただ暑いから思い切って切っただけ」
まあ、暑いと長い髪は鬱陶しいよな。
でもそんなのゴムで纏めりゃ済む話じゃないか?
現に昨日までは色々アレンジしてまとめてたじゃねーか。
いつもキレイに髪の毛を手入れしている小豆が急に髪を切った。
何かあると直感した。
まだコバエみたいな連中が生存しているんだな。
「ふーん、でも確かにショートも似合ってるぜ」
「ありがとう……」
あんまり嬉しくなさそうな顔をみて確信した。
だけどそれは多分本人の口からは絶対に言わないだろう。
休み時間が終ると午後の授業がある。
そして終礼を済ませると小豆の所にいった。
「偶には一緒に帰らない?」
「ごめん、用事があって……」
「そうか。じゃあ、また今度な!ケーキでも食べようぜ」
そう言って教室を出る。
他のSHのメンバーも黙って教室を出た。
昇降口まで歩くと時計を見る。
皆で申し合わせたかのように頷くと教室に戻る。
「お前渡辺に余計な事言ってないだろうな!?」
そんな声が聞こえていた。
私一人で入口に近づいて中の様子をうかがう。
小豆1人を数人の女子が囲んでいた。
「何も言ってない。髪を切ったことについて聞かれただけ」
「小豆はいいよね。髪を切っても切らなくても不細工には変わりないんだから」
そう言って連中は笑っている。
「まあ、短い方が似合ってるんじゃない?ついでだからスカートも切っちゃおうか?」
「そ、それは母さんに怒られる……」
昨日髪をグループの連中に切られて誤魔化す為に美容室行って制服を買い換える小遣いなんてない。
そう小豆は訴える。
「お金が欲しいのか?じゃあ、いい方法教えてやるよ」
グループの一人が言った。
「パンツ脱げよ。心配するな、新しいの買ってやるから。買ってもお釣りが出るくらいの価格で売れるぜ」
「そ、それはやばいよ」
「別にお前に直接売れって言ってるわけじゃねーよ。交渉は私がしてやるからお前は写真とパンツを用意するだけでいい」
「今更恥ずかしがる事ねーだろ!どうせ彼氏の前では裸になるんだろ?ブスの癖に彼氏がいるってことは体売るくらいしてんだろ!?」
滅茶苦茶な言いがかりだ。
「早く脱げよ」
リーダー格の女子が言うといっせいに「脱げ」と連呼する。
半べそかいて脱ごうとしている小豆。
そろそろ頃合いか。
「そんなに高額で売れるならなんで自分の売らないんだ?」
私が教室に乱入した。
「な、なんで渡辺がここにいるんだよ!?」
「私がどこに居ようとお前に一々許可がいるのか?」
小豆も驚いていたようだ。
「お前には関係ない事だから引っ込んでろ!」
「私に指図するなんてお前何様のつもり?」
「渡辺こそ私達に指図するなんて何様のつもりだ?」
「俺様。何か文句あるなら聞いてやるぞ?」
そう言うとSHのメンバーも教室に入って来た。
「話を続けようぜ。お前のパンツよこせよ。私が売ってやるから」
「顔写真もいるんでしょ?今ここで自撮りすれば解決だよね?」
美衣が言った。
「こんなブスの顔写真で売れるの?」
蒼衣が言うと皆で笑う。
「大丈夫だよ。最近のアプリなら少し盛るくらいわけないから」
美衣が言う。
グループが教室を出ようとするのを私が邪魔する。
「どけよ」
「用件が済んだらどいてやるよ」
さっさと脱げ。
グループの女子は震えあがっていた。
私は本気で脱がせるつもりだった。
本気で売るのか?
掲示板にでも貼り付けて晒しものにしてやるよ。
タイミングの悪い所で見回りの教師がやってきた。
「部活やってるわけでもないんだったらとっとと帰れ」
そう言われるとリーダー格の女子の顎を掴み上げる。
「今後二度と小豆に近づくな。もし私の友達に何かしてみやがれ。その制服八つ裂きにしてやる!」
そう言って解放すると逃げるように帰っていった。
そんな奴らを無視して小豆に声をかける。
小豆は堪えていた涙を流す。
そんな小豆を慰めてやる。
小豆が泣き止むのを待って小豆に言う。
「連絡先交換しない?」
SHにまた新しい仲間が加わった。
(3)
バタン!
