姉妹チート

和希

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母である為に

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(1)

「ただいま」
「あ、おかえり」

 大学を卒業した水奈は就職せずに専業主婦をやってる。
 どうせ子供作るんだからいいだろ?と言っていた。
 しかし今日水奈が朝「悪い、ちょっと今日病院行ってくる」と言い出した。

「どこか具合悪いのか?」
「今はまだ言えない」

 さすがに俺だってなんとなく察しがついた。
 帰ってからの報告を楽しみにしながら、いつも以上に慎重に仕事をしていた。

「なんかいいことあったのか?」

 上司の渡辺正志さんが聞いてきた。

「詳しくは聞いてないんですけど突然嫁が病院行ってくるって言いだして」
「……なるほどな」

 これからもっと頑張らないとなと言って去っていった。
 仕事が終ると真っ直ぐ家に帰る。
 水奈の報告を早く聞きたかったから。
 しかし家に帰っても「学が着替えてる間に夕食作るから」と言う。
 俺から聞いて言いものかどうか分からなかったけどこんな状況じゃ夕食もまずくなる。
 さり気なく「病院どうだった?」と聞いた。

「……それ風呂の後でいいか?」
「やっぱり何かあったのか」
「まあな……」

 なんか良くなさそうだな。
 あまり触れない方がいいか。

「わかった」
 
 そして静かに夕食を済ませると、水奈が片付けている間に風呂に入る。
 そして風呂を出ると水奈が風呂に入ってる間テレビを見て気を紛らわせようとしてみた。
 だけど、やはり気になる。
 ダメだったとしてどう慰めてやればいい?
 またがんばればいいさ、いくらでも協力するから。
 そう言えばいいのだろうか?
 水奈は結構落ち込みやすい性格の様だ。
 慎重に扱わないと。
 水奈に聞いてみるとまず水奈が座った。

「あのさ、私も自分で我慢するつもりはあるけど学も協力して欲しい」

 アルコールはダメと言われたそうだ。
 ってことは……。

「ああ、私の中に赤ちゃんがいる」
「よかったな」
「他人事のように言うな。学の子なんだぞ」
「わかってるさ。出来るだけ協力するよ」

 家事は俺がやったほうがいいか?

「母さんには知らせた。亜依さんにも知らせてる」

 2人とも遂にお婆ちゃんかと嘆いていたらしい。

「やっと出来た子供だから。これから病院であったことを話すよ」

 そう言って水奈の話が始まった。

(2)

「あれ?花?」
「なずなと水奈こそどうしたの?」

 病院でなずなと水奈と会った。
 理由は何となく分かった。

「水奈達も……なの?」
「うん、ちょっと気になったから」

 粋達がいないのは働いてるから。
 でも最近熱っぽかったりだるかったりするのでひょっとしてと思って病院に来た。
 先に私が診察室に入った。
 検査を受けた結果は……やっぱりそうだった。
 その後になずなが受けたけど結果は同じだった。
 ランチを食べて帰る事にした。
 なずなは遊に「今日は早く帰ってきて」とメッセージを打っていた。
 粋は平日の夜に遊ぶようなことはしない。
 結婚してから粋は変わった。
 私が足手まといになってるんじゃないかと思ったけど……。

「今は元気な嫁の顔を見るのが楽しみだから」

 そう言ってくれる。
 そんな優しい旦那だから少々馬鹿な歌を歌ってるくらいは許そうと思えた。
 しかしなずなは違うみたいだ。
 旦那の世話をするのも大変なのに子供を身籠ることになった。
 水奈達と勝負してたからそれはいいんだけど、やっぱり遊が不安らしい。
 学も水奈に「出産まで実家に帰ったらどうだ?」と言ったけど、水奈の母さんが「水奈は学の嫁だ。体調を見るくらいはするけど、学がちゃんと面倒見てやれ」と言ったそうだ。

「花はどうするの?」

 なずなが聞いてきた。

「今の生活を続ける」

 もちろん母さんに相談しながらだけど。
 粋の母親は「そんなに心配しなくてもちゃんと産まれて来るわよ」と言っていた。
 ただ、不安はある。
 それは妊活してた時からだったけど、粋も働き始めて間もない。
 式の費用にと貯金はしていたけど、通院にかかる費用等大丈夫かなとか、私はきっと家事が満足に出来ないけど粋は手伝ってくれるかとか。
 やってはくれるだろうけど、仕事で疲れている上に家事までさせていいのだろうか?
 なずなも似たような物だ。
 毎晩遊んでくる遊だ。
 子作りもまだ早かったんじゃないかと頭を抱えている。
 かといって堕胎なんてしたくない。
 天音や水奈は喜んでいるけど私達は素直に喜べない。
 とりあえず旦那に相談しよう。
 そう言って私達は家に帰った。
 掃除をしたり洗濯をしたり夕食を作ったり。
 するとやっぱりつらい。
 吐き気が止まらない。
 そんな時に粋が帰ってくる。

