145 / 535
言葉より確かな歌で
しおりを挟む
(1)
今年は岡城址に決めた。
SHの紅葉狩り。
僕と翼は毎年夢大吊橋でもいいんだけど皆は色々見て回りたいらしい。
いつものコンビニに集合すると列を作って竹田に向かう。
竹田の道は狭くそして駐車場も多くない。
幸い岡城址には駐車場がある。
城址というだけあって城は無い。
地元で城が残っているのは杵築城と臼杵城くらいか。
岡城址と言えば荒城の月。
スイッチを押すと荒城の月が流れる装置がある。
竹田まではそんなに時間がかからない。
そして何時間も紅葉を楽しむ場所じゃない。
この後どうするか皆と相談する。
特に揉めたのが昼食の場所。
「竹田まで来てラーメン食べるわけ!?」
「それを言ったらピザだって一緒だろ!?」
「豆腐料理なんてお腹にたまらないよ」
皆それぞれの主張を展開する。
しかし結局女性陣の意見を尊重するのは大人も子供も変わらない。
ピザ屋に決まった。
メニューを見るとまさに料理屋さん。
あまりジャンルにこだわらない料理が沢山あった
他のカップルはピザをシェアして食っていたけど僕と翼は違う。
ピザを一枚ずつ頼んで半分ずつしてさらに焼き肉やらピラフやらを頼んでいた。
最後にノンアルコールワインソフトを食べる。
ジュースを飲みながらこの後どうするか相談していた。
朝地から山を越えて地元に戻りSAPで遊んで帰るかってことになった。
僕達の世代には走り屋のような車を運転する男性はいない。
どんなにいい車に乗っても善明の車には勝てないのだからそうなる。
その善明も凶悪なスペックを誇るBG社の車ではなく、P社の車で来ていた。
外車には変わらないんだけど。
SAPに着くとすぐにカラオケに入る。
僕と翼が食べ物を注文するついでに皆の飲み物を注文していた。
念の為に言っておくけどここに来る前に美希がパーティルームを予約している。
パーティプランだから当然料理は最初からある。
しかしポテトやから揚げだけでは満足しない。
ラーメンやカツ丼があるのに食わないという手はない。
食べに来たのか歌いに来たのか分からない状況で僕達は楽しんだ。
カラオケが終るとファミレスで夕食を食べる。
「イブはともかくクリスマスはどうする?」
光太が言う。
「忘年会ついでに集まろうか?」
「場所は任せて。うちのホテル予約しておくから」
学と美希が言うとそれで行こうとみんな賛成した。
夕食が済むとみんな解散する。
家に帰ると風呂に入って部屋で寛ぐ。
美希はノートPCで家計簿をつけている。
お金の管理は美希に任せている。
旅行なんかも行ったのにちゃんとやり繰り出来てる。
まあ、美希の仕送りで殆どやりくりで来てるみたいで、僕の仕送りは全く手を付けてないみたいだけど。
「母さんから言われてるから」
僕という宝物と一緒にいる時間を手に入れているのだから惜しむことなく使えと言われたらしい。
正月くらいには母さんに顔を見せてやれと、父さんからメッセージを受けていた。
お年玉たかりに行くみたいで気が引けたけど、父さんが来いと言うのだから行った方がいいだろう。
年越しはどうするのかまだ考えてなかった。
「イブの予定も決めてないのにまだ早いよ」
美希がそう言って笑う。
「やっぱり美希はイブくらいはお泊りしたい?」
「うーん、初めての同棲のイブだから夕食食べに行くだけでいいよ」
じゃあ、美味しいお店探しておかないとね。
「後は家でのんびり過ごせばいいんじゃないのかな?」
「本当にのんびり過ごしていいの?」
「空ってそんな意地悪言うようになったの?」
美希はむくれしまった。
そんな美希の頭を撫でてやる。
「わかってるよ」
「知ってる」
もう衣替えも終わり11月に入ろうとしていた。
(2)
今年も九重に来ていた。
子供たちは夢バーガーを楽しみにしている。
一応紅葉を見に来ているんだけどね。
愛莉に怒られながらも天音達のの暴飲暴食は止まらない。
皆は吊橋を渡っている。
何度来ても飽きない風景。
四季それぞれの風景が楽しめるらしい。
つり橋を渡って天音達は夢バーガーを堪能するとランチにいつものレストランに行く。
今年は子供達もずいぶん減った。
空と美希、翼と善明、学に水奈、勝利と輝夜もそれぞれ車を手にして自分たちで観光に行っている。
来年はもっと減るだろう。
子供たちが巣立つ時期が来たんだ。
水奈も週末は学が迎えに来て遊びに行ってる。
誠はそれを寂しそうに語っていた。
「今からそんなことでどうする?水奈ももうじきしたら家を出るんだぞ」
「別に家を出なくても家から通えばいいじゃないか!」
「水奈は今まで我慢してきたんだ。少しは水奈の事も考えてやれ」
「娘なんて持つもんじゃないな……」
「その言葉絶対に水奈の前で言うなよ」
「冬夜はわかってくれるよな?この男親の寂しさってもんが」
「ごめん、分からない」
僕ははっきりと言った。
「翼と空はもう家を出て行った。天音も来年には家を出る。でもその前に皆将来を預けるパートナーを見つけている。その時点でそういう気持ちは過ぎたよ」
もう子供は子供じゃなくなっているんだ。
親離れする時期が来ただけ。
僕達に出来る事はそれを悲しむことじゃなくて温かく見守ってやること。
時には厳しく当たらなきゃいけない。
「片桐君の言う通りかもしれないですね、あの子もいい相手を見つけられてよかったです」
石原君が言う。
「あら望?まだ美希の花嫁姿見てないでしょ。お願いだから泣くなんてみっともない真似やめてよね」
「それは分からないよ恵美。恵美の父さんだって泣いてたじゃないか」
「片桐君や、ちゃんと善明には責任もたせるから安心しておくれ」
「そうよ、浮気なんてしようものなら私がただじゃおかないから」
あの2人の肩には地元経済がかかっているんだろうな。
大変な大学生だ。
社会人になったらもっと大変なんだろうな。
善明は新卒で社長らしいから。
「大地!分かってるでしょうね!あなたにも同じ事が言えるのよ!天音ちゃんを泣かせるような真似したら絶対に許しませんからね!」
恵美さんが大地に言い聞かせてる。
大地は少し困ってる。
そんな事したらまず天音が怒り狂うだろうな。
「とはいえまだ下に子供がいる。僕達の苦労はまだ続くわけだよ」
教えてくれ、俺はあと何回娘を見送ればいい?と酒井君が言っている。
「そんな事言いだしたらうちは茉里奈が将来海外に移住したいと言い出したぞ」
渡辺君はそれほど寂しそうにしていない。
どうしてだろう?
