姉妹チート

和希

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穏やかな時間

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(1)

 僕達は大縦列を作って移動している。
 行先は飯田高原にある酒井グループのリゾートホテル。
 ホテルだけじゃない、遊園地やゴルフ場まで完備してある。
 冬になるとスケートリンクも開設される巨大なリゾート施設。
 気候も丁度良く少し肌寒いくらいだ。
 集合場所に着いた時には沢山の車がコンビニの駐車場を占拠していた。
 街から移動しなければ行けない僕達が遅れると思ったら、大在に住んでいる組が遅かった。
 もっとも桐谷学・水奈夫妻は真っ先についていたらしいけど。
 酒井善明・翼夫妻は翼が寝坊したらしい。
 学に諫められていた。
 車内にBGMは流していない。
 隣で寝ている天音のいびきがBGMだ。
 天音がここまで堂々と寝ているのもちゃんと理由があった。
 朝早くから準備をしていた事もあるけど……、最大の理由は。

「大地!今夜は飲むぞ!!」
「何で今夜なの!?」

 明日から合宿って忘れてるの?

「前夜祭ってあるだろ!?騒ごうぜ」
「無理だよ。僕明日朝から運転だよ!?」
「うーん、しょがないな。水奈でも呼ぶか」

 当然水奈は学に止められて来なかった。
 その代わり渡辺紗理奈がやってきて朝方まで2人で飲んでいた。
 で、今に至る。
 如何にもって車もあったけどさすがにこの車の列でレースはしなかった。
 先頭を走っている空の車がそれを許さなかった。
 安全速度で走っているけど、追い越しをかけようものならソレを悟ってスピードを上げて追い抜けないようにする。
 天音も運転はうまい方だけど、その天音ですら「空はパパと同じで規格外だ」と言わせるくらいだ。
 どうしてあんなSUV車に乗ってるのか空に聞いたことがある。

「乗り心地良いでしょ?座席も高いし」

 あくまでも助手席にのる姉さんの事を思い遣っての選択らしい。
 そして姉さんも”どうせ空の隣に乗るから”とコンパクトカーを選んだ。
 後で天音に聞いたけど天音の両親も似たような選択をしたんだそうだ。
 坂を上りきると高原が広がっている。
 どこまでも続く緑の高原。
 ただ、やっぱり行楽シーズンだから車が渋滞していた。
 そこで間の悪い事に天音が起きる。

「なんだ?まだつかないのか?」
「この列見たら分かるでしょ。もう渋滞が始まってるみたい」
「何で大地はこんな渋滞の中平然といられるんだ」

 それは渋滞の大半はSHの参加者だと思ったから。
 ……なんてことは言えず、何か良い回答はないかと考えていたら、思いついた。

「眠る天音の優しい幻を見る余裕が出来たから」
「きしょっ!てか勝手に幻にするな!」

 そう言いながらも天音は笑っていた。
 渋滞は30分ほど続いてそして目的地に着いた。
 目的地の酒井リゾートフォレストには人気がない。
 遊園地だというのに僕達以外誰もいない。
 それでも姉さんたちが構わず先導してホテルに誘導する。
 僕達の世代で何十倍にも膨れ上がったSHの人数を容易く収容できる巨大な観光ホテル。
 駐車場に車を止めると玄関に集合する。
 そこで酒井善明から説明がある。
 SHはだいたいがカップルで参加だ。
 だからダブルを用意しておいた。
 フロントで鍵を受け取ったら部屋に行って荷物を置いて30分後にロビーに集合。
 天音と2人で泊まるのは初めてじゃないから特に抵抗は無かった。
 天音は部屋の広さとベッドのサイズに感動していた。

「やっぱ家より広いな!」

 そう言ってベッドにダイブする天音。
 家のベッドも大概広いと思うんだけど。
 姉さんの一声で一番いい部屋をあてがってくれたみたいだ。

「この部屋防音聞いてるんだよな?じゃあ、夜思いっきりやれるな!」

 そういうのは思っていても女性が口にするセリフじゃないと思うよ。
 荷物を置いて時間までにロビーに行く。
 ロビーでは善明がバンドを配っていた。
 僕達もそれを受け取る。
 バーコードが付いてる。
 これを係員に見せるだけでほとんどの乗り物が乗り放題らしい。
 そう、今日遊園地に客がいないのは僕達が貸し切ったから。
 それも1日だけじゃなく3日間らしい。