派手にこけた。
「胡桃って本当にドジだな!」
グループの女子から言われる。
多分体当たりしてきたのも彼女だろう。
もう慣れてる。
いつもの事だ。
私の名前は伊東胡桃。
桜丘高校1年生。
調理科に通ってる。
運悪く入学式の日から目をつけられていた。
私の高校生活は始まった時から暗く閉ざされていた。
カバンや教科書をゴミ箱に捨てられる日々が続いた。
中学の時も似たようなものだったから悲しいという感情は麻痺していた。
淡々とゴミ箱に捨てられたものを拾い席に戻る。
高校に進学すると虐めもレベルが上がるらしい。
私の反応に不満を覚えた女子は私がトイレに入ってる時に水をかぶせる。
怒る気力もなかった。
また3年間耐えるだけでいい。
私にも心の支えがいた。
こんな私でも好きになってくれる大事な人がいた。
心配かけるわけにはいかない。
じっと耐えてその分彼に甘えてた。
だけど彼は大学に進学するつもりらしい。
放課後は塾へ行く。
休日も勉強詰めだ。
彼の邪魔はしたくない。
それでも彼は私との時間を作ってくれる。
そんな優しさに偶に涙が出る。
今も泣いている。
両足の激痛に耐えられなかった。
皆は無様な私を見て笑う。
「伊東何してる?早く立ちなさい」
体育教師が言う。
教師よりも先に渡辺茉里奈が気が付いたらしい。
「お前、ひょっとして立てないのか?」
私は頷くのが精いっぱいだった。
「多分下手に動かさない方がいいだろうな。美衣!保健室行って先生呼んでくれ」
「分かった」
茉里奈に言われて相楽美衣が保健室に向かう。
事の重大さを理解した教師が駆け付ける。
「伊東、具体的にどこが痛いかわかるか?」
「わかりません」
ただ両足に力が入らないという事だけ。
クラスの皆がざわついている。
保健室の先生が来た。
先生が私の足に触れる。
さらに痛みが増す。
「伊東さん、ちょっと辛抱しててね。今すぐ救急車呼んでくるから」
その日の体育は私のへまで台無しになった。
それを喜ぶものもいた。
病院に運ばれると処置を受けた。
両足骨折。
バスケットの授業で普通はあり得ない事態だ。
幸か不幸か全治2ヶ月。
ギリギリ夏休みが終わる頃には治るだろうと告げられた。
翌日から私は車いすで登校した。
学校までは母さんが送ってくれる。
教室は1階だったので助かった。
昇降口前の階段は茉里奈達が加勢してくれた。
そして朝礼が始まる前に私は校長室に呼び出された。
普通にバスケットの授業をして両足骨折なんてあり得ない。
何があったのか正直に言いなさいと先生が言う。
「単にこけただけです」
運動神経が鈍いから無様なこけ方をした。
ただそれだけなんだと思い込むことにした。
だけど天はそれを許さなかった。
「いい加減大人しく歩きやがれ!」
そう言って校長室に怒鳴り込んだのは茉里奈達だった。
校長の机に私にぶつかって来た女子を投げつける。
「そいつがわざと胡桃にぶつかるのを見た奴がいるんだよ」
「私で~す」
美衣が偶然見てたそうだ。
一部始終を事細かに説明する美衣。
そして校長に判断を委ねる。
退学にしたらきっと私を逆恨みする。
そう判断したらしい校長は無期限停学という処分を下そうとした。
それに待ったをかけたのは茉里奈だった。
「わざとぶつかったけど骨折したのは事故だ。見逃してやってくれないか?」
「しかし……」
「お願いします!」
茉里奈が頭を下げてるなんて初めて見た。
校長は茉里奈に説得されて今回の件は不問にした。
しかしそれが茉里奈の罠だとは誰も気づかなかった。
「茉里奈、助かったよ。ありがとう、危うくこのトロイ女のせいで人生ふいにするところだったわ」
教室に戻るとぶつかって来た女子は茉里奈に礼を言う。
だけど茉里奈は予想外の事を言った。
「お前何か勘違いしてね?」
「え?」
私にも意味が分からなかった。
理由もなく頭を下げてまで助けるわけがないと思っていたけど。
茉里奈はその女子の席に行くと中味を漁り出す。
「ちょっと何してるの?」
そう言って茉里奈を止めようとする女子を律姫と美衣が止める。
「もうめんどくさいから机ごといっとくか」
茉里奈はそう言って机を窓から放り投げる。
「ふざけるな!」
女子は怒鳴りつけるが茉里奈は怯まない。
それどころか女子の前に立って平手打ちをする。
「お前のせいで気分最悪。どうしてくれんの?」
「自分でやっておいてその言い分おかしくない?」
「お前まだ理解できてないの?」
茉里奈はそう言って説明した。
ただ家に謹慎してたところで休学と変わらない。
だったら、いっそのこと処分を無しにして私刑してやろう。
そういう判断を茉里奈達はしたらしい。
反論しようとする女子を何度も平手打ちする。
やがて女子は泣き出した。
「泣けば済むと思ってないだろうな?お前の涙程度じゃ胡桃の今までの苦しみは洗えねーんだよ!」
茉里奈達のグループSHは桜丘高校でも大規模なグループ。
私が受けた仕打ちを全部把握したらしい。
「人にこんなダサい真似させやがって。お前の学校生活をバラ色に変えてやるよ!」
それから茉里奈達のイビリが始まった。
助けを請うても誰も茉里奈達に逆らえない。
朝から放課後まで続いた。
そして夏休み近くには女子は学校を休んだ。
だけど休む程度で許すほど茉里奈達は甘くなかった。
家を突き止めて迎えに行って引きずって学校に連れてくる。
女子は親に訴えた。
そして親は校長に直訴する。
だけど校長は茉里奈達に手が出せなかった。
茉里奈だけじゃない。SHのメンバーは処分されない。
校長ですら手を出せない存在がSH。
終業式の日に女子は退学届を提出していた。
理由は他県に引っ越すことを決めたそうだ。
苛めが原因じゃない。
茉里奈達SHの怒りの矛先は親にも向かったようだ。
急な転勤を命じられたらしい。
形の上では栄転だそうだが。
一方私と彼氏はSHに招待された。
終業式の日は午前中で終わる。
茉里奈の提案でSAPで遊ぶことになった。
カラオケで歌い続ける。
人の命は短いけど永遠を願っている。
真実の輝きが今心に届く。
だから儚い幻でも私達は信じている。
誰も知らない未来を人は信じて生きる。
見えない未来を探す気持ちは奇跡を起こす力になるだろう。
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