「俺は美嘉を慰めてやる事で手一杯だからな」
2人とも店を継ぐと思っていたらフランスに移住したいと言い出した。
それはショックだったんだろう。
でも本場で道を究めるという娘の意思を尊重したらしい。
言葉が通じない世界に飛び出すわけだけど交際相手のヘフナーが英語とフランス語を教えているんだそうだ。
教科書を読むよりも役に立つ外国語が身につくだろう。
昼食を食べると地元へ戻る。
地元に着くとファミレスで夕食を食べて解散する。
そして家に帰ると皆が風呂に入って部屋に戻る。
僕達も時間になったら寝室に戻る。
「冬夜さん一つだけお聞きしてもいいですか?」
愛莉が何か聞きたい事があるようだ。
「なんだい?」
「本当に娘が嫁いでも寂しくないですか?」
「全くと言ったら嘘になるかな。でも愛莉のお父さんが言ってたことが分かる気がするんだ」
ここまで立派に育てたんだからあとは胸をはって相手に委ねよう。
幸い相手の事はよく分かっている。
「……一番寂しかったのは娘が大人になったんだなと実感した時かな」
「冬夜さんは私が寂しい時慰めてくれると仰ってくださいました。私も同じことを冬夜さんにしてあげます」
「ありがとう」
嫁入りか。
もうそんな時期が来てるんだな。
あっという間だった。
ゆっくりでも時は確実に刻まれていくんだ。
そんな事を実感していた。
(3)
「わあ、かっこいい車だね」
若い女性二人が俺の車をべた褒めしてた。
そこそこ綺麗だ。
今日はこの二人でいっか。
「俺の車気に入ってらもらえた?」
俺はその2人に声をかけていた。
女性二人はこちらを見る。
「あなたの車なんですか?」
「まあね、良かったら乗り心地も確かめてみない?」
「え、乗せてくれるんですか?」
「君達みたいな綺麗なお嬢さんなら大歓迎だよちょっと付近のドライブしないかい?」
「でも、この辺夜物騒だし……」
丁度日が暮れる頃だった。
この辺は時代錯誤も甚だしい暴走族が走り回ってる町。
「大丈夫、こうみえてもこの辺じゃ顔が聞く方でね。ちんけな暴走族くらいどうとでもなるよ」
「や、やっぱりやめときます。知らない人の車乗るのもなんか怖いしね」
「い、行こっか」
そう言って2人は逃げるように立ち去っていた。
もったいぶりやがって。
あとで二人も試乗させてもらおうと思ったのに。
その直後2人が立ち去った理由が分かった。
俺の車の周りを族車が取り囲んでいる。
「どうも、そこらへんのちんけな族で~す」
「こ、こんにちは」
震えを抑えて車に乗ってその場を去る。
しかし族は追いかけて来た。
振り切ろうとアクセルを踏む。
しかしついてくる。
そして右を走っていたバイクは前を指差す。
前を見ると電柱が立っている。
だめだ、避けきれない。
車は電柱に追突する。
割れたフロントガラスから俺を引きずり出す。
「た、助けて」
もちろんそんな俺の細やかな願いを聞いてくれるはずもない。
「お前みたいな金持ちのお坊ちゃんがムカつくんだよ!親の力でしか何もできないくせによ!」
君達だって親に頼って生きてるんじゃないのか?
そう思われながら俺は袋叩きに合っていた。
車が派手に砕けている音が聞こえる。
車のボンネットに乗っかかり鉄パイプで屋根を叩いてる男がいた。
「スーパーカーがスクラップカーだぜ!!」
何がおかしいのか分からないけどそんな事より自分の命を心配した方が良さそうだ。
すると男たちの暴行が止まる。
警察が来たのか?
そのくらいでやめるような奴等じゃない事は知っていた。
県内じゃ有名な暴走族だから。
奴等が行動を止めた理由を知る前に俺は気を失っていた。
(4)
今日のツーリングは宮崎まで行っていた。
行きは国道を走って帰りはバイパスを使って帰る。
バイパスを通ると三重町を通ることになる。
三重町はまだFGの支配エリアだ。
こんな田舎にわざわざ喧嘩を売りに来るほどSHも暇じゃない。
厄介ごとに巻き込まれなければいいけど。
巻き込まれてしまったようだ。
映司さんがそれを発見する。
運転手を引きずり降ろして暴行を加え車をボコボコにしていた。
先導していたリーダーがバイクを止めると皆止める。
「これは何の真似だ?」
映司さんはそいつらに声をかけた。
そいつらは黒い特攻服を身に着けていた。
堕天使と背中に刺繍されている。
「てめえらには関係ねえ、大事なバイクが壊されたくなかったら黙って消え失せろ」
だけど「はい、わかりました」と素直に言う映司さんじゃない。
「全く最近の若造は口の聞き方も知らないのか」
「お前達みたいなのがいるからバイク乗りのイメージが落ちる一方なんだよ」
皆やる気みたいな。
俺はその中に多分いる知り合いを探していた。
やっぱりいた。
「勝次、久しぶりだな。こんな山の中で威勢を張っていたのか。ますますお山の大将っぽくなったじゃねーか」
「ガキ!うちの頭に喧嘩売ってるのか?」
「買ってくれるなら売るぞ?勝次に聞いてみろよ?」
勝次は俺達を見て怯えている。
「遊、知り合いなの?」
康子さんが聞いてきた。
「知り合いってわけじゃないですけど。分かりやすく言うと天敵ですね」
分かりやすく説明したつもりだった。
「どうする勝次?やるか?俺達は天音からやるなとは言われてない」
「……お前ら引き上げるぞ」
勝次がそう言うとそいつらは立ち去って行った。
「なんだ?こっちはやる気だったのに。しらけちまったな」
粋が残念そうに言ってる。
「余計な時間食った。俺達も帰ろうか」
リーダーの映司さんが言うと俺達も先に行く。
相変わらず蔭でこそこそして真っ黒な格好してまるでゴキブリか?