「3日も遊園地とか飽きるに決まってるだろ!」

 天音には不評らしい。

「でもこの人数で湯布院なんて行けるわけないでしょ」

 翼が反論した。

「別府の風俗街とかいけばいいじゃねーか!善明の性癖分かるぜ!」

 天音は僕の性癖に興味があるのだろうか?

「間違っても善明に変な事吹き込まないで」

 翼は善明がそういう店に入るのに抵抗があるらしい。

「ま、とりあえず遊園地に行こうか」

 桐谷学が言うと皆徒歩で移動する。
 入口のゲートでチェックを受けるとそこからは自由行動。

「大地!ジンギスカン食えるらしいぞ!さっさと行こうぜ!」

 天音にとって遊園地って何なんだろう?
 ジンギスカンを食べて、ハンバーガーを食べてヤキソバ、たこ焼きと続いて。

「天音。少しは乗り物にも乗ってみない?」
「私はメリーゴーランドなんて甘っちょろい乗り物に興味はない!」

 それとも観覧車の密室で何かしてくれるのか?と聞いてくる。
 本当に天音にとって遊園地って何するところなんだろう。
 それでも何とか言いくるめて絶叫系のマシンに乗った。
 選択をミスったようだ。
 あれだけ食べて回転したりする乗り物に乗れば……。
 降りた後すぐにトイレに駆け込む天音。
 スッキリして出てきた天音に「ごめん」と謝った。

「気にするな。こんな乗り物でリバースする私がまだ子供なんだ。まあ、大地が楽しいならそれに越したことはねーよ」

 その後もいくつか乗り物に乗ると集合時間になる。
 ゲート前に集まるとホテルに移動する。
 部屋に辿り着いたら天音はベッドに寝ている。

「そんなに寝てる時間無いよ。すぐ夕食だし」
「分かってるって。大地、そこに横になれ」

 どうしたんだろう?
 言われたとおりに横になる。
 すると天音は僕に跨ってマッサージを始めた。

「やっぱ大地は肉付きが違うな。随分凝ってるみたいだけど。運転お疲れさん」
「ありがとう」
「本当は愛莉みたいな言葉遣い出来たらいいんだけどな」
「今の天音のままでいいよ」
「そっか」

 天音のマッサージを受けているとあっという間に夕食の時間になる。
 夕食はバイキング形式。
 僕達は姉さんたちと同席することになった。
 翼と善明は学と水奈達と一緒らしい。
 もっとも天音と空は殆ど席にいない。
 席についたと思ったらすぐに食べ終わってまた次の皿を取りに行く。
 いつもながらに凄い食欲だ。

「こんな時に食っておかないともったいないだろ」

 蟹から和牛ステーキまで何もかもを食らいつくす。
 締めにラーメンを食べて終わる。

「あ、デザート忘れてた」
「それなら私もとりに行く。ここチョコレートフォンデュがあるんだよ」

 そう言って姉さんと一緒にデザートを取りに行った。

「大地も天音ちゃんと暮らしてもう一月か……もう慣れた?」
「はは、まあぼちぼちですね」

そう空と話をしていた。
今日はこれで風呂に入ってお終い。
そう思っていた。

(2)

 まあ、こうなることは予想していたよ。
 僕達は夕食を食べて風呂に入るとホテルのイベントホールに集まった。
 これだけの人数を収容できる大ホールだ。
 当然の様にカラオケやDJブースなんかも完備している。
 片桐姉弟の関心を引いたのはビュッフェスタイルのディナー。
 さっきあれだけ食べたのにまだ食べるつもりなのかい。
 遊はDJブースに興味をもったのか、さっきからやかましいくらい音楽を鳴らしている。
 女子は女子でカラオケを歌いまくっている。
 僕と学と大地は3人でゆったりと酒を飲みながら皆を見ていた。