「ただいま。花。大丈夫か?お前最近ずっとそうじゃないか?」

 粋が声をかけてくれる。

「……お風呂の後に相談があるんだけどいいかな?」
「そんなにやばいのか?」

 やばいと言ったらやばいかも。
 その後夕食を食べて片づけようとすると粋が変わってくれる。

「先に風呂入ってゆっくりしてろよ」
「ごめん……」
「花?」

 なぜか涙が出る。
 結局こうやって粋に迷惑をかけている。
 子供が欲しいと願ったのはエゴだったのだろうか?
 風呂に入るとその後に遊が入る。
 なずなからのメッセージはない。
 テレビを見ながらスマホを触っていると粋が出て来た。
 粋は冷蔵庫からビールを取り出してリビングに来る。
 ビールを開けながら聞いてきた。

「で、相談って?」

 一つずつ説明しよう。

「まず、それ止めて欲しい」
「へ?」

 粋は何のことかわからなかったみたいだ。
 まあ、当たり前だろうな。
 お酒の匂いがきつい。
 普段なら一緒に飲むくらいはするけど今は無理。
 
「何があったんだ?」

 粋もただ事じゃないと思ったんだろう。
 真面目な顔つきになった。

「今日病院に行ってきた」
「病院?」

 粋の手が止まる。

「それってまさか……」

 粋でも気づいたみたいだ。

「間違いないって。来年の1月くらいが予定日だって」
「やったじゃないか!これから大変になるな!」

 粋は喜んでいた。
 だけどそれもすぐ止まった。

「でも、なんでそれで花はそんな顔してるんだ?」

 普通に喜べばいいじゃないか?

「なずなや水奈とも話したんだけどね……」
「ってことは2人もなのか?」
「うん」
「で、何を話したんだ?」

 粋が聞いてくると私は話を始めた。
 出産までの間実家に帰る事も考えた。
 だけど色んな不安がある。
 それを支えてくれるのが夫だと皆言ってた。
 だけどそれはますます粋を縛るんじゃないか?
 私は粋の負担になるんじゃないか?
 出産費用はどうする?
 出産までの家事はどうする?
 粋だって仕事で大変だ。
 これ以上に粋に迷惑をかけるんじゃないか?
 そんな話をしているうちに震えが止まらなくなってきた。
 気づいたら涙を流していた。

「ごめんなさい」

 そう言って私は泣き出していた。
 粋はじっと私の話を聞いていた。
 そして粋が話を始めた。

「この前テレビでやってたんだけどさ……ペンギンの話」
「ペンギン?」

 私が聞くと粋は頷いた。
 南極の極寒の地で卵を産むペンギン。
 卵を温めるのはオスの役目。
 その間餌も食べずにひたすら卵を温める。
 孵化する頃には体重は半分まで落ちるらしい。
 その間メスは子供の餌を確保するために50キロほど歩いて餌を取りに行く。
 それが私と何が関係あるの?

「花は俺の子を身ごもったんだろ?」

 産むのは私だけど粋と私の子供だ。
 動物ですら子供を育てるのに必死になるんだ。
 俺に手伝ってやれることはそんなにない。
 出産は母親だけの問題じゃない。
 夫婦で乗り越えるものじゃないのか?

「俺を縛るとか迷惑かけるとか悲しい事言うなよ。俺は花と一緒に頑張りたい」

 頼りない旦那かもしれないけどそれでも花に協力する。
 禁酒くらいどうって事無いよ。
 無事に生まれてその日が来たら一緒に祝杯をあげよう。
 本当に粋は変わった。
 嬉しかった。
 そんな話が聞けるなんて思わなかった。

「……ありがとう」

 嬉し涙が止まらない。

「礼なんていらない。頑張ろうな」
「うん」
「それで親には話したのか?」
「最初に粋に話そうと思って」

 SHにも知らせてない。

「メッセージだと味気ないし休みの日に実家に行くか?」
「そうだね」

 そして後日私と粋の両親に話をした。
 私の母さんが面倒みてくれるらしい。
 夜は粋がいるけど昼間は私一人だ。
 母さんにとっても初孫。
 楽しみだったんだろう。
 不安は消えて、生まれる日が待ち遠しくなっていた。
 私には頼もしい夫がついているのだから。