(5)
裏切者!
机にそう落書きされてあった。
私は黙って雑巾で落書きを消す。
机の中にはゴミが詰め込まれていた。
授業中も消しゴムのカスを投げつけられたり、調理実習の時も背中を押されたはずみで指を切ってしまったり。
「結構切ったな。保健室行って手当受けた方がいい」
茉里奈がそう言うのでハンカチで傷口を抑えながら保健室に行く。
手当を受けて教室に戻るともめ事が起きていた。
私の机の中味を全部放り投げようとするグループとそれを見た茉里奈達が揉み合いになっていた。
慌てて私は茉里奈を止める。
茉里奈は抗議するが止めるようにお願いする。
そんな私を見た女子は私を罵る。
「そんな真似して悲劇のヒロインぶってるのが余計ムカつくんだよ!この泥棒猫!」
泥棒猫。
それは事実なのだからしょうがない。
彼女は私の彼の西森柊聖に告白をしてフラれた私の親友。
そしてその後から私達は同棲を始めてそして事実上交際が始まっていた。
何で私が柊聖と付き合っているのか?
その事が我慢ならなかったのだろう?
彼女の怒りも分かる。
分かるから私はじっと耐えるしかできなかった。
「人幸せを妬む奴なんて友達でも何でもねーぞ」
茉里奈はそう言う。
だからと言って幼稚園からの友達を捨てる事なんてできない。
私はじっと耐えていた。
耐える事は辛い事。
幸せの真っ只中にいるはずなのに浮かない顔をしている私に一緒に暮らしている柊聖が気づかないはずがない。
「どうしたんだ美衣?学校で何があった?」
「な、なんでもない」
「誤魔化そうったってそうはいかないぞ。正直に言え。俺達はそういう仲じゃないのか?」
辛い事や悲しい事も分け合って生きていきたい。
そんな優しい柊聖の言葉に私はとうとう泣き出してしまった。
柊聖は何も言わずに私を優しく包んでくれる。
柊聖に事情を話した。
「俺のせいか?」
「違うよ、私がいけなかったんだ」
「俺達は付き合うべきじゃなかった。そう言いたいのか?」
「そんな事無い」
どんなに辛い目にあってもどんなに酷い目にあっても、柊聖がいるなら私は生きていける。
そういうと柊聖はにこりと笑った。
「俺も一緒だよ。美衣にだけ話をさせて俺が黙ってるなんて良くないよな」
そう言って柊聖は学校であったことを説明した。
私達が同棲していることは学校中に広まった。
そしてあることないことが噂になる。
私と柊聖が毎日やってるとか。私が妊娠したから柊聖がアメリカに逃げようとしたとか。
ご丁寧にゴムをプレゼントされたらしい。
「私、柊聖に迷惑かけた?」
「美衣といっしょだよ。美衣さえいれば何もいらない」
優しい言葉をかけてくれる。
「……でも、思うんだよな。いっその事噂が事実だったらいいのにって」
そう言ってにやりと笑う。
その意味を理解した時少し恥ずかしかった。
「言っとくけど妊娠は嫌だからね」
「それは分かってるよ」
そう言ってその晩過ごした。
私達は同棲しているから同じ通学路を通る。
だけど登校中揶揄う生徒はいない。
だってSHの皆も一緒なのだから。
その日一通のラブレターを受け取った。
私は皆に事情を話して放課後屋上に向かった。
屋上には親友とラブレターの差出人と複数の男がいた。
大体事情は察した。
逃げ道は塞がれている。
これが罪の償いなら。
そんな私の様子を見てにやりと笑う親友。
「意外と物分かりがいいのね?それとも慣れてるの?」
どうせ毎日してるんでしょ?
私を取り囲む男子が笑う。
「じゃあ、選択肢をあげる。自分で脱ぐか無理矢理脱がされるか好きな方を選びなよ」
私が観念して震える手でリボンを解こうとしたとき突然ドアが開いた。
開いたというよりは吹き飛んだ。
乱入してきたのはSHのメンバー。
柊聖も一緒にいた。
「どうせこんな事だろうと思ったよ」
茉里奈が言う。
柊聖は教室に様子を見に来たらしい。
茉里奈が説明すると心配して様子を見に来たらしい。
柊聖は親友を睨みつけると近づく。
そして頬を打った。
乾いた音が響く。
「あの時どんな状況で俺がどんな状態だったとしてもお前だけは絶対に選ぶことは無い。例えお前と美衣の立場が逆だったとしても俺は美衣を選ぶ」
そんな事を考えるのも馬鹿馬鹿しい。
お前に美衣と同じ真似が出来るとは思えない。
「美衣がそう言う計算で行動したかもしれないじゃない!」
「それはないね。お前何年美衣と一緒に居たんだ?一体美衣の何を見てきたんだ?」
柊聖がそう言うと親友だった人は何も言わず立ちすくんでいた。
そんな女子を気づかうことなく柊聖は私の前に立つ。
「もういい加減しょうもない罪悪感に捕らわれるのはよせ。俺はどんな状況でも美衣を選んでる。きっと遠い昔から美衣を探していたんだ」
その不器用な笑い方をする私を探していた。
例え私は塵になってしまっても迷わず1から探し始めるだろう。
何光年先にいようと口笛を吹きながら私を探す。
「ありがとう」
私は柊聖の腕の中で泣いていた。
「こんなもので満足されても困る。もっと幸せにしてやるから」
もう迷わない。柊聖は私の心に旗を立てた。
(6)
「いらっしゃいませ」
いつもの少年がやって来た。
いつものケーキを一つ買って帰る。
「ありがとうございました」
毎日ある風景。
最初は同僚の東山吉生の恋人、相馬絢香達と一緒にやって来た。
それから毎日通うようになった。
「あ、こいつ佐竹純平っていうんだ」
相馬絢香の友達片桐天音が教えてくれた。
純平の目的がケーキじゃない事だってのに気付くのにそんなに時間がかからなかった。
彼の笑顔を見ていたらそんなのすぐに気づく。
それは店の他のスタッフも一緒で彼が来たときの接客が私がするようにしていた。
彼はまだ高校生。
だけど、歳の差なんてそんなに関係ない。
私は別にお堅い仕事に就いてるわけじゃない。
ただの菓子職人。
それなりに恋愛も経験してきた。初めてってわけじゃない。
彼がバイトしてるのかは知らないけど毎日ケーキを買うのは懐事情に良くないんじゃないのか?