「大地は少しは慣れたの?」

 僕がさっき夕食の時に聞いたことを妻の翼が聞いていた。
 すると大地は静かに話してくれた。
 天音の心境の変化を。
 どうやら天音は大地に嫁ぐという自覚を持ったらしい。
 まだプロポーズも受けてないというのに。

「やっぱり愛莉さんから聞かされたんだね。私も結婚前に愛莉さんから聞いたから」
「それなら早めにプロポーズしてやった方がいいんでないかい?」

 僕が助言すると大地は俯いてしまった。
 大地の方にまだ天音の人生を背負うという覚悟が付いていないのだろうか?

「まだ、気持ちの整理がつかない」

 そんな軟弱な意思は僕達の親には全く通用しない。
 だけど大地の意思は違うようだ。

「せっかくだからちゃんとした日にしてやりたいと思って……」

 ちゃんとした日?

「記念になる日がいいな……って」

 ああ、そういう事か。
 天音には内緒で、もう場所も指輪も準備したらしい。

「いい日になるといいな」

 学はそう言って笑っていた。
 片桐家の幸福はSH皆が願っている。
 何かしらの縁があってSHに入ったのだから。
 そんな片桐家の幸福を望まない者がいるはずがなった。
 僕達の親の世代から片桐家は特別な存在だったらしい。
 親の世代のグループ”渡辺班”のカリスマ的存在が片桐天音の父親である片桐冬夜だった。
 話を聞けば聞くほど信じがたい物だったけどその子供のスペックを考えるとあり得るかもしれないと思える。
 僕達SHにとっても片桐家は特別な存在だった。
 翼、空、天音。
 誰もが人を引き付けるカリスマを持っている。
 もっとも空は美希に頭が上がらないらしいけど。
 片桐家に江口家や石原家なんてバックが付いたらどんなことになるのだろう。
 そうでなくても父親は独立して起業した。
 その後ろ盾には地元4大グループがついている。
 片桐家が望まなくても4大グループは協力を惜しまなかった。
 どこまでも広がっていく僕達の勢力。
 順風満帆とはまさにこの事だろう。
 僕達もあと3年で社会人になる。
 無邪気に遊んでいる天音達を見て思う。
 こうしていられるのもあと何年だろう?
 父さん達のようにいつまでも変わらない関係でいられたらいいなとは思う。

「善明どうしたの?急に何か考え込んでるようですけど?」
「ああ、翼。ちょっとね……僕達も後何年こうして騒いでいられるのだろうと思ってね」
「そんなじじくせーこと考えてたのか!?お前らちょっと飲みが足りねーんじゃねーのか!」

 天音と水奈がやってきた。

「学もだぞ!せっかく遊びに来たんだから楽しくやれよ!」
「そうだといいんだがな。そろそろ時間だ。部屋に戻るぞ」
「待て!私はまだ限界を見てない!」
「明日も早いんだ。昼まで寝てるなんて無理だぞ」
「徹夜で起きてればいいんだろ!?」
「そう言って起きてた試しがないだろ!」

 そう言って学は水奈を引きずって部屋に戻っていった。

「翼や、僕達もそろそろ休むとしようか?」
「そうだね」

 僕も翼と部屋に戻る。
 と、なると残るのは大地と天音なのだが……。

「私達はまだ終わってないよな!?大地」
「え、いや。そろそろ休んだ方がいいんじゃないかな」
「お前までそんなつれない事言うのかよ!」

 すると大地は少し考えてから天音に耳打ちする。
 天音の表情が明るくなった。

「昼間あんなに嫌がっていたのにやっとやる気になったか!」
「声がデカいよ天音」

 何とか部屋に戻れるようだ。
 もっともそれからゆっくり眠れたのかどうかは知らないけど。
 
「とにかく嫁の機嫌を損ねないようにしておやり」

 父さんが言ってた。
 翼の機嫌ひとつで零細企業がつぶれる。
 そんな恐ろしい世界へ飛び込んでいくのだと思うと足が竦んでしまう。
 けど今はこの穏やかな時間をもう少し楽しんでおくとしよう。
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