(3)

「なるほどな……めでたい事って重なるんだな」

 学は私の話を聞いてそう言っていた。
 もちろん禁酒は続けている。
 学自身が言い始めた妊活だから。

「でも、水奈には関係なさそうな話だが」

 単に妊娠の時期が重なっただけだろ?
 その割には嬉しそうだけど。
 すると私はピースサインを学に見せた。
 学も感づいたらしい。

「まさか……」
「ああ、双子だってさ」
「大丈夫なのか?」

 初産で双子にはリスクが伴う。
 そのくらいの事は学も調べていたそうだ。

「ま、大丈夫だろ。翼や麗華達だってそうだったんだし」

 バニシングツインなんて小難しい事を考える策者じゃない。
 それとも何か?

「帝王切開で傷つくことを恐れてるのか?」
「それはまあ、妻の身体だからな」
「それも大丈夫だから心配するな」

 今の帝王切開は傷が目立ちにくい方法を取る為問題はない。

「で、男の子なのか?女の子なのか?」
「両方」

 一人ずつだ。
 学に今のうちに名前を決めて欲しいと伝えた。

「考えておくよ。しかしそうなると遊が気になるな」
「……それ。なずなも不安を感じてた」
「俺からも注意しておくよ」
 
 なんせ学の父さんは出産の時にアイドル発掘してたらしいからな。

「予定日はいつなんだ?」
「年末くらいになると思う」
「そうか、極力家事は俺がやるから水奈は安静にしててくれ」

 子供の事を第一に考えて欲しいと学が言う。
 花も粋が進んで協力してくれるとメッセージがあった。
 問題はなずなだ。
 あの馬鹿問題を起こさなければいいけど。

(4)


「遊、お前そろそろ帰らないとまずいんじゃないのか?」

 天が言う。
 そういや早く帰って来いってメッセージあったっけ?
 学も早く帰ってやれとメッセージを送って来てた。
 何があったんだろう?

「んじゃ、ちょっと先に帰るわ」

 そう言って天達に言って帰る事にした。
 時間は23時。
 早い方だろう。
 しかしそうは思わなかったらしい。
 家に車が止まっていた。
 多分両親と学達だろう。
 ってなんで学が来てるんだ?

「ただいま~」
「ただいまじゃない!お前今何時だと思ってるんだ!?」

 母さんが怒鳴りつけていた。

「なんで母さん達がいるんだ?」
「良いからそこに座れ!」

 母さんが言うとなずなの隣に座る。
 なずなの様子がおかしい。
 何があった?

「またFGの奴らが手出ししてきた?」
「そんな問題じゃない!お前何考えてるんだ!?」

 水奈も機嫌が悪いようだ。

「遊も初めてなんだししょうがないだろ?」
「馬鹿かお前は!私が学を身ごもった時もお前はそうだった!どれだけ嫁が不安になるのか考えた事あるのか!?」

 学を身ごもった時?
 ……まさか。

「なずなから伝えたほうがいいんじゃないのか?」

 学が言う。
 すると小さな声でなずなが言った。
 
「……ちょうど3ヶ月だって」

 マジかよ!
 でもなんでそんなに暗い顔してるんだ?
 そう聞くと母さんに怒られた。

「だから馬鹿って言ったんだ。自分の嫁の気持ちくらいわからないのか!?」

 命がけになる出産。
 本当に命を落とす事もある。
 俺がいなかったら、なずなはたった一人でその不安を抱える事になる。
 少しは想像しろ!
 死ぬかもしれない。それでも産むべきかどうか。
 赤ちゃんが欲しいと言ったのは俺もそうだろ?
 それなのになずな一人に苦労させるつもりか!?