そんな心配をしていた。
その事を仕事が終わった後お店のスタッフと相談していた。
ケーキを買っていくだけの少年を出入り禁止には出来ない。
どうするべきか悩んでいた。
吉生が言った。
「杏はどうなんだ?年下はダメなタイプか?」
「別にそんなことは無い」
今時珍しいくらいに純粋な少年だ。可愛がってやりたいくらいだ。
「なら、話は早い。今度火曜日仕事後予定空けておけよ」
水曜日は定休日だ。
元々予定なんてない。
「でもどうするの?」
「杏は今彼氏いないだろ?とりあえず話だけでもしてみろよ」
「どうやって連絡するの?」
「絢香に今頼んでる」
そう言って吉生はスマホを触ってる。
そして火曜の放課後駅で待ち合わせした。
制服姿の絢香と純平がいた。
「いつもありがとうね」
「い、いえ……」
女性と喋るのも慣れてないんだろうか?
純平は俯いている。
2人ともやけに荷物が多い。
どうしたんだ?
吉生も不審に思って絢香に聞いていた。
「吉生明日休みなんでしょ?じゃあ今日泊まっても問題ないよね?」
以外に大胆な子なんだな。
ってことは……。
「純平君もそうなのかな?」
「皆にそうしろって言われて……」
なるほどね。
「とりあえず夕食でも食べようか?」
「何食べるの?」
「パスタとか嫌いか?」
「全然!」
吉生と絢香は仲良く話してる。
それを見とれている場合じゃない。
「純平君は苦手な物とかあるの?」
「魚がどうも苦手で」
なるほどね。
食事は二つのテーブルを予約してあった。
今の純平君の気持ちで食事しても美味しくないだろう?
食事が来るまでに解決してやることにした。
「毎日ケーキを買いに来るのはどうして?」
「め、迷惑ですか」
「商品を買ってくれるお客さんを迷惑だって思うお店はいないわよ」
「それなら良かったです」
「ただね……」
お小遣い持たないでしょ?他に買いたいものあってあるだろうし。それにもしケーキ以外に目的があるのならちゃんと伝えないと状況は変わらないよ?
時間もお金も有限なの。だから今日こうして席を設けたと説明した。
あとは、純平の気持ち次第。
ひたすら純平の言葉を待っていた。
「……僕みたいな子供じゃつり合い取れないですよね?」
「それは吉生達を見てから言ってるの?」
「僕は絢香とは違うから」
「私だって吉生とは違うわよ」
「あ、あの……」
「はい」
さあ、あとは勇気を出すだけだよ。
「……僕と交際していただけませんか?」
「いいよ。ただし一つだけ言っておくことがあるわ」
「なんでしょう」
彼は不安なようだ。
そんな怯えるような目をしている純平を見て行った。
「私は純平君が思ってるほど綺麗な女性じゃない。純平より歳をとってる分それなりに男の経験もある。手ごわいから覚悟してね」
「は、はい」
「じゃあ、食べましょうか?」
「はい!」
それから食事を済ませて店を出る。
あまり深夜に高校生を徘徊させるのも良くない。
素直に帰ることにした。
バスに乗ろうとする純平を引き留める。
「何のためにお泊り道具もってきたの?」
「へ?」
しょうがないなあ。
純平に家に電話をかけてもらって私が替わる。
そして純平の両親に挨拶と事情を説明する。
驚いてはいたようだが理解はもらえた。
電話を済ませるとスマホを純平に返す。
「こっちよ。ついてきなさい」
私の借りてるマンションまで歩いて10分程度。
その間に連絡先を交換したりする。
部屋に着くと先にシャワーを浴びるように言う。
その間に私は部屋着に着替える。
純平と入れ替わりにシャワーを浴びる。
時間は23時だ。
純平たちは明日学校がある。
ここからなら徒歩で十分行けるだろう。
ただ早めに寝ようと誘ってみた。
「ぼ、僕どこで寝たらいいですか?」
ああ、まだ子供だったわね。
じゃ、とりあえず大人の階段上ってもらおうかしら。
「寝る場所なんて一つしかないでしょ?」
私は一人暮らし、ベッドが二つもあるわけがない。
警戒しながら布団に入ってくる純平に抱き着く。
「や、矢澤さん」
「杏でいいよ」
「杏。ごめん、僕アレ持ってなくて……」
年頃の男子並みの知識はあるんだ。
でも、まだ大人を馬鹿にしてるでしょ?
私は構わず純平の服を脱がしていく。
そして大きさを確認するとバッグからアレを取りだす。
「なんで杏がもってるの!?」
「手ごわいから覚悟してって言ったでしょ?中には付けなくてしようとする不届き者もいるから」
女性でも必須アイテムなんだよ?
翌朝いつも通りに目を覚ますとベッドを出て下着をつける。
目のやり場に困ってる純平がおかしかった。
「今更はずかしがらないの!」
純平に朝食を食べさせると純平は支度をして荷物を持って部屋を出る。
「今度からは店に通うんじゃなくて家に通ってね。ケーキ買い過ぎてデート資金がないなんて情けない真似許さないから」
「うん」
見送った後ゆっくりしてから吉生と昼食を食べに行く。
「どうだった?」
吉生が聞いてきた。
昨夜の事を説明する。
吉生は笑いながら聞いてた。
「少しは手加減してやれよ」
「私はいつも全力だから」
だからお願い聞かせて。
私はここにいるから。
この胸の希望に終わりはない。
今年は岡城址に決めた。
SHの紅葉狩り。
僕と翼は毎年夢大吊橋でもいいんだけど皆は色々見て回りたいらしい。
いつものコンビニに集合すると列を作って竹田に向かう。
竹田の道は狭くそして駐車場も多くない。
幸い岡城址には駐車場がある。
城址というだけあって城は無い。
地元で城が残っているのは杵築城と臼杵城くらいか。
岡城址と言えば荒城の月。
スイッチを押すと荒城の月が流れる装置がある。
竹田まではそんなに時間がかからない。
そして何時間も紅葉を楽しむ場所じゃない。
この後どうするか皆と相談する。
特に揉めたのが昼食の場所。
「竹田まで来てラーメン食べるわけ!?」
「それを言ったらピザだって一緒だろ!?」
「豆腐料理なんてお腹にたまらないよ」
皆それぞれの主張を展開する。
しかし結局女性陣の意見を尊重するのは大人も子供も変わらない。
ピザ屋に決まった。
メニューを見るとまさに料理屋さん。
あまりジャンルにこだわらない料理が沢山あった
他のカップルはピザをシェアして食っていたけど僕と翼は違う。
ピザを一枚ずつ頼んで半分ずつしてさらに焼き肉やらピラフやらを頼んでいた。
最後にノンアルコールワインソフトを食べる。
ジュースを飲みながらこの後どうするか相談していた。
朝地から山を越えて地元に戻りSAPで遊んで帰るかってことになった。
僕達の世代には走り屋のような車を運転する男性はいない。
どんなにいい車に乗っても善明の車には勝てないのだからそうなる。
その善明も凶悪なスペックを誇るBG社の車ではなく、P社の車で来ていた。
外車には変わらないんだけど。
SAPに着くとすぐにカラオケに入る。
僕と翼が食べ物を注文するついでに皆の飲み物を注文していた。
念の為に言っておくけどここに来る前に美希がパーティルームを予約している。
パーティプランだから当然料理は最初からある。
しかしポテトやから揚げだけでは満足しない。
ラーメンやカツ丼があるのに食わないという手はない。
食べに来たのか歌いに来たのか分からない状況で僕達は楽しんだ。
カラオケが終るとファミレスで夕食を食べる。
「イブはともかくクリスマスはどうする?」
光太が言う。
「忘年会ついでに集まろうか?」
「場所は任せて。うちのホテル予約しておくから」
学と美希が言うとそれで行こうとみんな賛成した。
夕食が済むとみんな解散する。
家に帰ると風呂に入って部屋で寛ぐ。
美希はノートPCで家計簿をつけている。
お金の管理は美希に任せている。
旅行なんかも行ったのにちゃんとやり繰り出来てる。
まあ、美希の仕送りで殆どやりくりで来てるみたいで、僕の仕送りは全く手を付けてないみたいだけど。
「母さんから言われてるから」
僕という宝物と一緒にいる時間を手に入れているのだから惜しむことなく使えと言われたらしい。
正月くらいには母さんに顔を見せてやれと、父さんからメッセージを受けていた。
お年玉たかりに行くみたいで気が引けたけど、父さんが来いと言うのだから行った方がいいだろう。
年越しはどうするのかまだ考えてなかった。
「イブの予定も決めてないのにまだ早いよ」
美希がそう言って笑う。
「やっぱり美希はイブくらいはお泊りしたい?」
「うーん、初めての同棲のイブだから夕食食べに行くだけでいいよ」
じゃあ、美味しいお店探しておかないとね。
「後は家でのんびり過ごせばいいんじゃないのかな?」
「本当にのんびり過ごしていいの?」
「空ってそんな意地悪言うようになったの?」
美希はむくれしまった。
そんな美希の頭を撫でてやる。
「わかってるよ」
「知ってる」
もう衣替えも終わり11月に入ろうとしていた。
(2)
今年も九重に来ていた。
子供たちは夢バーガーを楽しみにしている。
一応紅葉を見に来ているんだけどね。
愛莉に怒られながらも天音達のの暴飲暴食は止まらない。
皆は吊橋を渡っている。
何度来ても飽きない風景。
四季それぞれの風景が楽しめるらしい。
つり橋を渡って天音達は夢バーガーを堪能するとランチにいつものレストランに行く。
今年は子供達もずいぶん減った。
空と美希、翼と善明、学に水奈、勝利と輝夜もそれぞれ車を手にして自分たちで観光に行っている。
来年はもっと減るだろう。
子供たちが巣立つ時期が来たんだ。
水奈も週末は学が迎えに来て遊びに行ってる。
誠はそれを寂しそうに語っていた。
「今からそんなことでどうする?水奈ももうじきしたら家を出るんだぞ」
「別に家を出なくても家から通えばいいじゃないか!」
「水奈は今まで我慢してきたんだ。少しは水奈の事も考えてやれ」
「娘なんて持つもんじゃないな……」
「その言葉絶対に水奈の前で言うなよ」
「冬夜はわかってくれるよな?この男親の寂しさってもんが」
「ごめん、分からない」
僕ははっきりと言った。
「翼と空はもう家を出て行った。天音も来年には家を出る。でもその前に皆将来を預けるパートナーを見つけている。その時点でそういう気持ちは過ぎたよ」
もう子供は子供じゃなくなっているんだ。
親離れする時期が来ただけ。
僕達に出来る事はそれを悲しむことじゃなくて温かく見守ってやること。
時には厳しく当たらなきゃいけない。
「片桐君の言う通りかもしれないですね、あの子もいい相手を見つけられてよかったです」
石原君が言う。
「あら望?まだ美希の花嫁姿見てないでしょ。お願いだから泣くなんてみっともない真似やめてよね」
「それは分からないよ恵美。恵美の父さんだって泣いてたじゃないか」
「片桐君や、ちゃんと善明には責任もたせるから安心しておくれ」
「そうよ、浮気なんてしようものなら私がただじゃおかないから」
あの2人の肩には地元経済がかかっているんだろうな。
大変な大学生だ。
社会人になったらもっと大変なんだろうな。
善明は新卒で社長らしいから。
「大地!分かってるでしょうね!あなたにも同じ事が言えるのよ!天音ちゃんを泣かせるような真似したら絶対に許しませんからね!」
恵美さんが大地に言い聞かせてる。
大地は少し困ってる。
そんな事したらまず天音が怒り狂うだろうな。
「とはいえまだ下に子供がいる。僕達の苦労はまだ続くわけだよ」
教えてくれ、俺はあと何回娘を見送ればいい?と酒井君が言っている。
「そんな事言いだしたらうちは茉里奈が将来海外に移住したいと言い出したぞ」
渡辺君はそれほど寂しそうにしていない。
どうしてだろう?