「亜依さん……もういいよ。私一人で頑張る」

 折角授かった命を大切にしたい。
 なずなが泣きながらそう言った。

「遊!ふざけた真似してるんじゃねーぞ!お前、なずなにここまで言わせて平気でいられるのか?」

 相手が祈とかならお前今頃燃やされてるぞ!
 さすがにそこまで言われたら俺だって反省する。

「勝手に子供作るな」

 そんな自殺行為な事言えるわけがない。
 それに……
 それがどれだけ怒られようと必死に庇うなずなの姿を見ていたら俺だって変わらざるを得ない。

「ごめん……」
「そうじゃねーだろ」

 俺がやる事は反省じゃない。
 自分の嫁の事くらい察しろと水奈が言う。

「俺も協力するよ。出来る事はなんでもするから。一人で抱え込むな」
「うん……」

 もう時間が遅いからと母さん達は帰っていった。

「本当にごめん。知らなかったんだ」

 子作りしてたのにさすがに油断してた。

「ごめんて、子供作ったことがごめんなの?」
「いや、そうじゃなくて……なずなの気持ち考えてなかった」
「今も考えてないじゃない」

 へ?

「私と遊の子供ができたんだよ?嬉しくないの?」
「……頑張ったな。一緒に頑張ろうな」
「本当に大丈夫?」

 なずなは自分がこの子を産んでいいのか不安らしい。

「言ったろ。子供の為なら何でもする」

 どんな困難が待っていても俺が守ってやる。

「ありがとう……」
「俺の方こそありがとう。頑張ったな」
「ううん。それとも一つ報告があるんだ」
「どうしたの?」
「遊はグルチャ見た?」

 へ?

「花と水奈も出来たって……」

 まじかよ!
 それで花は粋がいるから頼りになる。
 だけどなずなの相手は俺だ。
 それが不安だったらしい。

「俺に出来る事あるか?」
「私今体調が不安定で家事がまともに出来るか分からない」

 仕事で疲れてるのに俺に押し付けるかもしれない。

「そのくらい任せろ!」

 その他にもして欲しい事はあるらしい。

「で、男の子なのか、女の子なのか?」
「女の子だって」

 俺の父さんは女の子が良いと言っていたらしい。

「お腹さすっていいか?」

 一度やってみたかったんだよな。
 なずなはにこりと笑った。

「まだ分からないよ?」

 私ですら分からないんだから。

「無事に生まれてくるといいな」
「亜依さんが偶に来てくれるって」
「そっか。で、何人なんだ?」
「一人だよ」
「そっか~」

 こうやって皆親と言う立場になっていくんだろうな。
 子供が無事に生まれるように嫁さんを気づかってやって。
 光太が言ってた。

「子供の為なら何でも出来る」
 
 そんな覚悟を持つのが親なんだそうだ。
 父さんはどうだったんだろう? 
 いつか聞いてみたいな。

(5)

「双子!?」

 誠に知らせると驚いていた。
 私自身驚いた。
 亜依と頭を抱えていた。
 母親が水奈だから色々心配なのは愛莉と変わらない。
 何をしでかすか分からない娘なだけに不安だらけだ。

「なあ、神奈」

 誠が何か言いたそうだ。
 どうせろくでもない事だろうけど。

「父親ってこんなに寂しいものなんだな」
「なんでだ?」
「手塩にかけた子供がどこの馬の骨とも分からぬ輩に……いてぇ!」

 やっぱりろくでもない事だった。

「そんなもん結婚する前から分かりきってただろうが!」

 何を言い出すかと思えば……
 
「大体孫が見たいと言ってたのはお前だろうが」

 子作り進めておいてそれはどうなんだ?

「だから別に学に怒鳴ったりしねーよ。ただ何となく寂しくてさ」
「……これからまだ歩美だっているんだぞ?」
「分かってる……」

 本気で落ち込んでるらしい。
 困った旦那だ。
 誠に後から抱きついた。

「私にその寂しさをぶつけてくれればいいじゃないか」
「神奈まだ産むつもりなのか……いてぇ!」
「産まないといけないって決まりはないだろ!?」
「まあ、そうだよな」
「理解したらさっさとベッドに入るぞ」
「どうしてそんなに積極的なんだ?」
「最後まで言わせるつもりか?」

 今まで頑張ってきたんだ。
 お疲れさまの意味も込めてサービスしてやるよ。

「まじか!?」

 本当にどうしようもない旦那だな。
 まあ、それでも浮気せずに来たんだ。
 問題がかなりあるけど育児も手伝ってくれたんだ。
 お疲れ様の意味を込めて誠に抱かれていた。
 後日トーヤと瑛大と石原を巻き込んで飲んでいたらしい。
 恵美が石原を問い詰めて全部白状した。

「あなたまだ幸も杏采もいるのに何馬鹿な事やってるの!?」
「ぼ、僕は何も言ってないよ!」

 本当に父親ってどうしようもないんだな。
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