「俺は美嘉を慰めてやる事で手一杯だからな」
2人とも店を継ぐと思っていたらフランスに移住したいと言い出した。
それはショックだったんだろう。
でも本場で道を究めるという娘の意思を尊重したらしい。
言葉が通じない世界に飛び出すわけだけど交際相手のヘフナーが英語とフランス語を教えているんだそうだ。
教科書を読むよりも役に立つ外国語が身につくだろう。
昼食を食べると地元へ戻る。
地元に着くとファミレスで夕食を食べて解散する。
そして家に帰ると皆が風呂に入って部屋に戻る。
僕達も時間になったら寝室に戻る。
「冬夜さん一つだけお聞きしてもいいですか?」
愛莉が何か聞きたい事があるようだ。
「なんだい?」
「本当に娘が嫁いでも寂しくないですか?」
「全くと言ったら嘘になるかな。でも愛莉のお父さんが言ってたことが分かる気がするんだ」
ここまで立派に育てたんだからあとは胸をはって相手に委ねよう。
幸い相手の事はよく分かっている。
「……一番寂しかったのは娘が大人になったんだなと実感した時かな」
「冬夜さんは私が寂しい時慰めてくれると仰ってくださいました。私も同じことを冬夜さんにしてあげます」
「ありがとう」
嫁入りか。
もうそんな時期が来てるんだな。
あっという間だった。
ゆっくりでも時は確実に刻まれていくんだ。
そんな事を実感していた。
(3)
「わあ、かっこいい車だね」
若い女性二人が俺の車をべた褒めしてた。
そこそこ綺麗だ。
今日はこの二人でいっか。
「俺の車気に入ってらもらえた?」
俺はその2人に声をかけていた。
女性二人はこちらを見る。
「あなたの車なんですか?」
「まあね、良かったら乗り心地も確かめてみない?」
「え、乗せてくれるんですか?」
「君達みたいな綺麗なお嬢さんなら大歓迎だよちょっと付近のドライブしないかい?」
「でも、この辺夜物騒だし……」
丁度日が暮れる頃だった。
この辺は時代錯誤も甚だしい暴走族が走り回ってる町。
「大丈夫、こうみえてもこの辺じゃ顔が聞く方でね。ちんけな暴走族くらいどうとでもなるよ」
「や、やっぱりやめときます。知らない人の車乗るのもなんか怖いしね」
「い、行こっか」
そう言って2人は逃げるように立ち去っていた。
もったいぶりやがって。
あとで二人も試乗させてもらおうと思ったのに。
その直後2人が立ち去った理由が分かった。
俺の車の周りを族車が取り囲んでいる。
「どうも、そこらへんのちんけな族で~す」
「こ、こんにちは」
震えを抑えて車に乗ってその場を去る。
しかし族は追いかけて来た。
振り切ろうとアクセルを踏む。
しかしついてくる。
そして右を走っていたバイクは前を指差す。
前を見ると電柱が立っている。
だめだ、避けきれない。
車は電柱に追突する。
割れたフロントガラスから俺を引きずり出す。
「た、助けて」
もちろんそんな俺の細やかな願いを聞いてくれるはずもない。
「お前みたいな金持ちのお坊ちゃんがムカつくんだよ!親の力でしか何もできないくせによ!」
君達だって親に頼って生きてるんじゃないのか?
そう思われながら俺は袋叩きに合っていた。
車が派手に砕けている音が聞こえる。
車のボンネットに乗っかかり鉄パイプで屋根を叩いてる男がいた。
「スーパーカーがスクラップカーだぜ!!」
何がおかしいのか分からないけどそんな事より自分の命を心配した方が良さそうだ。
すると男たちの暴行が止まる。
警察が来たのか?
そのくらいでやめるような奴等じゃない事は知っていた。
県内じゃ有名な暴走族だから。
奴等が行動を止めた理由を知る前に俺は気を失っていた。
(4)
今日のツーリングは宮崎まで行っていた。
行きは国道を走って帰りはバイパスを使って帰る。
バイパスを通ると三重町を通ることになる。
三重町はまだFGの支配エリアだ。
こんな田舎にわざわざ喧嘩を売りに来るほどSHも暇じゃない。
厄介ごとに巻き込まれなければいいけど。
巻き込まれてしまったようだ。
映司さんがそれを発見する。
運転手を引きずり降ろして暴行を加え車をボコボコにしていた。
先導していたリーダーがバイクを止めると皆止める。
「これは何の真似だ?」
映司さんはそいつらに声をかけた。
そいつらは黒い特攻服を身に着けていた。
堕天使と背中に刺繍されている。
「てめえらには関係ねえ、大事なバイクが壊されたくなかったら黙って消え失せろ」
だけど「はい、わかりました」と素直に言う映司さんじゃない。
「全く最近の若造は口の聞き方も知らないのか」
「お前達みたいなのがいるからバイク乗りのイメージが落ちる一方なんだよ」
皆やる気みたいな。
俺はその中に多分いる知り合いを探していた。
やっぱりいた。
「勝次、久しぶりだな。こんな山の中で威勢を張っていたのか。ますますお山の大将っぽくなったじゃねーか」
「ガキ!うちの頭に喧嘩売ってるのか?」
「買ってくれるなら売るぞ?勝次に聞いてみろよ?」
勝次は俺達を見て怯えている。
「遊、知り合いなの?」
康子さんが聞いてきた。
「知り合いってわけじゃないですけど。分かりやすく言うと天敵ですね」
分かりやすく説明したつもりだった。
「どうする勝次?やるか?俺達は天音からやるなとは言われてない」
「……お前ら引き上げるぞ」
勝次がそう言うとそいつらは立ち去って行った。
「なんだ?こっちはやる気だったのに。しらけちまったな」
粋が残念そうに言ってる。
「余計な時間食った。俺達も帰ろうか」
リーダーの映司さんが言うと俺達も先に行く。
相変わらず蔭でこそこそして真っ黒な格好してまるでゴキブリか?
(5)
裏切者!
机にそう落書きされてあった。
私は黙って雑巾で落書きを消す。
机の中にはゴミが詰め込まれていた。
授業中も消しゴムのカスを投げつけられたり、調理実習の時も背中を押されたはずみで指を切ってしまったり。
「結構切ったな。保健室行って手当受けた方がいい」
茉里奈がそう言うのでハンカチで傷口を抑えながら保健室に行く。
手当を受けて教室に戻るともめ事が起きていた。
私の机の中味を全部放り投げようとするグループとそれを見た茉里奈達が揉み合いになっていた。
慌てて私は茉里奈を止める。
茉里奈は抗議するが止めるようにお願いする。
そんな私を見た女子は私を罵る。
「そんな真似して悲劇のヒロインぶってるのが余計ムカつくんだよ!この泥棒猫!」
泥棒猫。
それは事実なのだからしょうがない。
彼女は私の彼の西森柊聖に告白をしてフラれた私の親友。
そしてその後から私達は同棲を始めてそして事実上交際が始まっていた。
何で私が柊聖と付き合っているのか?
その事が我慢ならなかったのだろう?
彼女の怒りも分かる。
分かるから私はじっと耐えるしかできなかった。
「人幸せを妬む奴なんて友達でも何でもねーぞ」
茉里奈はそう言う。
だからと言って幼稚園からの友達を捨てる事なんてできない。
私はじっと耐えていた。
耐える事は辛い事。
幸せの真っ只中にいるはずなのに浮かない顔をしている私に一緒に暮らしている柊聖が気づかないはずがない。
「どうしたんだ美衣?学校で何があった?」
「な、なんでもない」
「誤魔化そうったってそうはいかないぞ。正直に言え。俺達はそういう仲じゃないのか?」
辛い事や悲しい事も分け合って生きていきたい。
そんな優しい柊聖の言葉に私はとうとう泣き出してしまった。
柊聖は何も言わずに私を優しく包んでくれる。
柊聖に事情を話した。
「俺のせいか?」
「違うよ、私がいけなかったんだ」
「俺達は付き合うべきじゃなかった。そう言いたいのか?」
「そんな事無い」
どんなに辛い目にあってもどんなに酷い目にあっても、柊聖がいるなら私は生きていける。
そういうと柊聖はにこりと笑った。
「俺も一緒だよ。美衣にだけ話をさせて俺が黙ってるなんて良くないよな」
そう言って柊聖は学校であったことを説明した。
私達が同棲していることは学校中に広まった。
そしてあることないことが噂になる。
私と柊聖が毎日やってるとか。私が妊娠したから柊聖がアメリカに逃げようとしたとか。
ご丁寧にゴムをプレゼントされたらしい。
「私、柊聖に迷惑かけた?」
「美衣といっしょだよ。美衣さえいれば何もいらない」
優しい言葉をかけてくれる。
「……でも、思うんだよな。いっその事噂が事実だったらいいのにって」
そう言ってにやりと笑う。
その意味を理解した時少し恥ずかしかった。
「言っとくけど妊娠は嫌だからね」
「それは分かってるよ」
そう言ってその晩過ごした。
私達は同棲しているから同じ通学路を通る。
だけど登校中揶揄う生徒はいない。
だってSHの皆も一緒なのだから。
その日一通のラブレターを受け取った。
私は皆に事情を話して放課後屋上に向かった。
屋上には親友とラブレターの差出人と複数の男がいた。
大体事情は察した。
逃げ道は塞がれている。
これが罪の償いなら。
そんな私の様子を見てにやりと笑う親友。
「意外と物分かりがいいのね?それとも慣れてるの?」
どうせ毎日してるんでしょ?
私を取り囲む男子が笑う。
「じゃあ、選択肢をあげる。自分で脱ぐか無理矢理脱がされるか好きな方を選びなよ」
私が観念して震える手でリボンを解こうとしたとき突然ドアが開いた。
開いたというよりは吹き飛んだ。
乱入してきたのはSHのメンバー。
柊聖も一緒にいた。
「どうせこんな事だろうと思ったよ」
茉里奈が言う。
柊聖は教室に様子を見に来たらしい。
茉里奈が説明すると心配して様子を見に来たらしい。
柊聖は親友を睨みつけると近づく。
そして頬を打った。
乾いた音が響く。
「あの時どんな状況で俺がどんな状態だったとしてもお前だけは絶対に選ぶことは無い。例えお前と美衣の立場が逆だったとしても俺は美衣を選ぶ」
そんな事を考えるのも馬鹿馬鹿しい。
お前に美衣と同じ真似が出来るとは思えない。
「美衣がそう言う計算で行動したかもしれないじゃない!」
「それはないね。お前何年美衣と一緒に居たんだ?一体美衣の何を見てきたんだ?」
柊聖がそう言うと親友だった人は何も言わず立ちすくんでいた。
そんな女子を気づかうことなく柊聖は私の前に立つ。
「もういい加減しょうもない罪悪感に捕らわれるのはよせ。俺はどんな状況でも美衣を選んでる。きっと遠い昔から美衣を探していたんだ」
その不器用な笑い方をする私を探していた。
例え私は塵になってしまっても迷わず1から探し始めるだろう。
何光年先にいようと口笛を吹きながら私を探す。
「ありがとう」
私は柊聖の腕の中で泣いていた。
「こんなもので満足されても困る。もっと幸せにしてやるから」
もう迷わない。柊聖は私の心に旗を立てた。
(6)
「いらっしゃいませ」
いつもの少年がやって来た。
いつものケーキを一つ買って帰る。
「ありがとうございました」
毎日ある風景。
最初は同僚の東山吉生の恋人、相馬絢香達と一緒にやって来た。
それから毎日通うようになった。
「あ、こいつ佐竹純平っていうんだ」
相馬絢香の友達片桐天音が教えてくれた。
純平の目的がケーキじゃない事だってのに気付くのにそんなに時間がかからなかった。
彼の笑顔を見ていたらそんなのすぐに気づく。
それは店の他のスタッフも一緒で彼が来たときの接客が私がするようにしていた。
彼はまだ高校生。
だけど、歳の差なんてそんなに関係ない。
私は別にお堅い仕事に就いてるわけじゃない。
ただの菓子職人。
それなりに恋愛も経験してきた。初めてってわけじゃない。
彼がバイトしてるのかは知らないけど毎日ケーキを買うのは懐事情に良くないんじゃないのか?
そんな心配をしていた。
その事を仕事が終わった後お店のスタッフと相談していた。
ケーキを買っていくだけの少年を出入り禁止には出来ない。
どうするべきか悩んでいた。
吉生が言った。
「杏はどうなんだ?年下はダメなタイプか?」
「別にそんなことは無い」
今時珍しいくらいに純粋な少年だ。可愛がってやりたいくらいだ。
「なら、話は早い。今度火曜日仕事後予定空けておけよ」
水曜日は定休日だ。
元々予定なんてない。
「でもどうするの?」
「杏は今彼氏いないだろ?とりあえず話だけでもしてみろよ」
「どうやって連絡するの?」
「絢香に今頼んでる」
そう言って吉生はスマホを触ってる。
そして火曜の放課後駅で待ち合わせした。
制服姿の絢香と純平がいた。
「いつもありがとうね」
「い、いえ……」
女性と喋るのも慣れてないんだろうか?
純平は俯いている。
2人ともやけに荷物が多い。
どうしたんだ?
吉生も不審に思って絢香に聞いていた。
「吉生明日休みなんでしょ?じゃあ今日泊まっても問題ないよね?」
以外に大胆な子なんだな。
ってことは……。
「純平君もそうなのかな?」
「皆にそうしろって言われて……」
なるほどね。
「とりあえず夕食でも食べようか?」
「何食べるの?」
「パスタとか嫌いか?」
「全然!」
吉生と絢香は仲良く話してる。
それを見とれている場合じゃない。
「純平君は苦手な物とかあるの?」
「魚がどうも苦手で」
なるほどね。
食事は二つのテーブルを予約してあった。
今の純平君の気持ちで食事しても美味しくないだろう?
食事が来るまでに解決してやることにした。
「毎日ケーキを買いに来るのはどうして?」
「め、迷惑ですか」
「商品を買ってくれるお客さんを迷惑だって思うお店はいないわよ」
「それなら良かったです」
「ただね……」
お小遣い持たないでしょ?他に買いたいものあってあるだろうし。それにもしケーキ以外に目的があるのならちゃんと伝えないと状況は変わらないよ?
時間もお金も有限なの。だから今日こうして席を設けたと説明した。
あとは、純平の気持ち次第。
ひたすら純平の言葉を待っていた。
「……僕みたいな子供じゃつり合い取れないですよね?」
「それは吉生達を見てから言ってるの?」
「僕は絢香とは違うから」
「私だって吉生とは違うわよ」
「あ、あの……」
「はい」
さあ、あとは勇気を出すだけだよ。
「……僕と交際していただけませんか?」
「いいよ。ただし一つだけ言っておくことがあるわ」
「なんでしょう」
彼は不安なようだ。
そんな怯えるような目をしている純平を見て行った。
「私は純平君が思ってるほど綺麗な女性じゃない。純平より歳をとってる分それなりに男の経験もある。手ごわいから覚悟してね」
「は、はい」
「じゃあ、食べましょうか?」
「はい!」
それから食事を済ませて店を出る。
あまり深夜に高校生を徘徊させるのも良くない。
素直に帰ることにした。
バスに乗ろうとする純平を引き留める。
「何のためにお泊り道具もってきたの?」
「へ?」
しょうがないなあ。
純平に家に電話をかけてもらって私が替わる。
そして純平の両親に挨拶と事情を説明する。
驚いてはいたようだが理解はもらえた。
電話を済ませるとスマホを純平に返す。
「こっちよ。ついてきなさい」
私の借りてるマンションまで歩いて10分程度。
その間に連絡先を交換したりする。
部屋に着くと先にシャワーを浴びるように言う。
その間に私は部屋着に着替える。
純平と入れ替わりにシャワーを浴びる。
時間は23時だ。
純平たちは明日学校がある。
ここからなら徒歩で十分行けるだろう。
ただ早めに寝ようと誘ってみた。
「ぼ、僕どこで寝たらいいですか?」
ああ、まだ子供だったわね。
じゃ、とりあえず大人の階段上ってもらおうかしら。
「寝る場所なんて一つしかないでしょ?」
私は一人暮らし、ベッドが二つもあるわけがない。
警戒しながら布団に入ってくる純平に抱き着く。
「や、矢澤さん」
「杏でいいよ」
「杏。ごめん、僕アレ持ってなくて……」
年頃の男子並みの知識はあるんだ。
でも、まだ大人を馬鹿にしてるでしょ?
私は構わず純平の服を脱がしていく。
そして大きさを確認するとバッグからアレを取りだす。
「なんで杏がもってるの!?」
「手ごわいから覚悟してって言ったでしょ?中には付けなくてしようとする不届き者もいるから」
女性でも必須アイテムなんだよ?
翌朝いつも通りに目を覚ますとベッドを出て下着をつける。
目のやり場に困ってる純平がおかしかった。
「今更はずかしがらないの!」
純平に朝食を食べさせると純平は支度をして荷物を持って部屋を出る。
「今度からは店に通うんじゃなくて家に通ってね。ケーキ買い過ぎてデート資金がないなんて情けない真似許さないから」
「うん」
見送った後ゆっくりしてから吉生と昼食を食べに行く。
「どうだった?」
吉生が聞いてきた。
昨夜の事を説明する。
吉生は笑いながら聞いてた。
「少しは手加減してやれよ」
「私はいつも全力だから」
だからお願い聞かせて。
私はここにいるから。
この胸の希望に終わりはない。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる